俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』 作:wisterina
春最後のGⅠの宝塚記念が終わって七月になると、トレセン学園は夏休み兼夏合宿に入る。
夏休みといえどもこの時期にもレースもあり、夏休みのために実家に一時帰宅する学生もいるが。たいていの学生は暇を持て余したり夏の暑さで気だるげになる体に喝を入れるために夏合宿に参加する。
チームポラリスを乗せたバスが熱されたアスファルトを進み学園の私有地にある合宿所に到着した。
「相変わらずしょぼくれてんなこの宿舎」
「おいおい、学校が提供してくれた宿舎だぞ」
「海外重賞制覇者やGⅠレース勝者選手が一堂に木造の宿舎に押し込める方がどうかしてんだろ。つか俺が初めて来たときとまったく変わんねえし」
ステイゴールドが不満を垂れるなか、デジタルは宿舎を見ながらぶつぶつと独り言ちていた。
「う~ん。このたたずまいエモい。青い空に白い雲の下でウマ娘ちゃんたちが砂場で汗を流し、年季の入った宿舎で一つ屋根の下で。うへへへ。は、捗る」
「あいつは何を言っているんだ?」
「気にしないで。さっさと荷物を置いてビーチに集合」
チームたちを宿舎に入れさせて、池浦が一足先にビーチに赴くと早々に準備を済ませたウマ娘たちが練習に励んでいた。昨年も夏合宿に来ていたが今年は各チームが練習に入るのが早く一体感があるように感じた。
原因はオペラオーであろう。宝塚記念での宣戦布告に掛け声に遠泳やビーチダッシュにと秋のGⅠレース出場に向けて動いていた。
そして当の本人は報道陣に囲まれて取材を受けていた。
「シニア戦線に今年のクラシック世代が続々と参戦表明をしていますが心境のほどは」
「僕という光に集まってくれるとは光栄の極みだよ」
宝塚や有馬の時よりも酷い包囲網が敷かれる裏返しにもオペラオーは変わらず底知れないポジティブさで迎え撃つ準備をしていた。あのポジティブナルシストな性格は天然由来物も出あるのだが、その底知れない余裕が逆に怖く見えて仕方がない。
「それでオペラオー選手、宝塚記念の後は海外遠征の予定でしたが。それを蹴ってまでシニア王道路線に挑む理由は」
「無論、日本にいる僕のファンのためさ。僕が海外に行ってしまったら、日ノ本が永遠の暗闇に消えてしまうのは忍びないじゃないか」
海外挑戦を蹴った!?
年間無敗という大記録を達成したオペラオーの力量でなら海外挑戦の話もおかしい話ではない。あの宝塚記念の結果でも二着とはいえ完全に包囲された中からの抜け出しと王者の強さを披露していた。それを自ら断ったのは寝耳に水のことだ。
記者の取材が終わり囲みが解けたところを、池浦がすり抜けてオペラオーに近づいた。
「やあポラリスのトレーナー君じゃないか。早速敵情視察かな。どうぞ隅から隅まで見ていきたまえ。なんなら僕の水着写真撮り放題もサービスしてあげようじゃないか」
「それは遠慮しておく。どうして海外遠征を蹴ったんだ」
「ふっ、簡単なことだよ。僕がいなければトゥインクルシリーズは盛り上がらないからさ。今のトゥインクルシリーズを盛り上げるには絶対的な王が必要だ。王に挑む勇者一行。素晴らしい演目じゃないか。間違いなく満員御礼。千秋楽も大繁盛間違いなしさ!」
鷹揚と答えるオペラオーであるが、彼女が目論んでいるのは自らが旧体制の象徴として打破する構図だ。
トゥインクルシリーズの観戦者は黄金世代が去ったのを境に減少傾向にあった。オペラオーはそれを全戦全勝で回復を試みたが、それでも歯止めはかからなかった。それをかつてオペラオー自身が掲げていた黄金世代の打破と全く同じ構図で、自分が築いた絶対王政を捨ててまで盛り上げようという覚悟で国内に残ったのだ。
「それに、ここにいれば目を閉じても開いても僕の名前をコールする声が聞こえてくるしね。はーっはっはっは」
敵視する声を歓声と受け止めて変わらずオペラオーが高らかにビーチで笑い声を奏でる。強い精神の持ち主だと改めて気づかされた。思い返せば昨年の有馬記念でも今年の宝塚記念での宣戦布告も強心臓の持ち主でなければできない芸当だ。あれが絶対王者の覚悟なのだと思い知らされた。
するとパコンと臀部を唐突に蹴られた。
「おい、オペラオー相手にぼーっとしてんな。あいつの王子様フェイスに惚けてんじゃねーぞ」
「ひょええ! オ、オペラオーさんの微笑みのご尊顔を、生で! あのチェキとかありましたか。あの失礼ながら私にお写真を一枚お見せくださいませ」
「ふむ、脈拍に異常はなし。詳しい検査をしてみるためにこの薬を一口飲んでみてくれたまえ」
相変わらず各々自分のことにしか頭に入ってないチームポラリスのメンバー。まったくこちらの話を聞こうともしない。そこにチーム唯一の
「トレーナーさん。オペラオーさんに何か感化されたのですか?」
「ああ。秋の目標は、絶対オペラオーを倒そう」
オペラオーの撃破。それを宣言すると一番オペラオーと戦ってきたステイゴールドが一番ににやりと不敵な笑みを浮かべた。
「絶対ってかおもしれえな。チームポラリス全員でオペラオー倒そうじゃねえの」
「え? 私も入ってますか?」
「当然だろ。デジタルはもとよりカフェも秋シニアのうちのどこかには出られるだろうし」
「えーオホン。そのことについてこの合宿での方針を色々伝えなければならないことがある。まずタキオンは屈腱炎が軽症とはいえ怪我の治療に専念をすること。そして二つ目、カフェはまだ秋シニアどころか菊花賞に出られるか正直なところ微妙なラインだ」
GⅠレースの出走権は、出場したレースの着順によってURAが算出した獲得ポイント数で認められる。ポイントの計算はURA独自の基準や細かいポイントがあるが、現在のカフェの成績では菊花賞どころか秋のシニア戦線にも参加できないのである。
「そのためカフェは八月いっぱい俺と一緒に長距離レースがある富良野特別と阿寒湖特別に出場するため札幌まで遠征に行く」
「トレーナーさん、お世話になります」
「ということは。八月からトレーナーさん不在ですか。ま、まま、まさかこのエモさあふれるウマ娘ちゃんたちの青春の裏側で尊み溢れる場面を。私が、直で、拝めるということですか!? うへへへじゅるりら」
「いや、今回デジタルにはトレーナー業務はさせない。期間が長すぎるし、何より夏合宿という大事な期間をトレーナー業務で忙殺されてはいかん。俺が不在の間は代理のトレーナーが面倒を見てくれる」
「代理だと? この癖のあるメンバー全員面倒見れる奴なんているのかよ」
お前が言うかゴールド。まあ、それに適した人物をわざわざ招き寄せたわけではあるが。
ちょうどその時麦わら帽を被った小さくずんぐりむっくりとした中年の男がポラリスの所にやってきた。
「ようステゴ。相変わらずだな」
「熊のおっさん!?」
「……どちら様ですか?」
「ゴールドの、前の担当トレーナーだ」
***
昼間になり太陽が一番高く、もっとも暑い場所に差し掛かり砂浜の熱が熱せられていく。他のウマ娘たちは日陰に一時避難している中、ステイゴールドと熊だけは砂の上に二本の足で立っていた。
「おっさんなんで帰ってきたんだ」
「そりゃお前さんに負わされた怪我からやっと復帰出来たら担当できるウマ娘がなくて手持ち無沙汰になったから、夏合宿の期間代理を務めることになったのよ。それにお前のようなイカれたウマ娘に慣れた経験豊富なトレーナーが俺しかいない。ほれ、さっさと始めるぞ。海外に勝ったとはいえお前も年なんだからな」
「年のことおっさんに言われたくねーっての」
「ほお、まだやれるってのか」
「当たり前だっての。見てろやゴラァ!」
挑発に乗られたステイゴールドは灼熱の砂浜をものともせず、砂浜千メートルダッシュを敢行しだした。
「ほらな。ああやって焚きつければいいんだよ」
「こんなにうまく誘導できるとは。恐れ入りました」
「あいつは手懐けるタイプじゃない。焚きつけるか納得する様に動かせばいいんだ」
実はゴールドはこの時間に灼熱砂浜千メートルダッシュ予定をしていたのだが、マイルール絶対至上主義で自分が納得する練習メニューしかこなさないステイゴールドでは、池浦の指示を聞かないと思い熟練のトレーナーである熊にお願いをしていた。
しかしこうも簡単に練習を実行できるとなっては、未だに自分はまだ新人の域なのだと思い知らされた。
「しかしまぁ、あいつが国内だけでなく世界のGⅡまでを取るとはな。俺が四十戦も走らせて重賞取れなかったというのに。池浦君の力量がすごいのかね」
「いえ、俺は大したことは本当にしていないです。熊さんが指導したのと、ドバイで勝ったのはあいつの想いと力を発揮できたからです。むしろ手柄を横取りした形になった俺の方が悪い感じですし」
それを聞くと熊は麦わら帽を脱ぐと少し薄くなった頭部をかきあげた。
「そうだなあいつの力だよな……だが池浦君、これだけは忘れるな。GⅠは本当に限られたウマ娘にしか取れないということだ。俺は『穴の熊』と言われてるが、裏を返せばGⅠを獲ることは並大抵でないウマ娘を担当したんだ。他のウマ娘も最善を尽くしてもほんの少しの運や相手のわずかな力量差で栄光を取りのがす。まっ、あいつの場合は中央のGⅠ戦線を四十戦以上走れた時点で並みのウマ娘ではないが」
トゥインクルシリーズには絶対はない。いやスポーツの世界事態にでは絶対はない。現にアグネスタキオンも、三冠達成できると言われたのに故障でダービー回避に陥った。いや過去振り返れば怪我でレースを棒に振ったウマ娘は大勢いる。その中でたった十程度しかないGⅠレースを勝ち取る。思えばGⅠとはなんと至難であろうか。
「おい熊のおっさん。俺に引退勧めてんのかコラ」
いつの間にかステイゴールドがダッシュを終えて戻ってきていた。
「頂点に手が届かなくても十分立派な戦績だ」
「ざっけんなよ。俺はもう文字通り世界最強だ。今の俺ならGⅠを取れるところまで来ているんだ」
「ステゴ。お前は確かに他のウマ娘よりは丈夫だ。普通のウマ娘よりかは長く走れるだろう。だがそれがいつになるかね」
「近いうちだ。おっさんの目の前で盾かレイ引っ提げて土下座させてやるぜおっさん。おいトレーナー、次行くぞ。次」
「ちょっと待て、次はクールダウンして。室内練習を」
「夜でいいだろ。遠泳付き合え」
首元を掴まれたまま池浦は引きずられて行ってしまった。その様子を熊は優しい目つきで、二人が海に入るまで見続けた。
「近いうちか。そうか、早いところ取れるように祈っているぞ。ステゴ。池浦君」
遅くなって申し訳ありません。
ウマ娘でデジタルやカフェの実装でこっちの方を見なおしたり、その間にメジロブライトも登場とこの作品に関係するウマ娘がぞろぞろと来たり。
おまけにリアル競馬でオルフェーヴルの娘がジャイアントキリングをかましたりと情報の整理が追いつきません。
今後も新規のウマ娘が増えると思うので、順序修正していこうと思います