俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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 扇風機も回るし太陽の位置も高いんで夏ってことで良いですか
 二週間の内に3分くらい考えていたのですが、書き溜めという行為はやはり性格に合わず……。

 私の方では仕事がセカセカしている時期なので、鈍足かたつぬりな投稿頻度になります。どうかお付き合いください。

あと、気分転換にサブタイトルの命名規則を変えました。バグではありません。


新しい双子
“俺”たちに平穏は訪れない。


 年が明けてしまえば、惜しくも冬休みは直ぐに終わるもので。コンビニやバイト先も、年明けの雰囲気も程々に2月の戦略を始めている。このコンビニの店頭で、チョコが仰々しい飾りを纏って並んでいた。

 

「チョコだ」

 

「おお」

 

 そして、この時期の風情を無視しておにぎりの棚に向かう。……反応が薄いのは、今が登校中だからだ。あんまり気にしても仕方ない。

 馴染みのコンビニだから商品棚の位置も覚えてる。が、今日は少し様子が違う。

 

「あれ、エビマヨ無くなってる」

 

「うげげ」

 

 たまに並び順が変わって、目的のおにぎりを見失うこともあるが……。今回はどうしても見つからない。生産終了だろうか。

 

「仕方ない」

 

「……ふぇん」

 

 どんな感情の鳴き声だ。

 俯いて前髪で顔を隠した我が片割れ。鳴き声も程々に元に戻った彼女と一緒に会計を済まして、店前に並んであるチョコをまた一瞥しながら出ていく。

 

 彼女、明(あかり)は去年の夏頃と比べて色んな感情表現を試みる様になった気がする。

 冗談を含んだ振る舞いとか、あるいは可愛らしさを追求した仕草とか。たまに匙加減を間違えて変な鳴き声に変換されたりもある。

 

「チョコ並んでたね、なんか希望ある?」

 

「1口サイズがいいかな」

 

「食べさせやすいもんねー」

 

 しかし今まで通りの、気楽な受け答えの連続はなかなか手放せない。

 明がどう思うかは、今じゃ俺の頭だけで予想することが難しくなってきているが、それでも()()()事は多い。

 

「長いのでも良いが」

 

「へぇ」

 

 

 ……今の相槌は含みがあったな?

 

「なに?」

 

「なんでも……」

 

 気のせいだったか。うむ、会話が健全なのは良いことだ。

 

 

 しかし言われてみると、実は“あーん”をしていない気がする。いやしたかもしれない、曖昧だ。俺達のことだから、特に何も特別なことを考えずにやっている可能性も。

 ……という所まで考えて、横の明に向かって問いかけてみる。

 

「俺達何か食べさせたっけ」

 

「うん?」

 

「あーん、のやつ」

 

「……」

 

 心当たりがあるような無いような微妙な顔。こういう事ならば俺より覚えが良いだろうとは思ったが。……かと思ったが、心当たりは最初からあった様だ。

 

「あったけど、今ほど甘々じゃなかったかな」

 

 なるほど……。明のことだから、言葉に含んだ意味まで伝わってきた。

 “もっと甘々な感じで食べさせたい”、とかそんな所だ。程度にもよるが俺には厳しい。

 

「やっぱり板チョコがいいや」

 

「その心は」

 

「小さいのを食べさせようものなら指咥えるだろ」

 

「へっ」

 

 なんですかそのバカにするみたいな笑い方。

 

「私はねえ、指とか舐めるとかそういう領域には居ないんじゃよ」

 

「あ、うん」

 

「もし食べさせ合うなら……」

 

「……口移し?」

 

「うへへ」

 

 うへへじゃないが。

 

「うへぇ」

 

 おじさんになったなあ……。

 

 明との一体感は薄れている一方、最近はコイツの性癖も分かりやすくなった。

 攻めた話題が多くなっているから、会話の音量も相応に小さくなっているとはいえ。

 

「学校では控えられるのか?」

 

「私の仮面の硬さなら心配ないよ」

 

「へえ、出来ると」

 

「疑心の顔だ」

 

「期待しないでおくよ」

 

 

 ダメだろうな。

 

 

 

 久しぶりの学校。冬の季節色がまだまだ濃いから、桜はまだまだ蕾にもなってない。この前みたいに、席がどれだかどこだか分からなくなったりはしない。

 態々メモしたというのに、明の出現であべこべになったりで……あの時は人から聞くことになった。

 

「ね、ね」

 

「おー?」

 

「学校ってさ。クラスメイトが居るじゃない」

 

「そうだな」

 

「私たちの席の間に、一人いるよね」

 

 確かに、俺たちの席の位置関係はそうなっているが。

 質問の答えに名指しされた後、休みの時間に不満を零す女子。別の机のところまで行っては、一定の面子で集まっては大きな声で語らう、その一人である。

 

 名前を関連付け出来ていないだけで、クラスメイト達の個性というのは把握している。

 

「その女子がどうしたんだ」

 

「邪魔だよね」

 

「シンプルにダメな事言うな?」

 

 俺も思ったりしているが、一度受け入れられれば以降は何とも思わないのだ。

 

 

 夏休み明けの惨状は繰り返されない。それが分かって、表には出ずとも内心に積もっていた不安が晴れていく。

 走り出しが良ければ、あとはもう気楽にやれるだろう。

 

「おっ、あっかりーん!」

 

「わっと」

 

 久しぶりに梅……塩? 塩原さん? がお目見えになる。画面端を決めたのは別の人だ。

 

「えーっと。うめ?」

 

「しお」

 

「あ、塩か。おはよー塩原さん」

 

「うめしお? 何の話?」

 

「カツ丼の話」

 

「あっ、松とか竹とかのね。……ん、塩?」

 

 相変わらず塩原さんがやって来ると途端に会話が雑になる。放って会話を見守ってもいいが、それは彼女の望むところじゃないだろうから会話の輪に入る。

 

「おはよう、久しぶり」

 

「めいちゃんもおひさー。どうよ、双子仲は」

 

「まあ上々」

 

「なによりなにより。 ……てか、あかりんよりも口数増えた?」

 

 今は頑張って会話に入ろうとしたが、にしては指摘がはやい。確かに普段は会話を明に任せてたが、人との会話をひとりに任せるのは不正解な気がしたのだ。

 

 しかしながら彼女はそう思わないようで。ぬん、と顔を横から出してきた。

 

「浮気?」

 

「なぜ?」

 

 塩原さんはうちのクラスメイトの中で、一番会話量が多い相手なのだ。メッセージ越しでなら鳴海妹が頻繁に会話を切り出すが、直接顔を見る機会と会話する機会で言うなら、彼女が一番なのだ。

 

「疑り深いカップルは長続きしないらしいぞ」

 

「……あはー」

 

 慌てた様子で取り繕う片割れ、もといカノジョを見て微笑んだ。面白半分で。そしたら明も頬を膨らませたので、くだらない応報はここで終いとする。その顔もかわいいぞ。

 

 

「ていうかさ、マジで雰囲気変わった? 口数も増えてるしさ」

 

「あー、やっぱり分かっちゃう?」

 

「分かる分かる」

 

「卑屈な感じもあんま無いしさ」

 

「……明一が?」

 

「あかりんもだよ?」

 

 私ってばそんなに卑屈だったっけ。と振り返る明。俺は頷いた、俺よりマシかもしれないが。俺の賛成意見で、明は何とも言えない顔になった。

 

 年明けに謎に湧いてくるというチャレンジ精神のお陰だろうか。人とかかわることに前向きになった上に、それが解消されたというのは、努力の成果の様で少し嬉しい。今年に立てた抱負はこれとは関係なかった気がするが。

 

「こりゃアレだね、ウワサも嘘でもなさそうね」

 

「……ウワサ?」

 

「うん。凄いよ」

 

 なんだ、凄いとは。

 

 ふと視線が気になって、俺たちを横目に語らいを続ける学生達に視線を返す。

 彼らの声量は俺たちの耳元に届く程も無くて、話題の対象を確認することは出来なかった。

 

「一体ウワサって……」

 

 問い返そうとしたところで、懐で通知音。メッセージが来ている。なんだか嫌な予感がしたから、確認はしないでおくが……。

 

「おっ、友達? 通知きてんじゃん」

 

「あー……友達だね。なんだろ」

 

 塩原さんに通知を聞かれては、あえて無視すると変な風に見られそうだ。渋々携帯を開いては、チラッとだけ見て、そして固まった。

 

「どうした? 明」

 

「カピュっ」

 

 ひんしのピカチウ?

 まるで生命力がないような表情のまま、血色豊かな顔色している。赤面と言うやつだが、中々器用だ。

 メッセージの送り主は、やはり鳴海妹だろうか。これの内容原因があるのだろうと、横から覗き込んでみる。

 

 

『めっちゃくちゃ2人の噂話爆発してますよ!』

『なにやつまま』

『何やったんですか?!』

『交尾でこるれ』

『したんですか?!』

 

 交尾……。

 

 話題が話題だけに、ツッコミを入れるには少し肝っ玉が小さい。

 

「だれだっけ、鳴海ちゃん? 友達なのって」

 

「知ってるのか」

 

「双子が気を許してる子第二位。ちな私が一位ね」

 

 交友関係まで把握されてるのか。……個人的には鳴海妹の方が楽に話せると思うのだが。

 

 とりあえず……明を再起動しないと。いやできるか? 再起動ボタンの場所なんか知らんぞ。社会的な死を目前に緊急停止したときのマニュアルなんかも無いぞ。

 

「すーっ……、どうすっかなコレ」

 

「叩けば直るんじゃない?」

 

 なるほど、確かに。

 

「ふぺっ」

 

「こいつコンマで叩きよった」

 

 失礼な。ちょっとペチペチしただけだが。

 

 魂抜けてるけどホームルームまでに戻せないか。軽く試してみたが難しくはなかった。

 

「めめめ、めいいち」

 

「おかえり、明」

 

「ここ、こうびぃ」

 

 最悪な第一声だな。

 

 

 

 

 しかしウワサか。別のクラスにいる鳴海妹の所まで広まっている。こういうものは立山記者に任せているのだが、こればっかりは厳しい気がする。

 立山記者には俺たちの尻ぬぐいばかりさせている気がする……。と些細な申し訳なさが胸の中に芽生えた。そのうち枯れるだろうが。

 

 とにかく、荒ぶる鳴海妹は宥めておく。メッセージ越しであれ、幾らか文章にすれば落ち着いてくれた。多分。

 立山記者にも一応確認してみるが……。

 

『噂が流れてるらしい。そんなに広まっているのか』

 

『かなり広まってます。うちのクラスには伝播してませんが、時間の問題ですね』

『こればっかりはお腹抱えて笑うしかありませんよ』

『アハハー』

『噂の真偽はともあれ、ちょっと私では抑えられないのでよろしくお願いします』

 

『何すれば良いんだ』

 

『あー』

 

 しばらくの間が空いて、最後に一言。

 

『あなた達でもどうにも出来ない程度の状況にはなっている、かもしれませんね」

 

 

 やっぱり、もうすこし助けてくれないだろうか。

 

「どうすれば……」

 

 

 

 ――ああ、本当に。

 

 どうしよう……。

 

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