シュトラール・イン・シュテルンツェルト   作:一意専心

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 ウマ娘時空における世代って意味分からないですよね(
 なので、ある程度アニメの方に準拠して、所々でアプリの設定やらと史実を絡める形にしたいと思います。


第四話 メジロの同期

「はっ、はっ、はっ」

 

 森の中に作られた、ウマ娘基準で言えばかなり小さな芝コース。

 ほとんど誰も来ないここで一人、追加トレーニングに勤しむのが僕の日課となっていた。

 

「はっ、はっ、はっ⋯⋯っ!」

 

 ターフに力強く踏み込み、ラストスパートにかけて徐々に速度を上げていく。

 三十周目。そろそろ足と肺が苦しくなってきたか。

 だが、そこからが肝心だ。限界を突き詰めていかなければ、僕の身体は強くならない。僕の想いに付いてきてくれる肉体は生まれない。

 

「はぁっ!」

 

 残り100m。最高速に乗って駆け抜ける。

 だが、遅い(・・)

 勿論、生身の人間などとは比べるまでもなく早い。しかし余裕の有る無しに関わらず、僕の最高速は九歳になってもウマ娘としては大したことは無かった。

 

 けれど、決め手にこそ欠けるものの、こと長距離に関してはかなり仕上がってきたように思う。そこは素直に喜びたい。同年代の他のメジロ家のウマ娘と比べても、僕の脚は何倍も長く使えた。

 長距離ランナーのことをステイヤーと言うらしいのだが、僕にはそのステイヤーとしての素質が大いにあるらしい。ステイヤーは中距離においてもそれなりにやれるウマ娘が多いらしいので、活躍の幅が広がるのは僕としても願ったり叶ったりだ。

 

 もう一周、そう思って踏み込もうとしたその時であった。

 

「シュトラールさん」

 

 おばあさまの声に呼び止められる。

 しまったと思った。

 何せ、今日の分のトレーニングは既に終わっているのだ。

 僕がハードトレーニングを積んでいるということはおばあさまには伝えていないこと。

 それをまさか本人に見られてしまうとは。

 

 これで、ノルマ以上のトレーニングを禁止されては困る。

 どう弁明しようかと頭を回していると、おばあさまの後ろに隠れる同じくらいの背丈の人影が目に付いた。

 

「ドーベル⋯⋯?」

「⋯⋯シュトラール」

 

 メジロドーベル。

 僕と同い年のウマ娘で、彼女の方が若干黒味を帯びているものの、よく似た色合いの長髪が綺麗な将来美人になりそうな顔立ちの少女である。僕やマックイーンとは違い、ステイヤーよりも中距離やマイル向きのスピードが出せるウマ娘だ。それは、時々メジロ家内で行われる模擬レースでの彼女の走りを見た時から確信していた。

 

 もしかして彼女がおばあさまに報告したのだろうか。

 そう考えたが、すぐにそれはないと思い至る。

 

 僕と彼女は同い年だが、話したことはほとんどない。

 僕としては身の回りにあまりいない同年代のウマ娘である彼女と交流したかったのだが、なんとなく彼女に避けられているような気がしたので、こちらから話し掛けることも出来ず。

 九年間、まともに会話したことすらないのだ。

 ほとんど接点の無い彼女が、僕のことをおばあさまに密告するとは思えない。

 

「シュトラールさん、貴女、ここ最近は特にオーバーワークが加熱しているようですね」

「え」

 

 その口振りからすると、もしかして誰かに密告されるまでもなくおばあさまにはバレていたとでも言うのか。

 いや、この人の慧眼ならばそれもおかしくは無いと思えてしまうのが恐ろしい話だ。

 

 呆然とする僕を他所に、おばあさまは続ける。

 

「本当はそんなオーバーワークは今にも止めさせたいところですが、ひとつ提案があります」

「⋯⋯提案?」

 

 提案、というのが今もなお警戒心を露わにしてこちらを見つめるメジロドーベルに関係しているだろうことはすぐに分かった。

 

「今後、追加で自主トレーニングを行うと言うのであれば、この子と一緒にやること。その条件が呑めるなら、ある程度のオーバーワークにも目を瞑りましょう」

 

 なるほど、そう来たか。

 おばあさまとしても、僕がオーバーワーク気味でも自主トレーニングに打ち込むのを止めたくはない。けれども、過剰になればそれは毒となる。

 だから、ドーベルと一緒にトレーニングさせることで、ドーベルにも鍛錬を積ませ、僕のやり過ぎを緩和する狙いがあるのだろう。

 

 まあ、確かに最近はちょっとやりすぎな気もしていたし。

 

「⋯⋯分かりました」

「それは結構。ですが、今日はもう時間も時間です。切り上げては如何ですか?」

 

 提案を受け入れると、おばあさまは満足気に頷いた。

 

 言われてふとじいやから貰った腕時計に視線を落とすと、時刻は十八時を回っていた。

 いつもなら十九時くらいまでやるのだが、中断もあったし今日はもう続ける気にはなれない。

 

 明日からの自主トレーニングはどうしようかなどと考えながら、僕はおばあさま達の後を追い掛けて帰路に着くのであった。

 

 

 □

 

 

「じゃあ、今日も一日頑張ろうか」

「頑張るって言っても、もうノルマは終わってるけど」

「まあ、それはそれとして」

 

 ストレッチをしながら、少し辛辣気味に言葉を投げるが、シュトラールは飄々とした態度を崩さない。

 

 昔から、シュトラールのことは苦手だった。

 どこか大人びていて、冷静で、他のメジロの子達とも線を引いていたのは知っている。

 けど、アタシが彼女のことを苦手に思っているのは、その雰囲気故だ。

 

 アタシは男の人が怖い。視線でも何でもだ。

 シュトラールは、物腰穏やかで中性的な話し方をする。そのせいなのか、どうにも彼女と話すと大人の男性と話しているようなイメージを抱いてしまうのだ。

 

 せっかく唯一の同い年なのだから、話してみたいとは思うものの、上記の理由からなかなか上手くいかず。

 結局狡いアタシは、シュトラールが自主トレーニングをやり過ぎていることをおばあさまに密告した。アタシを一緒にトレーニングさせるよう説得することも頼んだ。

 おばあさまはアタシが密告するまでもなく知っている様子だったが、私の頼み事を聞いた時は珍しく嬉しそうな風だった。

 

 シュトラールは、自分のことを未熟者だとか劣等生だとか卑下するけど、シュトラールのことをそう思っているのは多分シュトラール本人だけだろう。

 日々のトレーニングは裏切らない。それを実証するかのように、彼女はステイヤーとしてどんどん強くなっていっている。何れは、手が届かないところにまで行ってしまうくらいに。それが分かる。

 

 アタシはそんなシュトラールに追いつきたい。

 置いて行かれたくない。

 だって、同い年だから。子供っぽい理由だけど、アタシにとってはそれで十分だった。

 

「ほら、後五周したら休憩だから頑張ろう」

「っ、まだまだっ!」

「⋯⋯へえ。じゃあ、僕も⋯⋯っ!!」

 

 アタシの加速に合わせて、さらに加速するシュトラール。その距離は縮まることなく、一定間隔で変わらない。

 並ぶどころか後ろに追い付くのもまだまだ先になりそうだ。

 だけど諦めない。だから、アタシは今日もシュトラールの背を追い掛ける。

 

 いつか隣に並べる日を夢見て。




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