俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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“俺”もどうしてこんな事なったのやら。

 久しぶりだから、と珍しく鳴海妹から一緒に帰ることを提案された。

 しばらく明以外との会話がなかった気がするから、たまには悪くないかもと受け入れた。いつもの様に、2人揃っての肯定で。

 

「昔は仲が悪かったんですよね」

 

「昔……あ、俺らの?」

 

 随分と日暮れも早くなった。と、しんみり見上げていると、鳴海妹が言葉をかけてきた。

 

「直接は見た事ないですけど、とっても仲が悪い……というか、互いに距離を置いていたらしいじゃないですか」

 

「まあ」

 

 懐かしいことを言い出した。あんまりにも仲良くなりすぎたから、最近ではめっきりその話を聞かない。

 明との他愛のない話の中で、ふとその事と絡めて話すことはあったが、それを主語として話すことがあまりない。忌避しているのか、純粋に興味が無いのか。

 

「なんでだろうね?」

 

「えっ」

 

「私たちには仲違いの原因が全くもって分からないんだ」

 

 素直に語る明の言葉に驚きつつも、俺たちの不思議な一日を感じさせない振る舞いに感心する。

 さっきまで自爆したり誘爆したりで忙しかったのにな。たまにはしっかりした所も見せてくれる。

 

「そうだな……あいたっ」

 

「ふん」

 

「いたたた、昼の事は忘れるから」

 

「やっぱり仲良し……」

 

 確かにこんなやり取りは仲良しの定番的なものかもしれないが。そう指摘されると何だか可笑しい。

 

 

「それに比べて私達は……」

 

「あー、お姉さん」

 

 奇妙な同一人物と鉢合わせて少しした頃に会った、ファッションヤンキーな優しい先輩だ。

 彼女は俺たちが鳴海妹の良い友達になると考えているらしいが、ここまで交友が続くというのであれば、確かにそれは正しい考えだったのかもしれない。

 

「一部分を参考にできても、私たちと比べちゃいけないと思うな」

 

「双子だからな」

 

「確かに、あの時もそう言ってましたけど……」

 

 彼女と関わり始めたきっかけというのは、姉との仲を持ち直すための参考にしたいと言われたから。しかし今に至るまで参考にできることもほとんど見つからず。という状態のはずだ。

 そういえば鳴海姉には最近マトモに会ってないな。遠巻きにそれらしき人影を見つけることはあったが、俺たちが()()()()人種だから会話に関しては取っ掛りすらない。

 

「私達はあのお姉さんと話す機会が無くなっちゃったから……」

 

「私もおんなじ状況です。うーん……少し、辛くなりますね、これ」

 

「えっ」

 

「大丈夫?」

 

 そんな思い詰めていたのか。何も声をかけられない俺の横から、明が優しい声をかけて寄り添う。

 すると慌てて否定される。どうやらしょんぼりする程度の辛さだったらしい。

 

「そこまでは悲しくないです。ちょっと、ツンってくらいで」

 

「そう?」

 

「はい、大丈夫です。……その、私から言うのはあれですけど、私って結構なお姉ちゃんっ子なので、これからも仲良しだって少しも疑ってなかったんですよね」

 

 仲があまりにも良いから、これから仲違いする未来が想像できない。というのは、どうにも俺たちの事でも当てはまりそうな気がした。

 かの姉妹の様に心の距離が広がってしまうことが有りうるのだろうか。

 

「……」

 

 なにか詰まったような感じがして、それを短い吐息で喉から追い出した。

 それはとても嫌な事だ。

 

「でも、あんなにも短い時間でこんな風になっちゃったのが……ちょっと悲しくて、悔しくて」

 

 俺たち双子でも似たようなことが起きるのなら、また同じように悔やむのかもしれない。互いに深めあった関係は、たったそれっぽちの切っ掛けで崩れてしまう程……脆かったのだと。

 関係の変化自体が、そんな脆さの証明である様にも見えてきそうだ。

 

「確かにそれは――」

 

「う、う、う……」

 

「うん?」

 

「ぬぁぁぁん! づらい……!」

 

 あ、ちょ、泣いてる? てか泣いてる。 ちょっと明?

 

「わ、わ、わ」

 

「またか明、泣くな明、無様だぞ明」

 

「ぶざま」

 

「でも! うおおん!」

 

 泣くならもう少しお淑やかに泣いて欲しいんだが。

 

「ごめん、近所の公園で休ませる」

 

「あっはい」

 

 

・・・

 

 

 半ば引きずるように近所の公園まで連れて、ベンチに座らせる。ぐずる人を引っ張るのは今までに無い経験だった。

 

「辛いよねえ……どうして別れちゃうの……」

 

「はい」

 

「最高の相手なんだもん……折角会えたのに……うんっと慰めてあげるからねぇ……!」

 

「相手?」

 

 やべ、こうなっちゃうか。

 咄嗟に口を塞ごうと両手を出して、コイツの頭部から抱え込む

 

「ぼっふ」

 

「あーはいよしよし、悲しいな」

 

「まごもごも」

 

 柔らかいとか言ってないでさっさと落ち着け。ほら頭撫でるから。

 

「辛いよなあ嫌だよなあ」

 

「えっと、なんか、ごめんなさい」

 

 気にしなくてもいいのに、律儀に謝ってくれる。別にいらない。

 

「俺は大丈夫だから」

 

「もあ、もごご」

 

「ダメに決まってんだろ」

 

「今何を拒否したんです……?」

 

 もっと強く……と言われた。コイツ結局味占めてるじゃねえか。

 とにかく変なこと言わないように顔をロックするが、要望に応えるのも癪である。ていうかここで注文増やすのかなり烏滸がましいな? アンタ余裕あるだろ。

 

「気にするな」

 

「めっちゃ気になります」

 

「まあ気になるよな」

 

「はい。……あ、見ないふりしていくヤツですかね?」

 

 明の醜態が見ないふりされた。

 

「それと、あえて言うべきわかんないですけど、今相談してる人と慰められる人ってどっちも私だったような」

 

 さもありなん。

 しかし明を慰めながら鳴海妹まで慰めるのは、なんだか良くない気がする。とても良くない気がする。

 

「大事な話を遮って申し訳ない」

 

「あ、それは大丈夫です。むしろ明さんを悲しませちゃったので、えっと、というか呼吸してます?」

 

「コイツ匂いを堪能する時は20秒かけて吸うから」

 

「はい?」

 

 つまりゆっくり呼吸してるだけって事。

 

 

・・・

 

 

「で」

 

 すっかり元通りの明が仕切り直す。面の皮が厚い。

 

 泣き止ます為に公園へ向かったが、丁度いい。変なことにつき合わせた上に、彼女を余計に歩かせてしまうのはものすごく申し訳ない。

 

「ここで話していくか」

 

「良いんですか?」

 

 帰り道が違うならもう別々に帰ろうかと思ったが、まだまだ話に続きがあるような気がしたから、こっちから言い出してみた。正解だったか。

 

「なんか大事そうな話だからね」

 

「ありがとうございます」

 

 遊ぶならば第1にお家の中。と口揃えて言う俺たちだが、特別悪い天気や酷暑とかでなかったら、外でまったりするくらいは許容できる。

 最近出来上がった価値観……この出会いによる性格の変化かもしれないが、とにかく今の俺たちならば全然許せる事だ。以前ならお話も程々に帰宅を優先していた。

 

「そしたら、込み入った話をしていいですかね」

 

「いー……うん、聞く」

 

「迷ってましたよね?」

 

「即決よりも、少し考えたあとの結論なら信用できるよね」

 

 今日の明はよく口が回る。……俺も、彼女の話を聞いておきたいと思っていた所だから、横から口は挟まない。

 だから横から睨むな。別に変なこと考えてないから。

 

「そしたら……どこから話しましょうか」

 

 

 

 まず、関係の変化について。

 以前彼女らの家にお邪魔して言った時の様に、姉妹で口喧嘩を繰り返すようになった。とはいえ頻度はそれほどではなく、週に有るか無いかの程度。

 

「前にも少し教えてくれたね。喧嘩した時の話」

 

「はい。その時も、お話を聞いてくれてありがとうございます」

 

 日常的にメッセンジャーでやり取りしているから、そういった事は一応耳にしていた。

 顔を合わせる回数を増やそうとしても、一方的に待ち合わせを無視されるのだとか。あるいは耳も貸してくれないとか。

 

 一応、鳴海姉も妹のためだと思ってやっていることなのだろう。この話の背後にある姉の思惑を少し知っている俺は、微妙な気分になった。

 

「喧嘩の頻度が増えちゃったもんね」

 

「はい……」

 

 仲良くなりたい方と、距離を置きたい方。但し引っ越したり別居したりでは無いから、姉妹同士は同じ屋根の下で寝ていると。

 ここまで理論を立てれば喧嘩の原因に見立てがつくというもの。流石の俺たちであってもわかる事。

 

「すれ違うことはあっても、ここまで対立するのは大変です……」

 

 俺達の立場で同じような事があるなら、それでもさぞ大変だと思う。

 あるいは、俺達の方でたまに見るような喧嘩なんて、比べ物にならないくらい殺伐とした空気感なのかもしれない。

 

 うむ、最後に意見が対立したのっていつの話だか……。こうして考えても出てこないくらいだから、よっぽどである。

 目玉焼きにかけるものとかチョコ菓子の派閥とかでは火種にすらならない。

 

「一回私たちが会ってみるのもいいのかも」

 

「いいんですか?」

 

「なんせ……うん、心当たりがあるからな」

 

 鳴海姉が妹に対して隠している事は、俺達も伏せる。明かすのは違う気がする。踏み込むべきでないところに踏み込んでしまいそうだ。

 

 姉は、妹の為に演じている。

 その理由こそ知らないが、鳴海妹のことを思っての行動なのだ。

 

「じゃあ……お願いしてもいいですか?」

 

 

 鳴海姉の謎を明かす。

 冬休みが明けて早々、俺たちはそんなタスクを請け持ったのである。

 

 

 

 

 

「それはそれとして。明、ちょっと顔を見せろ」

 

「うん?」

 

 話を済ませ、鳴海妹とは別の帰り道をゆくところで。

 俺は彼女の顔に向かって顔を寄せる。

 

「……ふぁえっ?! いかなり、いきなり? あっでも私は全然」

 

「ふん」

 

 額が触れる。お互い体温の差異が感覚として伝わり……。初めての行いではあるが、俺はこの疑念の確証としては十分の温度だと直感する。確実にするなら家で改めて測ればいい。

 

「明」

 

「……」

 

 目を瞑って何やってんだ……。

 

「おい明」

 

「あ、あれ?」

 

「後で体温測っておけ。何処から病気を拾ったんだか」

 

「あれぇ?」





夏風邪にはお気をつけて。
作中は冬なんですが。
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