ゴミでカスなクズトレーナーは今日も今日とてウマ娘を虐待する。   作:カチュー

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#1裏 ライスの『お兄さま』

 

 どうしてライスがお兄さま――トレーナーさんに選ばれたのか、今でも不思議になることがあるの。

 

 選抜レースにすら怖くなって出られなくて、他の人を不幸にして泣くことしかできないだめだめなライスにお兄さまは……。

 

『ライスシャワー、君をスカウトさせてくれ! 頼む! 何でもするから!』

 

『……え、ほんとうにライスなんかでいいの? 選抜レースにすら出られないだめだめなウマ娘、なのに?』

 

『何を言っているんだ! 君みたいなウマ娘だからスカウトしたいんだ! まさに君は理想のウマ娘じゃないか!』

 

……ライスはすごいウマ娘じゃないのに、あの会長のような超一流のウマ娘に向けられるような期待と執念ともいえるほどの熱意でスカウトしてくれたんだ。

 

『うれしい、よ。でも、わかんないの……。どうして、ライスなの?』

 

『えー、あ……そうだなあ』

 

 言葉を詰まらせた後、ぽりぽりと頬をかき、照れくさそうにしたお兄さまはというと。

 

『辛そうな顔をしつつも、他のウマ娘より数倍以上のトレーニングを積んでいる努力家で自分を変えようと懸命な君を見てきたから。そんな君をオレは支えたいと思った。いや、支えさせてほしいんだ』

 

 

 今まで何も期待なんてされてこなかったライスにとって、お兄さまの言葉は自然と涙が出るほどとってもうれしかったんだ。

 

 でも、それ以上にライスに期待してくれている大事な人を裏切ることがとってもこわかった。

 

 だって、ライスは『しあわせの青いバラ』のようにせっかく選んでくれた人、その周りの人たちを幸せにできないってわかっていたから。ううん、そう思い込んでいたから。

 

 そうやって、デビュー戦すら怖がってボイコットしかけたライスに手を差し伸べてくれたのは――男子禁制のウマ娘寮舎に乗り込んできたお兄さまだった。

 

『君が変わろうとすることを諦めない限り、オレも絶対に君のことを諦めない』

 

『で、でもぉ……!』

 

『でも、じゃねえ! ライスシャワー、君はこのオレが今回のトレセン学園で選んだ初めてのウマ娘なんだぞ! もっと自信を持て! 大丈夫、必ず君は咲ける! 人々を、オレを幸せにできるから!』

 

 お兄さまのおかげでライスは恐怖を飲み込みレースに出走し、ギリギリで勝つことができた。

 そこではじめてレース場の人たちに歓喜と祝福を与え、ライスはそれをレース場の人から授かることができた。全部、お兄さまのおかげだ。

 

 

 この時、嬉しさと高揚感に身を包まれながら、ライスは決めたんだ。

 

 

 

――お兄さまがライスのことを望む限り、ずっとついていくんだって。

 

 

 

※ ※ ※

 

 お兄さまの指導はとっても厳しい。それにトレーニング中はいつも難しそうな顔をしていて、少しでもお兄さまの指導通りの動きができていなかったら、すぐに檄を飛ばすお兄さま。

 

 あまりお兄さまを知らない他の子にはきつめの指導内容も重なって怖がられているみたい。

 

 でも、ライスは知ってるよ。

 

『……まだまだ足りねえ。全然こんなもんじゃねえはずだ。もっと、もっと引き出せるはずだ。しっかりとメニューを練らねえと……』

 

 練習中に怖い顔で近寄りがたい雰囲気を出しているのは、ライス……ううん、担当ウマ娘のことを常に一番に気にかけてくれているからだよね。

 

『はあ、はあ……おわ、った!』

 

『……クク。よしよし! 今日もよくやり切ったな! いや、ほんとお前は偉いぞ、ライス!』

 

『お、お兄さま、くすぐったいよお……えへへ』

 

 練習後は穏やかに微笑みかけてくれて、よしよしと頭を撫でてくれるやさしいお兄さまが好き。

 

『……もっと、お兄さまに教わったように態勢を低くッ……あっ、っとと、あぶなかったあ……』

 

『……ライスッ!? 大丈夫か!? 足を見せろ! どこか捻った場所は!? 違和感はあるか!?』

 

『あ、あの、ライス、だいじょうぶだから、ふえっ!?』

 

『……ふくらはぎ、腿、アキレス腱、異常なし。なら、走れ! 今すぐ! 少しでも違和感があったらすぐに報告すること! わかったな!』

 

『は、はいぃ……!』

 

 練習中にほんの少し躓いただけでも作っている無表情を崩して、飛んできて触診をする心配性なお兄さまが好き。異常がないと分かった瞬間、すぐに檄を飛ばす熱血なところも好き。

 

 

 でね、最近のライスの楽しみのひとつは練習後にあるんだ。それはね、トレーナー室という二人きりの世界でのお兄さまの秘密の時間……。

 

「……あっ、ああっ。お、お兄さま……!」

 

「ふんッ! ふんッ」

 

「……あっ、あんっ……ふうっ……ああっ! ……ふ、深いとこにっ、来てるよぉ……」

 

「ふんッ! そらッ!」

 

「あっ、やめ、あっ……激しいよぉ……。お、おねがいっ……も、もうちょっとやさしく……!」

 

「うぇーい! わっしょいッ!」

 

「……ふあっ……あんっ! も、もう許してぇ……!」

 

 お兄さま自らが行うアフターケアをかねたマッサージの時間だった。最初はとっても痛くてつらかったけど、なんかそれがクセになってきちゃって……ライス、変な子になってきちゃったかな?

 

 ライスが痛そうな声を出すたびにちょっと嬉しそうにするお兄さまはほんのちょっぴりイジワルだ。

 

 だけど、そんなお兄さまの一面を知っているのがライスだけだと思うと、なんだか心の奥底から歓喜の感情がふつふつと湧き上がってくるの。

 

 それとライスの腰や腿にお兄さまの手が直接触れられるたびに、なんか体がぽかぽかってなってきちゃう。も、もうちょっと、足や腰だけじゃなくてもっと深いところにも触れて欲しいって思っちゃうライス、とってもわるい子だ……。

 

 お、お兄さまにそんな気はないのはも、もちろん、わ、わかってるよっ! お、おこがましいというか、その、ごめんなさい!

 

 ライス、ちんちくりんだし……最近、坂道往路トレーニングで一緒になるブルボンさんみたいに大きくないし……。

 

……はぁ。もうちょっと、牛乳飲むべきなのかなあ。

 


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