俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』   作:wisterina

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第一章 金の前でステイ
R1 君の愛バは凶暴


 ウマ娘。

 トゥインクルシリーズ(中央競バ)を走る日本ウマ娘トレーニングセンターに所属する彼女たちはデビューしてからその最初の三年己の目標のために走る生き物。その相バとなるトレーナーもまた未来ある担当ウマ娘の夢のために日夜力を注ぐ。

 そんな煌めきに満ち溢れた世界の一員であるトレーナーの池浦。彼の前には自販機の前でにんじんドリンクを一気飲みしている黒鹿の小柄なウマ娘がいた。彼女が新しい担当ウマ娘。そしてファーストコンタクトとなる彼女に大事な第一声をかけようとした。

 

「あ゛!? あんたが俺の新しいトレーナー? いらね」

 

 開口一番担当ウマ娘からけんもほろろに不要認定されたトレーナーの池浦は開いた口が塞がらなかった。それでも挫けず襟を正して改めて自己紹介をしようとする。

 

「俺が君の「うっせ」トレーナーとなる池「今日は休む」よろしく「帰れ」」

 

 最初の躓きにもくじけず池浦は自己紹介をしたが、黒髪の彼女にことごとく遮られた。

 

 教本と全然違う。

 

 ウマ娘トレーナー養成学校で配られた『ウマ娘の育成と指導の手引き』には『ウマ娘とは二人三脚、勝利を目指すことは大事なのはもちろんではあるが、なにより彼女たちに寄り添うことが大事である。決しておごらず彼女たちを受け止め、夢のために走りましょう』と書かれて胸に刻んだ言葉が、彼女の蹄鉄で抉られて消えそうだ。

 

 落ち着け、まだここからでも挽回できる。まずは心を通わせるためにと自販機に五百円硬貨を入れて先ほど彼女が飲んだものと同じ物を買おうと指を伸ばす。

 

「俺のと同じの飲むんじゃねー!」

 

 ビッ!

 

 手を払いのけられ、別のボタンを押されるとこの自販機の中で妙にでかい1.5ℓのコーラがゴロンと重量感のある音と共に出てきた。

 

 ほんとくじけそう。ここまで自分を拒絶するウマ娘とは思いもしなかった。

 ……まあ、飲めるものだからいいか。

 黒く甘い炭酸水をのどに流し込みながら、脇目で彼女に睨まれないよう眼を配らせる。

 ウマ娘というだけあって艶のある短く切りそろえられた黒鹿毛に小柄な体格見た目は麗しい。しかし、言葉の一つ一つが粗暴で飲み終わったとたん目の前でげっぷをしたりと年頃の少女らしくない。

 

「何見てんだ。ガンつけてんのか」

 

 その中身は完全に不良そのものである。

 

「せっかく君と一緒にトゥインクルシリーズを走るのだから親睦は必要かと」

「馴れ馴れしくすんな、気持ち悪い。俺様はわざと好かれようとする奴が二番目に嫌いだ」

「じゃあ一番は」

「なんで手前に教える義理があんだよ。たくっ、こんややつより前のトレーナーのほうがまだマシだったぜ」

 

 その前のトレーナーが交代された原因は彼女の暴力沙汰のせいなのだが。

 トレーナーに殺生沙汰と聞くと非常に耳障りの悪いことなのだが、トレセン学園に入学するウマ娘たちは皆精神的に多感な少女ということもあり、それが人よりも力の強いウマ娘がトレーナーに当たり散らした結果怪我を負わしたという話は時折あることなのだ。トレセン学園は実社会に出る前に精神を安定・成長させる教育機関でもあるのだ。

 

 さてそんな彼女もトゥインクルシリーズを走るウマ娘ではあるが、未だに勝ち星は少ない。どんなレースでも常に二位か三位で未だに重賞を一勝もしていないいわばシルバー・ブロンズコレクターで、あのナイスネイチャと同類である。だが裏を返せば強豪ひしめくウマ娘たちをくぐり抜けステージ(掲示板)に上がれるほどの実力を潜在的に持っていることでもある。有馬記念連続三着という珍記録もその潜在的な実力を物語っている。

 

 目の前の彼女も最も輝ける一位の座に何度も挑戦し続けた少女なのだ。何度も挑み続ける彼女に自分がくじけてはいけないと改めて覚悟を決めた。

 

「それて直近の君の試合についてだけど」

「試合? いつ」

 

 試合の二文字に彼女の耳がピクリと立った。

 

「練習と調整を兼ねて一番近い時期で五月か六月ごろをめどに臨みたい」

「今四月だぞ、二週間後にできねーのか。俺の足は万全だ」

「君先月も走ったばかりだろ。それにこの時期は」

「つべこべ言うな。文句垂れるんなら手に持っているものぶつけるぞ」

 

 相変わらず乱暴な口調で派はあるが、先ほどは練習をしたくないと駄々をこねていたのに試合となるとコロリと変えた。もしかしたらこの娘試合だと本気になるタイプなのか。僅かな光明が見えた。

 だが先ほど言いそびれたが四月のこの時期、もう大阪杯の試合登録は過ぎており大きなレースといえば春の天皇賞だけ。はっきり言って勝てる見込みがない。あの世紀末覇王テイエムオペラオーが出てくる可能性が高く勝つ見込みがない。今は目先の確実に勝てる勝利を目指さなければ。

 

「そうだな一番近いところなら福島ウマ娘ステークスとか」

「はぁ? 舐めてんの俺様が今更GⅢなんざしょぼいレースに出るかよ」

「ファンの人気を維持するにも出ておいた方がいい。それにそろそろ阿寒湖特別記念以外の重賞を一つ勝たないと」

 

 ガンッ彼女が手に持っていたにんじんジュースの空き缶が池浦の顔に投げつけられると同時に、踏みつけられる。人間の何倍もの力があるウマ娘の力は尋常ではなく、目の前が夜になってまぶたの裏の星がひどく瞬いていた。

 

「テメーも俺を阿寒湖呼びすんのかよ! 俺様はGⅠウマ娘だぞ! あのサイレンススズカの影を踏み、ジャパンカップで日本総大将スペシャルウィークと共に日本副大将務めたことあるんだぞ」

 

 吠えながらひとり次々と自分が出たレースで一位になった最強ウマ娘たちの名前を上げて喧伝する。

 ちなみに日本副大将は完全に彼女の自称である。

 地面に転がってもん絶しながら、なんとか引き留めようとする。

 

「でも確実に重賞を取るためにはまずGⅢからのほうが」

「うるせぇ! 次はGⅠの天皇賞だ。つえ―奴らが出ねえレースなんざ興味ねえ!! なめてんじゃねーぞ。俺様は世界最強(の予定)のウマ娘。ステイゴールド様だ」

 

 靴に蹄鉄状の跡を残して池浦を置いて、去ってしまった。

 

「俺あんな凶暴なウマ娘と日本一を目指すのか」

 

 嘆息混じりにこぼすが、トレーナーとなった以上あの凶暴なウマ娘と共に目指さなければならない。

 それもシニアを三年も過ぎている留年生ステイゴールドとで。

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