俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』 作:wisterina
R10 新年の抱負とネコ
「あけおめことよろ」
「明けましておめでとう。トレーナー君」
「明けまして……おめでとうございます」
「三人とも明けましておめでとう」
年が明け、新年のあいさつと今年の必勝祈願のためにトレセン学園近くの駅前にある神社の鳥居の前でステイゴールド、タキオン、カフェとチームポラリスの三人が集合していた。なお、選手兼サポーターであるデジタルは年末最後にある有明記念なるものに出走した反動で、今日一日は休養と反省会を自宅で行うために欠席していると悶え混じりの荒い息で連絡があった。有明記念とはなにかとは深く聞かなかった。
「願掛けか。タキオンお前理系なんだからそんなの非科学的だとか思わないのか」
「むしろその非科学的なものが実際のレースにどのように作用されるかが興味あるのだよゴールド君。レースでの応援による力で勝利したという言葉を頭ごなしに否定して存在しないとすることは、偏見と科学至上主義者の傲慢だよ」
「わっかんねぇけど、とりあえず物は試しなんだな」
正月ということもあってか駅前近くの神社は参拝客でにぎわっていた。ちらほらとトレセン学園で見たことがあるトレーナーやウマ娘たちも含まれており、同じく今年のレースが成就を願って訪れたのだろう。さて池浦たちも同じく鳥居をくぐろうとした時、駅前の巨大ディスプレイにやたら光っているウマ娘の姿が玉座に座るように映し出されていた。
『明けましておめでとうございます。さて昨年のトゥインクルシリーズは史上初の秋シニア三冠の達成と年間無敗のまさに世紀末覇王の名にふさわしい快勝を見せてくれたテイエムオペラオーさんがゲストに来ております』
『はーっはっはっは!! オペラオー王朝の臣民諸君。僕はとても嬉しい、新年早々に僕の顔を見せることができるのだから。昨年が終わってみんなの気分が落ち込み、そのショックで初日の出を見過ごした人たちのためにこの番組で、生中継でみせることができるのだから』
新年早々オペラオー節たっぷりのやかましい声と顔が駅前の巨大液晶ディスプレイに映し出された。相も変わらずのナルシストぶりではあるが、史上初の年間無敗という大偉業を成し遂げキャラとして受け入れられいる以上許されるのだろう。
「テイエムオペラオー。彼女の絶対的肯定感は非常に興味がある。気分が良ければ相乗効果でレースの勝率に影響があるのかもね」
「な、ゴールド。……ってあれ?」
いつの間にかゴールドとカフェの二人は先に境内に入っており、迷い込んだノラ猫と戯れていた。
「ほーれネコちゃん。肉だぞ肉。猫じゃらしじゃねーぞフランクフルトだからすぐポキっと折れちゃうんだぞ」
「……カワイイ」
露店で買ったフランクフルトをゴールドが猫の顔の前でブラブラと揺らして、耳をふにゃっと垂らして甘えた声で遊ぶ姿は、いつもの粗暴さからは想像もできないぐらいに女の子らしい様子で驚きを隠せなかった。
「ゴールド。お前、猫とそんな風に遊ぶんだな」
「ああ? なんか文句あんのか。それに新年早々オペラオーのでかいツラを拝むより、ネコちゃんの顔見た方が精神的にいいだろうが。ほれほれ、やるから爪出すなよ」「ニャー、ゴロゴロ」「はいはい、今やるから。甘えるなよ。ゴロゴロして可愛いな」
「肉球……ぷにぷに」
仰向けになって甘える猫にゴールドもカフェもメロメロの状態である。
まあ確かに去年のGⅠはマイルと短距離以外全部オペラオーに占領されて、
『ではオペラオーさん。今年の目標はなんでしょうか』
『はーっはっはっは。今年もテイエムオペラオー王朝の黄金時代は続く。華麗に美しく輝いてみせよう。そしてシンボリルドルフ会長越えのGⅠ八勝を高らかに宣言しよう』
『おおっ。シンボリルドルフ越えですか。シニア級二年目でも絶好調のテイエムオペラオー選手今年は非常に楽しみですね』
映像からでもよく聞こえるオペラオーの高笑いが神社の中でも聞こえてくる。
「ほう、GⅠ八勝目宣言か。あれはさしずめコミットメント効果かな。テレビという公共の電波で自らを追い詰めるという手法だが」
「効果の御託云々はどうでもいい。まったくスペがいた時はブロコレ倶楽部*1だったくせによお。けどあいつならやりかねないな。結局去年はあいつの天下だったし。年末の有馬でも他のウマ娘たちが執拗に妨害しやがっていたのに、最後で抜け出して。くそっ、ただでさえ無駄にキンキラ光っているのに最後に出し抜いたレースをしたから余計に光って目立ってやがる」
「私……今年からクラシック挑戦ですし、最悪オペラオーさんと当たるのですよね。ちょっと、不安」
カフェの金色の眼が薄っすらと影をつくって俯く。クラシック三冠を抜けると否応なしにオペラオーらシニア級とぶつかってしまう、しかもGⅡではメイショウドトウという。どちらかにぶつかってしまえば勝てないというオペラオー王朝の完璧にして無慈悲な布陣に、カフェでなくても今年デビューのウマ娘委縮してしまうのは仕方がないだろう。
「ふむ、デビュー前に弱ってしまうのは良くない。なら私の精神興奮薬を飲んでみないかカフェ。飲めば前頭葉が刺激されて興奮状態になり自己肯定感が昂る効果があるとみられるのだが」
「飲みません」
「そこまでにしておけタキオン。去年のホープフルステークスが見事な勝利だったのに、未だに他の先生から怪しい実験をするから評判が悪いというのに。とりあえず実験は控えるようにしてくれ」
「残念だが私の実験はやめることはないよ。私から実験を奪うことはウマ娘に走るのをやめるのに等しい。それにここ最近の肉体改造と薬物投与は自分にしかしていないんだがね」
「時々トレーナー室で爆発音が聞こえてくるから必死に隠しているこっちの身にもなってくれ」
「ふむ、プランCが今順調だというのに、退学されるのは少々困る。まあ活動拠点を変えればいい。アメリカ、ドバイ、近場なら香港もある。日本出身のウマ娘が海外へ行った先例だってある」
できればそうならないようにしてほしいな。タキオンの脚は間違いなく世界レベルだ。それを失ったら日本の至宝の喪失と同じぐらいだ。
「「海外……!」」
ピクリと二人が猫をなでるのを止めて、頭の耳を立てた。そしてぐいっと池浦の肩を揺らしてきたのはステイゴールドだった。
「なあ、トレーナー。俺も海外行ける可能性あるか」
「急にどうした」
「いや海外での強えウマ娘相手にGⅠ勝ち取るってめっちゃありじゃねえかって話よ。まあ前のトレーナーに何度か話したんだけどまだ早い、重賞勝ってからとか言われてなかなかできなくてよ」
「重賞取ってないから海外いけないわけでもないぞ。スズカだって重賞勝利なくて香港に行ったしな」
「……そうなのか? そうか。じゃあ出走登録してくれよな! 凱旋門賞とか」
「いきなり凱旋門は無理だって。行けるとしたら欧州の地元レースかドバイか」
「世界相手に戦えるならどこだっていいぜ。うんじゃ今年一発重賞勝って、海外いけるようにしねーとな」
絵馬に『世界制覇!』と大言壮語な願いを荒っぽく書きなぐった。
「へー海外かぁ。ゴールド先輩毎月せわしないねえ。もう師走は終わったというのに」
いつの間にかセイウンスカイがひょっこりと後ろから顔を出した。
「セイウンスカイさん。明けましておめでとうございます」
「やあ今年デビューするマンハッタンカフェだね。噂は聞いているよ。オカルト方面のだけど」
「ようウンス。次出るの天皇賞か」
「う~ん。そんなところかな。前に走ったところだし。復帰戦としてはちょうどいいぐらいかも」
「へへっ、そうかまたお前と走れるの楽しみにしてるぞ。うんじゃ願掛けも済んだことだし練習に行くぞ」
「えっ、今日は学園閉まってるぞ」
「そこら辺の河原でも練習できるだろ。ほら行くぞ海外が俺を待っている!」
海外挑戦に息巻いてステイゴールドが池浦を引っ張り、神社から連れ去っていった。
その様子を微笑みながら眺めるセイウンスカイであったが、ステイゴールドが去ると飄々とした顔に色が薄れていった。
「相変わらず元気だね。先輩は」
***
『さて今年もやってまいりました日経新春杯。新春から雪が降っていた京都レース場ですが見事な快晴となりました』
年が明けてからちょうど半月が経ち、ステイゴールドの新年初のレースは京都レース場で行われるハンデ戦レースだ。
ハンデ戦レースでは、勝率が多い選手との勝率の違いで差を埋めるために勝負服*2の中に重りを入れて走らせる。レースを走るウマ娘にとって体重の調整は速度やスタミナを低下させないために気を付けなければならないのだが、急に自分の体重を増やされる重りはたった五百ℊ、一㎏の差で泣かされることはよくある話だ。
そして検量室で選手たちの体重と勝率に応じて決められた重りが入れられるのだが、ステイゴールドはここまで四勝と少ないが、四十三戦も走っているというのが理由で出場選手の中でトップの重りを付けらされている。
「ちょっと重いな」
「他のレースだともう一㎏も付けられるところだったんだ。それでも選手の中では一番ハンデが大きいけど」
「しゃーねえな。でもトレーナーが見つけてくれたんだ。こんな斤量、ハンデにもなんねえよ」
去年なら悪態ついて唾でも吐くかと思っていたが、あっさりと受け入れてくれたことに池浦はきょとんとなった。
「なんか素直になったなゴールド」
「……ちょっと信じて見たくなってよ。ジャパンカップの時お前の言う通り走ったら俺の悪い噂がだいぶ消えて。最初はクソ先公のようにあーだこーだ言われるだけの奴かと思ったけど、あんたならついてやらないこともないと決めたから」
「」
「へっ、今回は格下ばっかりだ。ファンに新年のあいさつと海外レースへの前哨戦にしてくるぜ」
まだ決まってはいないというのに意気揚々とステイゴールドがターフに上がる。
池浦が検量室からカフェたちが待っている観客席に戻るとレースがスタートした。ステイゴールドは一枠一番という好位置から崩さず内側を順調にキープして、前方に位置付けるという強いレース運びをしている。トップハンデとはいえ、このペースで進んでいけば勝ちは十分に見えてくる。
「ゴールドさん、これに勝利したら海外に行くんですよね」
「カフェ、もしかして君も海外に挑戦したかったのか」
海外挑戦の話が出た時ステイゴールドと一緒にカフェも反応を示していた。ゴールドとは違って、自身は挑戦を口にしなかったが、ピンっと興味ありげに立った耳を池浦は覚えていた。
「……実は。ちょっと憧れてまして。まだデビュー前なのに」
「いや、ウマ娘なら憧れるのは当然だ。海外ウマ娘たちと肩を並べるのは日本だとジャパンカップぐらいしかないからな。そこで実力を示したいと思う気持ちもわかる。タキオンもあの脚ならもしかしたら海外でも勝てるだろうし、カフェも長距離なら可能性だってある」
「……ありがとうございます。でも
最後の言葉にナイフで刺されたように胸が痛かった。
今まで海外のGⅠを勝利してきたウマ娘と言えばタイキシャトルやシーキングザパールなどがいる。だが彼女たちは皆帰国子女や留学生と別名丸外組によるものである。日本出身のウマ娘でGⅡ以下で海外を勝ったことはあれどもまだ海外GⅠを勝った日本出身のウマ娘はいないのは、カフェでなくても日本出身のウマ娘なら何かしら思うところだろう。
そのうちにステイゴールドは第四コーナーを曲がりだして最後の直線にへと差し掛かっていた。ステイゴールドは内を最後までキープしてラストスパートに差し掛かっていた。
「どけどけ。ステイゴールド様のお通りだ!」
『内から一番のステイゴールド、先頭はステイゴールド。ステイゴールドです! トップハンデもなんのその。貫録勝ち!』
ラスト一直線では誰も寄せ付けない強い走りを見せつけて、悠々とゴールしてみせた。約一年ぶりの勝利に京都レース場はあの雨の中の目黒記念と同じくGⅠのような大歓声に包まれた。
「ステゴ新年早々いいじゃん」
「これ今年GⅠ勝てるんじゃね?」
「ステイゴールドさん。こっち向いて」
約一年ぶりの勝利に京都レース場に着ていたステイゴールドのファンたちが歓声を上げる中、ゴールドは一直線に池浦の所へ走っていく。
「へっ、勝ってきたぜトレーナー。これで海外行けるよな」
「まだわかないがこのハンデ戦で勝利したことは大きいぞ」
「絶対だな絶対だよな。嘘ついたらトレーナーのコーヒーにタバスコいれっぞ」
「地味な嫌がらせやめろ」
「私の淹れたコーヒーを不味くしないでください……怒りますよ」
でも海外のレースに出られるだけで十分すごいことなのだが、どんな結果になろうともそれがゴールドにとって良い糧になればいいだろう。