俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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“私”復活。もはやこれ以上の恥など無い。

 解せぬ解せぬ。

 昼間の挙動不審は熱のせいだった事も、被った多くの恥が風邪から来るものだったことも、全てひっくるめて。

 私は納得がいかないのである。

 

 のである……。

 

 

 である! 

 

「うっ……さいな、急に叫ぶな。ほら、食わせてやるから」

 

 わあい。

 生姜的な香りと食感を楽しみながら咀嚼して飲み込む。これ以上無い幸福である。てか目の前に明一くん居るじゃん。わあい。

 

「うまうま……。ん、てゆーかー、ちっかーい、もしかして私の事好きなんだー?」

 

「次」

 

「もぐもぐ」

 

 うましうまし。無限に供給されるお食事に食らいつく私はまるで水力発電所である。

 あ、明一くん居るわ。ぐへぐへぐへへの

 

「ほら」

 

「もきゅ」

 

 うまし。

 

 

 

 好きな物しかない世界。空腹は満たされ怪我をすることもなく嫌な思いはひたすら無く。

 目の前で揺れる前髪をいとしげにてをのばして……。

 

「こら、変に動くな」

 

「んふ、けほ、うへへへへ……」

 

 

 

 

「ばはぁ!」

 

 悪夢っ!

 

 ばさりと布団を持ち上げて起き上がる。

 直前まで見ていた光景のおかげで、心臓の動きが何時もより強い。悪夢を見ていたみたいに鼓動している。

 

 なにあれ、あれが私? わたしあんなの知らない……。

 少しは意識してそういう風に振る舞うかもしれないけど、あれではまるで意外(なさけない)な一面が隠されている(いない)みたいではないか。

 

「……夢? あ、夢。これ夢か」

 

 あの中で私が来ていた服とは違うものを着ている。だからあんな事実はないといえる。きっとそうである。

 夢だということであれば、私はまだ戦える。もし現実であるなら明一相手でもキツイ。幾ら私がラブラブドギドギの純愛派でも解釈違いだ。なんだあの情けない私は。

 

「あー、目が覚めたわ……」

 

 起き上がって体の調子を確かめる。長い時間身体を動かしていないという感じ。ゲームの遊びすぎた日はたまにこんな感覚だ。

 とりあえず水を飲みに行く。悪夢のおかげで背中がジメッとしている。この寝汗は風呂で流さないとな。

 

 ……む。

 

「お」

 

「おはよー」

 

「やっと起きたか」

 

 どうやら普段と比べて遅く起き上がったらしい。確かにさっきも明一だけ居なかったもんな。

 

「私だけ遅起きかー」

 

「ん? まあ、そうだな。」

 

 何故か氷を台所に流していた明一の後ろを通って、冷蔵庫の中身を漁る。

 

「あれ、なんかお米が冷蔵されてる」

 

「作り置だな。母が仕事の前に2回炊いてくれたんだ。当分は介護にかかりっきりになるかもしれなかったし」

 

「……かいご」

 

「んむ」

 

 す……。とりあえずお茶飲もう。

 そしたらお風呂場で流しましょう。そうしましょう。

 

「おふおふ、おふろ」

 

「ああ」

 

 シャワーで思いっきり流せばスッキリするに違いない。タオルだけとにかく用意してギャーッ!

 

「夢の中で着てた服が!」

 

「あ、そいつも一緒に洗濯機に入れといてくれ」

 

「普通に何言ってんの?!」

 

「普通に物を言ってるんだが。まだ不調ならそこら辺に脱ぎ捨てておいてもいいぞ。俺が洗濯機に入れておく」

 

 えー? え、うぇー……。夢じゃないんのね……。

 

「どうしたんだ」

 

「い、いや……。あの、どうやってあの服から着替えたの、私」

 

「俺が手伝ってやった」

 

「あ……うん」

 

 マジか私。初めて裸を堂々と晒すならもっと良いシーンって決めてたのに、こんな味気ない事で見せるなんて。

 私の恋愛プランが音を立てて崩れていく……。私は悲しいぞ……。

 

「そこまで落ち込むな。出来るだけ背中から手伝ったから」

 

 そういう問題かなあ?

 

 

 

 

「……平熱。うん、治ったかな」

 

「よかった。これで普通の食事も解禁だな」

 

「ありがとね、おかゆ」

 

「お粗末さま。料理って意外とちょろいもんだな」

 

「ちょろいか……?」

 

 おかゆは料理としては序章くらいのもんだと思う。

 でも明一が私の為に料理を挑戦したというのであれば、それはとても良い事だ。いろいろあるけど、とりあえずそこだけ喜んでおきましょ。

 

「……因みに、触り心地は?」

 

「いきなり何ぶっ込んでんだお前」

 

「ぶっ込む側なのはアンタでしょ」

 

「いやいやいや」

 

 けらけらけら。タダで私の裸を見たんだから、その代償だよ。汗まみれの私を着替えさせるという建前があるからって、なんでも出来ると思うなよ?

 

 まるでメスガキでも見るような眼差しを受けて、ちょっとやりすぎたかなあ、と態度を改める。

 

「えへへ」

 

「誤魔化すつもりか?」

 

「まあそれも少し」

 

 

 コホンコホンと仕切り直す。

 

「ところで、休んだの一日だけだよね。記憶はあるけどそこの感覚は曖昧で」

 

「一日休みだ。授業の遅れは塩原さんがノート見せてくれるらしい」

 

「わー、ありがた」

 

 鳴海妹は別のクラスだから頼れないからね。塩原さんの事も真面目に構ってやらないとな。

 ……って、明一も学校休ませてるじゃん。

 

「休みの連絡したんだよね? 大丈夫だった?」

 

「明の看病だって伝えたら、むしろアドバイスをくれたな」

 

「寛容」

 

 私としてもかなり助かった。意識はボヤボヤだったかもしれないけど、甘い経験をさせてはくれたからね。苦いとこはちゃんと苦かったけど。

 

 

 特に不調が現れることもなくシャワーも浴びて、用意してもらった新しい服を着て戻ってく。

 冬場ならこんなものか、という感じの部屋着だ。お互いに買ったセーターは洗濯中である。

 

「鳴海にも心配させたみたいだな」

 

 タオルで髪から水気をふき取っていれば、メッセージの確認をしていた明一がそう言ってくる。

 昨日の今日だ、注目が多い私たちが病欠となれば、昼までには伝わるだろうなと思う。

 今度はドライヤー。ブォーン、と大きな音を立てる傍ら、携帯を眺める彼の横顔を観察する。最近は、こうして顔を盗み見ることが多い。

 

「……私ってば、もしかして重い?」

 

「ん?」

 

「あ、なんでも」

 

 最初から親密度65%程度のスタートダッシュという、かなり優遇された恋愛。そんなものがあったからここまで悪化したのだろうか。

 それはそれとして明一の事は掴んで離さない。確定事項。

 

 これからも頑張って恋愛するぞ、と気合を入れれば、丁度髪も乾ききる。着替えも済んでるし、他にやることは無い。

 するすると彼のすぐ横に滑り込む事にした。

 

「おじゃさす」

 

「らしゃい……心配の感情か。利用するのは卑怯か?」

 

「え?」

 

「仮病を使わせるのも良いかもしれないが……確実とは言えないな」

 

 近くで見ても真剣な顔だな。とか思っていたらそんな事を言い始めた。鳴海姉妹の事だろうか。

 私たち双子が今日こうした様に、彼女ら二人の間でも再現出来るかもしれない。

 

「でも私達みたいに親が仕事とかで留守にしてないと」

 

「姉が看病しない理由を作らせない……難しいな」

 

 いい線行ってるかもしれない。アイデアの源泉が私の醜態なのは困るけど。

 よしんば成功したとして、あの姉妹を見かける度に今日の事を思い出すのかもしれない。立派な黒歴史だ。フラッシュバックのトリガーが近い位置にあるのも困る。

 しかし私の奇行が見逃されている気分にはなれるので、もういっそ真面目に考えてやる事にした。

 

「もういっそ色々嘘こくか?」

 

「そしたら姉に入る情報を遮断しないと。多分親経由で妹の様子が知られるかもしれない」

 

「あ、そういえば鳴海妹本人も嘘吐かないと」

 

「無理じゃない?」

 

「かもしれん」

 

 あの子は素直だもんねえ。アレで私達と同年代なのだ。……と比較した所で、私達がそもそも規格外な気がする。

 ぐにぐに。

 

「原点としては最終的には姉を納得させたり諦めさせる……必要があるのかな」

 

「別ルート?」

 

「案だしの足掛かりにはなりそうじゃない?」

 

「そうしたら彼女の目的を知る必要もあるな。大事な所だから推測ではダメだ」

 

 そしたら姉から思惑を聞き出す事になるが、結構厳しそうに思える。妹の為、というだけでヤサグレJKに変身するくらいには意志が硬い。実際にはゆるヤン程度にとどまってるのだけど。

 ゆるヤン、なんか可愛いね。ぐにぃ。

 

「そろそろ洗濯物回してくる」

 

「はいはい」

 

 とにかく情報を引き出す手段として……ぱっと思いつくのは好感度稼ぎかな。明一ならギャルゲーの経験値あるかな……? いやでもなあ。経験値あっても無理かも。

 ぐにぐに。

 

「あの」

 

「うん?」

 

「俺の胸ぐにぐにするのやめよう? 立ち上がれない」

 

「えー」

 

 こんなにもやわっこいのに。




 看病するシーンは、蜂蜜シロップ和えの砂糖漬け杏仁豆腐を食べる気分になったら書く。
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