俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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恋愛のさせ方に迷いました。


2日目には早すぎるだろう、と俺は思った。

 

 そういう提案が来ることは予想していた。これを恋愛感情と言うべきかは兎も角、明が抱いている感情にはとっくに気付いていた。

 

 男女の関係()()()()過ごし方をするのも楽しかった。

 明はとても気に入っていたみたいだし、俺もまあまあ好きだった。

 

 でも、そういう感情のみを抱く相手かといえば、多分違う。この関係を恋愛のみで染めても、お互いに良くない思いをしてしまう。きっと明もそう思っている。

 

 ひいては、この提案は三つ目の関係を持つという意味になる。

 俺がこれに賛成して恋愛関係になった所で、双子や同一人物という関係を捨てる事にはならない。

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

「いや」

 

 しかし俺は愕然とした違和感を抱えたままで居た。本当に、明も同じ様に思っているのか? 

 同一人物でもあり、双子でもあり、そして恋人でもあるという()()()()()が続くと、同じ様に思っているのだろうか? 

 

 ……たまに考えている事が違う事があるから、これは確認したかった。

 

「明は」

 

「うん?」

 

「──」

 

 驚いて、言葉で喉を詰まらせた。振り返った明の顔は、見た事の無いような表情を浮かべていた。

 笑顔とも言えず、その真逆とも言えず。こればっかりは確認するべきではないと、直感した。

 

「──いや、そう、恋人。恋人って何すりゃいいんだ」

 

「ん、分かんない」

 

 そりゃそうだ。苦し紛れに出した代わりの質問は、俺にとっても答えが出ないものだ。

 これは何をするかというよりも、何がしたいかが重要だろうか。別に、恋人としての関係を進める訳でも無い。今日のは、この関係に第三の要素があるっていう事を認めたってだけで。

 ……多分。

 

「適当にしていれば良いか」

 

「だねぇ」

 

 恋人みたいな関わり方が肌に合わなかったら、今まで通りの関わり方に戻ればいい。

 ……戻れるか? ちょっと不安になってきたぞ。

 

「ううん……」

 

「そうだ、猫ちゃんはどう思う?」

 

「それって猫に聞く事か?」

 

「この猫になら聞いても良いんじゃない?」

 

 確かに。

 納得する俺が目線を寄こす先は、部屋の隅で寛ぐ猫。野良猫である筈なのだが、家の中に居ても違和感が無いくらい毛並みが整っている。

 態度や行動に、野生の猫らしからぬ何かを感じさせるこの子は、昨日からこの家に引き取られる事になっていた。実行犯は我らが母。

 

「……」

 

「ねー?」

 

「……」

 

「ねえ無視されるんだけど」

 

「反応はしてるぞ」

 

 そう言ってみると、ちょっとだけ振り向いてくれた。

 今や家族の一員……とまでは行かなくても、同じ屋根の下で生活する居候くらいの関係にはなった。

 居候の猫って何だよ、面白いな

 

「名前はまだ考えてなかったよな?」

 

「さっきママがバニラだって言ってたよ」

 

「早いな」

 

 名付けの機会がとっくに過ぎていたのは残念だが、綺麗な白の毛並みによく似合った名前だ。母にしては珍しいが。

 

「……バニラで良いんだな?」

 

 猫が振り返る、目も合った。多分あれは自分の名前として認識している。賢い奴だ。

 

 しかし声に出して呼んでみても、割と良い名前に聞こえる。

 世界線の都合かもしれないが、それでも俺達が授かった名前といえば「明」と「明一」だぞ? 年月を経てネーミングセンスが進化したと考えても、大分変わりすぎている。

 ゴーストライターならぬ、ゴースト名付け親が居るに違いない。

 

 

 なんて、陰謀論にも似たしょうもない妄想はここまでにして。……今も目下にある議題に、一つの小さな結論を下す。

 

「明日、続きをしようか」

 

「続き?」

 

「ああ。恋人らしい事なんて見当つかないが、知識で知っていることだけでも試していけば良いんじゃないか」

 

「おお? うん、良いね。その心意気や良し」

 

 偉そうな態度。俺よりも楽しみにしてるくせに。

 何処か可愛げを感じる微笑みに、俺も釣られて出る笑みを隠しもせず見せた。

 

 明がこの関係を気に入っているなら、俺はこの笑顔を気に入っているのかもしれないな。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 文化祭2日目。

 校内の様子自体には大きな変わりは無く、けども少しの変化が所々と見つけられた。

 客寄せをするあの生徒の手には手持ち看板があるが、昨日も一日中振り回していたからか、今や気の抜けたよれ方をしている。何かがあったのか、テープで修繕された跡も見える。

 誰かと引っ掛かってしまったのであろう、剥がれ掛けたポスターや飾りも……。

 

「間違い探しみたい」

 

「言い得て妙だな」

 

 そんな会話で外の様子が気になったのか、抱える鞄がもぞりと動いて、ひょっこりと白猫……もとい、バニラちゃんが顔を出してきた。

 今日もついて行く満々で玄関まで追ってきたから、俺達が鞄の中へ誘ったのだ。

 

 図らずとも昨日と同じ状況になった。唯一違うのは、こうして2人で歩く目的の有無だろうか。

 他人に見せつける様にくっついて歩く必要は無いが、俺達がこうしたいからと、腕までくっつけて練り歩いている。

 

 

「今日の当番は昼頃だったな」

 

「校庭に置いてるやつだったかな。イベントの様子も見られそうだね」

 

 ここの文化祭は、2日目に校庭様々な物が催されると聞いている。隙間なくスケジュールが詰まる程じゃないが、様々な、と付けられるくらいならば退屈しない筈だ。

 

 今も地域の何かしらの団体が踊り舞うイベントがやってある。歴史を感じるリズムの歌が聞こえてくる。

 来客も生徒も、そっちの方に興味があるのだろう。俺たちの居る一帯には人気が無い。

 

「それで」

 

「なんだ?」

 

「恋人らしい事、何かやってみよう」

 

「え?」

 

 それは……。まあ俺が言い出した事だし、そうしてみるのも良いが。

 

「早速だな」

 

「想定外?」

 

「想定内だ」

 

「じゃあ良いよね」

 

 何が? 

 と言い返すよりも先に、彼女の顔が迫る。

 その意図を理解できないほど無知では無いが、実行よりも先に理解するほどの時間は無かった。

 

 双子とは言え、身長差に差はある。しかし踵を上げて、つま先だけで立ってしまえばその距離はあっという間に縮まる。

 残りの距離は俺が彼女を見下ろして、彼女が俺を見上げれば……。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「にゃあ」

 

 無言ばかりで何も話そうとしない2人の間で、一匹の白猫から声が上がった。

 




森や山の中で迷ったのならば、一つの方向に歩き続けてください。
ならば恋愛も同じ事なんでしょうか。
ただ一方向へ、直線距離の最高速度で。

この方法が正しいと知る必要は無い。
ただこの先を知る事に興味があるだけだから。


……みたいな話。
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