シュトラール・イン・シュテルンツェルト   作:一意専心

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 新規アンケートやってます。誰が選ばれるかで、一人分の殺伐が減ります。


第十二話 選抜レース

『さあ、今年も新入生達の初お披露目の時期がやって参りました』

 

 たくさんのウマ娘と、学園関係者やそうでない外部からのファンなど観客で賑わうグラウンド。

 実況の声がグラウンドに響き、観客の期待を煽る。

 入学式から二週間と少し。今日は選抜レースの日だ。

 周りを見れば、ほとんど上級生しか居らず、時折入学式で見かけた顔をちらほらと。

 トレーニングウェア姿のウマ娘達に交じって、僕も準備運動をしていると、いつかのウマ娘シルクライトネスが僕を睨み付けながら歩いてきた。

 

「よぉ、メジロシュトラール。逃げずに来たな」

「元々参加するつもりだったからね」

「⋯⋯ちっ、そうかよ」

 

 え。なんで舌打ちされたんだ? 

 不機嫌そうな雰囲気を隠そうともせず、シルクライトネスは唾でも吐き捨てそうな後ろ姿で去っていった。

 やっぱり、ガラが悪い。

 

「シュトラールちゃん! 頑張って!」

「流石にアレに負けるのだけはやめてね? しかも、アタシにも飛び火しそうだし」

 

 応援してくれるサニーと、あと多分応援してくれているドーベルに手を振りながら歩み寄る。

 応援してくれる人が居るのと、居らずに完全アウェーとではやはり前者の方が良い。

 

「まあ、僕の進退も懸かっているからね。本気で走るよ」

「そうね。それに、そうじゃないとああいうタイプはいつまでも突っかかってくるだろうし」

「あー、シルクライトネスさんはかなり気性が荒いからね」

 

 あの雰囲気だと、レースの最中にも妨害を仕掛けてきそうだ。

 流石にそれは無いとそう思いたいが、メジロという名前に並々ならぬ敵愾心を抱いているみたいだし、今回のレースで勝っても終わらなそうな気がする。

 どうしたものか。

 

 

『それでは、芝1800メートル、第一レースに参加する生徒は所定の位置にお集まりください』

 

 

 アナウンスが促す第一レース。

 その声に惹かれてグラウンドの方を見遣る。

 僕は第二レースに参加する予定だが、この第一レースにはあのウマ娘がいる。

 このレースは少しだけ興味がある。

 当のウマ娘は簡単に見つけられた。というより、気づいて欲しそうにこちらを見ていたので仕方なく目を合わせてやると、彼女は満足げに頷いて観客席を見渡す。

 

 

「皆さん、申し訳ありませんが、この私キンイロリョテイが勝ちます。先輩であっても例外はありません、どうぞよろしく」

 

 

 そう言って、パドックでやるように観客の目の前でジャージの上を脱ぎ捨てた僕の同室相手、キンイロリョテイは誇らしげに体躯に見合わず大きめな胸を張った。

 ⋯⋯確かに、普段の傲岸不遜な態度の裏付けとしてはこれ以上無いくらい見事なプロポーションだ。これをトレーナーの手を借りずに一人で作り上げたのだとしたら、相当である。

 周りの先輩方は彼女に苛立ちを多分に含んだ視線を向けているが、あるいはそんな先輩方を抜き去ってキンイロリョテイが勝つかもしれないと僕は思っていた。

 

『それでは、位置について』

 

 それぞれウマ娘達が並ぶ。

 キンイロリョテイは大外の十二番、脚質は知らないが余裕の様子を崩そうとしないあたり、差しや追い込みに適性があるのかもしれない。

 

『スタートッ!』

「「っ!」」

 

 その掛け声に、弾かれるようにして十二人のウマ娘が駆け出した。

 二人が開始直後から逃げ、競り合う中、先行策の五人が好位争い、様子を窺う差し組の中でキンイロリョテイは悠々と最後尾を走っている。追い込み、という程の力の抜き様ではないが差しにしてはかなり緩く走っていた。

 

「キンイロリョテイさんは、大分冷静に走るんだね」

「そうね、普段はあんな感じなのに」

 

 レースは結構なスローペースで進み、キンイロリョテイは全く動く様子も無く。

 しかし、第三コーナーに差し掛かったところで、展開が動いた。

 

『おぉっと!? 十二番キンイロリョテイが動いた! 凄い足でカーブを外から回っていく!』

「⋯⋯へぇ」

 

 カーブは、内側になればなるほど減速せねばならず、必然的に逃げや先行のウマ娘は失速する。差しのウマ娘はそこから先が勝負どころとなる場合が多い。

 キンイロリョテイもその例に漏れず、第三コーナーから仕掛けてくると踏んでいたが、まさかここまでとは。

 加速が、上級生の中でも群を抜いている。

 

『凄い凄い! 凄まじい末脚が炸裂している!』

 

 もう今の時点でかなりの速度を出しているが、当のキンイロリョテイにはまだ余裕がありそうだ。

 粘っていた逃げの上級生を追い越して、一人抜け出してさらに加速していく。

 

『上級生を歯牙にもかけないごぼう抜きを見せ、キンイロリョテイ、今二バ身差でゴール!!』

 

 そのままキンイロリョテイは一着でゴール板を駆け抜けた。

 キンイロリョテイのあの自信は、なにも過剰であったわけではないらしい。それを証明するかの如く、圧倒的な試合運びであった。

 

「⋯⋯結構やるわね」

「ああ。これは、間違いなく立ち塞がってくるだろうね」

 

 ドーベルが感嘆するのも無理は無い。僕も勝つかもしれないとは思っていたが、まさかこれほどまでとは思ってもみなかった。

 ドーベルが進む予定のティアラ路線にはきっと出てこないだろう。

 恐らく、彼女が狙うのは僕と同じくクラシック三冠。大きな障害となること間違いない。

 

 ⋯⋯さて、次のレースの呼び掛けはもう少し後だろう。

 彼女の走りでほんの少しだけ気持ちが昂ってしまった。なんでも良いから身体を動かしたい。

 そう思って、最後に軽く柔軟体操でもしようとグラウンドに出ると、キンイロリョテイが得意気な顔で歩いてくるのが見えた。

 

「メジロシュトラールさん、見ていてくれましたか? これが私の走りです」

「ああ、見ていたよ。正直驚いた」

「でしょう、でしょうとも。私の走りは上級生すらコテンパンにできると、白日の下に晒されたわけです」

「まあ、そうだね」

「要するに、上級生には私の相手になるウマ娘はもう居ないということですよ!」

 

 それは流石にどうかと思うが。

 とはいえ、実際に彼女は上級生と走り、楽々と勝利をもぎ取って見せた。少しは説得力もある。

 それに、勝って嬉しそうにする彼女にわざわざ水を差す必要も無いだろう。

 

「つまり、メジロシュトラールさんも超優秀な私を頼ってくれて良いんですよ? そして私は寛大なので⋯⋯お友達になってあげても良い、ですよ⋯⋯? 

「あぁ、それは大丈夫」

「なっ!? ちょっと、それは大丈夫ってどういうことですか!?」

 

 最後の方は声がか細くて聞き取れなかったけど、そこは即答する。

 

 ライバル候補の胸を借りるつもりは今のところ無い。

 ドーベルとは昔馴染みで兄妹のように暮らしてきたから、一先ずぶつかる予定の無いクラシックまでは互いに協力するつもりだ。⋯⋯誰が何と言おうと兄妹である。姉妹ではない。

 マックイーンやライアンは僕と狙うところが同じだから、そうとも言ってられないが。

 

『準備が整いましたので、第二レースにエントリーしている生徒は所定の位置にお集まりください』

 

 キンイロリョテイが何事かを喚いていたが、無視してスタート位置まで向かう。

 先程のキンイロリョテイの走りを見たからか、先輩方も気合いの入り方が違うように感じる。

 新入生である僕メジロシュトラールと、そして彼女、

 

 

「あのうるせぇアイツもまあまあやるみてえだが、アタシには関係無い。アタシは、メジロシュトラール、アンタをぶっ潰すだけだ」

「⋯⋯望むところだ」

 

 

 シルクライトネスが自分達の走りを脅かしかねないと、先輩方は警戒しているのだ。

 その気持ちは分かる。

 トレーナーを得たい先輩方の焦りも大いに分かるが、僕だって譲れないんだ。

 

 やりづらいことこの上ないが、やるしかないだろう。

 全員、最終直線で抜く。

 

 悪いが君もだ、シルクライトネス。

 

 隣に立つ彼女を一瞥することなどない。

 僕は前を見据えると、ただただその時を待った。

 

 

 □

 

 

「⋯⋯っ」

 

 隣に立つメジロのお嬢様から滲み出る、お嬢様とは思えないくらい恐ろしく冷たい覇気がアタシを突き刺す。

 

 ああ、クソ。クソッタレが。

 

 薄々分かっちゃいたが、他のお気楽なヤツと違って、コイツも色々背負ってんのか。

 本当に、嫌になるな。

 

 だけど、泣き虫のアイツの為にも、アタシは負けるわけにはいかないんだ。

 

 見てろよ、エリモジェントル。

 落ちこぼれのアタシの走りで、臆病なお前だってやれるってこと、証明してやる。




 感想やアドバイスなどありましたら、気兼ねなくよろしくお願いします。

主人公の同期チームメイトは?(オリジナルウマ娘編)

  • サンデイブライアン
  • シルクライトネス
  • キンイロリョテイ
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