シュトラール・イン・シュテルンツェルト 作:一意専心
本当ならこの話の後にアンケートを開始するべきだったと、今更ながらに後悔。
サンデイブライアンはスペちゃん枠。
『本日第二レース、芝1800コース、出場ウマ娘が出揃いました』
何処を見ても、腑抜けた面が揃ってやがる。センパイも大したことなさそうだ。
やっぱり、一番警戒しなきゃなんねえのはお嬢様ただ一人。
お嬢様を倒した後も、アタシは並み居る同期を、そしてふんぞり返ってる皇帝サマだって倒さなきゃならない。
アタシには、その全員をぶっ潰さなきゃならねえ使命がある。
「負けても悪く思うなよ」
「⋯⋯ああ」
「⋯⋯ちっ」
⋯⋯クソ。
何処までも落ち着き払ってやがる。アタシなんか敵ですらないってことか。
アタシより重いもん背負ってるっていうのか。顔色ひとつ変えず。
そんなコイツに腹が立つ。
でもって、この二週間、コイツに勝てるビジョンが浮かばなかったアタシのことが一番腹が立つ。
『先のキンイロリョテイもそうでしたが、今年は有望株が揃っていますね』
あの日、アイツの走りを見てから、アタシは本気のウマ娘の強さってモノを知っちまった。
もう今までのアタシみたいに、ほんの少しの才能だけでムカつくヤツやアイツをいじめるヤツを走りで負かせてなんてことは出来ない。
お嬢様に始まって、お嬢様二号やさっきの自信過剰野郎に、何考えてんのか分かんねえあのウマ娘は、ガチだ。
けど、アタシにだって負けられねえ理由があんだよ。
『各ウマ娘、位置について』
こんなアタシより余っ程才能があって、いっつもビクビクしてるけど良いヤツで。
そんなアイツに託されてきてんだ、アタシは。
『スタートッ!!』
その掛け声に、一斉に駆け出した。
好位を争う逃げ、先行組を他所に、差し組に包囲されないよう後ろに下がる。
横目でちらりと窺えば、追い込み組はアタシとお嬢様の二人だけ。
またとない機会だ。
今のアタシの全力で、コイツを超える。
『最初の直線、誰も彼もが出方を窺う展開!』
普通なら、まだまだ仕掛け始めるには早い。
しかし、いやにスローペースだ。呑まれんのも面倒だし、仕掛けるなら早めの方が良いか。
直線も終わりに差し掛かって、一歩、また一歩と踏み込む足に力を込める。
風を切り、過ぎ去る視界の中でアタシ以外は遅過ぎる。
『おぉっと、早くもここでシルクライトネスが仕掛けた! 大外を回っていく!』
「「む、無理ぃ〜!」」
コーナーを大外から回って、遅い展開に呑まれかかっているセンパイを抜かしていけば、何人かは釣られて加速して自爆していく。
その自爆して垂れたセンパイにお嬢様が阻まれてくれたら、なんて打算もあるがきっと思い通りにはならないだろう。
スイスイとセンパイを抜かしていくお嬢様の顔には、苦にした様子ひとつない。
『シルクライトネス、どんどん抜かしていきます! これは上級生も為す術無しか!?』
あと二人。
あと一人。
「無理ぃっ!?」
最後の一人を抜かして、未だアタシに余力はある。
まだまだ足は残ってるんだ。アタシに勝ちの目は十分。まずは確実に一勝!
これでアタシが⋯⋯!
『来た! ここでメジロシュトラールだ! 凄まじい足で内側を突く!』
アタシの走る反対側がにわかに騒がしくなった。
実況が驚嘆に声を上げる。観客も同様だった。
けれど、残り200メートル。もうゴールは見えている。
このまま、譲らなければ問題無い。
『なんと!? メジロシュトラール、さらに加速していく! 脚色は衰えない!』
はたと気が付いた時、アタシは
何が何だか、分からなかった。
前を走っていたはずだ。そのアタシが追走していることに気が付いた時には、もう手遅れだった。
前を走る後ろ姿の、靡く白いマフラーが遠い。
遠過ぎる。
⋯⋯なんで? どうしてだ?
試合運びは完璧だった。
どうして、アタシはその背を追い掛けている?
何故、こんなにも
『メジロシュトラール、実力を遺憾無く発揮して、今一着でゴールイン!! 追い縋るシルクライトネスは四バ身差! 強い! 新入生にあるまじき強さだ!!』
その遠過ぎる背中を眺めながら、アタシはただ呆然とするしかなかった。
□
「凄い! 凄いよシュトラールちゃん!」
「お疲れ」
「ありがとう、サニー、ドーベル」
本当に凄い。
凄いとしか言えない走りだった。
先輩をどんどん抜かしていって、最後にはシルクライトネスさんも追い越して。あそこに私がいたら、きっと路傍の石ころにすらなれない。
私なんかじゃ絶対に出来ないような、そんな走りだった。
けど今度の選抜レース、私も頑張ってみようって、そう思わせてくれる走りをシュトラールちゃんは見せてくれた。
「今度の選抜レース、私もやれるだけやってみる!」
「ああ。頑張ってね、サニー」
「⋯⋯アタシも、シュトラールに埋もれないように走るから、そのつもりで」
「う、うん!」
そっか、ドーベルちゃんとも次はぶつかるかもしれないんだ。シュトラールちゃんに負けず劣らず強いあのドーベルちゃんと⋯⋯。
でも、二人に追い付くって誓ったんだから、私の全力でぶつかっていくしかないよね。
「私、二人に追い付けるように頑張るね!」
「ああ、楽しみにしてる」
「ええ、アタシも」
こんな素敵な友達と、こんな熱い青春を送れるなんて、トレセン学園に入って良かった!
私、サンデイブライアン、頑張ります!
□
「⋯⋯やりますね」
流石は私のルームメイト。
圧巻の走りは、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ私の走りを超えているところが無くも有りませんでした。
さっきはどういうつもりか、この未来の最強ウマ娘である私の友達になるという名誉を拒まれましたけど、あの走りを超えたら、メジロシュトラールさんも私の友達になりたいと懇願するはず。
「⋯⋯あの、ちょっとごめんなさい」
「え? あ、はい、どうぞ」
恐る恐るといった声、首だけ振り返って見れば彼女は同期のサイレンススズカさん。
彼女には悪い事をしてしまいましたね。道を通せんぼしているとは思いませんでしたね。
この素晴らしい私が邪魔だなんて、本当は言いたくはなかったに違いありません。だから、罪悪感であんなに声が小さくなってしまっていたのでしょう。
その時、私の天才的な脳裏に閃光が走りました。
つまり、彼女は友達が居ないのでしょう。
ならば、この私が彼女の友達第一号になってあげなければ。
「サイレンススズカさん、もしよろしければ私が「何一人で突っ立って喋ってんだよ」へ?」
勢い良く振り向いた私の前には、先程メジロシュトラールさんに惨敗したシルクライトネスさんの姿が。
しかし、その姿はどこか弱々しいもの。
あまりライバルになるかもしれない人に塩を送るような真似はしたくないんですけどね。
「貴女はメジロシュトラールさんに惨敗したシルクライトネスさんじゃありませんか」
「⋯⋯あ゛あ゛?」
「ひっ⋯⋯そ、そんな風に睨み付けても、現状は私の方が強いんですから何も言い返せないでしょう?」
「⋯⋯っ」
けど、それは現状の話です。
あのレース、メジロシュトラールさんが異常であっただけで、私とシルクライトネスさんが戦っていたら負けていたのは私かもしれない。
それだけ、彼女の走りは強かった。それは認めます。負けてますけど。
「だから、私は貴女に勝負を挑みます」
「はぁ?」
「私は一勝、貴女は一敗。ですが私はまだ貴女と戦っていない、それ即ちまだ勝っていないということ」
ならば、勝つ為には戦うしかない。
それがウマ娘として生まれた私たちの宿命。
「私と戦え、シルクライトネスさん。私は強いですから、貴女は負けてしまうでしょうけど」
「⋯⋯くく、くくくく」
「?」
唖然としていたシルクライトネスさんは、どうしてか堪えるように笑い出す。
あれ、私何か変なこと言いましたか。
「くくく、お前、励ましてるつもりかよ」
「え、いえそんなつもりは」
「はっ、お前の名前は?」
ふむ。
名前を聞かれたなら、答えて差し上げるのが未来の最強ウマ娘である私の義務。
「私はキンイロリョテイ、黄金の旅路を往く者です。この世代のトップに立つので、覚えておくと良いです」
「アタシはシルクライトネスだ「知ってますけど」⋯⋯ったく、首洗って待ってろよ」
⋯⋯ふふ。
何はともあれ、少しは持ち直してくれたみたいで何よりですね。
「⋯⋯アイツにも謝っとかねえとな」
「?」
なにやらシルクライトネスさんの独り言は聞き取ること叶いませんでしたが、どうせ些事。
まずは目指せ、メジロシュトラールさん打倒! ついでにシルクライトネスさん打倒も!
さあ、私の黄金の旅路はこれからです!
感想やアドバイスなどありましたら、気兼ねなくよろしくお願いします。
ちょっと内容が投げやりになってる感も否めないので、もしかしたら一瞬だけ更新途切れるかもしれません。ご理解下さい。
主人公の同期チームメイトは?(オリジナルウマ娘編)
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サンデイブライアン
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シルクライトネス
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キンイロリョテイ