ゴミでカスなクズトレーナーは今日も今日とてウマ娘を虐待する。 作:カチュー
トレーナー諸君、カレンチャンの「お兄ちゃん」になるまで引く覚悟はあるか?
吐き気を催すはずの改良版特製ドリンクを取り繕った笑みで完飲したド根性に敬意を表して、ライスシャワーへのスペシャルヘルズマッサージを今日は軽めにしてやった。
もう訳が分からねえ。何故、我慢しているとはいえあの劇物を飲み干せるんだ……?
そんなこんなでライスシャワーを早期解放してやったオレはオフの日に全力を出すためにトレーナー室で事務作業をまとめて終わらせていた。
すると気づいたら、時間は21時30分をとうに過ぎていた。少し根を詰めすぎたか……。
パソコンの画面から放たれるブルーライトにやられた目を擦り、凝りに凝った肩をグルグル回しつつ、帰宅する途中だった。まさかと思いグラウンドに行くと。
「出力限界。強制スリープモードに移行……」
――そこにはドMウマ娘がフラフラになって倒れかかっていた。チッ、これだから変態は!
猛ダッシュでミホノブルボンの傍にいき、倒れかかっていた体を腕で抱きかかえてやる。
うわ、体アッツ! どれだけの時間、コイツは自身に圧倒的負荷のかかる虐待をしてきたんだ……!?
「……このバカが! もう少し自分の限界点ぐらい見極めて調整しろ!」
ミホノブルボンが極度の被虐体質なのはもう十分すぎるほどわかっている。
だが、体を再起不能にまで損傷させてしまったらよお――ミホノブルボンのトレーナーがコイツに虐待を加えることができなくなるじゃねえか! トレーナーの幸福を奪うな! もっとトレーナーの気持ちも考えろ、この変態ウマ娘!
「……あなた、今日は遅かったのですね。心配していたんですよ」
抱きかかえられたままの姿勢で透き通るような瞳を潤ませてオレをじっと見上げている目の奥にすら熱が籠ったミホノブルボンは普段と違って、その……蠱惑的だった。こんな年端もいかねえウマ娘に心をほんの僅かにでも惑わされちまうとは! クソが、オレもまだまだだな。
「君に心配される覚えはない。とにかく、すぐに応急処置をするから少しでも安静に……」
「……いえ、後32秒はそのままで」
そう短く言葉を切った意識が朦朧としている様子のミホノブルボンは――ニコリと、とても柔らかく自然に笑っていた。コイツ、笑うとこんな顔をするのか……じゃねえよ! 何、お前がオレに指図しているんだよ!
当然、ヤツの言うことには従わねえ。オレの腕の中に納まっていたミホノブルボンをそっとその場に横たわらせる。そして、流れるまますぐ傍に置いてきたショルダーバッグから常備している緊急キットをオレは取り出す。ああ、クッソ腹立つわ! だが、これも偉大なる虐待の先駆者のため! 我慢我慢!
おいおい、応急処置とか何やってんだよ。虐待とは正反対の行動だろと思っている浅はかな輩もいるだろう。
だがな、ニワカは相手にならんよ! 物はやりようってヤツだッ!
まずは体を動かすことができないミホノブルボンの水分補給をオレが手伝ってやる。男の硬い膝の上に頭を乗せてやり、ストックしておいた特製ドリンクをストローを咥えさせてチューチューと摂取させる。これにより、生殺与奪の権利を今はオレが握っていることを自覚させてやるのさ。
クク、コイツに我が特製ドリンクの虐待効果がないことは理解しているが……こんな赤ちゃんプレイ、ある程度成熟した女の子なら屈辱以外の何者でもないだろう? ましてや、親じゃなくてどこのウマの骨かもわからねえクズ男なんだからよお!
で、次はタオルで包んだ氷嚢で体を急激に冷やし、鈍くなった意識を無理やり覚醒させてやる。
ハハハハ! キンキンに冷やしてある特注品だから、効果は絶大のはず! オレに虐待を受けているという絶望と恐怖を脳内の奥底まで刻み付けてやるよォ!
……しかし、コイツはやはりオレの思い通りの反応はしなかった。反応は皆無。抵抗ははなからする気はないようだった。それじゃ、つまんねえじゃねえかよ!
それどころか、安らかな表情でオレの膝の上から全く動こうとすらしねえ。こんなところだけポンコツサイボーグウマ娘になるんじゃねえ!
……仕方ねえ、とことん根比べと行こうじゃねえか!
10分程その場で応急処置という名のカモフラージュ虐待を実行していると、ようやくミホノブルボンは静かに上半身を起こした。
そうして、オレに対して放った第一声はというと。
「ありがとうございます。トレーニング、実行可能になりました。適切な処置に感謝を」
自他共に究極的にまでコケにした内容だった。大概、オレも目の前のコイツのように感情を表に出さないことは得意な方だが……こればかりは我慢ならなかった。
「ああッ!? 感謝を、じゃねえよ! 何がトレーニングだ! ずっと言ってきたよな? 過剰なトレーニングは逆効果だってよ! お前、あれだけ言っても何にもわかってねえじゃねえか! こんなところで体を壊したらどうするつもりなんだ! 体調管理も碌にできない、しようともしねえお前のようなウマ娘なんて言語道断だ!」
「……怒って、くれるのですね」
ミホノブルボンはオレの烈火すら生温い激怒に目をぱちくりとさせると、再びクスリと笑みを零した。小娘なら間違いなくトラウマものの恐怖を抱くようなキレ方をしたはずなんだが、効果がまるでないどころか嬉しそうにしている。
他人の怒りすら悦びに変換できんのか、このドMは!? いや、むしろ一周回ってSなのか!? やべえ、キレすぎて混乱してきた。
一旦、星空が瞬く夜空を見上げて、怒りやら呆れやらでぐちゃぐちゃになった感情を天に向かって吐き出した。よし、ある程度落ち着いた。
「……分かったら、これ以上のオーバーワークは二度とするな」
「はい。あなたの指示に従います」
口調を和らげて、オレは理外の範疇にいる希代のドMウマ娘をこれ以上快楽を貪らないように説得する。もう少し反発があると思ったけど、案外あっさりだったな。それじゃ、次はと。
「それと、今日のことは君の専属トレーナーにも報告しておく。今後、自主トレーニングに関してもあの人の管理の元で行うように」
「……ッ!?」
オレは立ち上がりながら、今後の展開を事前に伝えておく。はっ、とミホノブルボンが息を飲み込む音がオレと彼女しかいないグラウンドに響いた。
ちなみに、今回の件は自身の担当ウマ娘を虐待しきれねえコイツのトレーナーも悪い。てか、他の担当ウマ娘にかまけて、コイツの内面を全然理解できてねえはずだ。いい機会だし、いかにミホノブルボンが常人の思考とはかけ離れた異端なのかをきちんと報告しておく必要が……って、痛ってえ!
あ!? な、なんだ!? コイツ、何でいきなりオレの腕を掴んで……!?
「前者に関しては了解しました。しかし、マスターに報告は不要です」
「しかし、この件は流石に」
「今後、自身の体調も垣間見て、フローチャートを練り直します。同じ過ちは繰り返しません」
「いや、そういう訳にもいかないだろ。一度君のトレーナーときちんと話し合いをした方がいいって」
「不要だと、申し上げたはずです」
震える声を重ねるたびにどんどんとミホノブルボンの空色の瞳が揺らいでいく。別にここまで抵抗する必要なんてねえはずなんだが。というか、コイツも専属トレーナーに見てもらった方がメリットが大きいはずなのに。
「くどい。なら、不要である根拠を伝えてみろ」
「……それ、は。マスターの手を煩わらせる必要のない案件だからです」
「全く理由になってない。もう、いいから」
「……報告、しないでください。お願いします」
座ったままオレの腕をへし折るように力を加えてきたミホノブルボンはうっすらと涙を流し、これまた見たことのない必死な表情で懇願する。
お、まさかコイツ……それほどまでに他人に特殊性癖を知られたくないのか? 特に自分の専属トレーナーには。
だから、己の秘密を知られてしまったと思っているオレのことを機械のような冷静さを投げ捨ててまで引き留めているのか。いくらなんでも、ここまで来たら隠し通せねえと思うはずだしな。
……く、ククク! だよなあ! ドMでも羞恥心ぐらい備わっているもんなあ! やっとだ、やっとコイツに初めてまともな虐待行為を行えている気がする! って、気分は清々しいがマジで痛ってえ! リンゴを片手で握りつぶせるゴリラウマ娘相手にこれ以上は腕が持たねえ!
「わ、わかった! わかったから、手を放せ!」
「……申し訳、ございません」
「その代わり、自主トレは3日間は禁止だ。もちろん、オフの日もだぞ。破ったら、すぐに報告するからそのつもりで」
「……畏まりました」
これ絶対腫れてんだろ、クソが! しかし、それなりの収穫はあったぜ。ようやくコイツのウィークポイントを探ることができたんだからな!
クハハハッ! 破ったら空前絶後の変態ウマ娘ということがトレーナー、いや下手すると学園中のウマ娘にも伝わってしまう。かといって、オレの言うことを鵜吞みにするのであれば被虐の快楽を得ることはできねえ。いやあ、ジレンマですなあ! どっちを取ってもヤツにとっては地獄! クハハ!
――だが、ただでは転ばないオレの認めた強敵であるのがミホノブルボンだった。
ヤツはすくりと立ち上がり、深呼吸ひとつ行った後に先程よりも更に温度が増した視線をこちらに向けてくる。
「ですが、私はトレーニング以外の時間の費やし方に関するメソッドを知りません。よろしければ、ご教授を」
「いくらでもあるだろ。友達でも誘って、街にでも出かけることでリフレッシュするとかさ」
「あなたらしい明確な提案です。しかし、私のデータベース上にカテゴリ『友達』検索結果ゼロ。代替案が必要となります」
「あ、ああ。なんだ……その、すまなかった」
人生で一番楽しいはずの学生生活を彩るものが何もないとは……。いかにゲスでクズなオレでも憐れすぎて若干の罪悪感が湧いてしまった。すると、熱のせいでまだ顔が赤いミホノブルボンは涙を軽く拭いつつ、オレの心の隙をついてきた。
「質問いたします。次のあなたの休日はいつですか?」
「ん? 3日後だけど……」
そう素直に答えてしまった直後、ミホノブルボンは再び微笑を携えた。オレの休日なんか調べて何になるんだ?
「スケジュール確認。その日は私もオフです」
「へ、へえ。そうなんだ」
「代替案を提出。共同ミッション『あなたと一緒にお出かけ』を遂行しては頂けないでしょうか?」
「いや、何故そうなる!?」
心の叫びが声に出ちまったよ、おい! まずは自分の担当トレーナーを頼れよ! どうしてオレなんだよ!
「私のマスターはその日も別の担当ウマ娘のレースに付き添うため、不可能。また、このミッションは常に明確で正しい判断を下せるあなたの方が適任です。あなたと一緒であれば『リフレッシュ』のメソッドを確認することができると判断。無論、お礼は私の実現可能な範囲で何でも致します」
年相応のかわいらしい表情を浮かべているミホノブルボンは機械のようにドモらずにスラスラと長文を並べてくる。まるで予め決めておいた台詞を言うように。
「お礼はいらないんだけど……悪いんだが、その日はライスシャワーと一緒に出かける約束があるんだ」
その日は貴重な休日虐待のスペシャルデー。普段よりも気合を入れていかなければならない勝負の日でもあるのだ。ヤツの謎の思惑を遠回しに断ったはずなのに、更にヤツは畳みかけてきた。
「存じ上げております」
「え?」
「私も同行を希望いたします。あなたとライスシャワーの承認が得られるのであれば」
――いや、どういう流れだ、コレ? 一体、どうしてこうなったんだ?