俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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”私“も頑張るの? マジで?

 思い付きであるからこそ、そこに勇気はいらない。って事なのだろうか。やる事を決めた明一くんは、誰かに頼まれた訳でもないのに、精力的に動いていた。

 どうせ何処かで誤解を産むとか、マトモなやり取りが出来ないとか、どれも最近では覚えがないから、多分大丈夫……だとは思う。

 

 うん。私の中でも、何処か不安を感じる所があるみたい。

 

「明?」

 

「ん、まずは誰のとこ行くの?」

 

「……立山記者かな」

 

 とりあえず、今はこのよく分からない感情を放っておいてしまおう。生理かもしれないし。そんな時期じゃないけどもね。

 

「テキストで話すのならいつでも出来るが」

 

「せっかくなら顔合わせる?」

 

「……そうだな。それも良い」

 

 メッセージよりも直接の会話を選ぶのは、自分でもかなり違和感がある。でも本当に彼女の為……あの妹の為にやろうと思うのなら、あんまり妥協してられない。

 友だちなりに、助けると思ってやることに手を抜くのはなんか違う気がするし。

 

 ……昼休みの内に動き出しても、多分次の授業には間に合わないかな。放課後まで待とう。

 

 

 

 

「で、こっちの部室に来たんですね」

 

「お邪魔しました」

 

「先輩に呼び付けられて驚きましたよ。滅多に呼ばれたりしないのに」

 

 少し文句を垂らして、壁によりかかる。私たち二人がこのまま立っていると、まるで二対一で詰め寄っている様な構図。なんだかそういうシチュエーションが前にもあった気がする。

 

「新聞部と仲悪いの?」

 

「あくまでも仕事の関係……というには雑念だらけですね。ええ、顔や名前を聞いて良い感情は浮んで来たりはしません。あるいは聞こえの良い言い方をすれば、互いに高め合う関係と言えるでしょう」

 

「……部活って、お互いの仲が良くなくても成立するんだ」

 

「そうですね。閉鎖的な人間関係ともなれば、成立してしまいます」

 

 バイトの関係で意識すらしていなかったが、これを聞いてしまえば入部の切っ掛けがあっても避けるだろう。

 本当に、踏み込む気が起きない世界である。万が一私がそういう所に居たらばと思うと、恐ろしくなる。

 

 部室の隅で黙々と手元を弄ってる私。顔も名前も分からぬ部員の陰口だけが耳に届く。ううむ、苦行。てか私が部活するとしたらどこ行ってるんだろう。明一と違ったら嫌だな。想像するだけでものすごくヤダ。

 

「あ゛ー……」

 

「明?」

 

「めーいちくぅん、部活は一緒のとこ行こうねえ」

 

「はあ?」

 

「またよく分かんない世界を作るのは良いですが、家でやってくださいね」

 

 あ、はい。

 

 

 よく分かんない世界を撤回させられてしばらく。

 事情を話しながら適当な所を歩いている。部室の前では長話はしずらいと最初に言っていたから、とりあえず移動するだけ。

 

「今回みたいに面倒な事を頼まれるのをよく聞きますが、頼まれごとは断れないタイプなんですか?」

 

「NOは言える男だぞ」

 

「男女関係ないですよね」

 

「うん」

 

「……はん」

 

 苦笑いともとれない微妙な笑い声の様なものだけが返ってきて、確かに変な受け答えだった気がすると気づく。

 立山記者は私達のこういう所も把握している様だから、そこらへん気楽に流せるから助かる。

 

「そういえば何処行くの?」

 

 離れる理由だけ聞いて行先は聞いていなかった、と思って口に出す。食堂の方に向かうルートだが。

 

「特に考えていませんが、行くのなら自販機でしょうか。買った後に食堂の机で落ち着くのも良いでしょう」

 

「お昼時じゃないけど。あれ、あそこ入れるの?」

 

「厨房にシャッターが下りるだけで、テーブルとかがあるスペースは何時でも使えます」

 

 初めて知った……。

 もう一年近くこの学校に通っている筈なのに、今まで気付かなかった。立山記者はやはり物知りだ。記者なだけある。

 

 まだ全然寒い外に出て、別の棟にある食堂へ。

 こうやって3人で校内を歩き回る機会がなかったから分かることだが、意外と廊下が狭い。三人が横並びで歩くのは厳しい。鳴海妹が来るときはいつも私たち二人の後ろに付いてきてたからなあ。

 

「お二人は何時もサイダーを飲んでましたね」

 

「ああ、私たちの事見てるもんね」

 

 飲み物も各々持って、温かい屋内へ入る。と言っても暖房はあんまり効いていない。防風が出来ているというだけで温かい感じがするが、それでも最低限の防寒という感じで、少し身震いする。

 

「寒いのによく飲めますね」

 

「寒いのに何時もの奴買っちゃった……」

 

「習慣につい従ってしまうのは、お二人さんらしさですね」

 

 私たちらしさ……。これって生まれつきのどうしようも無いやつかもしれないし。

 あんまり深くは考えたことないけどさ。

 

「私たちって病気なのかな……? ほら、障害的な」

 

「病気ではないと思いますよ?」

 

「そうかな」

 

「病気の人に迫るくらいボケているというだけで」

 

 それって純粋に悪口じゃないかなあ。

 抗議したくなる口を押えて、額に力が入る。少し細まった眼差しが立山記者の方に向くが、涼しい顔をしたままそっぽを向いている。

 

「ちょっとデリケートな事を言いましたね。すみません」

 

「あ、うん。別にいいよ。まだボケと突っ込みの範疇」

 

「踏み外しておいてなんですが、良いんですかその価値観」

 

 デリケートな話題に関しては鈍感だからなあ……。それに、変な事を言う相手もいないし。少ないし。あとそんな踏み込んだ話題にまで至らないし。出来たとしても私ら二人の間だけで、そうなると色々ぶっ壊れた会話になるし。

 

「本人がそういうのでしたら……。まあいいや、本題ですね」

 

「あ、そうそう。鳴海さんの事ね」

 

「鳴海さん……姉の百々子さんの事は、私も少しは把握しています。妹の恵子さんが同じ学校に通う事になる春の少し前、ちょうど一年前の今頃ですね。このタイミングで様子が変わっていたらしいです。私はそう把握しています」

 

「なるほど。……あ、名前」

 

「はい?」

 

「あいや、どうぞ続けて」

 

 モモコさんとエコさん……よし、ちょっとは覚える努力するぞ。

 

「……とにかく、それ以降は特に大きな変化はありません。交友関係に変化があったといえばあったのですが、元々近くの範囲では彼女の交友が見当たらないので」

 

「あれ、友達少ないの?」

 

「居るには居ます。しかしクラスの中では居ません。こっちの情報網では、校外で友人関係が広がっているという事まで分かっているんですが……さすがに校外ともなると耳に入りずらいですし、あんまり探るとコンプラもあるので」

 

「こんぷら」

 

「違法な探偵行為とされる範囲を避けようとすると、まだ学生な内には出来る事も少ないですし」

 

 難しい事を言ってるけど……あんまり深入りすると法律の壁にぶつかる、という話なのかな。記者さんも中々大変そうだ。

 

「うちにはそこらへん曖昧な人も部員には居ますが……それは兎も角」

 

「結局……どうしないと行けないんだろう」

 

「結論はまだ、まだ伝えてない情報があります」

 

「情報!」

 

 私たちにとっては貴重品だ。即座にメモの姿勢をとる。

 

「メモ帳二冊も要りますかね……? とにかく、その情報とは数年前の話になるので、現状と誤解しないでください」

 

「はい」

 

「まず鳴海姉妹は、えー……以前は百合の花が見えるくらい仲が良かったという話です」

 

 百合かあ……。

 

「……花の件は情報源の私見です」

 

 立山記者が手帳から目線を上げて補足する。そこまでの詳細まで書いてあるんだね……。

 

「えっと、その部分は」

 

「別にそっちもメモすることはないんじゃないですかね」

 

 百合の花は重要度低めということで。

 

 

「その人によると、姉に何か問題があったとしても、姉妹仲に影響する事は無いと言える程、二人の関係は固かったそうです」

 

「つまり?」

 

「解釈の違いとか、山と里の宗教戦争とかでは揺るがせないだろう。という事です」

 

 なるほど。

 

「その上、関係の変化は急だったの事です。切っ掛けになりそうな出来事も……。無いですね」

 

「鳴海妹……えっと、エコさん本人に聞いた分でも、とくに思い当たりは無いって」

 

「はあ……普段は鳴海妹って呼んでるんですか」

 

「些事些事」

 

「ちゃんと名前の方でも呼んであげてくださいね……」

 

 大丈夫、ちゃんとメモったし。

 

「ふむ、そうすると原因は……」

 

「あ、そういえばお姉さんの……モモコさんはエコさんの事を嫌ってはなさそうだったよ」

 

 

「……」

 

「えっと」

 

 沈黙。立山記者が細い目でこっちを見てくる。

 なんだか嫌そうに見えるのは、さすがに察せるところであって。

 

「割と大事な情報を……よくここまで温めてくれましたね?」

 

「ごめん」

 

 だって立山記者なら知ってそうだなって思ってたけど、最後まで聞いても出てこなかったし……。

 

「はい、はい……そうすると……。はあ、これじゃあ探偵の様じゃないですか」

 

「わかりそう?」

 

「事実を整理するのが記者であって、そこから膨らませるのは考察に。表現次第ではデマばかりを散らす、下らない記者です。ヤブ記者ですよヤブ記者」

 

「あ、はい」

 

「……フゥ。よし、決めました。ここから想像を膨らませるのは、あなた達の仕事とします。ここからは私の本領ではありませんので」

 

 まあ……無理させることでもないと思うけどね。でも私達だってここは苦手分野だからなあ。

 もう一押し、説得するつもりで協力をもう一度求める。

 

「私たち、そういうの苦手だからさ」

 

「どうしても、得意というか、やりやすいのは立山さんだと……」

 

「ダメです。そういう風に事実の延長線上を見渡すのは……いえ、単純に言ってみましょう。人の事を勝手に想像して決めつけるのは嫌いです」

 

「……あー」

 

 よくない雰囲気を感じ取って、固まる。さっきの部室でも感じ取った雰囲気だ。

 人に対する嫌悪。自分とは違う存在に対する、まるで差別のような、蔑視というか。

 

「そうだな、止めるか」

 

「……うん」

 

「コホン、こちらとしても失礼しました。……事実に基づく考察の範疇に収めるのでしたら」

 

 顎に手を当てて、思考を回すような仕草をして。

 

「学校外での友人か、あるいは本人の中で完結した要因の心変わりによってか、あるいは両方か。これを理由に恵子さんとの距離の離隔を試みているのでしょう。妹や校内には理由が見当たらないのですから」

 

 ……なんか、進展があんまり無いような気がする。

 

「不服そうな顔ですがね、外野から手を伸ばさずに得られる事なんて少ないですよ。これより先は、突撃するのが吉でしょう」

 

「まあ無理です」

 

「それはそう」

 

 納得した立山記者も口をそろえる。突撃するのが難しいから、こうやって外野でウロウロしてるわけだし。

 また三人で思考を回すような仕草をそれぞれ取って……一足先に答えを出した立山記者が口を開く。

 

「手段、あるいは突破口を用意しましょう。あなた達が鳴海百々子と接触するまで、あるいは接触した後逃げ出さない様に、協力することにします」

 

「おお、ありがとうございます。……良いの?」

 

「ええ、良いですよ。その代わり、玉川さん二名はしっかり頑張ってくださいね」

 

 ……あ、これ、私達がめちゃくちゃ頑張る所から逃がさない様に、しっかり見張られる奴では。

 

「成功を期待していますよ」

 

 ワァア。

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