俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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前回までのあらすじ

 文化祭を終えた双子。
 明を狙う男の気配を感じた双子は、行事の間は恋人の振りをすると言う大胆な作戦を敢行。

 行事が終わったその後、恋人と言う関わり方の心地良さに気付いてしまった2人は、この新しい関係との付き合い方を探るのであった。
 因みに第1ラウンドは、明の猛攻により彼女の勝利となる。



こんな事で砕けてられない、と俺は思った。

 許容範囲を超えんばかりの我が片割れによる押せ押せに参った結果、なんとも珍しい事に、俺は一人の時間を作り出したのだった。

 珍しくも、そして貴重な時間だ。これを無駄にしないために、俺は早速と行動を起こした。

 

「……」

 

女性 押しが強い    検索

 

女性 落ち着かせたい  検索

 

 

 で、我に返った。

 

 ……何やってるんだろうな、俺。

 己の動向をつい客観視してしまった俺は、検索結果を確認した後にガックリと崩れた。

 この年で女性関係に悩む日が来ようとは思わなかったよ……。

 

 検索結果に出てきたのは、確かに俺が求めている答え……とは違った。心療的な目線から見るのは良いけど、どれも明に当てはまる気がしない。

 もっとこう、この現状を打開できるような方法が出てきそうな検索ワードを……。

 

彼女 やたら距離が近い 検索

 

 

 ッスゥ

 

 ……本ッ当になにやってんだろうな。

 履歴とクッキー諸共隠滅してから、ウィンドウを閉じた。彼女……明に知られたら良くないことが起きる。

 違法薬物でも隠しているかの様な慎重さで、全ての痕跡を抹消したのを確認してから俺はようやく携帯電話を手放した。

 

 

 

 物分りのやたら良い猫を相手に相談する気にもなれず、かと言って母はダメだ。幾ら遠回しに、ぼかしにぼかして話した所で、俺たちの現状に気づく可能性が高い。

 

 検索結果にもあまり納得がいっていないし、参考にならない。『距離感が近い女の子は、自分に好意があるかも!』じゃないんだわ! 明の好意がアリアリの大盛りだってことくらい俺でも分かる! てか検索ワードの『彼女』はどこ行った?!

 ……なんでワードに『彼女』なんか入れた?!

 

「おごごご……」

 

 取り敢えず落ち着かねば。大きく一息、もひとつ深呼吸。折角なら猫にも癒してもらおう。

 数十分悩み抜いた末の決断として、情けない逃げの一手を選ぶのだった。

 

 そして猫には逃げられた。噂の猫吸いとやらを試したかったのに。

 

 

 

 

 

 

 さて、さて。心を落ち着かせてもう1日。24時間も悩んでいればいい加減対処方も浮かんでくるわけで。

 仏の心を保つとか、もっと過激な奴で俺を慣らすとか。嗚呼、また履歴を消す羽目になった。

 

 頭の中をなるべく空っぽにするべく、窓から見える風景で癒されていれば……明の気配がやってくる。

 

「来たか……」

 

「何言ってんのお兄ちゃん」

 

「誰のせいだと……うん、なんて?」

 

「お兄ちゃん?」

 

「ぼっ、なっ、お兄ちゃん?!」

 

「あっちょ、声おっきい!」

 

 凄まじい勢いで全てが吹き飛んだ。そして俺の口は塞がれた。

 この片割れは、どんな策を練ろうとも俺の防壁を突破するのだ。

 

「何事?」

 

もごも、ご(さすが、だ)

 

「わきゃっ、手ぇくすぐったいって」

 

 可愛い反応するな……じゃないっ!

 

 悩み抜いた一日が無駄になったが、人は学習し成長する生き物だ。次は妹物で訓練だ。

 

 明がこんな風になってしまう要因には、性転換以外にももっとある様な気がしてならない。

 母の入れ知恵と仮定すると、なんだか凄く腑に落ちた。全部アイツのせいだな。

 

「お兄ちゃんどしたの」

 

「俺はお兄ちゃんじゃないが」

 

「弟がいいの?」

 

 そうとは言ってないんだよな。

 

「どうしたんだよ、急に兄呼ばわりなんかして」

 

「兄妹としてなら一線を超えない……いわゆるちょうど良い距離感になるかなあって」

 

 アンタという奴は……。

 確かに明の走り出しはものすごーく急だったが、俺の都合を無視しない程度には優しい。

 ただなぁ。

 

「とりあえずさ、やめてくれないかな」

 

「ダメだったか」

 

「背徳感が凄まじいんだ」

 

「むうん」

 

 頭を傾げて悩む明。この片割れだって、それらしい事に興味があるのだ。俺だって少なからず。……多分。

 この前新しい“オモチャ”の贈り物を断られて、割と自信無くなってる。多分欲望のベクトルが違うんだろう。

 

 明は降参降参、と無害を主張する様に両手を挙げて、俺の隣に腰を下ろした。片手には湿り気が残っているように見えたが、努めて気にしないことにした。

 

「赤の他人からそう呼ばれる分には……まあ良いんだよ」

 

「お兄ちゃん呼びが?」

 

「それもそうだし、明が求めている様な行為諸々だな」

 

「へえ」

 

 これは、あんまり自己分析が出来てない。どうして明がダメで、どうして不特定の誰かなら大丈夫なのか。

 

「もどかしいなあ」

 

「俺が愚直に応えていたら、俺たちが傷付きそうな気がするんだ」

 

「そんなもん?」

 

「そんなもん」

 

 彼女にはそういう不安は無いのだろうか。

 俺にはある。頭に過ぎる。弱音を口から吐こうとする度、俺の心臓が何者かに打ちのめされる様な感覚に苛まれる。

 

 そうして無言のままでいると、明の顔がニマニマとだらしない笑みを浮かべてるのが見えた。

 

「その顔はなんだ」

 

「お?」

 

「顔、表情。笑ってるぞ」

 

「おー? ぁ、めっちゃ笑ってた」

 

 笑うと言うか……割と俺以外に晒したくない顔をしていた。

 普通の人からすれば見ていて見苦しいだろう。

 

「外ではそんな顔しないでくれ。……かわ、いい顔してるんだから」

 

「ぼっ」

 

 明が凄まじい勢いで吹っ飛んだ。何事。





 相打ち、引き分け。
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