俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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ここまでグイグイ来られても困る、と俺は思った。

 

「何時なんだろうねぇ」

 

「てっきり文化祭の最中かその手前に来るものかと思っていたが」

 

 屋台の並ぶグラウンドから少し離れて、俯瞰する位置で話している。その内容は、明が受けるかもしれない告白の事だった。

 来ないなら来ないで良し……なのだが、今はまだという可能性が残っている以上は、まだまだ気を抜けない。

 

「そういえばまだ告白とかされてないんですね。来るなら今くらいかなー……とか思ってたんですが」

 

 鳴海妹もここにいる。

 てっきり姉さんと一緒に行きたがっているもんだと思っていたが。

 

「そういえば、お姉さんは?」

 

「今は出し物で予定入ってます。メイド喫茶やってるんですよ」

 

 メイド喫茶……。競合だらけ故に一つのクラスしか勝ち取れない出し物だ。どこのクラスが権利を得たのかは知らなかったが、鳴海姉のクラスだったらしい。

 

「来たら一緒に文化祭回ってあげないって言われちゃいました」

 

「そうか。……そうか?」

 

 一度相槌を打ってしまったが、違和感を覚えた。普通に文化祭に出ていたり、普通にメイド喫茶をやっているのも……。

 

「どうしました?」

 

「いや」

 

 とは言え口に出して確認する程でも無い。

 あのお姉さんがメイド服か、なんてボヤいたら明に変なこと言われそうだ。

 

 

「と、そうだ」

 

「うん?」

 

「蒸かし芋買ってくる。良い事思いついた」

 

 唐突だな。確かに食べ歩きを楽しむのも文化祭の醍醐味だが。

 しかし、良い事……? よく分からんが……。

 

「まあ良いか。任せた」

 

「ん。私の代わりに猫の事構っておいて」

 

「あ、それじゃあ私ももう一回……」

 

 鳴海妹が手をワキワキして、同時にカバンの中でゴソゴソと物音が。カバンの中で猫が暴れている。何をするつもりだか知らんが、猫も猫で落ち着け。

 

「そうだ、三人分買ってこようか?」

 

「あっはい、お願いします」

 

 待ち時間が出る様な列は見当たらないから、きっと直ぐに戻ってくるだろうが……。

 さっきまで明が猫を撫でていた所に戻って、座り込んだ。ここは人通りが居ないから、万が一の懸念はあまりしないで済む。

 

 

 覗き穴程度に空けていたカバンのジッパーを全開してやると、にゅるりと白猫の姿が飛び出てくる……かと思ったが、カバンの中に籠っている。

 

「カバンの中の具合は……良さそうだな?」

 

 一向に出て来ないから、そういう解釈で良いだろうか。

 

「……」

 

「……」

 

 この解釈は正解か、と様子を見ていたら目が合った。見れば見る程野生らしさの無い眼差しだ。

 これは……「不本意である」とかそういう眼差しだろうか。

 

「……猫と交信してる?」

 

 多分出来てない。

 俺と鳴海、横並びで腰を下ろしているが、質問にうんともすんとも言わない白猫は、のそのそと迷わず俺の膝元へ座り込んできた。

 心なしか鳴海との距離も取りつつなのは気のせいか。

 

「やっぱり懐かれてるじゃないですか」

 

 やっぱりとはなんだ。さっきまで明と同じような話でもしていたのか? 

 

「明一さんも猫の鳴き真似とかしたり?」

 

「しないが」

 

 なんの話だ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「戻ったよ。はい3人分」

 

「私の分もありがとうございます、お金返しておきますね」

 

「うん、100円だったよ」

 

「わあ、安い」

 

 流石蒸かし芋。お祭り価格になっても良いのに、銀のワンコインである。

 何気なしに一つ受け取って、早速と一口食べようとする。

 

「あ、待った」

 

「うん?」

 

「私に計画がある。そのポテト」

 

 ……そういえばさっき、良い事思いついたとか言っていたな。

 一体なんだ、と明と向かい合う。

 

「計画って?」

 

「計画はね。……はい復唱、あー」

 

「あ? ごふっ」

 

「わぁっ」

 

 な、なに。何が起きた? この口の異物感……て、熱っ。

 

はひふする(なにをする)

 

「祭りでこういう物を買ったら、こういう事をするのが定番だよね。それに丁度良い」

 

 ……こういう突拍子の無い所は、母と似ている。

 

「ほ、ほぉ! これが本場の“あーん”……!」

 

「もごも……」

 

 咀嚼を続けて、ようやく飲み込む。明のヤツ、半分に割いただけのサイズで突っ込みやがった。噛みづらい……。

 

「むぐ、むご。うん……確かに丁度良いかもしれないな」

 

 サイズは丁度良くなかったが。

 明の意図に納得したとはいえ、彼女の予測できない行動に呆れたという態度を隠せない。すぐ傍では鳴海妹が目を輝かせてるし……。

 

「それで、私の分は?」

 

「そう来ると思った」

 

 同じことをしろという事だ。相手が明じゃなかったら応じないからな。

 

「仕方ない。行くぞ」

 

「それ来た」

 

 ……と、素直にやる俺では無い。半分をそのまま突っ込むのではなく、更にもう一分割。指先三本くらいのサイズのを取って、明の口に送ってやった。

 

「あーん」

 

 俺が促すまでも無く口を開いてる。なんだか、見た目より幼く見える。

 唇が閉じられて、俺も箸を引き抜く。

 

「……ん、少ない? あ、そっか。半分丸ごとは食べづらかったよね」

 

「え?」

 

「うん?」

 

 そういう気遣いをしたつもりは無かったのだが。

 逆に半分ではなく丸々一つ食わせてやれば良かったかと思ったが、それはそれで何だかな……、と思いとどまってしまう。女子に大きな物を咥えさせて喜ぶのは変態くらいである。

 

 ……この文脈に他意は無い。

 

「ほぉぉ……」

 

「……」

 

「ん、どしたの?」

 

「ちょっと感激してました……。え、初めて見たかもしれません。これで恋愛感情無いとか嘘ですよね?」

 

「それは無いと思うけど。というか明一? その顔は何さ」

 

「自己嫌悪」

 

「私何かしたかな?」

 

 割と明にも責任はある。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「明さんの言う計画って、これ……で良いんですか?」

 

 この計画、というのはイチャイチャする体を対外的に見せつける行為の事で。……と言うのが妙にパワーワードで、俺も猫もなんとも言えない顔になる。

 これを純粋に楽しんでいるのは明と鳴海妹の2人だけだ。俺と猫は蚊帳の外。

 

「私はそのつもりだけど」

 

「良い案だとは思ってるぞ。リスクもあまり無い……筈だし」

 

 一般生徒にイチャイチャを目撃されても、口を出してくる人は居ない筈。立山記者のお陰で、そういう意識付けがされているから。……少なくとも記者の彼はそう保証していた。

 これを人に見せつける必要があるから、人前では常に。例の男子の目に付かない可能性もあるが、それでも噂になって耳に届けばいい。効果は怪しくなるかもだが。

 

「男子に対するけん制にはなるかもしれませんね。これを見て告白を躊躇……あわよくば諦めてくれれば」

 

「万々歳」

 

「ですね」

 

「ただですね、これ、演技なんですよね?」

 

「俺達……俺はそのつもりだが」

 

 素面でこんな事が出来る程ラブラブしてないが。

 家族に対する距離感が近めに仕上がってる明がこの調子だから、俺が何とか付いて行っている形だ。

 

「ん」

 

「うん? ああ」

 

 無言で催促されて、途中で買っていたポップコーンを摘まんで明の口に放り込む。

 

「ごふっ。放るな」

 

「普通にやったら唾液付くだろ」

 

「私が咽る。……もいっこ」

 

「なんか一周回ってマジっぽく見えるのは気のせいですかね」

 

 しかし明の餌付けは面白い。ほら、犬みたいな感じだ。飼ったことは無いが。

 適当にポップコーン投げても忠犬は見事食いつ……かず、顔で受け止めてくれた。俺は無言で落ちた一粒を拾った。

 

「あんまり雑だと効果出ないよ。恥ずかしがらないの」

 

「む……。そう、だよな。ちゃんとこの方針で明日の晩まで……」

 

「私が告られても良いの?」

 

「……頑張る」

 

「やっぱ二人三脚の男子女子って表現は正解でしたね」

 

 なんの話だか知らんが……。とりあえず落としてしまった奴はゴミ箱に入れておく。

 

「ほれほれ、雑に投げたら食べ物無駄にしちゃうよ? ちゃーんと摘まんで……」

 

「……」

 

 めんどくせぇ。

 

「私が手本を見せてあげようか?」

 

「わぁ、明一さんがすっごい顔してます」





明「この顔おもしろ」

明一「へるぷ」

鳴海妹「わァ……!」

という一幕


因みに鳴海妹の下の名前は恵子なんですよ。知ってましたか?
私もついさっき思い出しました。正確には読み返しました。

ついでに、姉の方は百々子という名前です。
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