俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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 女の子がいちばんかわいい瞬間とは、抑え秘めた思いや感情が吹き出す瞬間。
 だと思います。

 ちなみに
 今回は見ようによってはシリアスシーンです。



“私”の想いはどうしても収まらない。

 鳴海妹、エコちゃんと会ってしばらく。

 

 予定通り、何とか言いくるめることに成功した後明一が彼女を連れて行く。気が変わってとかなんだで突撃されては敵わないからね。

 

「……ま、大丈夫かな」

 

 明一のことだから他の子に靡くとは思ってないけど……とか考えてしまうのは、流石に警戒心が過ぎる。あの子本人もいい子だし、彼も彼だしね。

 二人を置いて離れるのに抵抗はあっても、無視できる。

 

 言いたげな顔をしつつも我慢するエコちゃんと、それを抑え込む明一を見送ってから、校舎を出る。

 

「……まだ居ないか」

 

 遠目に見渡すが、目印の校門の辺りに目的の人が見当たらない。ここで待てば来るだろうか。

 定期連絡という訳じゃないけど、経過を報告する為にメッセージを送る。

 

 そうだ、字を打つよりも写真の方が早いかも。

 

 待機中という状況がわかるように、門をバックに自撮りしようとして……ム。

 

「ムム」

 

 こ、この角度になると私の顔が陰って見栄えが悪いかも。でも太陽の方を向いて撮ると眩しいし校門も映らないし。

 写真なんかで自分の見栄えを気にした事は無かったけど、なんだかこれ、難しい? 

 

「ムムム」

 

 どっちも両立できないかなって右左を向いて確かめているが、中々これが……。やっぱりテキストでいいかな。どうせ自撮り送るなら可愛く撮りたいし。微妙なのは嫌だ。

 

「なにやってんの……」

 

「お?」

 

 我ながら下らないこと(妥協するつもりはない)に悪戦苦闘していた私は、携帯を下ろして声の方を振り返る。

 今までずっと探してた相手だ。

 

「おお、来てくれた」

 

「あなた達が呼んだんでしょ」

 

「うん、来てくれてありがと」

 

 とりあえず、まずはお礼から。相手の振る舞いに逃げ出す様な気配は無い。だったら、急いで問いただすこともない。

 

「えっと、さっき初めて自撮り試したんだけどさ」

 

「確かに自撮りのポーズしてたけど……え、初めてって言った?」

 

「うん」

 

「高校生だよね?」

 

「うん」

 

「え、1度も?」

 

「うん。見る?」

 

 そう言って見せる、ライブラリの中身はと言えば、登下校で見かけるネコや、最近のだとバニラちゃんの写真も沢山ある。もちろん猫相手にフラッシュは焚かないよ。

 

「ホントだ、人が居ない。てか猫飼ってたのね」

 

「うん、バニラちゃん」

 

 あ、てかカメラ外向きにしてフラッシュ出せばいいじゃん。

 

「こうやって、こうかな?」

 

「そうそう。って、私に会いにきたんじゃなかったの……?」

 

「あ、校門バックにするけど、映る?」

 

「……遠慮する」

 

「はーい」

 

「あと、光量少なめだけど内カメでもフラッシュ使えるわよ」

 

 え、マジ? それ初めて知ったんだけど。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「ここ、ここの奴調整すると鮮やかになって綺麗に映るの」

 

「おお」

 

「ここは好みで人によりけりだけれど、私はこれくらいの具合が丁度いいかな」

 

「すごい、美人だ」

 

「でしょ? そっちは……えっと、明ちゃんの顔がいいから控えめの方がいいと思う」

 

 お、顔を褒められた。滅多に無いことだ。

 

「明一くん以外には初めて言われたかも」

 

「ええ? 可愛いのに」

 

 ……ん? なんだか年頃の女の子の会話っぽい様な気がするぞ? 

 なるほど、これがJKと言う奴ね。

 

「よし、送った。ありがとね」

 

「いいわよ」

 

 女子会という物があるなら、きっとこうしていたのかもしれない。貴重な経験だ……。

 

「ん。そう言えば化粧ってどうしてるの? ママから教わったり、一方的に付けられたりで身についたんだけど」

 

「あ、私? 私は普通に……自分で覚えた」

 

「おー」

 

 明一と一緒に出かける度に化粧は頑張ってるつもりだけど、自分で覚えようとはならなかったかもしれない。

 彼には少しでもデートらしい気分でいて欲しいから、その時のお化粧は自主的にやってるよ。ちゃんと。

 

「明一と出かける時とか、頑張ってるんだよね」

 

「へえ? 家族との間なら手を抜くもんじゃない?」

 

「家族……家族?」

 

 家族かあ。双子の間柄だから、子供なんて作ろうとは考えないでいるべきだけど。

 でももし作るなら2人がいいなあ。男女1人ずつで。ほんで二人でせかせか子育てのこと勉強して……。

 

 いいなあ、家族。

 

「家族……かぁ」

 

「……あっ」

 

 ……でも。

 どっちかと言うと二人でイチャコラしてる方が好きかな。子育てよりかは子作りにはげみ……。私ってば何言ってんの? 

 

「あの。あ、ごめんね? もしかして地雷ってやつじゃ」

 

「何言ってるの?」

 

「な……はい?」

 

 おっと。直前まで変なところまで思考していたから、そこの語彙がそのまま口に出てしまった。

 流石に無礼だったかもしれない。

 

「ゴメンなんでもない。別に地雷とかじゃないよ」

 

「そ、そう……。そういう事ならいいの……」

 

 人前で変な考えに陥るの、我慢したいんだけどねえ。なんだか難しい。

 

 

 

 それで、何で鳴海姉と話してるんだっけ。……あ、じゃなくて、モモコさんだったな。

 気が逸れたけどちゃんと思い出した。モモコさん本人に姉妹関係の訳を聞きに来たんだ。

 

「えっと、今更だけど。来てくれたって事は、多少は話に付き合ってくれるんだよね?」

 

「もちろんよ。ホントはそのつもりじゃ……いや、いいわ。付き合うから、とりあえず行きましょ」

 

「?」

 

 え、行く? どこ? 

 

「何その顔。 一緒に帰るんじゃないの」

 

「あ、なるほど」

 

 そんな予定じゃなかったけど、それくらいなら……まいっか。

 

「うん、よろしくお願いします」

 

「帰り道を一緒に行くだけなのに畏まらないでよ」

 

 だって、基本明一くんが一緒だし。彼が居ない状態ならちょっとくらい緊張するじゃん。

 もちろん、そんなこと口にしないけど。匂わせになるじゃん? 

 

「一人で帰るのは初めてだから、お手柔らかに……って事で」

 

「一人? 私と一緒よ?」

 

 ……くちすべった。

 

「ふ、ふたごだから」

 

「へえ? 双子2人が揃ってないってことか」

 

 よし、上手くごまかせたな! 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「──それは、凄いお母さんね」

 

「そう、凄いよ。他の所の母親と比べると胸張って自慢できないくらい凄い」

 

「あはは、陰口?」

 

「褒めてる」

 

 しばらく、緊張を解すような雑談をぽつぽつと続けていた。すぐに本題に入るには、そういう雰囲気ではなかった。

 私から話を切り出せないか、とタイミングを狙いつつも雑談を続けてしまう。

 

 ハッ。もしやはぐらかされてる?! 

 

「……!」

 

「え、何その目」

 

「本題に入りたいの」

 

「本題に入りたい目なのね。別に良いのに」

 

 ……良いんだ? 

 あっさりと話題を切り替えるのを許すと、雰囲気を改めた様子でモモコさんが振り返る。

 

「私もね? 色々聞きたいことはあるんだけれど」

 

「うん?」

 

「立山くんがあなたの所に呼び出したのも、どうしてあなた一人なのかとかも。色々気になるけど」

 

「うん」

 

「まずはそっちの聞きたい事から答えようかしら」

 

 本当に答えてくれそうだ。モモコさんからそう切り出して貰えたって事は、多分お話には付き合ってくれるんだろう。

 

 けど、急いではいけない。

 

 エコちゃんの言う昔の姉妹の様な、或いは立山記者の言う百合百合しい関係にまで戻せるのかを考えるのは、この話を聞いてからだ。

 

「えーっと。最初に憶測から話すのは変だけど……エコさんの事はまだ大好きなんだよね?」

 

 言って、モモコさんが辺りを見渡す様な仕草をしてから、頷く。

 

「やっぱり」

 

「妹の事だもん。いつまで経っても嫌いになれないのよ」

 

「それじゃあさ、どれぐらい好き?」

 

「え、恋バナ? ……まあ、割と。彼氏とか出来たら割と私が耐えられないわ」

 

「わかるー」

 

「そっちは妹とか居ないでしょ。……あ、そういう事?」

 

「え、や、それは違くって。とにかく嫌いじゃなくて良かった!」

 

 あぶなかったー。

 でも、これでほぼ確である。エコさんのお願いを果たせる可能性はまあまあ高い。

 

「折角だから、もう少し話しましょ。……あ、そういえば帰り道は大丈夫?」

 

「あ」

 

 そう言われて、辺りを見る。もうだいぶ歩いた所の風景だ。

 この前エコさんと歩いてて、帰り道は別だと教えられたとこに差し掛かってる。

 

「えっと……」

 

「良いわよ。ここの公園で落ち着けるし、そこで話しましょ」

 

 そしてここの公園は私がしっかり事故ったとこ。

 いやまあね、だからってここが嫌な訳じゃないけど? むしろ嫌な予感はするけど? うん、大丈夫でしょ、多分。……多分。

 

「……うす」

 

「なにその反応。とりあえず行きましょうよ」

 

 

 アレの事を思い出して黙々と緊張を高める私に対して、モモコさんは妙に余裕がある。落ち着いてて、私を気にかける振る舞いも自然だ。

 私が変な事を零すとツッコミが入るけど。そこはほら、緊張感の無い関係性だって事で。

 

「うーん、恵子から色々聞いてるでしょ? 私の事」

 

「あ、いっぱい聞いてるよ。お姉ちゃんの武勇伝って奴」

 

「私は別にうんざりしてる訳じゃないの。ああいう風に言ってくれるのは嬉しい。けど……」

 

 静かに、言葉の合間に空白を作りつつも、エコさんの事を話す。

 

 彼女が語り続ける中、“エコちゃんはお姉ちゃんの事が好きすぎた”のが発端だと理解した。

 モモコさんに対する過剰な愛情。それゆえに、他の関係に興味が無かった。友達とか、彼氏とか。もしそう言うのが出来ても、その人らがモモコさんに対する盲信を持たなければ、エコさんと関係が絶たれるのだと。

 

 正確にはその人を拒絶しているのではなく、姉へ感情の強さによって周りが距離を取り始めるらしい。

 

「思ってたより凄いラブだった……」

 

「でしょ?」

 

 でも、理解できる話でもある。

 最近はそうでも無いけど、ちょっと前までは明一と自分の事しか興味なかった。他の人と不和を作らない程度に、それでいて接点が少なくなる様にしていたが……。

 最近は、その方針に反して友達と言える相手が増えてしまった。エコさんの事である。

 

 言っちゃなんだけど、お互いに依存してるような状況でも、外側との交友関係は築けるのだ。

 

 それを考えると……。

 

「まちがってる」

 

「え?」

 

「……あ、ええと」

 

 今考える程大事なことでは無い。もしこの思いのまま指摘して、雰囲気を壊して、目の前のモモコさんを逃したら、それこそ本末転倒だ。

 

「じゃあ……、今姉妹で距離間を調整してるのって、それの矯正が目的?」

 

「あー、矯正って言うのは物々しいけど、そういう事」

 

 なんか、思ったよりシンプルな話だった。あのフレンドの言ってた通りだ。

 シンプルで分かりやすい。それでいてゴールが分かりやすい。要はエコちゃんが自分の力で友達を作れればいいんだ。

 

 けども……。

 納得いかない。やっぱり違う。

 

「じゃあさ、私達が居るからもう良いよね? 一応、友達って言ってくれてるから」

 

 頭ひとつ位の距離を詰めて、見つめる。確かめるみたいに。

 

「う……それはー、ううん」

 

「ダメ?」

 

「う゛ー……うん、やっぱダメ」

 

「ダメなんだ」

 

 いったい何が駄目なの? 

 じゃなくって……。うん、彼女もだいぶ揺れた。答えを出すのに結構な溜めが入ったから、ここは迷いどころだった筈。

 理由があるんだろう。

 

「友達が2人しかいないってね、かなり寂しいわよ」

 

「そっか」

 

 そんなどうでもいいりゆうで? 

 

「もうちょっと……友達だって宣言できなくとも、仲がいい子が2人くらい欲しいわ。ちょっとくらい頼っても、嫌な顔されない程度のね」

 

「そんなのいらな……」

 

「?」

 

「要ら……いや、なんでも」

 

 あたまをひやす。

 優しさで一杯であるように見えるあの表情を、勘違いだと決めつけて目を逸らす。

 

 私が明一くんに介護された時みたいに、過度な感情移入をすることは無い。必要も無い。

 

「えーっと、大丈夫? あ、待ってて今飲み物持ってくるから」

 

 けどもけども。

 家族ひとりと引き換えにするにはあまりに安すぎる。

 

 考え直す。

 何度か「人間って完全じゃないんだ」って、納得させて、腑に落ちた感じがするまで黙る。

 

「……」

 

「ほら、お水買ってきたわよ……どうしたの?」

 

「別に……」

 

 黙り続ける。でも、目の前の優しそうな顔が、私の眼差しを、その焦点を散らす。

 絶対に違う。間違ってる。可愛そう。だからってそんな軽い気持ちで。

 

 

 でもこれは……これが、善意と愛情からもたらされている? 

 

 

 こんなにも好きで、愛情もあって、お互いに想いを交わして、それこそが「別れ」のワケだったの? 

 

「ちがう……」

 

「や、やっぱり具合悪いんじゃない? あ、ほら、蓋開けたから、お水飲みな?」

 

 どうしよう、わたし、メンヘラって奴なのかな。

 明一くんが居ないとダメかもしれない。

 




いちばん書きたかった所だからって数時間で書き終えてしまった
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