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「一流のキングヘイロー」を自称し、一流であることを証明するために努力を重ねたキングヘイロー。何度も敗れ、辛酸を嘗めながらも、決して諦めることなく挑戦し続けた彼女は、ついにURAファイナルズ優勝を成し遂げ、名実ともに一流のウマ娘になったのであった。
久々の休日にトレーナーである私は、まさに時の人となったキングとの待ち合わせ場所へ向かっていた。電車が目的の駅で停車した時、ポケットにあるスマホが振動した。
「もしもし?今駅に着いたところだけど」
「遅いわよ!このキングを待たせるなんて何事なの?」
時刻を確認すると、午前9時半。予定の時刻より30分も早かった。しかし、彼女が私よりも早く着き、待たせてしまったことは事実だ。そういえば前にもこんなことがあった気がする。早く着いたキングに叱られたことは、これが初めてではない。
「悪いな、お詫びに何か奢るから許してくれ」
「もう……、駅前のカフェにいるわ。早く来なさいよね」
そう言ったあと電話は切れてしまった。電話口から聞こえた彼女の声は怒っているわけではなく、これからのことを楽しみにしているようだった。
それから少しして、トレーナーが来た。せっかくの休日に、この私がわざわざ誘ったというのに、彼はスーツを着てきたのである。彼が仕事熱心でそれ以外の事には疎いのは分かっていたけれど、これじゃあ、気合を入れて、新しく服を買い、メイクまでしてきた私が馬鹿みたいじゃない……。
不満げに口をとがらせる私と対照的に、彼は私に気づくと、顔を綻ばせて近づいてきた。
「お待たせ、遅れてすまないなキング。……もしかして怒ってるか?」
彼に聞かれて、私は今の気持ちを吐き出した。
「ええ、怒っているわ。トレーナー、あなたはこの私とのお出かけだというのに、なぜスーツを着ているのかしら?一流のトレーナーなら、状況に相応しい装いをするのではなくて?」
私の手厳しい指摘を受けたトレーナーは、ばつが悪そうな顔をして頬をかいた。
「すまん、休日に着る服が無くてな……。ほら、ここのところは忙しくて服を買う暇も無かったし」
「言い訳しないの。まったく、しょうがないわね。今日はこのキングがあなたをコーディネートしてあげるわ。泣いて喜びなさい!」
「いいのか?しかし、久々の休日だろ。わざわざ俺に時間をかけなくても……」
「あら?じゃああなたは、その恰好が今日の私のそばに立つのに適していると思っているのかしら? つべこべ言わずについて来なさいな、この私があなたの服を選んであげると言っているのよ!」
「ええー……、分かったよ。今日はよろしく頼む」
少々強引なやり取りだったが、トレーナーが折れてくれた。本当は彼の服を自分で選べることが楽しみなのだが、そんな素振りは一流の矜持として見せない。あくまでも仕方なくといった風を演出しなければならない。それに、彼を自分好みに染め上げるのは、気恥ずかしくもあるが、私のものであるという証を対外的にアピールするための有効的な手段でもある。
URAファイナルズを優勝して以来、私たちはますます注目されるようになった。その中で、トレーナーも他の娘たちから、指導を頼まれることが増えた。当然ながらトレーナーの担当は私で、彼が私のことをいつも気にかけてくれていることは理解している。しかし、不安なのである。いつか、彼が私の元を離れていってしまうのではないのだろうか。二人で一流になれたことは嬉しいけれど、この先も彼はついてきてくれるのだろうか。それを聞くことは出来なかった。聞いてしまえば、この関係が壊れてしまう気がしたから。
「そうと決まれば早速行くわよ。せっかくの休日を無駄にしたくないわ」
「お、お手柔らかに頼む……」
うっすらと靄のようにかかった不安を抱えながらも、私とトレーナーは街に出た。今日を楽しもう。それが一流のウマ娘として正しいのだから。
あれから私とトレーナーはお店を何件も回り、服を選んだ。自分が選んだ服装で彼を着飾るのに夢中になってしまい、それこそ着せ替え人形のように、何着も着替えさせた。最初は渋々といった表情の彼も、私が連れまわしているうちに、諦めたようだ。
とはいえ、つい時を忘れて楽しんでしまったけれど、すっかり日は暮れて午後6時過ぎ。最後のお店を出る。両手に荷物を持っている彼は、申し訳なさそうな顔でこちらを見る。
「すまないキング、今日は君のための休日だったのに……。」
「いいのよ、気にしないでちょうだい。それより、私の選んだ服はどうかしら?このキングが選んだのですもの、似合わないはずがないわ!おーっほっほっほっほ!」
そう言って私はいつもの調子で高らかに笑う。実際のところ、私の好みと彼の好みが一致しているかは分からなかった。彼は、私が選んだ服を気に入ってくれただろうか。
「ああ、本当にありがとう。おかげで少しはおしゃれになった気がするよ!」
その一言を聞いて内心ほっとしたけど、決して顔には出さない。これも一流の矜持である。
「当然よ。あなたには一流であるこの私のトレーナーとして、恥ずかしくない人になってもらわないと困るもの!」
「はは、精進するよ」
夕日が照らす大通りを、二人で歩く。道の脇に並んだ街灯の明かりが点きはじめた。
「そろそろ帰るか」
「ええ、そうね。でもその前に少し寄りたいところがあるのだけれど、いいかしら?」
「構わないが、どこに行くんだ?」
「ついて来て。少し、話したいことがあるの……」
無言で歩く私のあとを、トレーナーは何も聞かずについて来てくれた。この気遣いにいつも助けられている。
公園にたどり着いた頃には、もう空は暗くなっていた。人気はなく、公園は私とトレーナーの貸し切りだった。
私は、ベンチに腰掛ける。
「そのまま座っててくれ、飲み物を買ってくる。何がいい?」
「あなたのと同じでいいわ、一流に相応しいものを買ってきなさい!」
注文に苦笑した彼は、自販機へ向かった。
少しして戻ってきた彼は、温かい紅茶のペットボトルを差し出した。春とはいえ夜はまだ冷える。私が欲しいものがよく分かっているようだ。
彼を私のすぐ隣に座らせる。二人掛けのベンチとはいえ、大柄なトレーナーと座ると窮屈だ。肩が当たる距離で、お互いの熱が伝わってくる。紅茶を飲んで一息ついたあと、私はトレーナーに尋ねる。
「あなた、私をスカウトした時のことを覚えているかしら?」
「もちろん」
「そう。ならあの時私がした宣言も、当然覚えているわよね?」
「ああ。他のトレーナーは呆れていたけどな」
「そういえば、一番最初のスカウトは断られたな。あの時はキングが求めているような答えを出せなかった」
「うぐっ……、わ、悪かったわね。でも、あの時は必死だったの。志の低い人と組んでも、私の才能を引き出せるはずがないと思っていたのよ」
気まずそうに俯く私を見て、彼は笑う。
「俺はキングの覚悟を聞いたとき、正直気圧されたんだ。新人トレーナーの俺が、君が望むような結果を残せるように導けるのかって。君が言うように、自分も“一流”と名乗り続けることが出来るのかって」
「そうだったのね……、じゃあ、どうしてあなたは、あの時私をスカウトしたのかしら?同情から?もしそうなら―――」
「違うよ」
私の言葉を遮って、トレーナーは言葉を続ける。
「俺が君をスカウトしたのは、同情なんてものじゃない。俺は君に可能性を感じたんだ」
「可能性?」
「そうだ。敗れても、決して頭を垂れず、前に進み続ける君の気高さに俺は……、俺は惚れたんだ。」
思わず下を向いていた顔をあげて、彼の顔を見る。彼の顔は真剣だった。
「それに、あの時、キングとともに“一流”になると宣言した時から心は決まっていたんだ。どんなに困難なことでも共に挑もう、と」
ほぼ告白のような文言に、私の顔はみるみるうちに赤くなる。脈打つ鼓動の早さが、彼に聞こえていないだろうか。悶々としていると、不意に「キング?」と声をかけられて、返事が上ずってしまった。
その様子を見て、彼はまた笑った。彼にしてやられているようで、少し腹が立った。
「あなたって人は……、どうせ他の娘にも同じことを言っているのでしょう?」
醜い嫉妬心が漏れ出した言葉。つい言ってしまったことを後悔していると、
「俺の担当はキングだけだよ」
「ふ、ふん!そんな言葉でこの私が喜ぶと思っているのなら大間違いよ!!」
そっぽを向いた私とは裏腹に、耳は横を向いていた。
「なら、これからも私のそばにいる権利を権利をあげるわっ! そして、一流の私を称えなさい! それがトレーナーであるあなたの義務よ!」
「ああ、もちろん。これからもよろしく頼む」
その日の帰り道、私とトレーナーは手をつないで帰った。トレーナーの手は温かかった。