シュトラール・イン・シュテルンツェルト   作:一意専心

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 オリジナルの子達のキャラ付けをしないといけないので、もうちょっとだけ展開はゆっくりのままです。
 後、今回は現時点でも史実ブレイカーしつつ、未来に史実ブレイクを引き起こす仄暗い伏線も混ぜておきました。

 半ば眠りながら書いたので、時間が出来たら手直しする予定です。

 追記
 サンライトブライアンですが、感想でご指摘を受けたのでサンライトブライアンからサンデイブライアンに改名しました。


第十一話 微熱

「はっ、はっ、はっ⋯⋯!」

 

 1600メートル、まだまだ余裕はある。

 ほとんど減速することなくコーナーを曲がり、段々と加速していく。

 チラリと横目で脇を伺えば、トレーニングに付き合ってくれているドーベルの他にも制服姿ではない人集りが出来ているのが見えた。

 今日も来てるのか、辟易とする気持ちを振り払い、正面を見据える。

 

「はぁっ!!」

 

 まだ余裕だ。

 残り200メートル付近に差し掛かって、溜めていた分全てを解放するつもりでターフを踏み込んだ。

 

 僕が力を最大限発揮できるという意味での適正距離は芝、2500から上。完全にステイヤー向きの脚質だから、今回の距離2000メートルは正直言って余裕だ。今の僕なら、普通に走れば何周分も余力を残した上で完走できる。

 けど、僕はできる限り余力を残さないように加速した。

 

「「おぉっ!!」」

 

 見物客のどよめきが聞こえた。

 この程度でも驚かせることができるなら、僕の脚もまだまだ捨てたものでは無いらしい。

 

 昔から、僕の走りには切れ味がない。

 最高速が他のウマ娘のそれよりもかなり劣るのだ。

 だから、ほんのわずかでも速度を上げるために、後先考えない加速をしなければならない。幸いなことに、僕には2500メートルを走ってもそれが出来るだけの余力がある。

 それに今日は少しいつもより調子が良い。自己ベストを更新出来そうだ。

 おばあさまや主治医からは脚に悪いからあまりやらないようにと言われているが、こうでもしなければ僕が同年代のウマ娘達に追いつく事は出来やしない。

 

「⋯⋯ッ!!」

 

 ゴール板を駆け抜けて、ドーベルに視線を向ける。

 今回はまあまあ良いタイムが出せたと思うのだが。

 

「2分1秒6!」

「おお!?」

「新入生でこれだけのタイムが出せるなんて!」

 

 2分1秒、小学生時代の1800メートルのタイムだ。

 今、2000メートルでそれだけ走れるなら、僕もこれから先それなりにやれるだろう。

 

 ⋯⋯けど、これ以上2000メートルのタイムを劇的に縮められる気はしないな。恐らく、これから先も。

 

 最近、直感的に分かることが増えてきたように思う。

 何が分かるかと言えば、それは自分の成長の限界だ。

 特に2500メートル未満の距離のタイムはそれぞれこれ以上の成長が見込めないように感じる。

 逆に、それより上、2500メートル以上の距離は僕に限界なんてものはないんじゃないかってくらい、まだまだ発展途上だ。

 おばあさま曰く、今の僕は半分本格化した状態であり、いつ完全になり、いつ衰えるか分からない不安定な状態らしい。

 それもこれも、幼い頃からの過度なトレーニングが原因だろうと言われたが、僕としてはそれでも止めるつもりは無い。

 

「メジロシュトラール! 私と一緒に三冠、いや、あの皇帝を超えましょう!」

 

 我先にと駆け寄ってきたトレーナーが、聞こえの良い願望を並べ立てる。

 三冠か。確かに、狙えるなら狙いたい。

 だけど、僕は別に皇帝を超えたいわけじゃない。悔いのない人生を送りたいだけだ。そのための障害となるなら、超えるまでのこと。

 ダメだな。

 

「メジロシュトラール、俺と一緒に盾を取ろう! 春秋制覇だ!」

 

 暑苦しい雰囲気の男性トレーナーが捲し立てるようにそう言うが、おばあさまとお母さん、メジロ家に仕えるみんなの為に天皇賞春秋制覇は確定事項だ。言われるまでもない。

 その程度じゃ、僕は靡かない。

 

「私と!」「俺と!」「僕と!」

 

 ⋯⋯面倒臭い。

 誰も彼もが、自分のことばかりだ。スカウトされるのは光栄だが、もう少し核心を突くような、そんなトレーナーはいないものか。

 僕は、僕のやりたいようにやりたい。それを誠心誠意サポートしてくれるような、そんなトレーナーが良い。高望みし過ぎかもしれないが。

 けれども、誰かに道を委ねるのは無理だ。

 

「今度の選抜レース、そこでもう一度僕の走りを見てから、それでもという方だけスカウトしに来てください。それでは」

「あ、ちょっとシュトラール⋯⋯!」

 

 ドーベルの手を引いて、グラウンドを後にする。

 正直、あそこにいたって気が滅入るだけだ。

 

「流石にあれじゃあ、僕は誰も選べないな」

「ええ、アタシも」

 

 そう言えば、一昨日ぶつかったあの人もトレーナーバッジを付けていた。

 あの時はピンと来なかったけど、でも何処か他と違う情熱のようなものは感じられた。今日集まっていたあの人達とは少し違うように思えた。

 もしも、今度の選抜レースに来てくれたら、あの人と少し話してみたい。

 

 着替えようと更衣室に向かう途中、ふと気になってグラウンドの方を見る。

 

「あれは⋯⋯」

「たしか、あの子はサンデイブライアンだったかしら。一人で練習してるみたいね」

 

 一人、グラウンドを走る小柄な影。

 クラスメイトのサンデイブライアンだ。

 話し掛けるのも憚られたが、その時、僕の脳裏にある事実が過ぎった。

 

 ⋯⋯僕は、未だに一人も普通の子と友達になることは疎か話せてすらいない。

 このままでは、不良ウマ娘と自尊心の塊ウマ娘に目を付けられた、癖ウマ娘マグネットになってしまう。

 これを機に、何とか普通の子とも仲を深めておきたい。

 

「君、サンデイブライアンだよね?」

「⋯⋯? あ、はい、そうですけど⋯⋯って、メジロシュトラールさんにメジロドーベルさん!?」

 

 話し掛けると、落ち着き払った様子から一転、サンデイブライアンが驚きの声を上げた。

 そう言えば、ドーベルも初対面の他の子からはこんな風に驚かれたらしい。

 そんなにメジロのネームが大きいものだとは正直思っていなかったが、僕まで彼女にこんな対応をされるということは僕の想像以上に名門メジロという立場は大きなものなのだろう。

 こういう時、前世でもう少し同僚の言葉に耳を傾けておけば良かったと切に思う。せめて、メジロ家の一人くらい知ってる名前が居れば⋯⋯。後悔先に立たずだが。

 

「トレーニングの邪魔しちゃってごめんね」

「全然! 私ももうそろそろ終わりにしようと思っていたから! 二人もトレーニング終わりなの?」

「ええ。良かったら、一緒に更衣室に行かない?」

「うん、私で良ければ」

 

 明るくて気立てが良く、誘っても二つ返事で快諾してくれる辺り、同室のウマ娘とはもう既に桁違いに話しやすい。

 ボトルとタオルを取ってきたサンデイブライアンも加えて、僕達は更衣室へと向かうことにした。

 

「あの、シュトラールちゃんとドーベルちゃんって呼んでも良いかな?」

「うん、構わないよ」

「ええ、アタシも」

「ありがとう! 私のことはサニーって呼んで!」

 

 サンデイブライアン、サニーは嬉しそうにはにかんだ。

 初めは大人しそうだと思ったが、明るくてとても良い子だ。同室相手とチェンジして欲しい。

 ⋯⋯これでも元男としては、ちゃん付けは勘弁して欲しいけど。

 

「サニーは今度の選抜レース出るの?」

「ううん、私はまだまだトレーニングが足りないし、出るつもりは無いかな。早くても、次くらいになると思う」

 

 まあ、僕やシルクライトネスが早いだけで、普通はサニーみたいに二回目の選抜レースからの参加が妥当だろう。

 やっぱり、サニーは明るくて人当たりが良い子だけど、冷静に事を運べる侮り難い子だ。

 一番警戒すべきはサニーかもしれない。

 

「ん? シュトラールちゃん、どうかしたの?」

「ううん、選抜レースどうしようかなってね」

「あー、でも、シュトラールちゃんなら、シルクライトネスさんにも勝てるよ! だって、あのメジロのウマ娘だし!」

 

 純粋な尊敬の眼差しが痛い。

 けど、そこまで言われたら頑張るしかないな。

 

 選抜レースまで残り二週間。

 サニーからの期待に応えられるように、もっと頑張ろうと僕は決意するのであった。

 

 

 □

 

 

「シュトラールちゃんに、ドーベルちゃんかぁ」

 

 やっぱり、間近で見た二人は輝いてたなぁ。

 私なんか比べられないくらい、強くて、格好良くて、可愛い。

 それに比べて、私は全然ダメ。こんなんじゃ、クラシックで活躍なんて夢のまた夢だ。

 

 でも、願わくば。

 

「⋯⋯なりたいなぁ」

 

 私も、あんな二人の隣に立てるようなウマ娘になりたい。

 

 シュトラールちゃんと、ドーベルちゃん。

 絶対にあの二人に追いつこうと、追い付いて二人からライバルだって認められるようなウマ娘になろうと、密かに私は誓った。

 




 感想やアドバイスなどありましたら、気兼ねなくよろしくお願いします。

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