ゴミでカスなクズトレーナーは今日も今日とてウマ娘を虐待する。   作:カチュー

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#24 天与の資

 

 

 二月、いよいよ皐月賞まで残り二カ月となった。

 

 今のライスシャワーの仕上がりは上々だ。だからこそ、ライスシャワーはトライアルには出さない。他陣営を毛ほども舐めてはやらねえ。ほんの小数点以下の情報のアドバンテージすら与えてなるものか。

 ライスシャワーはオレの数々の残虐な虐待の成果もあり、肉体面での完成度はミホノブルボンを軽く上回るほどにまで鍛え上げられている。

 

 

 オレがライスシャワーに叩き込んだ虐待およびトレーニングはいわば基礎工事。土台作りだ。クラシック戦線に突入した時期は小手先のテクニックや一発芸を覚えさせ、少しでも他者とのアドバンテージを取ろうとするウマ娘とトレーナーは多いが、オレは違う。

 勝負の根幹は基礎能力。続いて、精神。その次にテクニック――言うなればスキルだ。総合的な基礎能力だけを見れば、同世代ではライスシャワーに負けはない。

 

 だが、レースに絶対はない。

 

 

 時にウマ娘は強い精神力で肉体の限界を超えることがある。となると、やはり目下の最大の敵はミホノブルボンになるだろう。

 本来、ミホノブルボンは短距離専門のスプリンターとして活躍するはずのウマ娘だった。それが今や、長距離まで走り切れるほどのスタミナを手に入れ始めている。この事実は現在のウマ娘スポーツ医学には論理的な証明ができない。既にミホノブルボンはライスシャワーとは違い、限界を超えている。だからこそ、一切の油断はできねえ。

 

 

 故にオレの考えとは矛盾するようではあるが――これから二カ月間、ライスシャワーにはスキル面と精神面を磨かせる。

 

 

 そこでオレは言葉や映像では教えられないレースの駆け引きをとあるウマ娘に教えてもらうことにした。

 オレはそいつが生息している部屋に向かい、突入する。すると部屋の配置こそ変わらないものの、以前の刺激臭が強い空間からそれなりに清涼な空気が保たれている空間へとリニューアルされていた。匂いなんか気にするヤツじゃねえのに……どうしてだ?

 

 

「おや、トレーナーくん。私のことが恋しくて、会いに来たのかい? あいにく、私は実験中で君に構っている暇はないんだが」

「……実験? ソファで寝転がっているようにしか見えないが」

「……あー、これも実験の一環だよ。実験、実験、じっけんー」

「そんなにゴロゴロしてたら、制服がしわになるぞ」

「構わないさ。後で君が懇切丁寧にアイロンがけをしてくれるのだろう?」

 

 

 協力を仰ぎに来たそのウマ娘の名は――アグネスタキオン。いつもの白衣姿ではなく、学校指定の制服を着用したタキオンはぐうたらとソファに寝転がっていた。

 

 

「そうそう。これは人工的に超ショートスリーパーになるための実験だよ。目を閉じたらすぐに睡眠状態になり、少量の睡眠を確保することで脳や身体の疲労を回復させるという研究や実験を行うには理想的な体質のことさ。君も一緒に寝てみるかい?」

「寝たいのは山々なんだが、やることが多くてな。それより、おまえも定期的に換気するメリットに気づいたようだな。空気が重たくなくて、いつもより居心地がいいぞ」

「お、気づいたかい? これを見たまえ!」

「ん……? ボールペンだよな、これ」

 

 

 喜色を声に滲ませたタキオンは素早くソファから飛び起きると、制服の胸ポケットから通常品より大きめのボールペンを取り出してオレに押し付けてきた。ボールペンと換気に何の関係があるんだ?

 

 

「ほら、ここ。ここのノックボタンを押すんだ。はやくはやくっ」

「…………ああ」

 

 ボールペンの右サイドにあるボタンを押すように催促されるも、若干オレは訝しんだ。タキオンのことだ。ただのボールペンではないことはわかっている。が、男たるものボタンは猛烈に押してみたくなる!

 

 

 ……ポチリ、と。

 

「うおっ!?」

 

 

 その瞬間、ボールペンは摩訶不思議に膨張し――あっという間に小型の家電機器へと形を変えた。あまりにもイカれた現象に驚いて仰け反ったオレを見て、タキオンはお腹を抱えて大笑いする。

 

 

「フフ、ハハハ! いい反応をしてくれるじゃないか!」

「てめえ……虐待すんぞ!」

「クク! アグネスタキオン特製、可変型ボールペン式空気清浄機! たまには研究以外の暇つぶしも良いインスピレーションが湧くものだねえ」

「……もうおまえは別の世界に移住したほうが大成する気がしてきたよ」

「全く、君は何を言うんだい。私は、この世界で光速の先へと辿り着く。その為に研究と実験を繰り返しているんだよ」

 

 

 ――この世界で、か。

 

 

「それで、君は何をしに私を訪ねてきたんだい?」

「タキオンにしか頼めないことを依頼するためだ」

「……君らしくもない。結論から入りたまえ」

「わかった。それじゃ言うが、タキオンにはライスシャワーと併走してほしいんだ」

 

 オレの話した内容にタキオンは目を丸くし、耳をピンと逆立てる。

 

 

「……本気かい? 碌にトレーニングを積んでいない私ではライスくんの相手にはならない。分かり切っていることだろう」

「だから、タキオンにはライスの前をただ走ってもらう。それだけでいい」

「……なるほど。彼女に足りないものを身に付けさせるつもりだね」

「本当に話の理解が早いな。その通りだ」

 

 一を聞いて、十を知る。普段は面倒くさいが、こういう時の物分かりの良さは実に効率的でいいな。

 

「全く、デビュー前のしがないウマ娘を利用するとはね。私のどれ……モルモットくんはウマ娘使いが荒いねえ」

「モルモットよりひでえ扱いすんな。ん? 奴隷のほうがモルモットよりはましなのか?」

「細かいことは気にしないのが良い大人の男性というものだよ。モルモットも奴隷も大して扱いは変わらないじゃないか」

「変わるわ! 古代では奴隷は重宝されていたのを知らねえのか!?」

「現代や未来においても、モルモットだって大事な実験材料さ。私は君のことを誰よりも重宝しているんだよ?」

「一見いい台詞を言っているが、オレは騙されねえぞ」

 

 ニヤニヤと笑いながらタキオンは器用にウインクしてくる。コイツ、オレをボロ雑巾のように利用する気満々じゃねえか。

 

 

「フフフ、君も私を自分の選んだウマ娘を最強にする為にさんざん利用しているだろう」 

「……まあな」

 

 するとオレの心情をまるごと読み切ったようにタキオンは適切な言葉を重ねた。それを言われると何も言い返せねえ……。

 

 

 

「ギブアンドテイク。私達の関係は持ちつ持たれつって言葉がぴったり合う。フフ、仕方ない。私の為に営々と働き続けるモルモットくんの為なら一肌脱ごうじゃないか」

 

 ちょうど私も試したい検証があったんだ、と小さく呟いて。

 

 

● ● ● ● ●

 

 

「やあやあ、ライスくん」

「こ、こんにちは。タキオンさん。えっと、お兄さま……?」

「ライス、タキオンがいるのが不思議そうだな。コイツが今日のおまえの練習パートナーだ」

「フフ、こうしてグラウンド上で会うのは初めてだったかな? 今日はお手柔らかに頼むよ」

「こ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」

 

 

 ――タキオンさん。お兄さまと仲がよくて、ライスにもいろんなトレーニング機器を提供してくれているちょっぴり……ううん、だいぶ変わったウマ娘さんだ。

 

 

 お兄さまとお話している時にタキオンさんの話題になったことが何度かある。お兄さまはタキオンさんの自由奔放で奇想天外な行動を笑い半分、呆れ半分で話していた。

 その時に、お兄さまに聞いてみたんだ。学園で噂されているタキオンさんのことについて。

 

 

『ねえ、お兄さま」

『どうした?』

『タキオンさんって、その……やっぱりすごいウマ娘さんなの?』

『確かにアイツは色々な意味ですごい奴ではあるけどなあ。ライスの“すごい”はタキオンのウマ娘としての能力について聞いているのか?』

『うん。タキオンさんはとても速かったってよく噂で聞くの。一時期ものすごい数のスカウトも来ていたって話も耳にしたことがあるんだ。でもタキオンさんが走っている姿をライス、見たこと無くて……』

『なるほどな。じゃあ、オレ個人から見たアイツの簡易的な評価だけど』

 

 

 ここまではやんわりと笑っていたお兄さまだったけど“トレーナー”としての顔に変わり、タキオンさんについて話してくれた。

 

 

『アグネスタキオンは――本物の天才だ。トウカイテイオーをはじめ、“天才”と呼ばれるウマ娘はある程度いるが……タキオンの才能はそいつらをも足蹴にしかねない』

 

 もちろん、タキオンには持ち合わせなくて他の連中が持ち合わせているものもあるがなとお兄さまは付け加えた。

 天才、それは三女神さまから譲り受けた天からの贈り物を受け取ることが出来たウマ娘のこと。ライスには与えられなかった二文字だった。

 

 

 その選ばれた存在の中でも、タキオンさんはどうやら別格みたい。なんか、ちょっと……。

 

 

『……はは! なんだ、その顔! もしかしてタキオンに嫉妬しているのか?』

『し、してないよ!』

『本当に?』

『……ほんとはね、ちょっとしてるかも』

『正直でよろしい。タキオンの強みを挙げるなら、まず第一にトップスピードだろうな。これは素人目にもわかるほど圧倒的だ。手を抜いた状態でスカウトが数十人は呼び込めるほどにな』

『やっぱりそうなんだ……』

『この生まれ持った天性のスピードだけでも評価は高いんだが、アイツはそれ以外の能力も高水準で整っている。強いて弱点を上げるとするなら、パワーがあまり無いことだけだろうが……。さて、ここで問題だ。ライス、アグネスタキオンの最大の長所は何だと思う?』

『ええと……うーん』

 

 お兄さまからの問いかけに答えが思いつかなかった。だけど、何も答えを出さないのはお兄さまは嫌いだし……。

 

 

『あ、頭がいいこと!』

『……よくわかったな。正解だ』

『え……?』

 

 

 あ、当てずっぽうで答えたら当たっちゃった。少し驚いた顔をしつつ、嬉しそうに笑ったお兄さまは話を続ける。

 

 

『他の天才には持っていなくて、タキオンには持ち合わせているもの。それは自分や相手の本能や直感で取った行動を言語化し、活用することの出来る思考力だ』

『えっと、どういうことなのかな?』

『練習やレースを続けていれば、いずれライスにもわかるようになる。“レースプランナー”の恐ろしさがな』

 

 百聞は一見にしかず。

 頭の良さがレースとどのように関係してくるのか。ライスはわかっているようで何も分かっていなかった。

 

 

――だけど、タキオンさんの才能を目の当たりして賢さの重要性を身に染みてわからされたんだ。

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