ゴミでカスなクズトレーナーは今日も今日とてウマ娘を虐待する。 作:カチュー
なんて酷い読者なんだ(本当にありがとうございます!)
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「よし! 今日はここまでだ! お疲れさん。がんばったなー、ライス」
「う、うん! がんばったよー、おー!」
ククク、今日もありとあらゆる角度から虐待をしてやったぜ! いやあ、見物だったぜえ。体中から発汗させ、ひいひい言いながらオレの無理難題のトレーニングをこなしていた地獄を味わっている姿ァ! 全く、最高じゃねえの! 何度見ても飽きねえもんだ。
神さま、こんなクズ野郎に今日も幸福と愉悦を味わわせてくれて本当にありがとうございます!
ただ、何だ。そろそろ練習や食事以外の虐待にも手をつける頃だと思ってきたところだ。ワンパターン戦法だと慣れが生じ、相対的に効果が薄れてくるもんだしなあ。そこで、だ!
「そうだ、ライス」
「どうしたの、お兄さま?」
「今度のオフの日、予定はあるか?」
「えっ、そ、その……特にないよ」
チラチラと視線を逸らしつつも、上目遣いでオレのことを見つめるライスシャワー。
クク、そうだろうよ! お前は今『なんで、プライベートのことまで聞かれなければいけないの?』と思っているはずだ。
「なら、良ければオレと街にでも出かけないか?」
「え? お、お兄さまと!? そ、それって……でで、でででで……!?」
クフフフッ! 休日もオレと一緒に過ごさなければならないストレスに言語能力が崩壊してやがるッ! ああ、エクスタシィー!
そう、今回の虐待はプライベートへの侵略だあ! 絶対安全圏だと思っていた拠点を崩壊させるまさに外道の所業!
想像してみろ? 女子高生に学校の教師が「今度の休みの日、一緒に出掛けよう」ってめっちゃキモい誘いをしているようなもんだぜ? 精神的負荷はこれ以上ねえはずだ。
ただまあ、今日のオレは寛大だ。慈悲として逃げ道を与えてやろう。
「いや、嫌ならいいんだ。悪い、せっかくの貴重なオフだもんな。忘れてく……」
「う、ううん! そんなことないっ! いくよ、絶対行くから!」
ふんすと鼻息を荒げつつ、食い気味にオフを削る選択をライスシャワーはしてしまう。決して言葉には出さないが、オレに対しての恐怖と怒りで顔を真っ赤にさせながらだ。
うんうん、嫌で嫌で仕方ないよねえ! でも、断れなかったねえ! あーあ。あえて逃げ道を用意してやったのに、自ら檻の中に飛び込んでくる滑稽なヤツ。
……ククク、ハハハッ! そうだ、そうだろうよ。お前の性格上、絶対に断れねえ! 断ったら、トレーニング時の虐待内容がどんな残虐なものになっちまうか、怖くてたまらねえもんな!
選択肢があるように見えて、片側の選択しか掴み取ることができねえとは、なんて可哀そうなんだ! クハハハッ!
さてェ……次のオフが今から楽しみだなあ!
「よかった。じゃ、オフの日は空けておいてくれ」
「うん! 絶対行くからっ!」
「はは、わかったって」
いやはや、他人事ながら空元気を保つのも大変そうだ。っとと、忘れるところだったぜ。
「それと、練習終わりに一杯どうだ? 特製ドリンク」
「やったあ! えへへ、お兄さまの特製ドリンクとってもおいしいから楽しみっ」
今までは“マズイマズイウマイ”特製ドリンクだったかもしれねえが、試行錯誤を重ねて“マズイマズイマズイ”極悪無情改良版に仕立て上げておいたからよお……!
その笑顔と余裕いつまで持つかなあ? クハハハッ!
● ● ● ●
ライスね、こんなに幸せでいいのかって最近思っちゃうんだ。
大好きなお兄さまと過ごす日々は毎日が刺激があって、新鮮で温かくて。
もちろん、お兄さまの指導が辛いときもあるけど……今はそれも期待の裏返しだとわかっているから。こんなライスに期待してくれているのが、いつも嬉しいよ。
でね、お兄さまがトレーナーになってくれてから、すっごく自分でも成長できているのを感じるんだ。前まではすっごく速くて勝てないと思っていたウマ娘さんを見ても、今はライスの方が速いって思えるようになってきた。自信を持つなんて、だめだめなライスらしくないのに。
でもでも、お兄さまの担当ウマ娘になったんだから……ちょっとぐらいライスが自信を持っても神さまも許してくれる、よね?
それでね! 今日はとっても嬉しいことがあったんだ! お、お兄さまとで、デート……じゃなくて、一緒に休日にお出かけすることになったんだ!
で、デートなんてお兄さまがぜんぜん思ってないことなんて知ってるよ。勘違いなんてしないもん! きっと練習漬けのライスを気遣って誘ってくれたんだ。
ほんとうにお兄さまって、カッコよくてやさしくて素敵な人。ほんとうにお兄さまに選んでもらえて、よかった。
いつもありがとう、お兄さま。お兄さまと一緒に居られるだけで毎日が幸せだよ。
いつの日か、お兄さまから貰った幸せ以上の幸せを分け与えられるウマ娘になってみせるからね。
――ライスの夢であると同時にトレーナーであるお兄さまにとって、そのことが一番幸せに思ってくれることだとライスは信じているから。
※ ※ ※ ※
「私のささやかな~♪ 祈り~♪ 今~♪」
いつもおいしくて味にバリエーションのある特製ドリンクを飲ませてもらって、幸福の絶頂にいたライスが“しあわせ”の歌を口ずさみながら、ルンルンとシャワー室へと向かっていたところだった。
「……こんにちは、ライスシャワー」
「いつかあなたのように~♪ 誰かのことを~♪ 照らせる人に~♪ なりた……あっ! こ、こんにちは! ブルボンさん!」
気が付くと、ライスの同年代でライスが密かに憧れているウマ娘のミホノブルボンさんが目の前にいたんだ。慌てて、早口であいさつを返した。
ううっ、恥ずかしい。それに声をかけられなきゃ気づかないまま通り過ぎようとしていたよ。礼儀知らずにもほどがあるって……ライス、だめだめだ。
「ステータス『ご機嫌』のようですね。あなたの『幸福度指数』が平均時を遥かに上回っているのを確認」
「え、その。はい……」
「よろしければ、理由をご教授いただけないでしょうか」
「は、はい。あの、とってもいいことがあったんです!」
慌てたライスを無表情で眺めつつ、ブルボンさんは淡々とライスの今の気持ちを言い当てた。そ、そんなに幸せオーラを巻き散らしてたかな? ご、ごめんなさい!
ブルボンさんと話す機会はあまりないし、ブルボンさんと話すときは他の人と話す以上にいつも緊張しちゃう。
だって――ブルボンさんはライスの憧れのウマ娘のひとりだから。
表情を表に出さないクールな美人さんで胸も大きくてスタイルも良いブルボンさん。ら、ライスにも少し分けてくれたらってやっぱり思っちゃうな。
男の人だったら、ちんちくりんなライスじゃなくてブルボンさんのような綺麗なウマ娘の方が絶対に魅力的だもん……。
容姿に関しても憧れてるけど、容姿の他にも当然あるよ。
まずは他のウマ娘を寄せ付けないトップスピードと瞬発力。模擬レースでブルボンさんの走りを見た時、背筋がゾッとして、絶望したのを今でも覚えてる。本能的にこの人には勝てないと思ってしまったんだ。
でもね、ブルボンさんの血反吐を吐くようなトレーニングを毎日こなしている姿を間近にして、あの人の力の源は才能だけじゃなく、努力だって思い知らされた。
ライスがブルボンさんを一番尊敬しているところは――努力すれば結果を出せると体現してくれたウマ娘だからなんだ。
それにしても、珍しいなあ。ブルボンさんから話題を振ってくることなんてなかったのに。
「良いこと、ですか」
「はい! お兄さま、えっとライスのトレーナーさんと今度のオフにお出かけするんです! それが今から楽しみで!」
「……ええ、良かったですね」
「はい! どこに連れて行ってくれるんだろうとか、一緒に何をしようか、今から考えるだけでワクワクしちゃうんです!」
「……ええ、確実に素晴らしいログを作成できることでしょう」
ライスの満面な笑みに釣られたのか、ブルボンさんも口元に手を当てて微かに笑ってくれた。あ、ブルボンさんが笑った所初めて見たよ! やっぱり笑うといつもより数倍美人さんに見える。
――え、でも……ッ!?
「それでは、私は自主トレーニングに戻ります」
「は、はい。お疲れ様です……」
ライスとの世間話を終えたブルボンさんの後ろ姿を見送りつつ、ライスは止まっていた息を大きく吐き出した。トレーニングで温まっていた体がすっかり冷めきってしまったような錯覚に陥った。
今のブルボンさん、レース中に後ろから差してくるウマ娘のような強烈なプレッシャーを出していた、ような気がする。あんなに綺麗な笑みをしたブルボンさんが、どうして体が凍えてしまうほど怖かったんだろう……。
無意識に”先頭の景色は譲らない”ライスシャワーと半意識的に”ブルーローズチェイサー”を発動しているミホノブルボンの構図。