俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。 作:馬汁
距離感は近いほど良いという訳では無い、と私は思った。
その内にでも私らが多幸感で潰れてしまう気がするこの頃。冬休みを迎えた私達は……何もしていなかった。
「もうすぐクリスマスだ……」
社会人である筈のママも、貴重な休日を使って家を飾り付けしてイベントの雰囲気を盛り上げている。
この家で友人を呼ぶ予定は無いと聞いているけど、それでもママは飾り付けは断固として実行している。気持ちはわからなくもない。
「うん……」
ニヤニヤと笑いかける。クリスマスムードの沸き立つ家の中、隣に佇む異性がとなれば、連想するべき物は一つしかない。
ベッドの上、私たち二人の考えている事が一致するのは、当然だった。
「別に気分じゃないだろ」
「んふ。まあね」
正解。連想しても、私たちが実行に移す程の興味が湧くものでは無いのだ。
当然の言葉を返す正当者には、ぐりぐりぐりぐりと、頭を寄せてやる。どっちかと言うと押し付けてる?
「……くすぐったい」
不満の声が上がった辺りで、私の頭は返送されてしまった。
それでも……、うへへ。私のパートナーは今日も可愛い。わかりやすい照れ隠しを見て、私は気持ち悪い笑みを更に深めるのだ。
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カップル生活の始まり……とは簡単に行かないわけで。
こんな感じのコミュニケーションを続けていたら、明一からのお小言を貰ってしまった。
「明……。少しは抑えられないのか」
むん。
ちょっと裏切られた様な気分に、反論したくなる程度にムスっとする。やい、明一こそ役得だと思ってる癖に。
むんむん。
不機嫌になった私は今から2倍むんむんデーだ。
「嬉しくないの?」
「俺が喜ぶと思ってやってたのか?」
「私は割と自分本位」
なんとも言えない顔が見えた。
良いじゃん、ちょっとタガが外れたくらい。でも明一はそれを良しとしないらしい。何故だ、何故私と同じように考えない。
……いや、落ち着こう。一旦明一の気持ちになって考えてみよう。
…………。
「でもやっぱり役得じゃない?」
「役得だな」
「ほらぁ」
片割れは一度認めるも、私を咎める眼差しは外してくれない。まだまだ言いたいことがあるらしい。
「とりあえずお前は、そのやたらに高い加速度を一旦下げてくれ」
「加速度って……良いよ」
私が思ってるより、明一と私が望んでる距離感は違うっぽい。あくまで望んでいる距離が違うだけ。
お互いの着地点がどこか違うという事は、もう承知した。
「最近な、生活のサイクルが随分と変わってる気がするんだよ」
「ほん?」
「まず今日。朝から今まで何やってた?」
「くんずほぐれつ」
「ぐうの音が出るほど正解。その言い回しは避けられんのか」
「顔真っ赤」
おもろ。大した事してないのに。
猫に割り込まれて一回中断したけれど、やってた事はずっとソレだった。とは言ってもくんずほぐれつ止まりで、ずっこんばっこんはしていない。……やらしい単語を避けてるハズなのに、なんだかイカがわしいね?
「とりあえずな」
「んー?」
まあそこまで嫌がるなら。
私達に嫌がる相手を無理やり押し倒す趣味は無いのだ、多分。
「控えるのは難しいんだな?」
「まあ……」
「代わりに……と言ってはなんだが、これを用意しようと思うんだ」
「え、何これ」
通販サイトのページを見せられて、画面に目を向ける。
白くて、長くて、先端が丸くて灰色。これは……──
「充電式のマッサージ機。もちろん防水だぞ」
「──アンタも大概スケベだね?!」
「一人で処理しても気は済むよな」
うわあ。
確信持って言われてるけど、別に女の子全員がそうとは限らないと思うよ……。
とにかく盛大なる誤解を一言で蹴って、商品ページのブックマーク登録は外して貰った。なにちゃっかり保存しちゃってんのさ。
……エロ同人の通販サイトのリンクでも送りつけちゃおうかな。
「軽蔑の眼差し……」
珍しいものを見た、みたいな素振りをされた。いや割と明一の所為。
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それから、私達の攻防戦は始まった。四六時中くっ付いていたい私と、たまにはゲームしていたい明一とでの対決だ。
「明一のやつも乗り気だった筈なんだけどなあ」
奥手の明一には丁度いいだろうと思って、最初は私の方から色々やっていた。同じ事されても良いよ、と行動で示しつつでラインを引いてたつもりだ。いやそこまで深く考えてないけど。
でもそういう流れだった。1度やらせた事は、2度目は直接手を掴んで誘導せずとも自ずとやってくれる。でもそれ以上はしない。まるで信用を測りかねている子犬みたいに。
ううん……何がいけなかったのか。
対人コミュニケーションに関して経験で一歩リードしている私でも、この特殊な条件下では通用しないらしい。まあ相手は他人じゃないからね。
「ねえねえ」
「何だ」
「どうやったら攻略できる?」
「何を?」
「明一」
「何で?」
胡椒の大粒をつい噛み砕いてしまった様な顔をされた。口の中がピリっとしてしばらく顔顰めちゃうよね。分かる。
攻略情報が彼の口から出てくるのを期待してしばらく。やっぱり返事を返す気がなさそうだと悟って、また手元の携帯を弄る。
「俺を攻略ね……」
「悪かったって。本人に聞くものじゃないよねそりゃ」
「そういう問題か?」
「じゃあママに聞く」
「やめ」
……私はもっと近づきたい。彼は程よい距離で落ち着きたい。
多分、私達が持っている価値観の相違とは、そういうものなんだ。……そういう気がした。
創作意欲という名のエンジンが冷え切ってるので、更新頻度はまだまだ疎らだと思ってくだし。