俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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何時までも不思議な猫だ、と私は思った。

 

 やっぱり、この頃のママは私達を二人きりにしたがる。この前の買い物だってそうだし、おつかいに出された時だってそう。

 気持ちが分かる、とは言わない。子供なんて持ったことが無いから。

 

「……ママが一緒でも構わないんだけどな」

 

 むしろそうしたい気持ちがあった、というか。

 この()()()のママと改めて楽しみたい、というか。

 

 それはもしかしたら私が無意識に考える建前で、二人になるよう仕向けられても困る……というか。

 

「参ったな」

 

 私の半身、とも言うべき明一の言葉が妙に重く聞こえる。俺たちの関係をどうしたいんだ……とでも言いたそうにしている気がした。

 仕方無いと言ってしまえば、もうそこまでかな。ママの妙な行動原理は察せても察しきれないし、それなら黙って誘導に流されるよう動いているべきだ。

 

「それじゃ、二人で行っちゃう?」

 

「あとプラスで一匹」

 

「そういやどうすんのこの子」

 

 交代が来てくれて、あの持ち場から離れた今も付いてきている。

 猫アレルギーの人も居るだろうに、と懸念する私たちは、この子の扱いに頭を悩ませる。幾ら毛並みが白くきれいに整っていても、アレルギーはどうしようもないのだ。

 なんとなく屈んで、ひと撫で。相変わらずこの猫は黙って撫でられてくれる。

 

「とりあえず……かばんに押し込むか」

 

「ほ?」

 

 押し込む、と聞いてピンと来る。

 アレだ、あのゲームみたいな事するんだ。猫には悪いけど、面白そう。

 

「喋る黒猫をカバンに押し込んで、学校中を歩き回る主人公みたいな感じね」

 

「フィクションだと思って見てたが、この状況なら通用するかもな」

 

 天才か。猫も大人しいし、学校のかばんなら違和感もない。猫がカバンを気に入らなかったらそれでおしまいだけど。

 文化祭だから中に入っているのは最低限の荷物だけだし、二人分の荷物を片方に全て移してしまえば猫専用のかばんが出来上がる。

 

「と言うわけで取ってくる。猫用のは……俺のかばんの方が良いか」

 

「うん。私のとこに全部入れちゃって良いよー」

 

「分かった」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 彼がかばんを取りに行く間、私は暇と……猫を持て余していた。

 なんとも良い撫で心地の猫が手元にいるから、退屈などとは言ってられない。……撫で放題だから。

 

「……もしかして、実は初対面じゃなかったりする?」

 

 今は既に面識があるけれど、そういうことじゃなく。この秋に始めてこの白猫と出会った時の事だ。

 

 事前に私達の事を知ってなきゃ、あの時の様にじっと目線をやったりしないし、学校にまで追いかけてきたりしない。餌の一つもあげた事がないのに。

 

「面識があったところで、私にどうやって伝えるのやら」

 

 そう言えばこの子の鳴き声、聞いた事あったかな。

 

「にゃー、とか?」

 

 そこらの躾けられた飼い猫よりも静かだし……そういう性格なんだろうか。

 必要がなければ鳴かないし、意思表示もあまりしない。触れられる事はあっても常に受動的。

 

「それともにゃー、とか」

 

 声色を変えて鳴き真似をしてみる。

 それでも反応は無い、しかし何故かその点に可愛げを感じてしまった。私は不愛想なのが好きなのかもしれない。

 

「にゃー」

 

「あれ、猫?」

 

 あ。ばれた。

 思わず何でもないという風に姿勢を直したけど、猫が手元に居る状況は変わらない。というか、聞かれた……? 

 

「……」

 

「って、明さんじゃないですか」

 

「……あ、鳴海妹」

 

「はい鳴海妹です。というか下の名前もちゃんと覚えてますよね?」

 

「え」

 

「もう」

 

 だって苗字で呼べば間違いないし。私的には憶えやすい呼び方の方が最善だと思ってる。なので鳴海妹。

 

「……えへへ、冗談を言い合う友達っていうのも良いですね」

 

 あ、冗談なんだ。これ。

 

「ところでその猫はどうしたんですか? 最近噂の白猫ですよね」

 

「まあ。最近校門に居座ってる子と同じだと思う」

 

「ほえー。初めて間近で見ました。飼い猫かなってくらい真っ白です」

 

「そんなに?」

 

「少なくとも野良っぽさは感じないですね」

 

 確かに毛並みにツヤがある様な……無いような? 以前にも野良猫を見た事もあるけど、結構前だから比較するにもちょっと自信ない。

 過去の記憶を掘り出そうかと思っていると、彼女がおもむろに屈んで猫と目線を合わせた。

 

「こんにちはー、真っ白で可愛いですねー」

 

「……」

 

 鳴海妹の猫撫で声だ……。

 目を丸くした私に気付いても、えへへ? と笑みを返すだけでネココミュニケーションを続行する。

 

 まず最初の挨拶、と言わんばかりの猫撫で声と同時、そっと掌を差し出した。

 

「……その手は?」

 

「まず最初に自分の匂いを覚えてもらうと、仲良くなりやすいんですよー」

 

「へー」

 

 ……そんな過程もすっ飛ばして追われる身になったんだけどな、私ら。

 猫も応じて掌に鼻を近づける……様な仕草も無く、呆れた様に彼女を見上げた。鳴海妹はしょんぼりした。

 

「またたびでも盛れば興味持ってくれるかな……」

 

「盛る?」

 

「あ、何でも無いです。盛るとか言ってないですよ?」

 

 なんか悪い目をしてた気がする……。猫も心なしか警戒心を抱いている様である。野生の勘とはやはり鋭いらしい。

 ……あ、今度は私の方を睨まれた。

 

「明さんは懐いてるようで羨ましいです……」

 

「懐いてる?」

 

 当然の権利の様に居座ってるし、私らの事が好きなんじゃなくて、居心地の良い椅子とか思ってんじゃないかな。

 猫ってそういう生き物だって聞くし。

 

 試しに目を合わせて見るが、フンと鼻で笑われた。やっぱり馬鹿にされてる気がする。

 

「……私は懐いてるとは思わないけど」

 

「それで懐いて無かったら私は何なんですか」

 

 え、拗ねられた。そうされるとちょっと困るんだけど。

 不機嫌な感情を向けられて少し焦ったけど、呆れたのか冗談だったのか、一息吐いてからその感情を仕舞ってくれた。

 

「猫と共鳴してたくせに」

 

「共鳴って」

 

「にゃーにゃー言ってたじゃないですか」

 

「え」

 

 やっぱり聞かれてたの……。ていうかまだ不機嫌じゃん、私どうすれば良いのさ。

 

「つーん」

 

「ちょ、ええっと」

 

「良いですもん。別に」

 

 こんな不機嫌な鳴海妹初めてだから……ええ、どうしよ。

 明一なら何とかしてくれるかな、いや結局は私だからどうしようもないのか。どっちにしろ一人だとやりずらい。

 いや本当、どうしよう。早く戻ってこーい、って念を送ったところで通じるわけじゃないし……。

 

「……そういえば」

 

「ほ?」

 

「夏休みが終わった時もそうでしたけど、それから今も……また雰囲気変わりましたよね」

 

 変わったって、何が? 明らかに主語の抜けた文脈に、その代わりにかじろじろと私を見てきた。

 これはつまり、私ってことか。

 

「私が」

 

「はい」

 

「え、そうかな」

 

「そうですよ。2人とも変わったなあ、って思うには明一さんの方には会えてませんが……」

 

 自覚は無い。けれど変わったと言われても、人間どこかしら変わっていくモノでは無いか、とも思う。

 特別な変化と言うことなら、それこそ覚えがない。

 

「どう言う感じに?」

 

「うーん。言葉にするとしたら……2人って、2人って感じじゃ無いですか」

 

「なに?」

 

「でも最近は二人三脚の男子女子って感じです」

 

「……はん?」

 

 やっぱり分からない。やはり私らにコミュニケーションは荷が重いのか、気の抜けた声が出てしまう。

 

「よくよく考えたら、以前よりは明さん達のことを知れたから、そう感じただけかも知れないですね」

 

「はあ……」

 

「ちょっと抽象的が過ぎましたかね」

 

 過ぎると思う。

 頷いて答えれば、じゃあ気にしないでくださいという事で、この話題は終わった。

 

「猫ちゃん、あんまり構ってくれませんね……」

 

「多分放課後まで私らと一緒だと思う。帰りにまた改めて遊んだら?」

 

「え、それって大丈夫なんです?」

 

「大丈夫でしょ」

 

 ほら、猫も頷いておられる。

 

「わ、頷いてる、かわい……」

 

「……実は私らの言葉わかったりする?」

 

 と、猫と一緒にそうこうしている内に明一が戻ってきて、猫は無事にカバンの中に収まった。抵抗するどころか、自ら入ってくれた。

 ここまで物を聞いてくれる子なのは助かるけれど、ちょっと不思議な猫だなと思い始めてきた。いや最初から不思議な子だけどさ。

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