俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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“俺”は彼女の想いを抑え留める。

───

 

「え、なに……私? 用?」

 

「ええ、どうも。伝言ですね。玉川さん達からです」

 

「たま……あー」

 

「お知り合いでしたよね。要件を預かってます」

 

「私のお願い事はどうなってんのよ」

 

「……彼ら、少しでも穏便になるようにタイミングを見てたんですよ」

 

「それがどうしたって……」

 

「少しくらいは聞いてあげてくれませんか?」

 

「いや、それは」

 

「そうですか。では、明日の放課後に集まってもらうので、よろしくお願いしますね」

 

「ちょっと私の話を無視しないで!?」

 

───

 

 

 あとは……もう鳴海姉、もといモモコさんと話すだけだ。 

 今更エコさんと交わした約束を破る気にはならないし、今頃止める気もない。

 が、やはり俺達の心に重石が乗る。これからが山場だからな。

 

「……少し緊張するな」

 

 とは言え、ここまで来たらどうにでもなる。いやどうにでもは出来ないけれど。

 

「今回は立山センパイあざっすだね」

 

「ほんと助かる……」

 

 仕事の一部だけでも預けられれば気持ちは軽くなるものだ。

 俺にとっては大きなところだが、彼にとっては一つの策で容易く解決できるという……うむ。適材適所という事だ。この考え方は大事だ。

 俺たちにとって無理なものなら無理。けどできる事だと言うのなら頑張る。少しくらいは。

 

 今の状況を踏まえれば、確かにあと少しと言ったところ。俺の拙い能力で届くだろうと。

 

 ……ふむ。

 

 一応、最近の進展を踏まえて鳴海エコさんに相談。なんて字で書くんだろうな、この名前。

 

『取り敢えず明日会えそう』

 

『やった!』

『私もご一緒したいです!』

 

『やめといた方がいいんじゃないかな』

 

 逃げられるかもしれないし。

 少し間をおいて、入力中という表示を眺める。何度か深呼吸するような時間を待っても、メッセージは来ない。長文だろうか。

 

「どこで会うんだっけ」

 

「時間も場所も指定されてて、放課後の時間に正門……。で、立山記者は裏口から逃げない様に見てくれると」

 

「仕事が早いなあ」

 

 ならば放課後すぐに会える筈だ。モモコさんは部活に入ってないとは聞くから、校門に向けて普通に歩いてたら見かけるかもしれない。

 校内の友人が余りいないというのなら、放課後に校内で籠られる可能性も無い……と思う。

 

 まあ、すぐ出てこないとしても待っていればいい。この日はバイトも無い。あんまり待ちすぎるのは嫌だが。

 

『会えるならやっぱり会いたいです』

 

 ……。

 

「でもさ、何時来るのか分かんないんじゃ、夜帰れないかも。ほら、一応未成年だから……。あ、普通に閉門時間あったわ」

 

「あ、うん」

 

 明にはこの画面は見えていない。

 

「んー、うん? どしたの」

 

「なんというか、なんていうか。……うん、妹と姉とで手分けしようかなと思った」

 

「……なんで?」

 

 まあそうなるよな。お互いが離れて行動するなんて嫌がるのは当然だ。

 

『最近お姉ちゃん夜遅いんですよ。もし顔を見れても、言い争いになるので……』

『ちゃんと毎日帰ってきてくれるのは分かります。冷蔵庫の中身も毎日用意されてるので』

『でもお話する度に逃げられたり喧嘩したりで、ちゃんと話せた機会は……』

『(気まずい顔の猫)』

 

 ……なんとも言えない顔した猫だ。なんだか可哀想に見えてきた。

 

「妹はなんて?」

 

「ちゃんと話したいんだと」

 

「なるほど……。居合わせてたら向こうが逃げそう」

 

「やっぱそうだよな」

 

「我慢してくれそうな雰囲気ではなさそう?」

 

「微妙」

 

「やっぱそうだよねえ」

 

 お姉ちゃんとやらの英雄譚と言えば、出処は大体この妹である。かなりの贔屓を姉に向ける彼女にとって、久しぶりにマトモに話せる機会というのは中々逃せないと思う。

 ……うむ、俺たちも気持ちはわかる。

 

「……なあなあ明」

 

「はいあかりんだよ」

 

「うん。本当に姉相手の役と妹を止める役で手分けしないか?」

 

「やだ」

 

 うん、それもわかる。俺でも嫌って言う。

 しかし、今回に限っては……何時でも2人でくっついて、とする訳には行かない気がする。

 

「でも可哀そうだろ」

 

「……」

 

「帰ったらご褒美もやる」

 

「む」

 

「何がいい? 俺が嫌がるようなことも我慢するぞ」

 

「ムム」

 

 切り札として置いておいた訳じゃないが、丁度いい機会だと思ってそう切り出す。

 

 貞操まで差し出すとなれば……うん、まだ出し渋るかもしれないが、俺は時間の問題だと思っていたりもする。

 現状、俺の感情や倫理観という関門でこれ以上進んでないが、その感情が明のそれと同等である筈が無いから。

 

「ホントに言ってる?」

 

「本気だ。俺とて男だ」

 

「男……」

 

 なぜそこで下を見る……。やっぱりそこに食いつくのかアンタは。いや食いつくっていうか、そう言う食いつきじゃなくて。

 

「今はステイ」

 

「はい」

 

「よろしい」

 

「あ、じゃあ私はお姉ちゃん担当ね」

 

「乗り気になったな」

 

「そらもう。……あ、私だけで楽しむつもりじゃないからね。一応」

 

 ……うん?

 

 

 

 

 昨夜のことは一旦忘れておこう。それくらいの言葉で悩まされては明の相手は務まらない。

 今日は今日のことを考えよう。まずは放課後に会うモモコさんをどうやって説得するか、だ。

 

「私担当のところだね。まず妹を遠ざける明確な理由を確かめたいんだけど」

 

「立山記者でさえ分からないところだからな……。ううん、遠ざけるけども嫌ってない。考えられる理由でもとにかく予想してみるか?」

 

「ああ、ブレインストーミングってやつだ」

 

 何時までも予想がついてなかったが、そういう風に思いついた事を口に出していれば、何か思いつきそうな気がする。

 

「そうだな。妹疲れか?」

 

「話し疲れることあるよねー。……可愛い子には旅をさせよ、とか」

 

「確かに、以前はかなり可愛がってたみたいだし」

 

 エコさんが姉の話をする時に言ってた筈だ。

 

「んー、モモコさんが危ない友達とかを持ってたり?」

 

「なるほど、自分の人間関係から遠ざけると」

 

「でもあの性格だよ」

 

「じゃあ違うか」

 

「でもあの口調と振る舞いだしなあ」

 

「じゃあそうかも知れんなあ」

 

「でも毎晩スーパーとかに寄って、食材を買い足してるみたいなんだよ」

 

「ほなちゃうかあ……」

 

「何やってるんですか2人とも」

 

 ああでもないこうでもないと話している所へ、一人割り込んできた。

 鳴海妹、もといエコちゃんさんである。珍しくジト目だ。

 

「やほ」

 

「今日の放課後。私も行きたいです」

 

 1番目にそんなことを言うのも、俺達にしては予想通りだ。というのも、昨日も夜遅くまでそんな事をメッセージを送り付けていたから。

 

「ダメだよ」

 

「行きます」

 

「まあまあ」

 

「どうしてもと言うなら対価の用意もあります。私のできる事なら何でも……」

 

「やめて。絶対に。考えもしないで」

 

「あっハイ」

 

 明ちゃんは鳴海姉の相手する役目なのに、こっちの牽制までしてくれるとは有難い。これは俺も気が抜けないな。

 

 

「良いか、鳴海……エコさん」

 

「へ……」

 

 少し屈んで目線を合わせる。こっちを言い分聞かせようとするなら、多分こうした方がいい。

 

「俺たちがお姉さんと話して、それから考え直させる。俺達には説得させる用意がある。確信とは言わずとも、取っ掛りがある。けども何度も繰り返し使えるようなものでは無い」

 

「う……」

 

「分かる筈だ。それとも分からない所でもあるか?」

 

「わ……分かります」

 

 説明不足があると行けないが、その返事が帰ってくるなら大丈夫だろう。

 

「なら、それで良い。俺たちは何でもは出来ないから、次は無いチャンスを逃したくない」

 

「なによりね、今回限りかもしれないもん」

 

「……分かりました」

 

 うむ、それが良い。

 一旦話を通せたから、今回は大丈夫だろう。我慢してくれると信じよう。

 

「代わりにと言ってはなんだけど、お姉ちゃんのお話、聞かせてくれる?」

 

「……どこから聞きますか?」

 

 既に聞いている分では、あまり覚えが無い。中学校入学直前の時代まで聞いていた様な……気がする。

 アプリ越しで武勇伝をテキストで読み聞かせられているが、イマイチ頭に入っていない。今回のことで助けになるだろうか、と多少読み返したりはしているが。

 

「そうだなあ。この前の続きじゃなくって、気になる所かな」

 

「気になる、と。何かありましたっけ」

 

「昔の話ね。小学校にも行ってない頃の話かな? なんか、エコさんがしっかり泣いてる所ってそこしか聞かなかったなって」

 

 姉の武勇伝に絡めて、エコさんが姉への想いとそれの対立をよく聞く。大抵は誤解を正した、姉の良さを共有した、という締め括りでその対立は終わるのだが

 

 明の言う通り、彼女自身が泣き出したというエピソードは幼少期のそれっきりなのである。

 

「んー。……そこを掘り返すのは恥ずかしいですね」

 

「まあそうだよね」

 

「唯一お姉ちゃんの素晴らしさを伝える事が出来なかったので……」

 

 うん。

 

「失敗例と言うやつですね。人生の汚点です。泣いてばかりの私を立ち上がらせてやりたいです」

 

「まあまあ。可愛い小さな女の子だったんだから」

 

「無知は罪……」

 

 やっぱ姉の話題を引き出すの失敗だったかもしれん。





 そこにはきっと、ぼうっと眺める子供が一人、傍に居た。

〇追記
 ……過去に撒いた伏線をしっかりかき集めてると物語終盤って感じがしますね……。
 まあ物語終盤をしっかり書けた事なんてないですが。ここまで来れたのは今作が初めてなので。ハイ。
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