ゴミでカスなクズトレーナーは今日も今日とてウマ娘を虐待する。   作:カチュー

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ウマ娘2周年が始まっているので、こっそりと投稿を再開いたします。

この話の時系列は京都ステークスが終わった辺り。


#閑話1 桐生院葵は教わりたい

 

 

 ――クフフ! フハッハハ! いけねえ、笑いがこみ上げそうになってくる。 

 

 今日も汗だくで地面に倒れている幼気なウマ耳少女を見下ろすことが出来て、オレは最高に気持ちがよかったな!

 

 と、思い出し笑いを抑えて業務後に待ち構えている残業へと向かう。

 

 自分のトレーナー室から一区画先に移動したオレはトントンと丁寧に3回ノックすると。

 

 

「桐生院さん、オレです」

「あ、お待ちしておりました!」

 

 

 勢いよく扉が開かれ、にこやかな顔と明るい女性の声と共に同期のトレーナー室の中へと招かれた。

 このトレーナー室の主の名前は、桐生院葵。代々名トレーナーを輩出している、桐生院家のご令嬢だ。

 

 立ち振る舞いと丁寧な言葉遣いから滲み出る育ちの良さとウマ娘に負けない端正な顔立ち。そして桐生院家という名家の出により、今まで男性のアプローチを受けて来なかったのだろう。そのせいもあるのか、少々世間知らずなところもある。そこがまた、男心をくすぐるに違いない。

 

――まあオレはヒトミミよりウマミミを虐待することしか興味がねえから、多少顔がいいぐらいじゃ惑わされないがなッ!

 

 

 

 扉の右斜め前にあるソファに腰かけるようオレに伝えた桐生院さん。

 

 そして素朴ではあるが、どことなく高そうな雰囲気のある茶器に緑茶を淹れ「失礼いたします」と一声かけてオレの横に座った。

 

 

――この人さ。訪問するたびに、徐々に距離が近くなってきてるんだよなあ……。

 

 

「粗茶ですが、よろしければ……」

「ああ、ありがとうございます。頂きます」

 

 

 

 ごくりと温めの茶を嚥下すると……猛烈な渋みと苦味がオレを処刑しにかかってきた。

 

 うわ、マジ渋みつっええ! しかも、後から深く濃縮された苦味が全身をかけ巡るッ! 

 

 

「これは……いい茶葉を使っていますね」

「お分かりになられるんですね! 私のお気に入りなんです。これは京都の老舗の……」

 

 

 

 目を輝かせてウンチクを語りだした桐生院さんだったが、話を聞いてる余裕は今の自分には全くなかった。

 

 暗殺するつもりで飲ませたのかチクショウが! マジでオレが入れる茶とは素材が違いすぎるッ!

 

 さすが、彼女も名門の生まれだけあって虐待道具を入念に準備し、相手の体をいかに効率よく破壊できるか熟知してやがるぜ……! ククク! フハハッハ! ゲフッ!

 

 し、しかし! 人間相手にはやらないで頂きたいものだなあッツ! ゲホゲホッ!

 

 

 悟られないよう引きつった笑みを作りつつ必死に苦味と渋みのコラボレーションから逃れようとしている中、桐生院さんも湯呑を口元に持っていく。

 

 

「ふぅ……落ち着きますね」

 

 こんな緑一色の液体兵器を和みきった表情で啜る桐生院さん。畏敬の念を抱かずにはいられねえ。

 

「それでは、早速なのですがミークのことでアドバイスを頂きたいことがありまして……」

「はい」

 

 

 今日、桐生院さんと会合しているのは――ハッピーミークのことだ。

 

 ハッピーミークとは非常に稀有なポテンシャルを持つ、桐生院さんがスカウトした白毛のウマ娘のことである。

 

 ハッピーミーク芝・ダート・さらに距離適性にまで苦手を持たない可能性の塊みたいなヤツだ。タキオンと同部屋のアグネスデジタルを超える、いい意味での“変態”と言い換えてもいいかもしれない。 

 

 

――悪い意味での“変態”はって? 察しろ。

 

 ミーク、ミークとうるさいくらい同じ単語を連発する桐生院さんに適度に相槌やそれとなく助言をいうオレ。

 

 そんなこんなで最初は主にトレーニングの内容や改善案に関してのディスカッションであったが、話の流れは“うまぴょい”へと移った。

 

 

「そういえばこの前、あなたから教えていただいた甲斐もあってミークにしっかりとウイニングライブの指導をつけることが出来ました!」

「それは良かったです」

「琉球秘伝古武術……! 非常に素晴らしいですね! まさかダンスに応用できるとは……目から鱗とはまさにこのことでした!」

「オレとしても、桐生院さんの飲み込みスピードが早くて驚きました」

「えへへ……あなたの教え方が上手だったからですよ」

 

 

 少し恥ずかしそうなそぶりで口元を湯呑で隠した桐生院さん。相変わらず所作が上品だ。

 お茶を音を立てずに啜る桐生院さんと苦味と対抗するうちにズズッ! と音を立ててしまうオレ。

 

 ……クク、このオレをマナー違反野郎にしてくるとは、この女……間接的にオレを虐待してきやがる!

 

 

 しばらく無言の間が続く。

 

 

「あ、あの!」

「はい?」

 

 

 その沈黙を切り裂いたのは桐生院さんの綺麗なソプラノボイスだった。

 

 

「どうしたら、あなたのように担当ウマ娘と信頼を築けるようになるのでしょうか!?」

「……んん?」

 

 ナニイッテンノ、コノヒトミミ? イミワカンナイ!

 

 

「――あの、ですね。その内容をオレに相談するのは間違いなのでは?」 

「何を仰っているのですか! すごくライスシャワーさんから信頼されているのに!」 

「お、おおう……」 

 

 可愛さと美しさを絶妙に両立させた顔を近づけて、身を乗り出してきた桐生院さん。それに対して、ビビッて僅かに距離を取ったオレ。 

 元々距離感が妙に近い人から近づかれたらほぼ密着状態になっちまうだろうが。

 

 まあ、いい。今日の相談内容は信頼ねえ……。

 

 

「担当ウマ娘から信頼されるには、でしたよね」

「はい」

「逆に伺いますが、桐生院さんはどうすればハッピーミークに信頼されるようになれると思いますか?」

「そうですね――やはり『ウマ娘を十全に知るべし』でしょうか。もっとミークとコミュニケーションを取って、その上で彼女に適したトレーニングを考案していけばいずれはと考えています」

 

 

――ったくよ。ぬるい。いつもながら、ぬるすぎんだよ。

 

 

「では、今よりもハッピーミークとコミュニケーションを取るためにはどのようにしたらいいとお考えですか?」

「ええ、と。ミークに寄り添って……」

「――逆ですよ。オレとしての結論は“過度に優しく接しないこと”だと思います」

「優しく接しない、ですか?」

 

 

 正直、世間一般でいう“美徳”な性格であるアンタはトレーナーに向いてねえ。気を遣うことは必ずしも相手を心の底から気遣っているとは限らないんだよ。

 

 ――ここは少し厳しく言っておくか。

 

 

「桐生院さんは良くも悪くも、ハッピーミークに気を遣い過ぎです。たまに練習風景を見かけますが……あんな向上心が損なわれる練習内容じゃ、ハッピーミークがかわいそうだ」

「か、かわいそう!? 今はミークの現状の限界点からトレーニングレベルを調節している段階なんです!」

「ハッピーミークに気を遣って、碌に限界点を見極められていないのに?」

「そ、それは……」

「担当ウマ娘相手に遠慮や妥協は絶対にしてはならないとオレは考えています。常に全力でぶつかり合い、ギリギリまで追い詰める。もう走りたくないと根を上げるぐらいにね」

 

 

 限界を迎えたウマ娘の表情は――実にそそっちまうよなァ。

 

「必要以上に遠慮や忖度する指導者……そんなヤツ、信頼出来るはずもないでしょう」

 

 同期のくせに上から目線で話す男にそろそろ嫌気が差してきたころだろう。そうなれば狙い通りだ。こういった定期相談といった面倒事も減る。

 それに、クズの代表格であるオレと関わると桐生院さんにもあらぬ被害が来そうだしな……いい機会だ。

 

 

「――以前からお伝えしようかと思っておりましたが。桐生院さんはオレが学園やメディアからどのように呼ばれているか、ご存知ですか?」 

「……? ええ、まあ……」

 

 一瞬、何を言っているのかわからなそうな顔をしたがすぐに気まずそうに視線を逸らした。オレの悪評を認識し直したのだろう。

 

 

 ――担当ウマ娘をボロ雑巾のように扱うクズ。レースに勝ったウマ娘に理不尽な怒りをぶつけるカス。

 

 

 様々な罵詈雑言が陳列しているが、普段のライスシャワーへの虐待シーンを見られていたらそうなるわな。誹謗中傷ではなく、至って正当な評価だ。何も間違っちゃいない。

 

 

「そうです。学園で流れている噂通りのヤツですよ、オレは。そんな人間相手に自分の大切なウマ娘の相談をするべきじゃないし、関わるべきじゃない」 

「――どうして、いつもあなたは」 

 

 すると桐生院さんは眉をひそめ、口を真一文字に結んだ。

 若干の沈黙の後、彼女は深呼吸をひとつして育ちの良い善人ならではの澄んだ瞳を向けてきた。

 

 

「……私と関わるのはご迷惑でしたか? 私のことは、嫌いですか?」

「いえ、そんなことは……」

 

 ――正直なところ、他人から相談を受けるのは時間がかかる上に面倒だ。常にオレは虐待のことで頭がいっぱいなんだからなァ!

 

 だが、ウマ娘相手はともかく人間相手には時には忖度も必要だから口にしないでおく。

 

 

 それに――心の底から迷惑だと思っているなら、毎度呼びかけに応じていねえしな。

 

 

「なら、良かったです。所詮、噂は噂でしかありません」

「……はあ。桐生院さんは変わってますね」

「いえ、私は一トレーナーとしてあなたを尊敬しているだけです」

「……お言葉は嬉しいですが、オレは尊敬されるべきトレーナーではありませんよ。少々オレのことを買い被りすぎだ」

「ふふ、買い被りで結構ですよ。あなたはわたしにとって同期のトレーナーであり、目指すべきトレーナー像であり……超えるべき目標ですから」

 

 この人は、ホント変わらねえな。良い意味で自分の価値観がブレない。今のオレにはその愚直なところが眩しすぎる。吐き気が出てきそうになるな。

 

 

「あ、もうこんな時間ですね。今日もとても実りあるお話をしていただき、ありがとうございます」

「いえいえ。オレなんかで良ければいつでも」

 本当はかったるいんだが、相手はヒトミミ。しかも、良家のお嬢様だ。虐待ウマ娘相手にはしない当たり障りのない社交儀礼でそう返したら、桐生院さんは目を輝かせる。

 

 ……ん? またなんかオレ、やっちゃったか?

 

 

「あ、でしたらお言葉に甘えて! またミークの為に教えられる楽曲レパートリーを増やそうと思っておりまして! ……その、ご都合の合う日にお付き合いいただけませんか?」

「……はい。都合が合えば」

「やった! では早速スケジュールを確認しますね!」

「は、ははは……」

 

 

 桐生院さんは嬉しそうに笑い、胸の前に両手を持ってきてガッツポーズを取る。対するオレは引きつる笑いを見せるしかなかった。

 

 はい、対応ミスったァ! クッソ! どうして人間相手のコミュニケーションはこんなにめんどくせえんだ!? ウマ娘相手ならいくらでも柔軟に対応できるのによ!

 

 ……ったく。どうやらしばらくは切っても切れない関係は続きそうだ。




このような閑話をもう少しだけ挟んだ後にメインストーリーを更新します。

いよいよ涙と絶望のクラシック期やで。
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