ゴミでカスなクズトレーナーは今日も今日とてウマ娘を虐待する。 作:カチュー
クズトレーナーは虐待面で超絶無能だった……?
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会場全体が耳がグワンってなるぐらいの大きな歓声が上がった瞬間にライスはようやく自分が勝ったことに気づいたんだ。
とても、とっても嬉しいよっ!
ウマ娘にとって至高のレースのG1を勝ったことだけじゃなくて……ライスはこんなたくさんの人に喜びを分け与えてあげられたことがほんとうに嬉しくて幸せで……!
ライスの夢は「人にしあわせを与えられるようなウマ娘になる」こと。
こんなダメダメな……ううん、ダメダメだったライスが他の人に幸せを与えられるようになったのは全てお兄さまのおかげ。
それにお兄さまと一緒にいたから、やっとライスはライス自身のことを少しだけ好きになれたんだよっ。
早く、早くお兄さまに会いたい!
いつものようにやさしく髪を撫でて欲しい。もっとライスを褒めて欲しい。そっと抱
きしめて欲しい。
レース後の疲れや興奮でボーッとなった頭をはっきりさせて、ライスは最前列で見守ってくれていたお兄さまの元へと走り寄っていった。
「お兄さま! ライス、やったよ! まるで夢みたい……G1も勝てちゃうなんて! 本当にありがとう! お兄さまに選んでもらえなければライスは今までずっとダメダメなままだったと思うの。これもぜんぶ……お兄さま?」
まくし立てるように嬉しさと幸せと感謝をお兄さまにぶつけたライスは――ここでお兄さまが少しも笑っていないことに気づいちゃったの。
その時のお兄さまの顔は能面のようでトレーニング時よりもはるかに表情を押し殺していた。
ちょっとした沈黙の後、やっとお兄さまは重々しく言葉を紡いだ。
「……誰があのような走りをしろといった?」
「え……あっ、その、ごめんなさい!」
「謝らなくていい。オレはお前にどんな指示を出した?」
「ご、ごめんなさい!」
「……謝るなっていってんだろうが! どうしてあんなバカな真似を……!」
「ごめんなさい!」
ライスは、はじめてお兄さまに本気で怒られた。
練習中に怒られたことは数えきれないほどあるけど、ここまで感情をむき出しにして怒りを表現したお兄さまは人が変わったみたいでとても怖かった。
ハッと息を飲み込んだお兄さまは頭を掻きむしると、ライスと目線を合わせることなく
「……よかったな、ライス。夢が叶って。ウイニングライブ楽しみにしてるから」
その場を静かに立ち去っていった――まるでライスのことを見限ったかのように。
「なんなんだ、アイツ。関係者席にいたし、アイツがライスシャワーのトレーナーなのか?」
「せっかく担当ウマ娘がぶっちぎりで勝ったのに、怒鳴りちらすことしか出来ないなんてマジでクソ野郎だな」
「あの娘が可哀そうよ。あんな男がトレーナーだなんて」
そして、先程の会話を聞いていた近くの観客の人たちはライスのことを晴れ舞台で怒ったお兄さまにブーイングを飛ばしていた。
――なんでお兄さまのことを悪く言うの? 悪いのは言うことを聞かなかったライスなんだよ。
会場全体がライスのことを讃えてくれる中、ライスの暖かなしあわせはどんどんと冷めていくばかりだった。
ずっと抱いてきた夢が叶ったはずのに辛いな。苦しいな。悲しいな。
夢が叶ったんだから、もっと嬉しさがこみ上げてきてもおかしくないのに……ああ、そっか。そうだったんだ。
――他の人にしあわせを与えることがライスの夢じゃなかったんだ。
お兄さまが近くにいないだけで、先程までの喜びや嬉しさは何も感じられない。
お兄さまが笑ってくれないだけで胸が張り裂けそうになる。
もう、どうしようもなくライスはお兄さまがいないとダメになっちゃった。
お兄さまに祝福を捧げることがライスの夢であり、お兄さまの傍にいる為に課せられた使命。
これからはちゃんと言うことを聞くよ。もうお兄さまのことを幻滅させたりしないよ。
もっとお兄さまが喜ぶような勝ち方をするから。
だから、ずっと傍にいさせてよお……! ライスのこと、見捨てないでよお……!
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本レースでのライスシャワーは見事な虐待をしてくれた。オレが描いた虐待絵図を凌駕する方法で、だ。
今回のレース、ライスシャワーは他陣営に確実にマークされることがわかっていた。
王道の先行策では今のライスシャワーは他バの間を抜け出すだけの技量もないのは明白。
よって普通の戦法ではかなり厳しいレース展開が予想できたオレがレース前にライスシャワーに与えた指示はこうだった。
競争相手の作戦を潰す。そのために開幕から逃げて囲まれる可能性を潰す。
追いつかれる可能性を潰す。そのために一定のタイムで走り抜けるようにする。
これが最も効率的で勝算の高い戦法だった。普通に走ってくれれば、ライスシャワーが負ける可能性は極めて低いから出した策。
それがあんな無茶苦茶な走りをするなんてよ……! 誰が許したと思ってんだ! クソが!
序盤からトップギアに速度を上げ、途中で無理やりローギアに戻して最後はいきなりスパートをかけた。
こんなギアチェンジを無視した走り方は体に尋常ではない負荷がかかっちまう。
恐らく緊張から慌てた結果だからだろうが……オレの大事な道具が自分勝手に壊れるのだけは絶対に許さねえ。
だから大人げなく公衆の面前でとんでもない危険な走りをしたライスシャワーにブチギレちまった。
ある意味で大勢の前でキレられたライスシャワーへの虐待がこなせて、今思えば結果オーライだったがな。
まだまだお前はオレを愉しませる必要があるんだよ、ライスシャワー。
これからもオレはお前を虐待し、お前は他のウマ娘を虐待するんだ。
もっとライスシャワーには躾が必要だってことが今日の走りでよくわかった。
オレとしたことがまだまだ甘かったぜ。嫌といっても絶対にやめないほど徹底的に体と思考に我が崇高なる虐待を叩き込んでやらねえとな!
――もう二度と壊れたウマ娘は見たくねえからな。
次は本作初のまともな登場人物であるマッドサイエンウマ娘のお話です。
もう書き貯めは出来ているので二日後に予約投稿済みです。