俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』 作:wisterina
合宿が始まってひと月が経った。先月までサマースプリントレースに出場していたウマ娘がやってきたり、夏のレースに出場するために合宿所を出ていくウマ娘と合宿所に入れ替わりが起きていた。池浦トレーナーとマンハッタンカフェもこの期間札幌レース場で行われる富良野特別とかつてステイゴールドの勝ち鞍の代名詞であった阿寒湖特別と富良野特別に出場するため合宿所を後にしていた。
その間のトレーナー代行である熊トレーナーが残りのポラリスのメンバーを面倒を見ていた。
「デジタル足を踏ん張るな。ダートは足の強さより瞬発勝負だ。脚の入れ方を意識しろ!」
「ウマ娘ちゃんのエモのためなら。えんーやこーら。オペ様とドトウさんのツーショット見るため、秋の天皇賞に出場するために、夏のコミケを我慢。我慢……ううぅ」
個人的雑念に悩まされているデジタルがしごかれている間、ステイゴールドは一人タイヤ引きのためウマ娘トレーニング専用十トンタイヤを砂浜にまで持ってきたが、熊トレーナーがそれを止めた。
「おいステゴ。タイヤ引きはいい。部屋に戻ってビデオ研修をしてコースの位置取りを覚えておけ」
「もう全部のコースは頭の中に入ってる。それに次のレースではオペのやろうとかち会うだろ。あいつの競り合いに勝つためにはこれが一番いい」
「朝にダッシュ千本やっている。これ以上はオーバーだ折れるぞ」
「じゃあ続行だ。俺は折れない絶対に」
「お前なぁ。意地でも毎月走る頑固さとそれに耐えれる頑丈さはほかのウマ娘には持っていない長所だ。だがお前だってウマ娘だ。今年はまだ余裕があるローテーションだが、お前のことだから秋の王道GⅠレースは全部出るだろ。そんな無茶をしたらいつかは」
「どんなウマ娘でも怪我をするものが絶対なら、どんな試合でも絶対に故障せず走り抜けてGⅠ勝利をしてやる。その絶対を崩してやる」
「……やっぱりイカれてる」
「イカれてようとなんだろうと勝てば官軍だ。コノヤロウ」
転がしていたタイヤが倒れるとズシンと重厚感のある音とともにきめ細かい黄色い砂が舞い上がる。ステイゴールドは補助もなく一人でロープを体に括り付けて熊の指示を聞かずタイヤ引きを敢行しだした。
熊は止めることはしなかった。かつて担当であった時も自分が納得できることしかトレーニングをしなかた。それがステイゴールドのやり方であり、その信条はもちろん試合でも同じであった。ほかのウマ娘がレースに勝つことを第一にするが、レースに集中せず自分が納得できることのみを優先する。ベテランの熊でさえ扱うのが難しかった。それがレースに勝つために一心不乱に自ら励んでいる。
自分の時ではレースをすることを一から教え、重賞制覇は後輩に取られたものの彼女の成長をうれしく思っている。同時に彼女に孕んでいる一種の狂気に呆れつつもではあるが。
「まったくイカれてる。過酷な道をあえて進んでいく狂気を孕んで。だからこそ、放っておけない。もう一人のイカれたウマ娘も」
夏の熱気の中で一夏の生を叫んでいた蝉時雨が寝静まった夜中、夕食を終えてチームポラリスの大部屋に思わぬ来客が来た。
「Hey.girl's」
「はわわ。クロフネさん! なぜこんなところにおいでいらっしゃいませ?」
「日本語おかしいよ。タキオンを探しに来たのよ」
「タキオンさんですか。今の時間でしたら夜の実験に行くと浜辺におります」
「Thank you crazyデジタル」
「クレイジー?」
「芝とダート両方好成績を叩き出したYouのこと」
「いえいえ。私なんてそのあと芝の成績がてんでダメのダメ。中途半端のフロック。栽培マンに勝ったと思ったらヤムチャしただけです」
とデジタルは某有名漫画の有名な死亡ワンシーンを再現して表現したが、どうもクロフネは日本のアニメや漫画には疎く頭に?を浮かべていた。そこにすでに布団に潜っていたステイゴールドが耳を寝かせて、白い眼をクロフネに向けてぎろりと睨みつけた。
「おい。行くのか行かねえのかどっちだ。こっちは疲れて寝てえんだよ」
「Sorry.じゃあデジタル案内よろしくね」
「……っ! クロフネさんをご案内できるなんて恐悦至極ですぅ~」
満月の月明かりだけが灯す砂浜を、デジタルに導かれながら寝巻のままタキオンの下へ向かうクロフネとステイゴールド。「なぜYouも一緒に?」とクロフネが聞くと「誰もついていかないとは言ってないだろ」とはぐらかした。
「そうそうクロフネさん。NHKマイルカップでのG1制覇おめでとうございます! いやぁメイクデビューで見かけたときこの娘は伸びると思いましたよ。惹きつけられるストライド走法と『舶来の白い黒船』と呼ばれるまでの評判。そしてNHKマイルカップでの最後の直線での強襲。サイコーのレースでした」
「細かく見ているのねデジタル」
「そりゃあもう。ウマ娘ちゃんの隅から隅まで把握することがウマ娘ちゃんのオタク使命ですから」
「それが過大評価であったとしても」
「はて? どういうことでしょうか?」
力なくため息をつくクロフネに、デジタルが首をかしげると彼女は答えた。
「NHKマイルカップには勝った。だが日本にはタキオンという音速の微粒子がいる私は彼女に負けている。皐月賞は〇外のため参戦できず。ダービーでRevengeするはずが、怪我で断念。そこではジャングルに敗北。舶来の強さもこんなものだと思わないの?」
いつもの強気な口調はなく、弱々しい吐露していた。ジュニア級では期待の〇外と呼ばれ、ダービーはクロフネがかっさわれると話題を呼び、その評判に釣られて自信を深めていたクロフネであった。だが上には上がいたことの事実。G1を制覇しているとはいえ、自分は強いのか弱いのか物差しの加減で分からなくなっていたのだ。
だがデジタルはきっぱりと反論する。
「そんなことはありません! みんな違ってとてもエモい。得意な場所で勝てば一番になって輝いてもいいじゃないですか。私の見立てではクロフネさんはマイルが得意と思われます。それに負けても負けても立ち上がるお姿私大好物です。じゅるり」
相変わらずのオタク用語に反応に困ったクロフネではあるが、励ましていることと本当にファンであることは理解したようで「Thanks」と返した。
ようやくタキオンのところに到着すると、そこには熊トレーナーが彼女のそばに付き添い何度もタイムを計っていた。
「おい、おっさん。夜な夜なタキオンと一緒にいなくなっていたと思ったら、こんな夜遅くまでタキオンを走らせてんのかよ」
「池浦君が俺を呼びよせたのは、あいつの脚を使えるようにするためだ。あのマッドサイエンティスト、自分の脚が元に戻れるように薬漬け上等で自分の体をいじってたと聞いたときは、狂ってるとしか思えなかったぞ。しかもそれが十分効くと来た。まったく池浦君もとんでもないチームを作ったものだな」
「俺たちの面倒を見るのはついでかよ」
「そうだな。ついでだ。海外重賞を取った昔の担当がどんな顔しているか見に来たついでにな」
それは本音だったのか、ケガを負わせられた熊トレーナーはまだステイゴールドのことを想っている台詞にステイゴールドは背中にこそばゆい感触が来て耳を横に寝かせた。それが本音であるか追及するステイゴールドではないため、話をタキオンのほうに戻した。
「それでタキオンは走れるのか?」
「俺の常識的なリハビリと調整に調整を重ねて、皐月賞の時と変わらない脚には仕上げたつもりだ。病弱だったダイユウサクを有馬で取らせた経験もあるし、アホを四十戦走らせた実績もある」
「なるほど。……おいアホとはどういうことだゴラ」
ぎろりと白目を剥いて睨むステイゴールドであったが、熊トレーナーは明後日のほうを向いてあしらった。
「状況は理解できた。それでタキオンあなたは走ることはやめていないことでOK」
「無論だとも」
「では神戸新聞杯でRevengeraceを申し出る。菊花賞は私には長すぎる。次は秋の天皇賞に出場するおそらくタキオンと対戦できるのは今年はこれで最後だと思う。Are You?」
「ふむ。熊トレーナー。どうだい神戸新聞杯には」
「可能だ。元から怪我明けからいきなり菊花賞に直行するより、前哨戦で足の調子を見てみる予定だ。神戸新聞杯なら復帰レースとしてはちょうどいいな」
「OK.ホープフルで敗れた時のRevenge。必ず返す」
「ふふ、ではI shall returnだ」
目に生気がないタキオンの奥に小さな炎が見えた。そしてタキオンとは異なり青い目をしたクロフネの目の奥にも青白い炎が燃え上がっていた。ホープフルステークスで対戦した二人が再び相まみえる一幕を眺めていたデジタルは歓喜に震えていた。
「ふっはー。いいもん見させてもらいました。ライバルが再戦を誓う場面。たまりませんなー」
「ライバルか。…………ブライト」
ゴールドがつぶやいたその名前は、かつて春の天皇賞を制した同期のメジロの令嬢メジロブライトのことだった。黄金世代の大半が去った後も走っていたのだが、屈腱炎により一時戦線を離脱した。そして昨年の京都大賞典に復帰したものの出場したのを最後に引退した。
その年はステイゴールドとはレース場では顔を合わさなかったが、京都大賞典の後ブライトは久しぶりに顔を合わせたステイゴールドに直接会い、そして引退の言葉を告げた。
「ごめんなさい。屈腱炎が再発してしまったようでして、お婆さまから大事を取るようにと引退することになりました」
「……残念だったな秋の天皇賞の盾。今度こそ俺が取るとこ間近で見られなくてよ」
「ふふっ、楽しみにしていますわ。でも一番残念なのは、あなたとまたターフで戦えなかったことですわ」「そうだなもう同じクラシック路線を走った同期もほぼいないしな。フクの野郎も引退して実家の神社を継ぎやがったからな。ジャスティスもビッグサンデーも去ったしな」
皐月賞やダービーには縁がなかったが、夏の阿寒湖特別に勝ったことでステイゴールドはクラシック最後のレース菊花賞に出場はできた。結果は見張るべきものはなかったもののゴールドもクラシック出走仲間ではあった。ほかの同期たちは重賞やG1タイトルを取る中、ステイゴールドだけはG1を善戦していた。それは他の同期が去っていく中でも変わらず。
そして、ブライトが去ったことで同期でGⅠを取ったウマ娘はいなくなった。
「私信じてますわ。あなたはきっと観客を驚かせるような走りでGⅠタイトルを取ることを。それを見届けられるなら五年も十年も走りましたのに」
「そんなに走れるウマ娘がいるかよ」
「あら? ゴールドさんならできると思ったのですが」
あのお嬢様は苦手だった。いつものほほんとぼんやりとしているくせに、揺るぎない信念を誰よりも持ってる。だからメジロ家の悲願である春の盾を手にできた。その後は重賞勝ちもできずに善戦ばかりであったが。
今思えば、あいつのあの言葉はライバルとしてかけた無念言葉だったのだろうか。ステイゴールド自身はそれまで思ってはなかったが。
自分のライバルはあのウマ娘だけがライバルとしか見ていなかった。そいつに勝つことこそが、目標であったから。
ステイゴールドは過去を思い返していた。
今年も一年ありがとうございました。
今年はウマ娘稼働の年ではありましたが、リアル競馬でも大きく揺れましたね。
特にステイゴールド関連では年末にオジュウチョウサンの復活とJRA公式CMにステイゴールド採用と驚きもありました。
来年も投稿を進めて、ペースアップも図りますのでよろしくお願いいたします。
そしてアグネスデジタル。ご冥福をお祈りいたします。