俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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疲れるばかりでは辛いと、俺は思った。

 と言っても、あの兄弟に関してそれ程詳しい事は俺も知らない。

 明が兄弟の事情について問いかけてきて、応じて話の内容を思い出す。

 

 母からの電話での連絡を受けて、迎えに正門にまで出ると、そこでは既に長也さんと立山記者が会っていたのだ。

 どうすれば良いかとあたふたしている母をよそに、兄弟は言葉を交わしていた。

 

「まるで拗れた家族みたいだったな」

 

「へぇ」

 

 少し考えたが、拗れた家族、という表現がやっぱり適切だと思う。

 

 調子はどうだ。学校は上手くいっているか。ぽつぽつと交わされる、拙い世間話。

 何度か繰り返したのちに、そのカメラは? という質問がされた。

 

 あれは多分、気の所為じゃない。そしてカメラに関する話になってから、確かに雰囲気が変わった。

 

 人の事を誤解しないため、良く知るための道具。だと彼は言った。

 その返答はただの答えでは無かったのだろう。呆れという感情が、言葉に乗っていたと思う。そんな雰囲気だった。

 

「あのカメラ、ただの趣味じゃなかったんだ」

 

「ああ。……そういえば、あの言葉だけ敬語だったな」

 

 思い出した。あの一言だけは、あからさまに距離を取っている様に思えた。

 それで兄は何を悟ったのか、分かった様な顔をして……そこで明がやって来た。それからの短い顛末は知っての通りだ。

 店に帰ると告げ、最後に挨拶。まるで未完で終わりを迎えた連載漫画の様に、納まりが悪い最後だった。あるいは伏線なんかをおざなりにしたままの、終焉。

 

「そっか」

 

「正確に同様と言う程でも無いだろうが、きっと以前の俺達もああいう風だったんだろうな」

 

 であれば、彼らに機会は訪れるのだろうか。

 一人だった世界から二人の世界に出会うような……という機会と言うと、確率としては無に等しいが。

 

 と言っても、俺が人の関係をどれだけ気にしても、何にもならないだろうな。

 

 知ろうと思っても、俺達は何一つ理解出来ない。そういう生き物だからーーーー

 

 

「……知りたいと思えるなら、きっと近い内に」

 

「ふむ?」

 

 そう思っていた俺に反して、明は違う意見を持っていた様だ。

 確かに、一例があった。俺達と言う一例が。であれば、また別の一例があるのかもしれない。

 

「だと良いな」

 

 

 

 

 体育祭が終わった。

 運動終わりの爽快感と言うよりかは、スケジュールからの解放感が強い。

 

「とりあえず……」

 

 アイスで祝杯だ。

 残暑は少しづつ薄れ、秋の空が見られる時期だが、運動で温まった身体には丁度良い。

 他に考慮するべきは、汗に身体の温度を吸われて、体調を崩してしまう事くらいか。

 

「いえーい」 「いえーい」

 

 タオルで汗を拭って、パジャマになって向かい合う。

 アイスを掲げて乾杯をして、そのまま食べ始める。

 

 この後何するか、なんて事を考えながら食べ続ける。会話は無い。

 

 ゲーム、動画、あるいは疲れた身体をベッドの上に投げ出しても良い。

 個人的には、ベッドで休みたい。

 

 

 アイスは平らげて、それからは床に座ってぼうっとしていた。

 明はベッドに腰かけて、携帯にも触らず俺の事を見ている。

 

 何時の日からだったろうか。明が俺の方を見ている事が多くなっている気がする。

 よっぽど俺の顔が面白いのだろう。気持ちは分かるのだが、俺の方が明を見ているとやましい気持ちがある様に思われそうで、憚られる。

 

 

「……あの日」

 

 む? と顔を上げる。

 ぼんやりと眺めているものだと思っていたが、何か思う所があって見ていたらしい。

 

「最初の日か」

 

「うん。私たちってこれからどうなるんだろう、って。一人が双子になって、学校も一人じゃなくなって、そのせいか厄介事も妙に増えて」

 

「……ふむ」

 

 この傾向が今後も続くのであれば、もっと大変になるだろう。厄介事を通じて知り合った者も多く、ぼっちを自称していた頃とはかなり変化していると言える。

 

「これから、か。敢えて言うなら……良い家族になるだろうな。何方かが居ない時の時間を知っているから、手放す気が一つも起きない。だから、大事にする」

 

「……大事」

 

「ああ。何十年後も続く事を願って、大事に、大切に」

 

 もし俺が宝くじを当ててしまったら、長く続く慎ましやかな生活を続けるだろう。

 何よりも大切な物を知ってしまったのなら、それこそ家族のように、永遠の関係を望んで大切にしていくだろう。

 

「恥ずかしい事を言ってしまったな」

 

「……わた……」

 

「む?」

 

 驚いた様に見開いた瞳が、俺を刺してくる。

 花も顔を真っ赤にして恥ずかしがるような事を言ったつもりだったが、無反応である。これはちょっと予想外だ。

 

「……大事」

 

「ん、ああ、大事だ」

 

「大切、私が」

 

「そうだな」

 

 共通認識だと思っていたのだが、もしや、明はそうでも無いのだろうか。

 

 大事は大事だ。母には悪いが、家族の一員として以上に、と言っても良い。

 だがこれは現時点での話で、今後の関わり次第で、それ以下になるかもしれない。俺達の仲が今後どうなるかという予感など、ぼんやりとしか思っていないし、意識していなかった。

 

 未来を気にする事も、きっと以前は無かったと思うが。

 

「もう慣れたものだが、こうして同じベッドで寝る仲になるとは……な」

 

「……」

 

「まあ正直、今でも違和感は覚えるが」

 

 違和感に慣れた、とも言うべきか。自分以外の体温があるベッドも、今ではむしろ、無いほうが違和感ものである。

 

「……き」

 

「さて……。確か今、メルティ装備の素材を集めている所だったな。竜狩りの気分なんだが……」

 

「……」

 

 それにしても、さっきから明の様子が変だ。

 

「明?」

 

「あ、うん! メルティ装備っ、ねっ、聞いてた。うん聞いてました。耳に穴が開くほど聞いてました」

 

 なんだ、いきなり敬語とは。あの兄弟のマネだろうか。

 それになんだ、妙に声が小さいぞ。

 

「……むん。まあいいが」

 

「あ」

 

 言い辛い事でも言おうとしているのか、声が段々と小さくなっていった。明の事がなんだと言うんだ。

 

「えっと……いや、やっぱり良いや。何でもない。竜狩りね、うん。今日は私が前衛やるから」

 

 挙動不審だ。

 何が言いたかったのか、とても気になる。

 

「行かないの?」

 

「いや、行こう。軽弩で良いな」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 狩りが終わる。瀕死の敵を捕獲する準備に入り、後は消化試合のつもりで動いていく。

 

 一時間もこのゲームを続けているが、そこまで行くと、なんとなく相方の調子が分かってくる。

 

「休むか。妙に調子が悪い」

 

「疲れたの?」

 

「俺じゃないが」

 

「え、じゃあ私?」

 

 意外、とでも言いたげな顔で見られた。

 こっちは自覚が無いのだろうか。俺の方は運動で疲れている事以外、調子は悪くない。

 

「そんなつもりは無いんだけど……」

 

「自覚が無いと面倒だな」

 

「ええ?」

 

 とりあえず、明が不調なのであれば、ゲームに付き合わせる様なことはやめておこう。

 暇があれば兎に角ゲーム、とか言う不健康児である我らではあるが、流石にゲームばかりでは飽きるし疲れる。

 日光浴、或いは月光浴も中々気晴らしに良いが。

 

 しかし今回ばかりは肉体面での疲労もあるだろう。とりあえずベッドで寝てしまえば良い。

 

「とりあえず寝ると良い。運動の後は休むに限る」

 

 モニターに向かっていた顔が、ふと俺の方に向けられる。

 目が合った、と思ったら、直ぐに背けられた。

 

「?」

 

「……うん、寝よう」

 

「ああ」

 

 

 

 

 何故だか知らないが、まだ寝込んでも居ないというのに、暑い思いをすることになっている。

 

「……冬は暖房要らずだな」

 

 詳しい現状を口で表現したくはない。そういう状態で、俺は天井を見上げていた。

 

「ん?」

 

「んー……」

 

 寝た後だったらまだ良かったんだが……。意識もある内にこうされると、落ち着かない。

 ……まあ、何時か慣れるだろう。双子なんだ。時間は幾らでもある。




思う所があった様です。

私としても、関係のスピード感に悩んでいる所です。フライングしてるけど
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