俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。 作:馬汁
物語も後半。
“俺”なら考えもしなかった様なこと。
俺たちには鳴海姉と連絡する手段がないという現状。これ自体をどうにかするというのは諦めた。一応妹から教えて貰ってはいるものの、全然反応がない。
鳴海妹を巻き込んで姉を引っ張り出したり、あるいは考え直させたり。それの足がかりにはなるだろうが、それっぽちの結果でこの件が解決とは思えない。
俺たちとしては2人を引き合わせられたらそれで万々歳であるが。能力の限界を知る者として、無理なものは無理と割り切っておいた。コミュ力弱者イェーイ。
「弱者イェーイ」
「やり方によっては人に迷惑かけそうで嫌なんだよな」
「まーね」
どうした物かとぐるぐる回る。回しているのはゲーム内のアバターだ。アクションパートでないアクションゲームは、こうやって遊ぶものである。ぐるぐるぐる。
「一緒に動けるなら行動力の方はどうにでもなるし」
「なるなる。……よし、出来た」
「緩衝がないが」
「怯み無効持ってるなら要らないでしょ」
それもそうか。このゲームにおいてはここの2人組以外に遊び相手が居ない。
装備やスキルの調整を身内で出来るのは良いから、これ以上を望んだことは無いが。
……そういえば、バトロワFPSの方でフレンドになっていた奴がいるな。俺たちが晩夏の異変を迎える前から居るフレンドだから、距離の近さは兎も角、付き合いが長い相手だ。
最近は向こうが試験勉強だとか言って、ゲームに付き合ってもらえる頻度はかなり減った。
お陰様でトリオモードのランクはじわじわ下降中。そこまで執着はしないのだが。
「相談でもしてみるか」
「そうだね……えっ、相談?」
取り敢えず1匹だけ狩っておこう。
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「唐突だねえ、明一くん」
「いやな、他人なら相談しやすいとかよく聞くから」
「創作でしか聞かないやつ」
件のフレンドが遊んでいるゲームを起動させて、お誘いの連絡を送ってしまった。軽い案出し程度で良いからと、相談の事も伝えてある。
誰かに相談するというのは家族を除いては初めての経験なのだが、最低限のアドバイスくらいならば変な方向に転ぶことはないだろうと思う。
「肝心の相手は?」
「まだ反応無いな」
「もうあきらめるか」
「早い早い」
明は嫌がってるらしい。俺が第三者と関わるのがダメなのかもしれない。だからと言って明に任せる気なんてサラサラ無いが。一応フレンドだが、相手はインターネット越しの相手だぞ。
「……まあ、明が嫌がるなら仕方が無いな」
「嫌がってないし」
「はいはい。……お」
「あ」
ポン、と通知音と共にテキストメッセージ。反応が返ってきた。これでは“やっぱなし”が出来ない。人と関わるのは苦手かもしれないが、あえて人を自分勝手に振り回すのも気が引ける。
『相談なんて珍しい』
『どもっす』
『急に謙虚になったな』
気持ちのままについテキストを打ってしまった。人前で一丁前に緊張するのは何時ぶりだろうか。コミュニケーションに対して諦めの感情が出るようになってから、もう吹っ切れていた筈なんだが。
『現実に友達居ないなら聞くよ』
『その友達に関わる相談なので』
『他に友達は……?』
『居た気がします』
『君ららしいよ』
それはどういう意味なのか。
テキストチャット越しにでも分かる俺達への偏見を、目を細めて受け流す。当人が偏見に当てはまっているのであれば偏見ではないのかもしれないが、知らぬ。存ぜぬ。
「ねえ、本当に相談しちゃうの?」
「そのつもり」
「うーん……」
不安そうだな。不服とも取れる。どちらにせよ俺達二人の間で意見が分かれているが、このまま進めるのは良くないかもしれない。
ここまではもう強行で行ってしまったが……。
「大丈夫。俺が責任を取ろう」
「じゃあ私のも」
「はい?」
「責任、取って?」
アンタそれ言いたかっただけかよ。
念入りに確認しても、本当にそのセリフの為だけに言っていただけだったから、呆れて天井を見上げた。
相談に関しては明も賛成なのだそうで。
『と、いう事なので』
『そういう事ね』
個人名とかはもちろん伏せて、姉妹の関係性と俺達が受けている相談の事を語った。テキストチャット故に長文は免れなかったが、少しの時間の後に状況は理解してくれた。
この人、FPSが上手な一人としてか、比較的頭の回転が良い。ゲーム中でもたまに敵部隊のスキル発動のタイミングを言い当てたりするのだ。本人は勘が良いのだと言うけれど。
『こういうのは問題の分割からだよな。目標は仲直りで、その手段として引き合わせる機会を作ろうと』
『はい』
『その手段の中身は難しそうだな。その機会を作るためには君たちじゃ力不足、んで不確定要素も多いし、他人に迷惑もかけそうだと』
『そうそう』
次々と彼がこの件を嚙み砕いていくにつれ、まるでメモ書き、あるいは音声そのままを書き写される議事録の様な勢いでテキスト欄がせりあがっていく。
『障害にはお姉ちゃんさんの距離感と歩み寄る切っ掛けのなさ』
『姉妹どちらも行動を起こすのに消極的 妹ちゃんさんが動けないのが気になる』
『頼まれたからには姉ちゃんさんをどうにかする。会うなり伝言するなりの手段はとれる』
『でもこれを実行する双子がそもそも障害でコミュ力と性格と状況と感情もクソザコ』
……クソザコ?
『ざぁこざぁこ♡♡』
やっぱりわざと書いたなこの人。
『うん、どうするにしても、君らは何かしらの無理を承知で挑まないといけないだろう』
『起伏つけずにずっと真面目で居てくれませんか』
『そうそう、そういう遠慮の無さも要るね』
「なにこいつ……」
明が不機嫌になってしまった。これは良くない流れである。ネット越しでも許されるノリとしてはギリギリだっだかもしれない。
『一応、自重願います』
『はい』
素直な返事だ。かえって不安になる。ここで疑心暗鬼になって念押しする事もないだろうが。明のご機嫌取りの方が先かもしれない。
アンタもアンタで感情豊かになったよな……。
「うり」
とりあえず彼女の頭に手を置いてやる。それだけやっておけば、多分オキシトシン的な物が出てくると思う。つまりひと先ずは落ち着く。多分。
「私はそこまで扱い易いやつじゃないし」
「そうかそうか。気に食わないなら先に寝てな」
「あーい。あ、1回ソロで取っときたい素材あるんだ」
別にそっちで少し遊んでても構わない。
チャット欄の方に視線を戻すと、また新しいメッセージが送られていた。
『気持ちの負担が大きいだろうから無理は言わないけど』
『いざやってみれば思っていたよりも物事が単純だったり、呆気なく解決したりするもんだよ』
『簡単な事で済みますかね』
『仲違いってだけなら、難しい問題の方が少ないと思うな』
そうなのだろうか? 信じきれるものでは無いが、妙に納得感のある意見に聞こえた。
これに心の中で頷く俺の中で、一種の行動力のような物が生えてくる。もういっその事、色んな人に話を聞いてみてはどうだろうかと。
幸いにも、友達と言えるかもしれないラインに位置する関係の人はあと数人いる。
「なあなあ」
「なーに?」
「立山記者と塩……さんにも話を聞いてみようか」
「……塩原かな」
「そうそれ」
苗字ですらパッと出てこない相手に相談していいものか……。あんまり気にしなくてもいいとは思うんだが。
明の後ろ姿をちらっと見てみるが、モンスターとの戦闘に集中していて、やはり表情は分からなかった。
エゴサしていると関心どころが分かりやすいもので。この双子の関係性は、やはり注目を集めているようですね。
人との関わりや理解し難いコミュニケーションの辺りで共感するような反応がいちばん嬉しかったかもしれない。刺さって欲しいところに刺さった感じ。
感想などは業務連絡的な目的以外では返信しませんが、ちゃんと読んでニコニコしてます。にっこにっこ。
はい。