俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。 作:馬汁
単純……ッ!
この言葉のみが、今の私を表している!
「たったの一撃が、私をこんなにも追い込むなんて……」
ただの一言、文脈の上にさりげなく置かれつつ、その言葉の意味を自覚して恥ずかしげにするも、最後まで言い切ってしまう。
フェイントを交えた高火力技を食らった私は、見事に吹き飛んで倒れた。そして今度はその事を思い出してベッドに顔を埋めた。可愛いのはアンタだバカ。
そのバカは今、ママに呼ばれて離席しているところだ。今頃は妙な用事の為にお手伝いをしているみたい。この時期だとクリスマス関連だと思うけど。あのバカ。
「もうバカ、ほんとバカ」
バカ相手なら多少の常識は踏み潰しちゃっていいよね? とおもむろに携帯を手に取る。私のではなく、ママに呼ばれたまま戻ってこない彼のもの。
いやね、私には御相手の好みを探るという任務があるのですよ。本人から聞き出すとはぐらかされるし。弱点を教えるバカじゃないとか言われる。バカのくせに。
……履歴がリセットされてる。行動が読まれたか。
「賢いバカめ」
一言に込められた矛盾も含めて吐き出して、ブラウザを閉じる。あれこれ試しても良いけど、私が思いつく程度のものなら対策されてて当然だ。
「ハァーーーー。……なにやってんだろ」
スン……と、心の内で何かが冷める音がした。でっかい溜息で冷えたのかもしれない。
どーにも私らしくない。どうしてこんなにもイラついてるのだろう。
自覚が始まった途端に、頭も冷えて今までの言動がフィードバックする。賢いバカってなんだよ。
「あー」
面倒になって、億劫になって、バカらしくなって。そのまま明一の携帯で遊びだす。多少シングルプレイ専用のアプリも残ってるから、これで時間を潰しておこう。
わかってる。ちょっとタガが外れてる事くらい分かってる。世の恋人たちでも、この段階から飛ばすような所は無いだろうと思う。
でもね、相手は私自身。或いは異なる可能性の私。だからこそ、私の行動から相手にどう思われるのかが分かる。予測可能で、ある程度の保証もされてる。
するとね、なにが起こると言うとね。
・
・
・
実例1
以下の会話に含まれる全ての句点を、ハートマークに置き換えなさい。
「おはよ……♪」
「あ、おは……服を着ろ」
「着てるしー」
はーっっ胸見てる。ちょっとはだけただけなのに。
目泳いでる。私の顔マトモに見れてないし。
あっ布団被せてくれた。
どんな感情なんだろなあ。興味あるけど我慢してるんだろなあ。私でも認めらんないような事でも想像してるんだろうなあ。我慢してくれてるんだー。ちょっと可哀想だけど嬉しい。私だってまだまだ勇気が要るような行為だし……って何想像してるんだろ! キャーッ。
・
・
・
たった3つの会話で暴走する。
私が彼の内心を読み取れて、それの殆どが的中している確証があるのだ。こうなるのも仕方がない。無いよね? 私だけ? かもしれない。
たまーに私の欲しいものを意識してくれて、撫でられたり膝に座らしてくれたりということもあるけど。……うむ、人生とは素晴らしい。
「ぐへへへ……」
やっぱこれ最高だわ。おっと涎が。
子供の事とか考えてないから、恋人以上に至ろうとは思ってないけど……出来るけどしないのと、出来ないのでは違うよね。
ほら、私らってば一応血縁だから。
「むずかし。いいや」
やっぱり久しぶりに遊ぶと下手になってるなあ。
ぽい、と携帯を置いてしまう。もう遊ぶ気が起きない。
「何やってるんだろ」
自分に差し向けた言葉で、また我に返る。これで2度目。
そしてまた、答えるような思考で吹っ切れる。
恋愛してるんだからこうなっても仕方ないよね。
そう、仕方がないのだ。……ああ、仕方がない。ならばきっと何をやっても許される……? なるほど、これが所謂触れてはならない扉という奴か。
「ふむん」
恋愛だから出来る事、という面でしか見れなかった私の視野が、ぐんと広くなった。
恋愛だから許される事……。
……ハッ。恋愛なら、何しても良い……って、コト?!
「くひ」
・
・
・
せっかく得た理性も何処かに放り捨てられ、そうして始まった私の中に秘められた企てもこの数日間悟られる事なく。クリスマスへの備えも粗方終わってしまった。あとは、この家でイヴの夜にメリクリして、ケーキやらチキンやらを楽しむことになる。
ここで私たちが、穏やかな団欒の時を……。
「の、予定でしたが! 急遽、私は他所でクリスマスのお手伝いをすることになりました!」
穏やかな団欒……。
「2人でごゆっく」
「待ておい」
二人で……。
「私が居なくても」
「だから待て」
……フフ。
「それじゃあね!」
「ちょっと」
扉が勢いずいて閉まる。玄関が少し揺れた。そこまで追いかけていた明一は崩れ落ちた。
計画通り……。
「あ、27日くらいには帰ってくるから!」
「え」「え?」
まってそれは聞いてない。
「それって三日後とか、えちょ」
「話がちが、じゃなくて、どど、うえあ」
顎が外れる勢いで口が開く。
不審な言葉を拾った明一が、私の方へ振り向く。
「……二人っきりだネ」
「母になんか言ったろアンタ」
知らないねぇ。
「しらんぷりの顔」
「そんな分かる?」
「お前の顔だから」
「ちょっと惚気ないで」
「アンタ惚気のハードル低いな」
うっかり嘘をつきそびれちゃった。いやもうばれてるのか。ゲームほど上手くいかないもんだなあ。
ちょっと可愛げのある仕草で笑い飛ばす。明一は顔を顰める。なんでさ。
「仕方ないから言うけど、途中まで計画通り」
「最後まで世話してやれよ」
「むりぃ」
我らがママは私ら程度が手網を握っても意味をなさないのだ。
しかし名ジョッキーであったパパはもういないのである。二人がかりで抑えるのも精一杯なのに……。
あーん。ママの事考えてたら気分が削がれちゃった。
彼と一緒にいれば、また勝手に盛り上がるだろうけどね。……計算違いはあれど、たっぷりの時間を使えるなら良いや。
「ま、せっかくの二人っきりなんだからさ」
「……」
「クリスマスらしいことしてみようよ?」
「……じゃあ」
私たちがマイルームとしている部屋で、私こと明は男物のズボンを見ていた。
じっと見つめ、手で弄り、さらに別の角度から見る。それこそ、穴が空くほど見つめているというのが妥当な表現に思えるくらい。私は感心して言葉を漏らした。
「これは……やっぱり大きい」
「ズボン見つめながら言うセリフか」
「私は中を見てるの」
「中ってなんだ、なおさらダメだろ」
「何がダメなの」
「表現」
このムッツリめ。
ちなみに、私たちはポケットの話をしている。
もっと言えば、元々はこれからのお出かけに着ていく服について考えていた筈である。どうしてこうなった。私が唐突にポケットの事が気になったからである。
「それで、結局決めたの?」
「……決まらない」
「さっさとしてよー」
「取り敢えずそのズボンは返してくれるか」
はいはい。
ぽいっと返してやったら、彼はいそいそと扉の向こうへ退避してしまう。相変わらずだね。
――……明一の下着姿、なんだかんだ見た事ないな。
恋人の関係なら、下着姿も互いに見慣れることになるのかな?
なんてくだらない事が頭に浮かんで、必要ない妄想などに構ってやる時間なんてないのだと、頭を振る。水着姿ならもう見たじゃないの。
これ以上彼に無理な思いをさせる訳には行かない。キャパオーバーという物があるはずなんだ。
そんな事考えてたら、扉の向こうで着替えてる音が終わった。もう着終わったぽい。
どんな感じになったかなー、と。
「着れた? お、やっぱいいねジーパン」
「ノックもなしに開けるな」
「アハハ、ここリビング」
部屋からリビングへ出る時にノックするのは聞いた事ないなあ。
「上着選んでみたけど、どう?」
「もうパーカーで良いか?」
「恋人の目の前でそんな事言うんだ」
「あ、ごめん」
カンカーン、好感度が下がる音がしたよ。明一くんのせいです。
あーあ……。
「なんだよその顔」
「好感度の下がった顔」
「可愛い顔で変顔するんじゃない」
「また可愛いって言った!!」
「ええ……?」
ピロンピロン、今度は上がる音がした。
……私ちょろくない?
……そろそろ下ネタ路線から出たいの。
今更これ以外の書き方が出来るのか分からん……。