俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。 作:馬汁
お姉ちゃんの事ならなんでもわかると思ってた。姉妹で、この世で最も近い所に居る女の子だから。
でも、高校生になってから、少しずつ分からない事が増えてくる。互いに重なっていた生活圏が、私の知らない所まで離れてゆく。
それの代わりとする様に、私には2人の友達が出来た。すっっごく珍しい双子の男女で、加えて不思議な背景がある人達。
前までは双子同士の距離感が遠くって、傍から見ればただの他人。けれども同じ苗字と血縁を感じる見た目があるから、“双子なのに仲がとても悪い”と有名……だったらしい。
私にとっては他所のクラスの話だから、詳しい話は知らない。
そして私が、その2人へ突撃した切っ掛けでもある話を、夏休み明けの教室で聞く。
通学路で、仲が良さそうにして2人で歩いていた。ひとつの机を挟んで話していた。そういう噂だった。
夏という時期を境目に関係を変えた2人。
なにか参考になるんじゃないかって。私達姉妹を元通りにする手がかりがあるんじゃないかって。私は追いかけたんだ。
「噂になるの、そっちだと随分と早かったのね」
「学年が違うと噂も足が遅くなるねー」
甲斐あって、今ではお姉ちゃんとよりを戻す事ができた。今日も、久しぶりにおんなじ部屋で別々に本、マンガを読んでいる。
とは言え私達は全然ページを進めない。まるで読んでいるような眺めているような調子で目線は本の方へ向くが、意識はお互いの会話に集中していた。
たぶん、久しぶりだから。顔を見て話そうとすると落ち着かない。
……私がまともに顔を合わせた直後、あれやこれやと溜め込んだ話題をぶちまけてしまったものだから、その数秒後にはお姉ちゃんから無言で本を押し付けられてしまった。
「あの双子さんみたいには行かないだろうけど、私達も仲直りしたって……噂になったりしないかな?」
「そう簡単にはならないわよ」
「まあ、そっかあ」
学年も違うし……、私もあんまり友達いないし、最近お姉ちゃんの事話せてないし。双子の二人には布教出来たんだけどな。でも色んな人に広めたい気持ちがある。その為には、まず友達を増やさないといけなくって。
「……そういえば、あの二人とどうやって友達になったの?」
「えー、なんだっけ。私の方から相談して、連絡先も交換して……なんか切っ掛けとかあったかな」
明確な切っ掛けというのも思い出せないけれど、一応私の事をお友達と言ってくれてるから友達……だと思う。
お姉ちゃんをどうにかしたくて家に呼んだことはあるけど、その時は友達として呼んだ気がしないし。
ううん、よく分からない。
「なんか、いつのまにか友達っぽくなってたかも」
「っぽく、じゃなくて友達でしょ」
「そうだけど」
もう一度考える。なにも出てこない。もしかしなくても、とくに切っ掛けとか無くヌルっと友達になったかもしれない。友達って、実は条件とかそういうのはないのかも。
「あ、どんな友達でも、最終的にはお姉ちゃんの方が好きだからね?」
「ああ……。もう観念してるけど、そういうこと言うのは私たちしか居ない所にしなさいよ」
「えー、なんでぇ」
「それは」
とだけ言って、そこから先は口が塞がれたように途切れる。
言おうとした事を我慢したような感じで、今まで見てきたお姉ちゃんの振る舞いの中では初めてだった。気がする。そしてその様子に気付いた私は、以前に聞いた言葉を思い出す。
流石に双子でも、言葉なしには伝わらない事だってあるんだと。
「……言わなきゃ分かんないよ」
「あー」
もしかしたら今までにも、私に気遣って言葉を選んでいたのではと疑った。お姉ちゃんを疑っているんじゃなくて、私の事を気にしているんじゃないか、という話。そうだと納得がいく。
「恵子ちゃんがそういう事言うの、初めて」
「そうなの?」
「何でもかんでも私の言うことやることに従うんだから」
そりゃあもちろん。お姉ちゃんたら凄い人だし。でも、だからって私がお姉ちゃんの全てを知ってるわけじゃない。悔しいけど。
「だってさ、私の知らない事、知りたいもん」
「……」
私を遠ざけるとか、どうしてあんな事をしたのか、なんてのが全然分からない。分からないまま、友だちの力で解決してしまった。
もしこのまま、お姉ちゃんの事を一部でも分からないままでいたら……、きっとまた距離が広がる。
それは嫌で、辛くて、とても寂しい。
こういったネガティブな感情は、夏頃に初めて自覚した。
でも、それだけじゃ無い。知らない事が嫌、というのだけじゃない。
辛いものは辛いけど、相手のことを、お姉ちゃんの事を知りたいと思う理由がある。
「お姉ちゃんの事が大好きだから!」
私の知らない所も、知ってる所も、きっと全部大好きなお姉ちゃんだから。
/
──── 彼相手にはね、好きと嫌いが混じってない。全部好き。
──── お姉ちゃんの事が大好きだから!
ふと言葉が重なった、恵子の言葉と重なって、明の言っていた事を思い出してしまった。
双子のやり口に屈して、数年続けてきた計画を取りやめる事になった。私はまた以前の様に、恵子と過ごしている。
久しぶりに距離を縮められたのもあって、昔以上に穏やかというか、豊かな時間に感じられた。
今まで遠目に見ていた間も、恵子が参った様子なのは分かっていた。友達ができるまでの辛抱だと思って、何もせず見守る事にしていた。
「私も恵子の事が大事で、好き」
「うん!」
……今や、それが正解だったのかを確かめることは出来ない。私との復縁を目的に、協力者という立場で2人を引き込めて、そこから流れで友達って関係に変わる事になったから、ここは成功と言えるかも知れない。
ただ、それは結果論。双子の片割れ、明から言われた事で、私のやり方に意味があったのだろうかと、揺らいでしまった。
正直、双子の関係としては不健全だと思う。そりゃよっぽど不仲でいるよりかは不健全だと思うけど、ああまで距離が近いのは……いやまあ仲悪いのよりは良いのかな……?
そう考えると、私は自分の意思で不健全な関係に変えてしまったという事で……。
「ああ、もう! ……ゴメンなさい、今まで」
「またゴメンって言った! もう聞き飽きたよ?」
「……そうかしら、そうね」
考え続けてしまう頭を、一旦リセットする。
私だって色々考えたのであって、その中で多少の間違いがあっても仕方が無い。私たち姉妹を引き離すという決断も、結果的には失敗だったのかもしれないが、私にとっては英断だ。
「話、変わるのだけれど」
「うん」
「家族内での恋愛ってどう思う?」
「ぴ」
「ぴ?」
「い、いやぁ、ダメなんじゃないですかね……?」
「まあ、そうよね」
どうして敬語?
確かにあの双子の真似をする訳には行かないけど。あっちと違って、こっちは同性だから参考にはならないし。
ただ、2人とも幸せそうにしているから、なにかコツでも聞けたらな、と思う。あそこまで親密にしていて仲が拗れる気配もないと言うなら、なにか秘訣があってもおかしくない。
そう思って恵子にもなにかアイデアは無いか、とは思ってたのだけど……、そういえばアレ、一応秘密ってことになってるのよね。
妹相手とはいえ言いふらして良いってことはないから、この話の続きは出来ない。
「うん、さっきの話は忘れてくれる?」
「うす、ウッス。あと、それとですね」
……?
「保体の補習だよグヘヘとかそういうのは、もうちょっと後にして欲しいというか……」
「は? いやいやいや、いや。無いから、大丈夫」
……あの双子、変な事吹き込んでないかしら。