シュトラール・イン・シュテルンツェルト   作:一意専心

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 お祖母様ってこんな感じでしょうか⋯⋯。あまり情報量の無い原作キャラは難しい⋯⋯。次回は恐らくその他のメジロ家とご対面。


第二話 劣等生

 何の変哲もない短めな一生を終えて、どういう因果か本当に転生。

 メジロシュトラールとしてこの世に生を受けてからはや五年。

 

 この五年間、僕は常に驚嘆させられっぱなしであった。

 

 まず挙げるべき事柄は、なんと言っても前世とは性別が違うということだ。

 というか、そもそもの話として種族が違った。

 

『ウマ娘』。

 

 僕はそう呼ばれる存在らしい。所謂馬のような耳と尻尾を持ち、馬と似たような体質を持つ霊長類の一種という扱いだ。

 この世界は前世の日本とほとんど相違無く、唯一と言っても良い違いがこのウマ娘なる存在の有無のみ。

 教えられた知識から推測するに、異世界、恐らくは僕の前世の世界で活躍した競走馬達の名前を受け継いでいるようだ。

 逆に、僕が知っているような前世で言う馬は存在しない。

 表記もウマとかバになっており、ごく一部で馬っぽい字が使われているくらいだ。試しに僕の知る馬という字を書いたら漢字間違いとしておばあさまに正されたのは記憶に新しい。

 せっかく転生したからには今までとは一線を画すような体験をしたいなんて我ながら手前勝手過ぎる期待を寄せていたが、まさかこういう形になるとは予想だにもしていなかった。

 

 それともうひとつ前世より大きく違う点があるとすれば、この世界では前世で言うオリンピックレベル、またはそれ以上にウマ娘達による競走、競馬が浸透していることか。

 ただ、賭け事と言うよりかは本当にアスリートのソレ。

 前世じゃ競馬というものに欠片程の縁もゆかりも無い人間であった僕からすればこの世界の一般常識には違和感しかなかったが、しかしこうも国民的世界的となれば賭け事に対する忌避感、もしくは競馬に対する賭け事というイメージが薄れていくのは必然的であった。

 今は受け容れているし、ちゃんと納得も理解もしている。

 

 それに拍車をかけるようだが、僕の生まれた家、メジロ家の存在も大きかった。

 メジロ家は、代々優秀なウマ娘を輩出してきた名門と呼ばれるような家系らしい。家にはそこかしこにトロフィーや盾が飾られていた。

 

 僕もそんなメジロ家のウマ娘として恥じない戦績を、特に天皇賞の盾を持ち帰ることを期待されている。

 その為に、本格化もまだまだ先である幼児期から既にトレーニングを積むことを課されていた。

 

 最初は慣れない感覚に戸惑い、幼児にやらせるとは思えないような厳しいトレーニングに悪態をついていたものだが、ウマ娘だからか走ること自体は好きらしく、いつの間にかトレーニングを自分から積極的にこなすようにもなっていた。

 転生したのだ。何かやりたい。なんでも良い。努力の実を結ばせたい。そう思えば思うほどに、僕のやる気は燃え上がった。自分のことながら現金極まりない。

 

「シュトラールさん」

「⋯⋯はい、おばあさま」

 

 ⋯⋯トレーニング中に余計なことを考えていたのがバレてしまっただろうか。

 現役を退いて長いおばあさまであるが、信じられないくらいその眼光は覇気に満ちていた。

 全てを見透かされているような、そんな錯覚すら覚えるようなおばあさまの指導は的確で、僕以上に僕のことを理解しているのではと考えてしまう程である。

 

「差しと追い込み、貴女にはこの二つを武器に出来る脚質が備わっています。まずはこの二つを使いこなせるようにならなくてはなりません」

 

 ウマ娘の走りには大別して、最初から全力で飛ばしていく逃げ、逃げを追い掛け途中から全力になる先行、後方から力を温存して隙を窺う差し、最後尾から徐々に上げていく追い込みの四種がある。

 僕には、その中でも差しと追い込みの才能があるらしかった。

 

 だが、僕には一つだけ()()がある。

 

「貴女は、少しばかり身体に恵まれていません。しかし、その身体の強化を終えた時、貴女は生粋のステイヤーとして開花することは間違いない」

「⋯⋯はい」

 

 僕としては普通に幼児なんてこんなものだと思うのだが、おばあさまに言わせてみれば僕の体格はウマ娘として劣等生らしい。

 そこまでハッキリと言われたわけではないが、少し考えたら考えていることくらい分かる。

 体格さえもう少し恵まれていればと、そう言う感じの無念さが伝わってくるのだ。

 

 けれど、僕は同時にこうも思った。

 

 そんな僕が実績を、天皇賞・春辺りを勝ち取れたならば、それは僕が生きた()()そのものになるのではないか、と。

 

「おばあさま、僕はやります。絶対に、メジロ家に盾を持ち帰ってみせます」

「期待していますよ、シュトラールさん」

 

 僕は、その言葉に強く頷いて、もう一度ターフを蹴るのであった。

 

 

 □

 

 

「はぁあっ!」

 

 グラウンドを駆ける孫を、ただ見つめる。出来うる限りのアドバイスをするべく、ひとつの問題点も見逃しはしない。

 

 ⋯⋯いいえ、むしろ問題点だらけと言うべきでしょうか。

 

 体格は悪く、タイムもこの年代という点を加味しても良いとは言えない。

 五歳の子供とは思えないほどに聡明な彼女ならば、私の言葉の真意も分かっているはずです。

 

 けれども、それを伝えることなんて出来るはずもない。

 

 それに、思うのです。

 

「⋯⋯もう一本お願いします」

 

 伸び悩むタイムを見ても、折れることなく挑み続ける彼女。

 そんな彼女ならば、本当にメジロ家に春を齎してくれるのではないか、と。

 暗雲のさなかに差し込む光となってくれるのではないか、とそう思うのです。

 

 だから、私は彼女を応援し続ける。

 

 ウマ娘として、本懐を果たすその日まで。




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