Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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共感出来ること

 

 

 

―――目を開けると……知らない天井だった。

 

 

 

「……なんかこの感じ懐い……。おっ、懐いとナツキ、似てるな」

 

 

馬鹿なことを考えながら声に出しながら……ナツキは、随分と久しぶりに感じる感覚のまま、現状の状況確認。そしてこれまでのこと。覚えている事を頭の中で反芻していた。

 

知らない天井なのに、久しぶりだと感じる矛盾。

スバルはぼんやりと目をこすりながら、軋む身体をゆっくりと起こす。

上半身を起こすと、頭の奥がずきずきと疼き、まるで古いラジオのチューニングが合わないような、チリチリとした違和感が残った。これもまた久しぶり懐かしい感覚だと言える。

 

でも、これは矛盾でも何でもない。

 

あのロズワール邸のふかふかのベッドで目覚めたあの朝も同じように感覚だったから。頭の中のチリチリも正しくその時の記憶と同じ。

そこまで懐かしむ程、時間は経ってない筈なのだが、久しぶり、懐かしいと感じる。

間違いなくこれまでの時間があまりにも濃密過ぎて、胸やけをしてしまうほどだからだろう。

 

 

「……まぁ、石畳の上………あっちに比べりゃ絶対寝心地は悪くねーわな。寧ろ良いだろ」

 

 

あの聖域の冷たい石の床。倒れた寸前、意識を失う寸前まで覚えてる。その後は試練があったりまさかの墓の中で魔女と出会ったりと、混沌とは、この事だと言える。

それに比べれば、今はまさに夢見心地。……とこのまま甘美を堪能し続けていきたいと思いたい所だが——生憎そうは言ってられない。

 

 

「んで……ここ、どこだっけ?」

 

 

スバルは首を振って、頭の中の霧を払うように目を細めた。

記憶が、まるでパズルのピースのように少しずつ嵌まり合う。

 

 

【聖域】

【墓所】

【エキドナ】

【試練】

 

 

あの魔女の笑いと、底知れぬ好奇心に満ちた瞳、狂気共呼べる歓喜。全てが脳裏にちらつく。それにあの無限に続くかのようなエキドナ演説がまだ耳に残っている。何度か制止したが、それでも彼女の強過ぎる思いを、強欲を止めるなんて、一般人に毛が生えた程度の自分じゃ本当の意味では無理だ、とスバルは何処かではわかっていた。

 

 

「……………」

 

 

全てを終えてない筈だから、スバルは試練に挑んでいた筈なんだけど、今ここにいるという事は―――。

 

 

 

——エミリア、エミリアはどうなった!?

 

 

 

彼女のあの儚げな横顔、過去の重さに押し潰されそうになりながらも必死に立ち向かう姿が、胸を締め付けると同時に、スバルは身体を跳ね起こした。

 

 

「エミリア、大丈夫なのか……!?」

 

 

上半身こそ、直ぐに起こす事が出来たが、かなりの時間横になっていたせいか、結構節々が痛い。でもこの程度が何だというのか。四肢は問題ない。頭だって付いてるし、ナイフが刺さってる訳でもない。身体の全てがバラバラに砕かれてる訳でもない。

つまり、今は万全と言って良いのだ。

 

 

——と言うわけで、スバルはやや強引にベッドから這うように降り、立ち上がった。

 

 

確かに身体は重い。培う事が出来た精神力で、どうにか気合は入れたが、現実は非情。英雄見習いLv1の分際にはこの程度しかできない。本当に情けないくらいに非力な身体に涙が出そうになる。

心は焦燥に駆られていた。聖域の試練は厳しかったと言って良い。端から自分の中で受け入れて、全ての答えが無ければ難しいと言わざるを得ない。

実の両親と出会い、己を見つめ、向き合う事が出来るか否か、それを見定められる。

エミリアが過去と向き合えているか。そしてそんな彼女の事を、英雄見習いはちゃんと支えられているか。騎士として、彼女の隣に立つ事が出来るのか――。

 

無様で、どれだけ無様だったとしても、絶対にあきらめないのがナツキスバルと言う男なのだ。その思いを胸に、進むのを止めない。

何より――――この程度で動けなくなるなんて……兄弟(・・)に顔向けができない。

 

 

その時、ふとエキドナの言葉が頭をよぎった。

 

 

『どうやら、我々の共通する想い人がこの聖域へ来てくれたようだね。………しかし、ナツキ・スバル。私はキミが心底羨ましいよ』

 

 

共有する想い人、と言われれば誤解がありそうで嫌だから否定はしたが、内容には注目をしていた。そう、間違いなくエキドナが言っているのはツカサのことだったからだ。

 

 

魔女教大罪司教。

 

 

あの怠惰担当のペテルギウス1人でさえもあんなにも苦労したというのに、あんな怪物を2人も相手にしたとのこと。

 

強欲担当レグルス・コルニアス

暴食担当ライ・バテンカイトス

 

そんな化け物を制して……本人は姿をくらませている。そう、その筈なんだ。死ぬわけがない。

 

自分の試練よりもそっちの方が興味の対象、と言わんばかりのエキドナのあの含みのある笑顔を見て、より確信を得たというものだ。

無論、ラムの言う言葉を疑っていた訳でもない。

 

 

 

「ったく、考えること多すぎるんだよ! まずは皆の無事を確認だ! エミリア教、頭脳担当ナツキ・スバルここにあり! だぜ!」

 

 

 

スバルは頭を振って、部屋の扉を押し開ける。

 

小さく、誰にも聞こえないような声で……スバルは力を入れなおしつつ、口にする。

【兄弟に頼ってばかりはいられない。今度はオレが支える番なんだ】と。分相応かもしれないが、男として、英雄見習いとして、譲れない矜持はあるのだから。

 

 

 

 

薄暗い廊下に足を踏み出すと冷たい空気を吸い込む。どこかで誰かが話す声が聞こえてきた。

 

聞き覚えのある、鋭くて少し意地悪な声――ラムだというのが直ぐにわかる。

そして、もう一つの声は……間違いなく、このうるさく、独特のイントネーションのある声は、ガーフィールのものだろうか。遠慮のない声が道標となり、今のスバルにとってはありがたい話だ。

 

それにラムは無事だったんだと心から安堵する。そして、それと同時に、スバルは声のする方へ足を進め、一室の扉の前で立ち止まった。

 

ドアの隙間から漏れる光と、会話の断片。レムの柔らかな声も混じっている。

 

 

よし、無事だな。次はエミリアだけど、皆に聞いてからか――、と、そう思って、勢いよく扉を開けたスバルは。

 

 

 

「よお、みんな! おはよう&大丈夫か――って、どわぁぁあっ……ああ!!??」

 

 

 

スバルの足が、まるでバナナの皮でも踏んだかのように滑り、盛大にズッコケた。物理的には滑った。ヘッドスライディングでもするのか? と言う勢いで見事に顔面ダイブ。

 

 

目の前の光景が、あまりにも予想外で、あまりにも――なんというか、朝から刺激的すぎた。

 

 

そこには、確かにラムがいた。ピンクの髪が朝の光に揺れ、普段のキリッとしたメイド服姿……なのかどうかは、わからない。何せベッドに潜り込んでいて、頭部分しか見えていないから。

 

 

それだけなら、ただラムが眠っているだけ。何かあったのか、負傷したのか、或いは疲労からなのか、とにかく休憩、休息しているだけのかもしれないが、そのラムの直ぐとなりにいる存在を目の当たりにすると、寝る、と言う意味が全く違うものへと変化する。実にけしからん官能的なものに。

何より、ラムの顔が紅潮していて、息遣いもどことなく男の本能部分を刺激させるには十分すぎる程の妖艶なものを出しており、常々ラムは自分自身を自画自賛しているが、この時ばかりは心の底から同調してしまったかもしれない。……エミリアやレムが居るというのに。

 

 

 

そしてラムの隣に居る、ラムと一緒に眠っているのは白髪……いや、白よりは銀に近い。なら銀髪と言うのが良いだろうか? まるでエミリアのような髪の色をしている男。

 

 

 

――エミリアとペアルックなんて許せん!! オレも急いで染めなければ!! 

 

 

 

と、スバルはどうでも良い事を考えそうになってしまうが、その様相、その素顔を見ればそんなどうでも良い思考でさえ、吹き飛ぶ。

 

 

間違いない。その顔はツカサその人だったのだから。

見間違える訳がない。自分のせいで……自分の死に戻りが原因で倒れ伏した姿を目にしていたあの時から、この様相は心に刻まれている、刻まれたのだから。髪の色は気になる所だが、ひとまずそれは良い。

もっと、重要な点に着目すべきだからだ。

 

目を閉じているツカサだが、起きる気配はない。これだけ騒いでるのに、眠っている。

そんなツカサは大丈夫なのか? と聞くよりも前に、着目するのはラムの姿。

何せ、ラムはツカサの胸に、スリスリと頬を寄せ、まるで子猫のようにはうようにくっついているのだから。それもベッドの上で。なんなら1つの布団の中で。

 

起きているのなら、起きることが出来るのなら、呑気に眠っていられる訳がないのだ。男の子として。初心初心な所があるツカサが、それでも絶対に起きれれるなら、本能で起きる筈だ。

 

ツカサは目を閉じたまま、穏やかな寝息を立てているが、ラムのその大胆な行動に、スバルの脳みそは高速回転しつつ―――オーバーヒート手前で声を上げた。。

 

 

「な、な、ななな――朝っぱらから何やってんだよ、ラムちー姉様ぁぁ!?」

 

 

スバルの叫びが部屋に響き渡る。

初心初心、とは言えない自分だが、生憎自分は万婦不当の童貞男!!

身近な近しい人物たちのベッドシーンは、めちゃくちゃ刺激が強過ぎるのだ。

ラムやツカサから色々と聞かされたことはあるが(と言うかラムの強●?)、見るのは初めて。

身体の大部分は布団の中で見えないが、もしかしたらその中では——と否が応でも考えてしまう。下半身の機能が反応しなかったのは半ば奇跡に近い。ラムと目線が合ったのに救われた、とも言えるだろう。

ラムはハッと顔を上げ、スバルの存在にようやく気づいたらしい。だが、彼女の表情はまるで動じていない。むしろ、いつものように嘲笑うようで、鋭い視線でもあって忌々しい、と言わんばかりに、と言うか言ってて、スバルを射抜き、最後は鼻で笑った。

 

 

「ハッ。見てわからないの? と言うか刺激が強過ぎるならとっとと去りなさい。……出歯亀は引っ込んでるべきね。獣欲なら外ででも発散してくれば良いわ。見苦しいし穢らわしい」

「いやひどいな! 見苦しいな上に穢らわしいかよ!? てか、兄弟だよな!? 絶対そうだよな!! 感動の再会に居合わせたオレは最高! って言いたい所なのに、まさかの濡れ場ベッドシーン見せられて、困惑したり、前屈み気味になったり、男の子として色んな意味で赤面したりで、めっちゃオレ大変なんだよ! どー反応するのが正解なんだよ!??」

 

 

スバルは頭を抱えながら、ツッコミの嵐を繰り出す。だが、心のどこかで、ラムの気持ちもわからなくはなかった。ツカサがいなくなってからのラムは、シリアスどころか地獄のような状態だった。レムと共感覚で繋がる彼女の苦悩を、スバルは何度か垣間見ていた。あの強気なラムが、ツカサの名を呟くたびに目を潤ませていたあの瞬間。あれを知ってるからこそ、このラムの行動が――まあ、ちょっと過激すぎるけど――彼女なりの「取り戻した時間」なんだろうな、って。

 

 

「ふん。バルスにとって唯一無二の正解行動とは口を噤むこと、だわ。それにバルス如きがラムの気持ちがわかるはずもない。調子に乗らない事ね。……今はツカサがこうしてここにいる。ラムの中に帰ってきてくれてる。それだけで十分よ」

 

 

ラムの声はいつも通り棘だらけだが、どこか柔らかかった。彼女の視線は、ツカサの寝顔に注がれている。その目は、まるで大切な宝物を守るように優しく、けれどどこか必死で――スバルの胸が、ほんの少しチクリと痛んだ。

 

 

「姉様、可愛らしいっ」

 

 

ふと、部屋の隅からレムの声が響く。スバルが振り返ると、レムがそこにいた。青い髪を揺らし、穏やかな笑顔で姉を見ている。彼女の目は、幸せに満ちていた。ラムの行動を、まるで自分のことのように喜んでいる。そんなレムの視線に、スバルは思わずたじろぐ。

 

 

「レムまで何だよ、その幸せいっぱいな顔! いや、気持ちはわかるけどさ! 兄弟が生きてる、戻ってきてくれた! ってだけで、そりゃ嬉しいよな! でも、朝からこんな……なんつーか、姉のエロティックな雰囲気出されてる場面に居て大丈夫なのかよ?? こちとら心の準備ってやつが出来てなくて不意打ち気味だったんだよー!」

「あ、そうです。スバル君もどうですか?」

 

 

レムが、にっこりと笑って両手を広げる。

スバルは一瞬、言葉を失った。レムのその大胆な発言に、頭が真っ白になる。いやいや、待て待て!!? いや、確かにレムはスバルに対して大胆な時もあるけど、よもやここまでとは思わなかった。これはラムの反動に影響されてるのか!? それとも素!?

 

 

「いやいやいや! 朝っぱらからそんなテンションで来られても、俺、そこまでたまってねえから(嘘)! つーか、エミリアのことも気になるし、やること知ることまとめなきゃいけないこと多すぎて、頭パンク寸前なんだよ(これは本当)! てか、エミリアはどこ――」

 

 

スバルの言葉が途切れた。第二婦人でも良い、と愛を告げてくれたレムに対して少々可哀想な物言い。エミリアの名前を出したはちょっとデリカシーが無いかな? と頭の片隅で思っていたスバルだったが、直ぐに掻き消える。

 

理由はスバルの視線の先に、まさかのガーフィールがいたからだ。

 

部屋の隅、壁に凭れかかり、ギザギザの歯をカチカチ鳴らしながら、足をガンガンと地団駄を踏むようにしている。その顔は、まるで世界の終わりを見たかのように不機嫌だ。

 

 

「いや、なんでだよ。なんでガーフィールもここにいんだ?」

「はい。ガーフは姉様とツカサ君の絆を疑い続けてるので。それを解消する為にも観たほうが早いと判断しました。褒めてくれても構いませんよ?」

「いや!! お前は鬼かッ!!??」

「はい、レムは鬼族です!」

 

 

好いてる相手の、しかも濡れ場シーンを見せ付けられるなんてどんな拷問だよ! と思うが、そんな感情はレムには伝わらない様で、いつも通り褒めて褒めて、と見えない尻尾をフリフリさせてる。

そしてスバルは直ぐに切り替えてガーフィールに同情した。ガーフィールはラムのことが好きだ、と獣な論理だが確かに公言してた。

なのに目の前でこんな光景――ラムがツカサにベタベタしてるのを見せつけられたら、そりゃ脳の1つや2つ、破壊されても仕方がないだろう。

 

 

「——ガーフィールよ。わかるぜ。その気持ち。NTR(寝取られ)ってのはキツイよな。見せつけてくるNTR(寝取られ)なんて益々ハードル高けぇよな。世の作品よ、全て滅べ!! って思ったりしたこともあるさ! ……でもな、こうやって人は成長していくってもんだぜ? だから、大丈夫だガーフィール。より強く生きろ! 高みを目指せ!」

 

 

スバルは、親指をグッとおっ勃ててちょっと意地悪く笑って、首を横に振り、ガーフィールに声をかける。

ガーフィールは目を血走らせ、拳を握りしめてスバルを睨んだ。

 

 

「うっせッてんだよ、三下ァァ! 俺様はァ、まだ負けたわけじゃねえッてんだ!」

 

 

その声は、まるで吠える獣のようだ。

まさに負け犬の遠吠え、と言うのが相応しい。ガーフィールの圧力も相当なものがある、とスバルも分かっているし、初対面時はマジで死を覚悟したくらいのものだったと記憶している……が、どうしても今はそう思ってしまう。

ラムの言葉を借りるなら、負け猫ガーフ、と言う所だろうか。

 

でも、そんな傷口にタバスコ塗りたくる様な真似はスバルには出来ないな、と肩をすくめる。でも、この場面を見せられて尚折れないのは正しく強靭な精神性だと言える。

 

聖域の中、魔女の茶会に招待されていたスバルは知る由もないが、ツカサが復活した時、ガーフィールはツカサに喧嘩を売って一蹴されたのである。白鯨すら吹き飛ばす風の魔法で上空に飛ばされ、その上情けをかけられるかのように朦朧としたツカサにキャッチされた。

ツカサはガーフィールの姉、フレデリカの匂いを感じ取って敵じゃないと判断したらしいけど、ガーフィールにとっては屈辱だったろう。

だが、それ以上に力の差を感じたのかもしれない。英雄の名に恥じない程の強さを持つ男だと。だからこそ、甘んじてこの展開を受け入れているのかもしれない。

 

 

「いや、待てよ。NTR(・・・)ってより、これBSS(・・・)じゃね? 『僕がラムのこと先に好きだったのに』的な? どっちだと思う?」

 

 

傷口にタバスコを~と思っていた癖に、微妙な角度で更なる追い打ちをかけるのはスバルだった。

小首を傾げる姿を見たガーフィールはさらに顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

 

「知るかッてんだよ! 何回言わすんだ、テメェ! そんな言語、意味わかんねッし、腹ン底からムカつくだけッだ!」

 

 

ガーフィールの怒りは頂点に達する、が、暴れたりはしない。ただただまるで子供が駄々をこねるように足をバタバタさせるだけだ。

スバルは思わず笑いそうになるが、その瞬間、部屋に冷たい風が吹き抜けた。

 

 

 

「――うるさいわよ、バルスもガーフも」

 

 

 

ラムの声が、氷のように鋭く響く。彼女の手が軽く振られると、突風がスバルとガーフィールを襲う。

 

 

「あすたらびすたべい―――ッッ!!」

「ぐおおおっ!!!」

 

 

次の瞬間、二人はまるでゴミのようにはじき飛ばされ、部屋の外へと叩き出された。

 

 

「ラムちー、いくらなんでもやりすぎだろ! 病み上がりだぞこっちは!!」

「くそくらえッてんだ!」  

 

 

スバルとガーフィールの叫び声が、聖域の朝の静寂に木霊する。部屋の中では、ラムがツカサのベッドに戻り、そっと彼の手を握る。レムが微笑みながらその様子を見守る中、聖域の朝は、ほんの一瞬だけ、騒がしくも温かな空気に包まれた。

 

 

「……馬鹿ね。バルス。自分が優先すべき場所へ真っ先に赴いてこその騎士でしょう? レムも見限った方が幸せよ」

「ふふ。そんなスバル君でもレムは大好きですよ」

「はぁ、それだけは共感できないわね。――――ただ」

 

 

ラムは、もう一度ツカサの胸に顔を埋める。

あの時の様な、死の味はしない。確かに生きている鼓動とぬくもりを感じられる。

ただ、いつ目を覚ますのかはわからない。大精霊パックや同じく大精霊クルルも、今は顔を出していない。彼らに聞けばわかるかもしれないが……。

 

 

「……大好き、と言う気持ち。そこは共感しか無いわ」

 

 

絶対に、また目を覚ます。

絶対に、またラムの元へ帰ってきてくれる。

それだけは、願望ではなく確信をもってラムは言える。

 

レムも、そんなラムの姿を見て慈愛の眼差しで微笑む。

そしてレム自身も姉の英雄の帰還を信じて疑わないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で先に言わねぇんだよ! ガーフィール!!」

「うるせッてんだァボゲが‼ テメェが分けわかんねェ事で騒いでたからッだろうがッ!!」

 

 

その後、ラムにぶっ飛ばされたスバルはエミリアの現状を知る事になった。

あの場から救い出されたエミリアだが、心身ともに衰弱していたらしい。見たくもない辛い過去に向き合わされ、追い詰められ、時折悲鳴を上げてたらしい。

 

 

「つか、パックのやつは何してんだよ! こういう時のおとーさんだろ!!?」

 

 

試練だろうと魔女だろうと、娘の為ならばいの一番に守る! それがパックの心意気だった筈なのだから。

それこそ、世界を滅ぼしてでも、娘を優先させる巨獣の姿を、スバルも知っているから。

 

 

「あァ? あの大精霊かよ。何でも出てきてくれねェとかで、エミリア様ァ、泣いてたぜ」

「だから後出しすんな!」

「知るッ、かよ!!」

 

 

ドタバタ、とさせながら、スバルは駆け足全力でエミリアの眠る場所へと向かったのだった。

 

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