ゴミでカスなクズトレーナーは今日も今日とてウマ娘を虐待する。 作:カチュー
トレセン学園の生徒会長は名実ともに卓越した者が選ばれる傾向にある。
今期の生徒会長であるシンボリルドルフは歴代の生徒会長の中でも質実剛健、冷静沈着で瑰意琦行。まさに全ウマ娘の頂点に立つ理想的なウマ娘だった。
故に名付けられた二つ名は『皇帝』。名は体を表すとはよく言ったもので、シンボリルドルフにこれ以上合う言葉は存在しないだろう。
史上初の無敗の三冠ウマ娘。この世界では未だに打ち破られていないG1勝利数7つ。
万全の状態のシンボリルドルフとその他のウマ娘では相手にならないことから『皇帝が出走したら、レースがつまらなくなる』とファンから揶揄されたほどだ。
『レースに絶対はない。だがシンボリルドルフには絶対がある』
ある有名トレーナーの発した言葉はあまりにも有名だ。
同期も後輩も、そして先輩。さらにはヒトすらも彼女を畏敬せずにはいられない。そして畏敬された彼女は自分以外のウマ娘のために勇往邁進、誠心誠意尽くしてきた。
一方でシンボリルドルフは孤独だった。彼女にとってウマ娘たちの畏怖や敬慕は当たり前のものへと成り下がり、皇帝たる自分に歯向かってくる存在はひと握りの強者しかいない。
そのひと握りの存在ですら、自分には到底及ばない。”スーパーカー”マルゼンスキーも同じ三冠ウマ娘であるミスターシービーもそうだ。
彼女はやがて至る。
絶対強者である自分が弱者である自分以外のウマ娘を庇護し、導き、救ってやらなければならないと。
ウマ娘の誰もが幸せになる時代を作る。これが今のシンボリルドルフの願望だ。
――そう。世界ではなく時代、なのだ。
ウマ娘はヒトよりも身体面において特に優れている。ウマ娘の手にかかれば、トラックを軽々と引っ張り上げることも容易である。
中には可愛い掛け声とは裏腹に蹴りで海を割るものだって現れている。
そんな世界の平和を脅かしかねない優秀で危険な知的生命体は一定の人々にとっては許容できなかった。
だから、恐怖に溺れた多数派のヒトは少数派のウマ娘を差別し、迫害した。
今でこそ先人たちの努力や積極的な政治運動、さらにトゥインクルシリーズを始めとしたレース興行によりヒトの過ちは薄れていった。だが、痛々しい歴史の傷跡はまだ完全には取り除けていない。
ならばこそ、ウマ娘の頂点たる自分がウマ娘のための時代を作らなければならない。
もっとも、自分の思想がウマ娘の域を超えた傲慢さを孕んでいることはわかっていた。だが、皇帝を否定できる者は誰もいない。だから、シンボリルドルフは前へ前へと進み続けた。
やがて自らが掲げた責務と矜持を全うする度にウマ娘元来の走りたいという欲求も薄れ、胸の内から灼熱の如く高ぶる闘争心も欠落してきてしまっていたシンボリルドルフだったが……。
「まさか、彼女がここまで成長するとは……どうやら私の目は節穴だったようだ」
生徒会室でとあるウマ娘の内容が書かれたネットの記事をちらりと眺めたシンボリルドルフは感嘆の想いを口にし、口角を大きく歪めた。
「ふふ、大きな過ちはこれで二度目だよ」
シンボリルドルフはある程度走る姿を見ただけでウマ娘の素質がおおよそ把握できる。彼女の類まれな観察眼と検分と解析力、そして直感によるものだ。
強者は生まれながらにして強者だ。自分が絶対的な強者であることがそれを証明している。強者には強者にしか通じないモノがあるのだ。
だからジャパンカップで強者と認めていたミスターシービーではなく、弱者側であると認識していたカツラギエースに初めての敗北を味わわされたのはシンボリルドルフ史上最大の屈辱であり、汚点であった。が、同時に弱者への認識を改める結果となった。
――懸ける想いの力が強ければ、弱者ですら強者を喰らい尽くせるのだと。
想いの力は自らの勝利こそが不変であり、絶対である皇帝には唯一欠落しているものだった。
が、今ここに――皇帝の慧眼を搔い潜り、かの地位を脅かそうとする不敬な者が深淵なる闇の中から現れた。
「ライスシャワー、か」
そのウマ娘の名は、ライスシャワー。京都ステークスの圧勝に続き、ホープフルステークスでは大差勝ちを果たし、”魔王”と評されしジュニア期最強のウマ娘。
彼女もまた強者側ではなく、弱者側から這い上がってきたウマ娘だった。
「……面白いな。実に面白い」
シンボリルドルフにとってライスシャワーは別次元からの刺客だ。
しかも、彼女のポテンシャルは底が見えない。明らかに二戦とも彼女本来の走りを封印した戦法だった。
「私が仮にジュニア期まで時を遡り、ライスシャワーと相対したら……」
シンボリルドルフは想像を駆り立て、ありもしない過去をシミュレーションする。
当然というべきか、敗北のイメージは一切湧かない。が、自身が絶対なる勝利を手にしている姿も想像できない。
――そのことが冷静沈着なシンボリルドルフを激怒させ……至高の愉悦を感じさせる。
「……他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。そして、私のところまで上りつめるがいい」
一日の業務を終えたシンボリルドルフは万年筆を所定の位置に片づけ、席を立つ。
「史上最悪の外敵となった君を直々に裁ける日を楽しみにしているよ」
そう一人で呟き、生徒会室を出た彼女が向かった先は――夜の帳が落ちきったグラウンドだった。
皇帝ではない。一人のウマ娘としての願望を新たに得たシンボリルドルフの凛々しい相貌は喜色と残虐性に満ちていた。
ルナちゃん「どんどん…実っていく……♥️」