俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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理由さえあれば何でもできる、と私は思った。

 

 デートごっこを続けて数時間。相方の機嫌を悪くさせる程の無茶はせず、それっぽい事を何度か繰り返した。

 何か楽しくなってきた……なんて思い始めた頃に、明一からもそれっぽい事をしてくれる様になった。少し嬉しい。

 

「えーと……レディーファースト」

 

「お、これが噂のレディーファースト」

 

「これで良いのか……?」

 

 それはさながら英国紳士である。

 

 けど、私もこの行為に何の意味があるのかは知らない。先に通されただけだよね。

 こんなんで女の子はときめくのかな……。

 

 入った先は広報メディア部の写真展示場。居合わせていた他の人の視線を受けることになったが、やっている事がやっている事だから。

 それでも好奇心の眼差しが普段より多いのは、この場にいる人々が学校外から来ている所為だろう。

 

「少し、居心地が悪いな」

 

「初めの頃みたいな事にならないと良いけど」

 

「初めの頃?」

 

「え、うん、9月初めの」

 

「あー」

 

 さっきの言い方だと、鳴海的には違和感を持たれそうだったかも知れない。ちょっと危なかったかな? 第三者が居るからこの言い方は控えないと。

 実は2人とも別の世界線から来てて……なんて種明かしをする予定は無いのだ。言っても信じないだろうけど。

 

「大変でしたよね」

 

「まあね。今は落ち着いてくれて助かってるけど、本当に大変だった」

 

「本当ですね……」

 

 

 

 カメラとペンが相棒とも言える部活動なだけあって、綺麗な写真を撮るな。と眺めつつ歩けば、先の一角に異色を放つ所を見つけた。文字通りに異色であった。

 単色の緑で満たされた壁面と、それに対面するカメラマン。そして一歩隣にはパソコンがある。

 

「これは……」

 

「あ、双子だ!」

 

「うわホントだ」

 

 うわとは何だ。注目を受けるのは良いけど、そういう言われ方をされると気になる。

 声を掛けてきた2人は、それぞれ違うクラスがプリントされたTシャツを身に付けていた。二年生と三年生だ。

 

「これって、グリーンバックですか」

 

「本物の双子だぁ……」

 

「こら、止めなさい。いやどうも、うちの立山がお世話になってる様で」

 

「あ、うん」

 

 そういえば立山記者の部活だったな。

 なんか色々言われた後に改めて、グリーンバックかという問いに頷いた。追加で説明もしてくれた。

 

「毎年写真や記事だけ飾ってるのはつまらないからね。こんなのをやってみたのさ。……って、一年は去年の出し物なんて知らないか」

 

「午前の時点でも中々好評貰ってるのー」

 

「ほえー、なんか面白そうですね」

 

「やってく? カップル向けの背景も用意できるよ」

 

「カップル……」

 

「やっぱりカップルに見えますよね」

 

 男女の双子がカップリングで括られるのは珍しくない。ゲームや漫画ではよくある話だから。

 でも人に言われると不思議な気分だ。

 

「背景も選べるのか」

 

「選べるよー。因みにー、私的なオススメはこれ」

 

 展示されている写真とは別にあった、コルクボードに留められた写真のうち一つを指される。

 

 なるほど。

 

「これがカップル向け」

 

 雨とバス停の組み合わせって、カップル向けだったんだ。

 

「ってそれトロロの奴! カップル向けはこっち」

 

「えー」

 

 片方が残念そうな顔をして項垂れた。言われてみれば、確かにトトロだった。

 なんて地味な嘘を吐くのだろう。何時の間にか両手に赤と紺の傘を持っていた方の先輩は、しょんぼりという風な顔をしている。

 

「だからその傘は仕舞いなさい」

 

「ちぇ」

 

「全く……。ああ、本当のカップル向けはこっちだよ。気に入らなかったら他のも選べるけど」

 

「あ、じゃあそれで」

 

 一番それっぽい奴を選んだ。明らかに結婚式場と分かる写真だ。

 

「へえ……」

 

「大胆」

 

「結婚式場か。確かに丁度良いかもしれないな」

 

 彼も納得してくれた。

 最悪の場合は、これで撮った写真を相手に見せれば良い。確実とは言えないが、手札にはなる。 

 

「あ、もしかしてあの男子相手に使うんですか? ちょっと流石にそれは」

 

「大丈夫、最終手段だから」

 

「……最終手段とは言え大ダメージが過ぎると思うんですが」

 

 納得しきれない様子であるが、まあ撮るだけ撮ってしまおう。

 

 

 

 

「角度、ちょい下」

「はーい」

 

「2人は……なんかポーズでも取る?」

 

 撮影の準備が出来た所で、私達もカメラの前に立つが……ポーズか。

 

「両手でも繋ぐ?」

 

「こうか」

 

「いや、こう」

 

 腰の高さで手を繋いでカメラの方を見るポーズも良いけど、顔の高さまで持ち上げるのも良いと思うのだ。

 つまり、こう。

 

「な」

 

「わ、恋人繋ぎ……しかも両手」

 

「……こう言う感じのコンセプトアート無かった? 双子キャラがこんな感じのポーズ取ってるの」

 

「確かに定番かもしれないね……。というかカメラに集中しなさい」

 

「はーい」

 

 写真に写らない位置に居る三人がなんか言ってる。

 とりあえず、ポーズに関してはこれで良いのだけど。

 

「うん、これでおねがいします」

 

「な」

 

「おっけ。じゃあ撮りますよー」

 

 明一もなんか変な鳴き声出してるし。

 でもポーズはちゃんととってくれてる。顔はちょっと面白い事になってるけど。

 

「んー……よし、良い感じに写ってるね、二人とも。何枚印刷する?」

 

「一枚で」

 

「な」

 

 戻ってこーい。

 

 

 

 

 

「なにをすりゅ」

 

「戻ってきた」

 

 結局、写真展から出て廊下を歩くまでずっと手を引く羽目になった。レディーファーストは何処にやったのやら。

 はっ、と我に返った様子だけれど、私に握られた右手には気づかない。

 

「三途の川はどんなとこだった?」

 

「いや死んでないが」

 

「なら良かった」

 

「……」

 

 何かを確かめる様に右手をワキワキと握ったり開いたりしている片割れに、ようやく気付いたかと握り返す。

 

「あいたたた」

 

「手なんか気にしてどうしたの。手汗?」

 

「ちょ、止めろ。そこまで握られたらそりゃ気にするだろ。……むう、なんだその握力は」

 

「ふうん……。まあ良いか、ちょっと腕出して」

 

「うん?」

 

 包み隠さず言い放つ彼にムムムと眉を顰める事もせず、離した手を今度は腕に絡ませる。屋内だから季節の肌寒い空からは遠いけど、この体温が心地よく感じるくらいには空気が冷えていた。

 

「こ、今度はなんだ」

 

「丁度良いでしょ」

 

「動きづらいんだが」

 

「動きやすさより気にするべき事があると思うんですけれど」

 

 後ろから声が飛んでくる。目の前でイチャイチャを見せるんじゃねえです。という本音を隠している気がした。

 勿論言外の言葉など察せる筈もないから、きっと気のせいだ。

 

「ああ……確かに、告白されるのは面倒だからな」

 

「いやそういう意味じゃないです」

 

 確かにこれは歩きづらいかな。でもカップルっぽい事TOP10にはある様な行為だし……。

 んまあ、しばらくはこのままで良いんじゃない?

 

「しばらく……うん、20分くらいまでこうしてよう」

 

「長くないか?」

 

「文句言わないの」

 

 こんどは後ろからため息が飛んで来た。なにが気に入らないんだろう。

 

「……双子にもなると、胸を当てても気にしないんですね」

 

 まあ別に貴重って訳でもないしね。なんならたまに正面から押し付けてるし。朝のベッドで。

 

「そういえば最近は気にしなくなってきたかもしれない……」

 

「最初は少しでも触れるとエビ反りになってたよね」

 

 片割れが遠い目で天井を見上げる。

 規則的に並ぶ照明が視界に入る筈だけど、その目は淀んでいる様に見えた……気がした。

 

「……この調子じゃ素直にカップル扱いできないですね」

 

 ちょっと前に口にした言葉を撤回するべきかと、鳴海妹は訝しんだ。

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