ゴミでカスなクズトレーナーは今日も今日とてウマ娘を虐待する。   作:カチュー

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注意:ライスシャワーさんはとても緊張されています。


#14 中山レース場 GⅠ ホープフルステークス 芝2000m/泡沫の夢

 ゲートに集結したウマ娘。まもなくジュニア期の総決算である闘いが始まる。

 

 ライスシャワーの隣のゲートに入る予定だったウマ娘は緊張をほぐす目的もあり、意を決してライスシャワーに話しかけようとした。

 

 それに、勝つためには相手を知ることも大切だから。

 

「ね、ねえ! わたしのこと、覚えてるかな? 確かにあのレースでの君は凄かったけど……今日はわた」

 

 しかし、その選択は失敗だった。

 

「……潰す、潰す、潰す、潰す、潰す」

 

「ひぃ!?」

 

……目線を芝に向けたライスシャワーは彼女を無視し、ひたすらに剣吞な言葉を呟いていた。

 

(なんなの、この子……!? 思った以上にずっとヤバめじゃん……)

 

 ライスシャワーの威圧感に飲まれ、ゲートに入ってからも囁かれた彼女は既に涙目になっていた。

 

(でも、今日はわたしが勝つもん! 人よりちょっとポジティブなのがわたしの取り柄! あの子に勝つためにわたしはここに来たんだから!)

 

 前走でライスシャワーに完全敗北した幸薄ポジティブウマ娘はパンと顔を叩いて気合を入れ直すのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「全ての競バファンの皆様、お待たせしました! 本日のメインレース『ホープフルステークス』がいよいよ始まろうとしています! 天気は曇りでバ場はやや重となっております」

 

「本レースの注目は1番人気ライスシャワーでしょう。彼女を各ウマ娘がどのように対処するかにかかっていますね」

 

「前走で見せた後方一気のまくりは華々しい活躍を見せた三冠ウマ娘、ミスターシービーを思い出させますね。今日も豪脚で全てをちぎるのか! それとも、彼女の行く手を阻むウマ娘が出てくるのか!」

 

 ファンファーレが鳴り響く中、会場のボルテージは最高潮に達していた。ゲートインしたウマ娘たちもまた初めての大舞台に武者震いを起こしていた。

 

これからの希望と未来に向けた大一番がはじまるのだ。このレースにはなんとしても勝ちたかった。

 

「さあ、今年の希望と未来のチケットは誰が掴むのか! さあ、ゲートが開いた!」

 

 だがこの年のホープフルステークスは――ゲートが開いた瞬間に勝負が決まった。

 

「ホープフルステークス、とうとう始まりました! 各ウマ娘一斉に飛び出してい……ああっ!? なんとライスシャワーが猛烈な加速で開幕から一気に先頭に飛び出していった! リードを4バ身、5バ身とどんどんつけていく!」

 

「お、驚きました。この展開は予想していませんでした……!」

 

「驚愕です! 後方に待機すると思われていたライスシャワー、本レースは大逃げ! まさかの大逃げです! 観客たちのどよめき一色となりました中山レース場! これは波乱の展開だ!」

 

 漆黒の影がどんどんとターフを突き進んでいく光景に観客のみならず、全ウマ娘とウマ娘たちのトレーナーに多大なる動揺を与えたのは言うまでもない。

 

 積み上げてきた作戦が全て足元から崩れたのだ。だが……

 

「1000mを通過! タイムは……57.3!? 超ハイペースだ! 果たして最後まで持つのか!?」

 

(あの子、逃げもできるの!? で、でもこのペースならッ!)

 

 ライスシャワーの逃げはペース配分を無視した破滅的な逃げであった。だからこそ、最初は焦りに焦ったウマ娘たちも余裕が生まれた。

 

 あの後方から襲い掛かってくる異次元の末脚はもう発揮されない。

 

 ポジションを気に掛ける必要もなくなり、ウマ娘一同は相当気が楽になった。勝負をかける時はライスシャワーが垂れた瞬間だ。

 

「おっと、1200mを通過したライスシャワーが大きく減速し始めたぞ!? 20バ身ほどついていた距離が少しずつ縮まっていく!」

 

「やはり、この大舞台による緊張でかかってしまっていたのでしょうか……」

 

「これは必然のトラブルか!? 勝負はまだわからないぞ! ここからが本当の勝負! 後続ウマ娘がライスシャワーへと脚を伸ばしていく! あの遠かった漆黒の小さな背中にとうとう追いついてきた! 第4コーナーを通過し、直線に向かう! ライスシャワーと2着まで約6バ身差だ!」

 

((((いけるッ! 勝てるッ!))))

 

 後方で脚を溜めていたウマ娘たちはターゲットを射程圏内まで捉えたことで内心ほくそ笑んだ。

 

 後は直線で捲るだけ。中山の直線は短いが、脚が残っていないライスシャワーはもう取るに足らない存在――のはずだった。

 

 

――ドガンッ! 

 

「な、なんと! ここで脚を使い果たしたと思われたライスシャワーが加速する! 一気に心臓破りの坂でスパートをかけるッ! ライスシャワー、あっという間に追いつきかけた後続を突き放した! なんという速さ! あの京都ステークスの末脚は健在だッ」

  

 突如、芝を抉る足音がレースを見学していたウマ娘たちの耳まで届いた。無論、出走中のウマ娘の方が暴虐的な踏み込み音に恐怖心を煽られたのは言うまでもない。

 

 爆発音のような音と足元がぐらりと揺らいだかと錯覚させる衝撃と共にライスシャワーはゴール直前の急勾配の坂をまるで飛ぶように進んでいく。

 

(わ、わたしも行かないと……な、なんで!? 全然脚が前に行かない!?)

 

 一方、同じくラストスパートをかけようとした後方にいるウマ娘たちは坂で大幅に失速する。足が鉛のついたように重くなり、進む意思に反して肉体が前に進もうとするのを拒んでいた。

 

 彼女たちは序盤から中盤にかけてペースを抑えていたつもりでも、ライスシャワーの大逃げに惑わされたことでペース配分を狂わされ、先に自分たちが垂れていたのだった。

 

 気が楽になったことで更にペースが乱されたのも原因だった。

 

 

 

――いい夢は見れた?

 

 

 

 そんな悪魔のごとき憐れみと嘲笑が決して希望に届かないウマ娘たちに問いかけられた。

 

 顕現した希望の殺戮者は後方にいるウマ娘たちが無謀にも抱いてしまった輝かしい夢や希望を嘲笑うために速度を上げていく。

 

 

「なんというウマ娘だ、ライスシャワー! 後続は全く上がってこられない! ここまでが彼女の描いたシナリオなのか!? 束の間に見えた希望は彼女が創造した虚像にすぎなかったのかッ! 逃げて追い込むライスシャワー、抜けた抜けた抜けた抜けた抜けたッ! 強い! 強すぎる! 大楽勝だ! まさに一強ッ! ライスシャワー、他バの追随を許さない独走で今ゴールイン!」

 

 

 蜘蛛の糸を垂らし、登りかけたところを寸前で断ち切る無慈悲すぎる勝ち方。

 しかし裏を返せば、素人目にもわかる圧巻の勝利に怒号のような歓声が会場を包み込んだ。

 

「掲示板にも大差の文字! 文句なしのレコードタイムだッ! 会場にはライスシャワーを称える割れんばかりの歓声が響き渡っています! 記録にも記憶にも語り継がれる圧巻のレースでした! これからのトゥインクルシリーズを担うのは間違いなくこの娘でしょう!」

 

「ライスシャワーと同じく無敗であるミホノブルボンとの直接対決も今から楽しみではありますが……ライスシャワーの強さは正直規格外ですね」

 

「果たして稀代の怪物を討ち取れる英雄はこの世代にいるのか! それは桜が舞い散る皐月の舞台で明らかになるでしょう!」

 

 そして、ライスシャワーに敗れた殆どのウマ娘たちが失ったものは希望だけではなかった。

 

『もう二度と走りたくない』

 

 原初から備わっているウマ娘が持つ本能すら、漆黒の簒奪者により奪われてしまった。

 

 かのレースに出走した半数以上のウマ娘がしばらくの間走ることにトラウマを抱き……さらにその半分はウマ娘としての未来を捨て、トレセン学園から去っていった。

 

 かつてのシンボリルドルフが勝利と栄光の象徴である“皇帝”ならば、ライスシャワーは敗北と絶望の亡骸共の上に君臨する“魔王”であった。

 




どうやったら劇的に希望から絶望へと叩き落とせるかを熟知している虐待ウマ娘の鑑。

次回はせっかく大舞台で大勝利を収めたウマ娘に対して、クズトレーナーが無慈悲にも虐待するお話です。
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