ゴミでカスなクズトレーナーは今日も今日とてウマ娘を虐待する。 作:カチュー
さてさて、まだまだ終わらせねえよ。時間はたんまりとあるんだ。地獄の淵が見えるまではとことん追い詰めてやるから覚悟しておけよ……!
よっしゃあ、畳みかけて行くぜえ!
広々とした拷問部屋を追加料金を支払うことで確保し、息も絶え絶えな脆弱なウマ娘に更に鞭を入れる!
防音機能が完備された密室で行われる喉と全身を痛めつけ、羞恥心を煽る「カラオケ」のお時間がやってきましたあ!
またの名をうまぴょい!
マジでウマ娘ってレースに勝った後にうまぴょいしなきゃいけねえのが、残酷だと思っている。
あくまでレースに勝つことがウマ娘の目標。ウイニングライブなんていらねえだろ。
なんで布面積の小さい服でアイドル紛いの歌とダンスを不特定多数の輩に晒されなきゃいけねえんだか。
まずは先程の虐待で消費した体力を少しでも回復させるべく、部屋のソファに二人とも座らせ、ドリンクや器具を整えて虐待の前準備を整える。
「元々のお出かけの目的はライスにウイニングライブの練習をさせるのがメインだったんだ。本来はトレーニングだけではなく、ウイニングライブの練習もしなきゃいけなかったのにな」
「あ、そうだったんだねっ! そろそろ勝ったときのことも考えておかなきゃいけないもんね……!」
「今までトレーニングのことばかり頭に回り、全然手を付けてなかった。せっかくの休日なのにレッスン目的で誘って悪かったな、ライス」
「ううん、全然! むしろ、ここまでライスのことを考えてくれてるなんてとっても嬉しいよ!」
言い回しを変えただけで結局は自分勝手に休日出勤をさせた不合理極まりないオレの言動に、ライスはミホノブルボンをほんの一瞬だけ視界に入れた後に愛らしい瞳をオレに向けて、幸せそうに微笑みかけてきた。
その一方で、ミホノブルボンは何かを耐えている様に数秒の間目を閉じていた。
おいおい、そんなにうまぴょいが嫌いなのかよ。ククク、好都合!
「ミホノブルボン」
「はい」
「……あまり楽しくなかったりするか? さっきから表情が硬いようだからさ」
「誤解です。私の提案が実現している現状、私は『楽しい』です」
いやー、コイツの無表情もある程度パターンがあるのがわかってきた。
今の表情パターンはとても楽しそうとは思っていねえ顔だ。そりゃ、オレからあれだけの虐待を受ければそうなるわな。
「ブルボンさん、ごめんね。もうちょっとライスがお兄さまのように楽しい話ができればよかったんだけど……」
「……気遣いは無用です」
え? なんか一瞬、憐れなミホノブルボンを気遣ったライスシャワーが暗いオーラを纏っていたような……クク、ありえねえ妄想をオレもするもんだな。
ライスシャワーは腹に一物を抱えることのできねえ純朴で純粋で無垢なウマ娘なんだからよお!
「そういえば、ミホノブルボンはウイニングライブの練習は進んでいるのか」
「私の現在の進捗はマスターからウイニングライブに関しての指導は全体練習で3回のみ。満足いくパフォーマンスを行うにはステータスが足りておりません」
「そうか。なら、ミホノブルボンにも徹底的にレッスンをつけようと思う。こういうダンスや歌は少人数でやった方が覚えやすいし。今日だけはオレを君のトレーナーだと思って遠慮なく何でも聞いてくれ」
そう伝えると、ミホノブルボンは胸の上で両の手をぎゅっと握りしめた。
突如湧いてきた、極上の獲物を決して逃さないように、だ。
「……今日だけはあなたが、マスター」
「ん? どうした?」
「いえ。是非、ご指導のほどよろしくお願いいたします」
さあ、今日のメインディッシュを堪能していくとしますかねえ。オフの日なのに、嫌々踊らされるウマ娘の可哀そうな姿を見るのもまた一興だぜ。
だが、まあ……今回はオレに関しても、ただじゃすまない自爆特攻の虐待になるかもしれねえ。
● ● ● ●
「ミホノブルボン」
「はい」
「……あまり楽しくなかったりするか? さっきから表情が硬いようだからさ」
「誤解です。私の提案が実現している現状、私は『楽しい』です」
――申し訳ございません。あなたに、嘘をついてしまいました。
今の私はエラーにより、徐々に『あなたと一緒に居て楽しい』感情よりも『あなたとライスシャワーを見ていると苦しくなる』感情が3%ほど上回っています。
本日のミッション『あなたと一緒にお出かけ』は本当であれば『あなたと二人きり』で出かけたかった。
理由不明。ただ、あなたと二人きりであれば『楽しくて幸せ』だったと根拠のない確信がありました。
今日の私は彼、そしてライスシャワーに承諾を得られたからこそ、同行を許されている身。
突如、強引に横入りした私を受け入れてくれたライスシャワーには誠心誠意感謝を伝えるべき存在です。
しかし、エラー。何度シミュレーションを出しても――ライスシャワーが邪魔で目障りな存在だと結論を出してしまいます。
ありえない下種な思考。ライスシャワーは何も悪くないのにこの場からいなくなってほしいと切に願ってしまう。
彼を独り占めにしたい理解不能な欲望が今にも漏れ出しそうになる。
そして、理路整然としていない上に倫理観に欠けた私自身に1ミリも嫌悪感を抱かない。
そのような嫌悪感を抱かない私自身に嫌悪してしまう。
「ブルボンさん、ごめんね。もうちょっとライスがお兄さまのように楽しい話ができればよかったんだけど……」
「……気遣いは無用です」
私は人の感情の機微に疎い自覚があります。けれども……対人能力の乏しい本能ではっきりわかります。
――ライスシャワー、あなたは間違いなく私と同じ感情を抱いている。
きっと、あなたも理由がわからないのでしょう。
ですが、私のことを『いらない』存在だと定義付けている。
ライスシャワーは私の不俱戴天の敵であると改めて認識します。
「よし。準備出来たし、どっちから先にやるか?」
「あなたからお願いします」
「お兄さまの歌、聞きたいな」
「……まあ、そうか。指導する立場のヤツが見本みせない訳にもいかないよな」
誰から歌うかという彼からの声掛けに私とライスシャワーは同様の提案を同時に行いました。
彼はあからさまに渋った顔をしたものの、すぐに機械を操作して曲を検索し始めた。
やはり、ライスシャワーとは分かり合えます。彼というかけがえのない存在が双方に介入しなければですが。
彼さえ、いなければ。
きっと……私たちは良き『友人』になれたのかもしれません。
「じゃあ、無難な曲からいってみるかな」
彼が少考した後に選曲したのはウイニングライブの定番ナンバーでした。夢に向かって駆けていくウマ娘の心情を歌にしたヒットソング。
女性用の曲であるのにも関わらず、原曲のキーで音程を外さずに歌う技量とマイクという補助機器なんていらないのではないかと思わせる部屋全体を響き渡らせる声量。
さらに正確無比でキレのあるダンスには目を奪われました。
ああ、なんて格好いいのでしょう……!
学園では決してみられないあなたの姿を消去不可のログに早急に永久保存しなければなりません。
しかし、ログに保存し、再度読み取った結果……夜に発生する『熱』と『欲求』は更に勢いを増してくるのが予測されます。
粗相をしないようメンタルを更に強化し、ニシノフラワーさんに迷惑をかけないようにしなくては。
彼の歌が終わった後、私は賞賛を称えるために掌に痛みを感じるほど拍手を送りました。
これほどの出来栄えは並大抵の努力では補えません。
そもそも歌とダンスは彼の本業ではないはずなのですが。
ライスシャワーの姿も横目に入れると、彼女も頬を赤く染めて心ここにあらずといった呆けた様子でした。
ですが、その数秒後には私と同様の喝采を送ると私の聞きたかった疑問を投げかけました。
「すごいすごい! お兄さまって、歌とダンスはどこで習ったの?」
「何の面白味はないと思うけど、レッスン場に通って地道に覚えたよ」
「そうなんだあ。どうやったら、お兄さまみたいに上手になれるかな?」
「一番の上達方法は他の人に直接教えることかな。他人を教えることで自分を見直す結果にもなる」
「ふええ……ライス、他の人に教えられるほど上手くなれるかなあ」
「練習を怠らなければ、誰だってなれるよ。そうそう、アイツも……」
どこか懐かしむように宙を見つめた彼は途中で不自然に言葉を止めました。
私もライスシャワーも首を傾げます。何か、今の箇所でおかしいことはあったのでしょうか。
「はい! 無駄話終わり! 見本も見せたし、これからはお前たちだけでビシバシやっていくからな!」
彼はこわばった表情を隠すように厳しい表情に変えて後、指導する時のような緊張感を漂わせ始めた。
ここからが、本番なのですね。アドバイスではなくあなたの指導を直接受けられる。
ライスシャワーだけの特権が、私とライスシャワーの二人の特権になったことに『歓喜』いたします。
その後、私もライスシャワーの二人とも浮ついた思考を想起させる暇もないほどウイニングライブの練習に励みました。
――手慣れた様子でどうすれば伝わるのかを的確かつ簡易的に歌やダンスの指導すらこなす彼。
とても素敵でいつまでも指導してほしいのですが、何か引っ掛かりを覚えます。
「んじゃ、ライスが歌って最後にするか。踊らなくていいから好きな曲を入れてくれ」
「うん! じゃあ、これにしようかなっ」
指定された時間が迫ってきた中、最後にライスシャワーがクールダウンに入れた曲はバラードでした。
彼女の透明な声と非常にマッチングした良い選曲だといえるでしょう。
しかし、彼の姿を常に視界に入れるようにしていた私は見てしまいました。
曲名がディスプレイに表示された瞬間に、彼は表情を無くしていたところを。
どうしてかは、一切わかりません。元々、自分の感情すら理解できない私が彼の感情など推し測ることなんて出来ない。
だけれども、その無表情は彼にとって『よくない』ものを隠すためだと彼の身体状態から判断。
曲がスタートしてからは歌を一生懸命に歌っているライスシャワーに笑みを向けていたものの、唇は正常時よりも微弱に震え、瞬きの回数も平均よりも1分間に12回多くなっていました。
確実に彼は『動揺』している。
『優しい人が笑ってた。どうして、それなのに苦しいの。無理に笑うことはないよ。心のまま、生きていいの~♪』
ライスシャワーの可憐な歌声が部屋を包み込む中、彼はカタカタと震えている手を同様に震える膝の上に置いて、足を押さえつけていました。
『きっと未来で~♪ きっと待ってる~♪ 輝くSilent Star~♪』
ライスシャワーが歌い終わった直後、彼はよろけるように立ち上がり……
「ライス、いい歌だったぞ。悪い、ちょっと手洗いに行ってくる」
ぎこちなく微笑んでからすぐに部屋の外へと出て行ってしまった。
「ライスシャワー、気づいていましたか?」
「うん……お兄さま、なんだか辛そうだった」
「ええ。普段のあの人では到底考えられません」
「……普段のあの人、かあ。ブルボンさんって、お兄さまのことを随分と知っているんだね」
「はい。とても頼りがいがあり魅力的な方だと、よく存じ上げております」
そして、これからはあなたよりも彼のことをより詳細に理解する予定です。
ライスシャワーは私の発言に髪で隠されていない片目を吊り上げた。
臆病で温厚な彼女らしくない鬼が宿ったかのような鋭い眼に――私は表情を変えることはありませんでした。
しばらく視線を交わしたまま、部屋の中に最新の歌の宣伝BGMだけが流れる。
本来ならこのようなケースが『気まずい』沈黙というものなのでしょうか。
コミュニケーション能力不足な私には微塵も感じませんでしたが。
24秒ほどでようやく目を逸らしたライスシャワーは大きくため息をついて、膠着状態を解いてきました。
「……ごめんなさい、ブルボンさん。ライス、何かおかしいよね。ブルボンさんを睨むようなことしちゃって……」
「あなたが謝る必要は一切ありません。それよりも今はあなたのトレーナーのことを気に掛けることが先決です」
「うん、そうだよね。お兄さま、どうしちゃったんだろう……」
ライスシャワーが非常に心配そうな面持ちで彼が出ていった扉の向こう側を見ていましたが、私は彼が動揺していた原因を探るための思考タスク処理をしていました。
最後にライスシャワーが歌ったのは怪我で療養中のとある先輩の持ち歌でした。
彼とは全くの無関係で関連性は極めて低いと分析可能――ですが、彼が『動揺』している結果に結びつきません。
加えて、彼の計算され尽くした効率的な練習メニュー作成とライスシャワーに施していたウマ娘の体を熟知した直接的な指導を行える点。
更にはダンスと歌までウマ娘に沿った指導をすることができる。
ベテラントレーナーですら、ダンスに関しては外部からのダンス専門のトレーナーかダンスが得意なウマ娘を練習台として採用するのが基本です。
今までは彼が優秀だからであると結論を出していました。
しかし、優秀だけで片づけられるレベルでは無くなってきています。
いかに彼がありとあらゆる分野の天才であろうとも……ウマ娘に教える指導力は別ではないのでしょうか。
――彼は本当にライスシャワーが初めての担当の新人トレーナーなのですか?
新たなウマ娘がゲートインしそうです。
一体、誰なんだ……!?
あ、次回からまた酷過ぎる虐待生活に戻ります。