シュトラール・イン・シュテルンツェルト 作:一意専心
第一話 転生
人間は生まれ変わる。
そういう話は古来から好まれ、現代にまで受け継がれてきた。
輪廻転生だとか、そういう感じのアレだ。一昔前までは縁遠かったはずだが、最近ではライトノベルの一ジャンルとしても大衆に嗜まれ、考え方次第では身近になった存在である。
その話題を出すのなら、お前は輪廻転生論を信じているのかって?
冗談。
僕は信じちゃいない。
正直な話、社会の荒波に揉まれて不本意ながらリアリスト思考を人生の基盤としてしまった今の僕に、その手の話題は全くもって刺さらない。
満ち足りているわけでも、世捨て人であるわけでもないよ。ただ、そうなだけだ。
人は、死んだら土に還る。または燃やされて灰になり、壺に収められるか海に流されるか。結局のところ、末路はそこだ。
生まれてこの方、世界水準では恵まれた環境で育ち、まあまあの学歴をまあまあの努力で手に入れて、社会人として人生を全うしている僕も例外じゃない。
ああ、でも。でも、もしかしたら。
もしもそうなのだとしたら。
「⋯⋯ははは。誰か⋯⋯僕を、中途半端な奴だと笑ってくれよ」
誰かに後ろから刺された。
そうして、こんな寂れた路地裏で月に看取られながら息を引き取ろうとしている僕は、実は転生というものに、違う自分というものに憧れていたのかもしれない。
だって、今この時、人生の終わり目にそんなことを考えているくらいだ。そうに違いないだろう。
先まで輪廻転生を信じていないとか言っていたのに、こんなに中途半端な人間は有史以来僕が初めてなんじゃないか。笑えない。
打ち捨てられた生ゴミと都会に染った汚水、息を潜める小さな命。冷酷なまでに何の感慨も抱かない月。少し遠くなった大通りの喧騒は、却って幻想的なまでに僕を世界から遠ざける。
冷たさに体の奥、魂のような何かから同化していくようだ。
面白いだろう? 僕は、詩も読めるらしい。どうしてか頭が冴え渡っているんだ。今なら何でも出来そうだよ。皆の大好きな転生だって出来てしまいそうだ。
ああ、そうだね。もし、来世があるのだとすれば。
願わくば、来世くらいは⋯⋯。
うん。
来世くらいは、心の底から悔いのない人生ってモノを送りたい。
始まりと挑戦に打ち震え、悔しさと失意の底に沈み、希望と情熱に焦がされて、屈託のない喜びに溺れたい。そんな人生を送りたいものだ。
それくらいのささやかな願いなら、こんな僕にも許されるだろう?
□
「⋯⋯貴女の名前はメジロシュトラール。メジロ家の栄光を背負って立つ光として頑張りなさい」
厳かさの中に温かさの込められた声、瞼を貫いて眼を突き刺すような光。
目を開けるも、薄らと膜が張っているような視界のせいで何も判別できやしない。明るさから、今が昼頃かと推測できるくらいだ。
「お母様、この子はやれます。きっと」
「⋯⋯ええ。彼女ならば、名門メジロに春を齎してくれることでしょう」
誰かが話しているが、内容まではしっかりと聞き取れないことから、目同様に耳も退化ないし衰えているようだ。体も動かしにくい。僕はどれほど寝ていたのだろうか。
⋯⋯しかし、病院のベッドというには不可思議だ。
シーツの感触ではない。何か、もっとこう温かみのある感触。まるで人の温もりのような⋯⋯。
⋯⋯人の温もり?
「さあ、今日はもう休みなさい。シュトラールは主治医に任せて」
「はい、お母様」
気が付くと、僕は誰かに抱えられていた。
そう、抱えられていた。
身長そこそこな大の大人の僕がである。そんなの常識的に考えてありえない。
ここまで来れば、もう薄々気が付いていた。僕が今、どのような状況に置かれているのかを。
「シュトラール、貴女ならやれる。ウマ娘として、メジロの娘として使命を果たすのです」
何を言われているのかは分からないが、何やら大きな物を託されてしまったのは分かる。
全くもって勝手な事だ。傍迷惑とまでは言わないが、せめて理解出来るまで成長してからにして欲しい。
⋯⋯何はともあれ。
───どうやら、期せずして僕の第二の人生は幕開けを迎えてしまったようであった。
感想やアドバイスなどありましたら、気兼ねなくよろしくお願いします。
他キャラ視点は要る?
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要る。
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要らない。