R2本編19話の黒の騎士団が裏切るシーンの改変です。
もしルルーシュがもう少しだけ冷たい人間で、シュナイゼルと舌戦を挑む覚悟を決めていたらのお話です。

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思わぬ返し手

「ルルーシュ……ナナリーがね、私の事……助けてくれた」

「……そうか」

 

エレベーターの中でルルーシュとカレンが話をする。

暗く重たい雰囲気の中で、カレンは精一杯に励ましの言葉をかける。

 

「こんなときに言うのも何だけど……私もお兄ちゃんも――」

 

言いかけて、スポットがあたった。

そして、銃を向けた黒の騎士団がそこにいた。

 

「観念しろ、ゼロ」

 

「よくも我々もペテンにかけてくれたな」

 

「君のギアスのことはわかっているんだ」

 

口々に声がかけられる。

いつでも砲火を浴びせられるようにした中で。

 

「……っ!?」

 

ルルーシュは驚く。

さすがにこの事態を予想できはしない。

いや、普段なら可能性の一つとして読みきっていたかもしれない。

だが……今!

今、このときだけは別。

傷心のルルーシュはいつもの能力など、どこかにやってしまっている。

 

ただ、眼を見開く。

 

「伝説の英雄、ゼロは志半ばにして戦死。しかし、その勇敢なる生き様は永遠に語り継がれることでしょう」

 

カメラを向けるディートハルト。

 

「お前が……!」

「本当ならあなたがブリタニアを打倒するところまで撮りたかったのですが、残念ながら番組は打ち切りです」

 

冷たく宣告した。

 

「みんなお前を信じていたのに…….!」

 

周りの銃を構えた騎士団も言い立てる。

 

「待って! ゼロは――」

 

カレンがかばう。

 

「カレン、お前まで巻き込まれるぞ」

「まさか、お前までギアスに――っ!」

 

雰囲気が険しくなってきた。

このままでは、カレンまで……

 

「答えて、ルルーシュ。私は何? 私、あなたになら」

 

カレンが涙ながらに訴える。

しかし、ルルーシュの目にとまるのはシュナイゼルの姿。

余裕のある笑みを浮かべている。

 

 

 

シュナイゼル……あなたの策なら万が一などないのでしょうね。

この状況なら完全に詰みです。

そう――少し前までの私なら思っていたでしょう。

だが!

もう私には何もない。

ナナリーがいない今、優しい世界を作ることに意味などない。

 

やり残したことがあるとするのなら一つ。

――復讐。

そう、俺は殺していない。

まだ果たしていないんだ!

皇帝をまだ殺せていない。

 

忘れない。

捨てられたことを忘れない。

ひざまずかされ、ナナリーを奪われたことを忘れない。

シャーリーの死を忘れない。

 

「――シュナイゼル殿下。あのときのことを覚えていらっしゃいますか?」

 

仮面をつけたまま、シュナイゼルを見上げる。

状況を支配しているのは彼。

命令系統がどうであろうと、誰もが彼の意向に従う。

彼の命令がなければ下手には動けない。

 

「それはいつのことかな? もしかしてアリエスの離宮でのことかい」

「いいえ。そんな昔の話ではありませんよ。それにギアスのことを知った今、昔話に意味などないことはおわかりでしょう」

 

ゼロは淡々と話す。

感情など交えずに。

 

「どういうことかな?」

「中華連邦でチェスをしたことですよ。あのとき私は負けてしまいましたが」

 

シュナイゼルは一歩を踏み出す。

ゼロの姿をよく見られるように。

 

「あの勝負はなしということになってしまっただろう。それに、いい加減その仮面を外してくれないかな? 久しぶりの弟の顔を私に見せて欲しい」

「いいですよ、兄上。しかし、勝つのは私です。そう、もはや迷わない。何を捨てても、勝利をもぎ取ってやる。復讐を果たしてやる」

 

そう言ったルルーシュは声とは打って変わって、瞳には激情が秘められている。

そして、左目は手で隠されている――ずっと。

 

「……っ!?」

 

騎士団がざわめく。

いくらシュナイゼルの言葉を信じたとはいえ、本当にブリタニア人だったのだ。

よく見てみると、シュナイゼルの面影がある。

家族と言われれば、なるほどとうなづける。

 

「復讐など……穏やかではないね。僕達のところへ戻ってきてくれないか? 今なら、君を守ってやることくらいは出来る。昔の穏やかな日々に戻ろうじゃないか」

「もう遅いのですよ……ナナリーが死んでしまった」

 

「ああ、フレイヤのことかい? 諦めてはいけない。探せばきっと見つかるさ」

「いいえ、見つかりませんよ」

 

「なぜ、そんなふうに言ってしまうのだい? 諦めるのは良くないよ」

「きっと、俺達兄妹は悪い星の下に生まれついてしまった。学園での生活は楽しかったけれど、それも所詮は偽り。そう、俺達はどうあがいても……なんにもならない」

 

「ルルーシュ……」

 

 

 

「ゼロ!」

 

空気を読まない男が叫んだ。

 

 

「俺はお前のことを信じていたんだ……親友だと思っていたんだ! なのに、お前は俺たちを騙していたんだろう!」

 

沈黙が流れる。

 

 

「玉城……」

 

ルルーシュが横目で見やると、鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにした玉城がいた。

 

 

 

「そうだ! ギアスのことを説明しろ!」

「俺達の事もギアスで操っているんだろう!?」

「ブリキの王子を信用なんて出来るものか!」

 

沈黙は爆発する。

こちらのほうは憎悪に顔を歪めている。

そちらが騎士団の総意と言ってしまえるだろう。

 

「貴様ら……」

 

ルルーシュは睨みつける。

好き勝手なことを言い立てる彼らに。

この状況を予測こそしていたが――実際にやられると腹が立つ。

 

「なあ――ゼロよう。嘘だと言ってくれ。俺達を信用させてくれよう。俺は、お前のことを信じていたかったのにさ」

 

一人、玉城のめそめそ声が木霊する。

 

「――この愚か者どもが!」

 

キレた。

 

「……っ!?」

 

突然の激高に騎士団は息を呑む。

 

「なら、勝てたか!? ギアスの力抜きで貴様らがブリタニアに勝てたか? 俺は……俺はな! 貴様ら無能どもをどうやって勝たせようか……いつもいつもいつも! 悩んでいたんだよ! 苦しんでいたんだよ! 貴様ら雑魚をブリタニアに勝たせるためにはそれしかないだろうが!」

 

言ってしまった。

 

ルルーシュがよく搦手を使うのはそうしなければ勝てないから。

今でこそ他国の戦力もあるが、日本人の練度はブリタニア人のそれに遠く及ばない。

だからこそルルーシュは奇策を用い、ギアスを用いて戦った。

 

「…………」

 

思い沈黙が場を包む。

自分のほうが強いと言うだけなら簡単だが――

――思い返してみても、まともに戦っていた時を思い返しても勝っているときなど殆ど無い。

いつもいつも……負けかけているところをゼロの奇策によってひっくり返す、そんなことばかりだったから。

 

 

 

「――ルルーシュ。さすがにその言い分は酷すぎるのではないかな」

 

シュナイゼルが柔和に諭す。

その姿はわがままな弟をたしなめる兄そのもので――悪いのはルルーシュな気がしてくる。

 

「ふん、銃口を向けること以上に悪いことなどあるものですか」

 

だが、当のルルーシュはどこ吹く風だ。

片目で銃口を見やってぼそりとつぶやく。

不思議なことに、その声は倉庫全体によく響いた。

 

「それは仕方ない。皆、君のことが怖いんだよ。いつ君のギアスに操られるかわからないからね」

「ああ、あなたは大丈夫でしたね。しかし、他の者も心配ない」

 

「私が大丈夫とは?」

「ギアスへの対処法はいくらでもある。その内の一つを使っているのでしょう。そして、黒の騎士団は私の素顔を知らない――ということはギアスにかかりようがない……この言い方は変ですね。俺のギアスにはかからないと言わなければ」

 

「その言い方だと、他にもギアスを使う者がいることになってしまうね」

 

とんでもないことだと言わんばかりに怖がる顔を作ってみせる。

 

 

 

「ええ、あなたのギアスは私には通用しない。しかし、黒の騎士団には別でしょう」

 

 

 

はっきりと言った。

 

「馬鹿なことを言わないでくれ。ギアスは君の力だろう」

「いいえ。我らがブリタニア皇室に受け継がれる力なのですよ」

 

この論理は納得できるかもしれない。

事実は少し違うが、ブリタニア皇族にギアスに適性のある血が流れているというのは十分考えられる。

父と子にわたって、強大なギアスを取得しているのだから。

それに特殊な力を受け継いでいく血統というのは、日本の作品では非常によくあること。

 

「惑わせようとしても無駄だよ。私達がそんな人間離れした能力を持っているわけないじゃないか」

 

流暢に反論してみせる姿は悠長で、言いがかりをつけられているようにしか見えない。

 

「そうですか。それは喜べばいいのか、それとも悲しむべきなのでしょうか」

「ルルーシュ、話は後にしよう。アリエスの離宮にでも行って――」

 

「ギアスの使用は体を蝕みます。皇帝の記憶を操るギアスで無自覚に使用させられているのでしょうが――寿命が縮みますよ」

「……父上まで持ち出してきたのかい? 君は疲れているんだよ」

 

「おや、思い当たることがあるようですね。そもそもギアス響団は皇帝直属の秘密組織ですからね」

「それは君が……」

 

 

 

「ゼロ! 結局、俺達はお前を信じていいのか、それとも悪いのかよ!」

 

玉城が飛び出した。

もうすがりつかんばかりの勢いでルルーシュの前に立つ。

 

「信じる必要はない――」

 

声をためる。

 

「――そう! 黒の騎士団よ、ギアスを恐れることはない! ……なぜならば、我々はすでにギアス能力者への対抗手段を確立しているのだ!」

 

叫んだ。

その姿は仮面こそないが、いつものゼロだ。

 

「ば、馬鹿な……」

「意思を操る力を、そんな――」

「そんなことが、本当に……」

 

だが、そんなこと言われたって信じていいものか。

ギアスだってさっき知ったのに、それの対処法をよりにもよって自分たちが知っているなどと。

 

「藤堂よ、私が決行した作戦の中で特に疑問の残るものは何かな?」

「それはもちろん、ブラ――」

 

「正義の味方にふさわしくないと思われることだよ」

「……証拠があるわけではないが、君が黒の騎士団を勝手に動かして年端もいかぬ者を虐殺したと聞いている」

 

 

 

「安心したまえ、それは正義の行いなのだ。その子供はギアスユーザーだった。私に銃口を向ける君たちはもちろん、それが正しいことだと認めてくれるだろう?」

「……っ!」

 

「そうさ、彼らは子供とはいえギアスユーザーだ! たとえ、ギアスを使えようとも……彼らを殺したように、銃弾を浴びせてしまえば殺せるのだ。ギアスユーザーなどナイトメアの敵ではない」

 

どんな理由があろうとも、子供を殺すには抵抗が残る。

それでもこんな言い方をされればそれは違うとは言い出せない。

 

「それは、本当なのか?」

 

だから、かわりにこんなことを言い出す。

 

「本当だとも。証拠もある」

「見せてもらうことは――」

 

「よいとも。では、ついてきてもらえるかな?」

 

「それはいけない!」

 

初めてシュナイゼルが大声を上げた。

ここで誤魔化して逃げればルルーシュの勝ちだ。

黒の騎士団がいなければ世界をどうにかすることはできなくなる。

それはそうだろう。

でも、もはやそれはどうでもいい。

 

皇帝を殺したいだけならば、一人のほうが何かと都合がいい。

そもそもルルーシュは逃げようとしているだけだ。

実は黒の騎士団の説得なんて考えてなくて、そっちは割と後でなんとかできる。

だが、シュナイゼルはそれを許すほど甘い相手ではない。

 

「ルルーシュが君にギアスを使うかも――」

「ではどうしろと――

 

「しゃべるんじゃねえよ!」

 

叫ぶのはやはり玉城。

 

「君は――」

「お前だってギアスを使うってんなら、怪しい動きをすんじゃねえ! 射つぞ」

 

――玉城か!

よくやった。

これなら……!

ルルーシュは初めて玉城のことを使えるやつだと思う。

 

「銃を納めなさい! こちらにはフレイヤがあるのですよ」

 

側近の一喝。

シュナイゼルがその端正な顔を、誰にもわからないほど小さく歪めた。

これは悪手だ。

だが、それも仕方ない。

シュナイゼルは真性の皇族なのだ。

 

その絶対なる存在に銃を向けられるなど、それこそとんでもない。

 

ブリタニア軍人であるなら、そう――その場でフレイヤをぶっぱなしても不思議ではないほど。

まあ、その皇族がいるので絶対にしないが。

 

「フ、フレイヤぁ!?」

 

聞いていたことだろうに驚く玉城。

銃口を横にやってしまう。

 

「馬鹿! 俺の方にむけんなよ、玉城」

「うお!? わ、悪い」

 

結局、ルルーシュに向けることもできなくて下に向けてしまう。

 

「じゃ、じゃなくて――えと、なんて言っていいのかわからねえけどさ」

 

うんうんと一人でうなづいて、しどろもどろに口を開く。

 

「俺らを引っ張っていってくれたのはゼロ、いや……ルルーシュだっけ? やっぱり俺はゼロを親友だと思いたいんだ。そりゃ、俺達を駒扱いして、さんざんこき下ろしてくれたけどよぉ……俺たち、一緒にやってきたじゃんか。うまくは言えねえけどさ、その――ギアスつーの? それを封印しちまえば、元の関係に戻れるんじゃないのかな? だってさ、やっぱ――親友だと思っていたこの気持ちを操られたものだとは思いたくないんだ」

 

その口調は真剣で、論点もまとめられていなくて――対決する兄弟に比べると幼稚に過ぎる論法。

でも……それはひどく感情的で。

言ってしまえばそう――共感に値する。

 

「――それは違う!」

 

だが、扇が否定する。

声を張り上げるその姿は――皮肉ながらも初めてリーダーシップを発揮する姿だった。

 

「ルルーシュはギアスを使って俺たちを操っていた! 千草が証明だ。彼女のことをどう説明する?」

「――そうだ、私はギアスを使われた! ギアスは他人を自由にする力……私の意思は貴様により捻じ曲げられたのだ」

 

「なるほどなるほど」

 

ルルーシュはひとりうなづく。

 

「ルルーシュ、他人の意思を操るのはいけないことだよ。観念して僕達のもとに来るんだ」

「では、そのギアスを防ぐ方法をほかならぬ彼女に説明してもらいましょうか」

 

にこやかな笑みの下に殺気が交錯する。

 

「え? 馬鹿なことを言うな、そんな方法があったらギアスになんてかからないはずだ。デタラメを言うな。ルルーシュ!」

「そ、そう。私はそんな方法知らな――」

 

「ヴィレッタ、私は君からギアスでナイトメアを奪った。君の意思をねじ曲げて、さらにそのナイトメアでブリタニア軍と戦ったりもした。だが、ナイトメアを奪われてなお――爵位を剥奪されていないのはなぜだ?」

 

ルルーシュの右目が彼女を睨みつける。

 

「それは――卑怯な手段で奪われたからで……」

「皇帝はそんなことを言わない。卑怯な手段を使われたところで負けは負けだ。だが、この状態の私がギアスを使いようがないことを知っているお前だからこそ、皇帝直属の秘密監視部隊に配属された。むしろ爵位は上がったと聞いているが?」

 

「そ、そんなことはないぞ!? 現に今だっていつギアスを使われるかビクビクと――」

「裏切り者のお前は真っ先に殺されるべき存在だ。この私の前に姿を表せるわけがないだろう。それこそ、ギアスに対抗する手段の一つも用意しておかねばな」

 

「千草は俺が守る!」

 

もう一度銃を構え直す。

しっかりと銃口をルルーシュに向けて、いつでも引き金を引けるように。

 

 

「おい、待てよ扇! まずはゼロのギアスを防ぐ方法を聞くのが先だろうが。え!? どうなんだよ、このブリキ女!」

 

玉城はヴィレッタに銃を向けてしまう。

 

「そ、それは――」

 

言いよどむ。

風色が変わってきていた。

 

「言わねえと撃つぞ!」

 

ただでさえ、ボスを裏切るという極限の状況の中……険しい雰囲気が高まる。

それこそ、フレイヤの抑止力がない限り暴発してしまいそうな。

 

「おい、馬鹿! やめろ――千草を撃つな!」

「じゃあ、さっさと答えろよ!」

 

「そんなの知らな――」

 

「嘘つくな!」

 

玉城が撃った。

威嚇射撃とはいえ、場が凍った。

 

「玉城ぃ!」

 

とうとう扇が玉城に銃を向ける。

トリガーを引けば、そのまま殺せる。

 

「ああ!? ブリキ女をかばうのなら、てめえこそ敵だ。おい、皆……捕まえなきゃいけねえのはゼロじゃなくて扇だ!」

「お前……ギアスに操られてるんじゃないのか?」

 

「お前こそシュナイゼルのギアスに操られてんだよ! 目を覚ましてくれ……昔のお前はブリキ女になびくほど尻が軽くなかったじゃねえか!?」

「千草を悪く言うな!」

 

「扇ぃ!」

「玉城ぃ!」

 

「待て! 分かった。話す、話すから銃を向けないでくれ」

 

ヴィレッタが勘弁した様子で話し始める。

このままだと冗談抜きで玉城と扇の撃ち合いが始まるところだった。

 

「へ、初めからそうすりゃよかったんだよ」

 

玉城が下がった。

 

「ルルーシュのギアスは左目に特殊なコンタクトが入れられている限り使えないんだ。だが、そのコンタクトは外しているはず……」

「だからこうして左手で隠しているだろう? まあ、この手をどければ使えるが――仮面をかぶっていても使えない。以前に私と面識があるのは誰かな? そのときは私の左目を見ていたかい?」

 

ルルーシュはほくそえむ。

これこそが勝利へのわずかな道。

皇帝に与えられた勝利にすぎないが、貴様を殺すためなら躊躇しない。

シュナイゼル……あなたも可哀想に。

皇帝から少しでもギアスの説明を受けていたら、こんな事態にはならなかったのに。

 

「それと、私のギアスには命令を発するという致命的なタイムラグがある。対処は容易だ――そう、皇帝の……目を見るだけで他人の記憶を書き換えてしまうギアスよりはな」

「記憶を操るなんて恐ろしいギアスを、よりにもよって父上が持っているはずがないよ。それなら、もっと簡単にことが進んだはずじゃないか」

 

「ことは進んだでしょう? 父上がギアスに目覚めたのは我々よりもずっと早い。その力があったこそ、現皇帝の座に座っている。並み居る候補を押しのけたのは一重にその力におかげでしょうよ。それに、現皇帝の弱肉強食という国是にとって、現状はまさに最高の舞台ではないですか。そう、まるですべての人々を操ったかのように」

「ルルーシュ……いつまでその戯言を続けるつもりだい?」

 

傍目からにはシュナイゼルが戸惑っているようにみえる。

実際には柔和な表情から動いていないのだが、ルルーシュの矢継ぎ早に繰り出される断定に反論することができていない。

それも当然――事実であることが一つ。

そして、なによりも皇帝とはシュナイゼルにとってもわけのわからない人でしかなかったからだ。

 

 

 

 

「ゴッドバルド卿……」

「ロロ、今の状況は?」

 

こそこそと動く影が一つ。

携帯で連絡を取っている。

 

「今は兄さんが口論で押しているようです。けど、フレイヤをどうにかしなくては……」

「蜃気楼があればどうにかならんか? あれはルルーシュ様の機体だが、御身を守るためならしょうがない」

 

「無理だよ、効果範囲がでかすぎる。僕が特攻してヘリごと押し出しても、兄さんも巻き込まれてしまう」

「ううむ、では――ラウンズの方は?」

 

「動きがないよ……いや、機体から降りた?」

「なんだと? 好都合ではあるが、警戒すべきだな。何をするつもりだ?」

 

「わかりません。けど、この隙に機体を強奪できれば……っ!」

「待て、早まってはいけない。ルルーシュ様にもお考えが……」

 

 

 

「ルルーシュ、いいかげんにしろ! お前がギアスを使って皆を操っているんだろう!?」

「扇、お前――いいかげんにしろよ! ゼロが俺たちを操ってるわけねえじゃねえかよ。操られてんのはお前だ! シュナイゼルのギアスに操られているんだよ」

 

主役はいつのまにか玉城と扇へと。

争点はもはや、どちらがギアスに操られているのかになってしまった。

そう、シュナイゼルのギアスはルルーシュのハッタリ。

証拠もないけれど、いつしか皇族はギアスを持っているものとなってしまった。

感情で怒鳴りあうと、これが怖い。

 

「みんな、みんな――なんで俺のことを信じてくれないんだよ!」

「だって、お前――ブリキの女をそれだけ信じてりゃ、なあ。ブラック・レベリオンのときだって、説明もロクにしてくれなかったし」

 

肯定の雰囲気が広がる。

場はむしろ――ルルーシュのことを許すようになってきた。

だって、目の前にギアス使いの敵がいるのだ。

事実が違おうと、彼らにとっては真実だ。

 

みんな、扇のことは信用している。

だからこそ――今の扇はギアスに操られていると思ってしまうのだ。

あの優しい扇が、たった一人の女のために敵意をむき出しにしている。

そんなの扇じゃない。

 

「俺は――俺は操られてなんていない。自分の意志で千草を愛しているんだ! 消えろ、ルルーシュ。お前さえ、お前さえいなければ……っ!」

 

とっさのことだった。

だから誰も反応できない。

いや、心の底ではブリキの王子を助けることに抵抗を抱いていたのか。

 

とにもかくにも、銃口はルルーシュへと向けられる。

そして、トリガーが引かれ――

 

「兄さん!」

 

ギアス。

他人の時間を止めるギアスが発動した。

トリガーを引く指は、しばしその動きを止める。

 

ロロは愛する兄を突き飛ばす。

そして、敵を殺気に満ちた眼で睨みつける。

 

「――あ」

 

だが、時間は残酷に過ぎ去った。

効果時間が切れた。

時間を取り戻した指がトリガーを引く。

血の飛沫が上がった。

 

 

 

「――え?」

「誰?」

「ルルーシュは――」

 

扇が突発的に銃を使ったとおもいきや、倒れていたのはブリタニア人の少年だった。

――意味がわからない。

全員がそう思った。

 

とりあえずルルーシュを探す。

すぐに見つかった。

へたり込んでいる。

 

「――ロロ。なんで、お前が……?」

「兄さん、あなたが僕を人間にしてくれたから。だから、捨てないで。兄さんのためなら、僕は……」

 

血に濡れた手を兄へと差し出す。

朱はみるみるうちに彼を染め上げていく。

しずくが止めどなく溢れる。

 

「俺は、お前を捨てたのに……」

「大丈夫、僕は兄さんの事なら何でもわかるから――兄さんは嘘つきだから」

 

ロロの目から光が消えていく。

 

「そう、か……さすがは俺の弟だ。なら、一足先に地獄で待っていてくれ。きっと俺は天国でナナリーに会うことは叶わない。すぐに皇帝を殺して、お前の元へ行ってやる」

「うん……待ってる……からね――」

 

 

 

「扇ぃぃ!」

 

ズガシャン、と音がして、ジークフリードが降ってきた。

人を殺すには過剰過ぎる武装が扇へと向けられる。

 

「待ってくれ! 扇はシュナイゼルに操られてるだけなんだ……!」

 

玉城が叫ぶ。

ジェレミアは舌打ちを一つ。

そして、シュナイゼルへと向き直る。

 

「シュナイゼル殿下。まさか、あなたまでもギアスを持っているとは思いませんでした」

「それは誤解だよ……」

 

ルルーシュのはったりを信じた人間がここにも一人。

いや、彼の場合はコードのことも知っているから余計に。

実は皇帝本人がシュナイゼルに敵意を抱いていること以外は、むしろシュナイゼルがギアスユーザーではないほうがおかしいこの状況。

その状況をシュナイゼルは知らない。

 

「しかし、ギアスなど我が忠義の前には無効! 喰らえ――忠義の洗礼!」

 

仮面の眼が開かれる。

 

「何……?」

「ギアス響団によって与えられしギアスキャンセラーの力! 我が忠義、ルルーシュ様のために! 皇帝に与えられたこの力を使うことになんの躊躇いもない!」

 

 

 

「では、こう言うことにしようか。フレイヤに消されたくなければ私に従ってもらおう」

 

とりあえずも鬼札を出す。

こうなってしまえば、どうしようもない。

フレイヤという超兵器がある時点でシュナイゼルの勝利は揺るがない。

 

それは悪夢。

最强を超えた最悪。

すべての人々を従える絶対の力。

 

「なるほど、そう来ますか。しかし、撃てますか? あなたごと消されることになりますよ。隙を突いたつもりでしょうが、完全に状況を把握できないままにここに来たのは失策でしたね。まあ、皇帝陛下にお伺いを立てていたら、いつになるかわからないのは理解できますが」

 

そう――問題はそれなのだった。

フレイヤは超兵器だ。

だが、逆に――だからこそ使用は限定されてしまう。

 

「……ルルーシュ、いざとなったら私はやるよ。フレイヤを持たない君たちが勝てるわけがないんだよ」

 

 

 

「そんなことはない」

 

舌足らずの言葉。

その言葉が発せられたのはモルドレッド。

 

「フレイヤは私が抑えた。ルルーシュ様、私は黒の騎士団に投降する」

 

場をかき乱す一言。

皇帝に仕える騎士……ラウンズが寝返るとはどういうわけか。

これはとてつもない意味を持つ。

そう……日本人が想像するよりも大きな意味を。

 

「……アールストレイム興。申し訳ないが、理由をお聞きしても?」

 

ルルーシュは意味をわかっているがゆえに、驚きを禁じ得ない。

当然、警戒する。

 

「この世界で私を理解できるのはあなただけ。そして、あなたのことを理解できるのは私だけ」

「――申し訳ありませんが、あなたと私に面識など……」

 

「アリエスの離宮で会ったことがある。けど、それは違う。C.C.にあなたも皇帝のギアスを受けたと聞いた。それにそのギアスが解けたのもジェレミア卿のおかげだって」

「アールストレイム卿……! いいでしょう。我々は似たもの同士というわけですか。記憶を書き換えられる苦しみは私たちにしかわからない」

 

「シュナイゼル様。ごめんなさい、今は投降して」

「さて、ルルーシュ。投降したら私はどうなってしまうのかな?」

 

「超合集国の裁判により裁かれるでしょう」

「――なるほど。では、今のところは投降しておくことにしよう」

 

 

 

 

「前から思わなくもなかったが、マリアンヌ――やはりお前はアホだな」

 

魔女のつぶやきが漏れた。

 

 


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