俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』   作:wisterina

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第三章 ステイゴールド ~阿寒湖と呼ばれるまでの旅路~
メイクデビュー


新緑が咲き始めた頃トレセン学園のコース内で選抜レースが行われていた。この選抜レースは一応は非公式の模擬レースとして行われてるが、トレセン学園に入学したウマ娘たちが自分を育ててくれるトレーナーに見出されるため大事なイベントである。ウマ娘たちは必死だ。そして将来のスターウマ娘となる金の卵を探し出すトレーナーも目を血走らせていた。()()()()()()

 

『”最終直線に入りました。マキバダッシュ後ろからはステイゴールドが上がってきます。さあこの選抜レースを制するのは誰だ”』

 

 先に直線に入り、残り三百メートル手前まで快調に逃げるウマ娘の後ろに小さな黒い影が迫るようにやってきた。そのウマ娘の名はステイゴールド。だがゴール板手前で急に脚が止まり、内ラチにもたれるように失速し二着に入線した。

 

『”マキバダッシュ逃げ切った! 二着にはステイゴールド”』

 

 先頭を最後まで走っていたウマ娘の逃げ切り勝ちで勝負が決まった。ほかのウマ娘たちが次々とゴール板を悔しさ混じりに駆け抜けていた。二着になった一人のウマ娘を除いて。

 

 かったるい。選抜レースとか興味ねー。

 

 ステイゴールドは走りたくなかった。いや、そもそもトレセン学園に入ることすら拒んでいた。ステイゴールドの家系は何人もトレセン学園に入学させて、トゥインクルシリーズを走った実績がある家であった。親戚がそのレースを走る姿を見たことはあるが、それを自分を重ねることは毛頭なかった。レースは見るだけで十分、主役になることすら望んでもいなかった。

だが、ここしばらくレースでトゥインクルシリーズを走る姿を見ることがないことを危惧し、ステイゴールドにたまたま白羽の矢が当たったのだ。

 

 自分のためでないことのために動かされる、他人の都合のために振り回されるなどまっぴらごめん。それがステイゴールドである。一着になれば自分の都合でレースに勝たせようとするトレーナーが群がる。だからあまり目立たない二着か三着で十分だった。だがステイゴールドの思惑とは違い、ずんぐりむっくりのトレーナーがスカウトに来てしまった。

 

「お前さんなかなかいい素質を持っているな。俺のところで走ってみないか」

「ならない」

 

 そのトレーナーは一瞬キツネにつままれたようになったが、再度ステイゴールドをスカウトする。

 

「二着に入線したんだぞ。勝てはしなかったが、伸び代は十分だと思うぜ。何がダメなんだ」

「走りたくないから」

「……ほう。それまたどうして」

「関係ねーだろおっさん、俺はもう帰るんだ。どけっ!」

 

 話しかけてきたトレーナーを押しのけてレース場を後にしようとした。だが彼女をスカウトに来る者は後を絶たない。

 

「ねえあなた、さっきの選抜レースに出てたでしょ。今回惜しかったわね。どう私の下で勝ってみない?」

「あ゛あ゛」

「ひっ!?」

「俺のチームに入ってみないか。ゴールドの素質なら重賞の一つは」

「なんだてめえ」

「な、なんでもないです」

 

 次々と現れるトレーナーのスカウトを三白眼で睨みつけては追い返した。

 選抜レースで勝ったウマ娘は確かに注目される。しかし勝ってなくても素質があると見たり、目的のウマ娘を獲得できなかった場合でもスカウトされることがあるのだ。ましてステイゴールドは二着とスカウトする側としては善戦しており、今後鍛えれば将来性があると注目される要素としては十分であったのを本人は知らなかった。

 

 ちっ。勝てなくても俺を欲しがるバカどもめ。

 レース会場から抜け出していく間、自主トレに励むウマ娘たちが通り過ぎて行った。皆自分の目標のため、ライバルに勝つために目がギラギラと燃えていた。まったくムカつく。自分のために走ることができる奴らが憎たらしくてたまらない。他人の都合で動かされるこっちの身としてはな。

 人気のないトレーニングコースに降り立つと、ラチの下で小さな三毛猫が真っ白なお腹を丸出しにして日向ぼっこしているのを見つけると、猫好きのステイゴールドは一目散に子猫の下に近づいた。

 

「どうしたお前? 迷子か。俺もだぜ。へへ」

 

 先ほどの殺気立ったウマ娘はどこに行ったのか。目の前の子猫よりも甘えた猫なで声で、産毛で覆われた腹をさわさわと撫でまわしていた。

 ここがどういう場所なのか知らず、自由に自分の赴くがままに歩む猫の奔放さと無邪気さにステイゴールドの荒んでいた心が洗われていく。そんな至福の時に普段鳴らないスマホからメッセージの着信音があった。それが誰か見当がつき、ステイゴールドの耳が後ろに倒れる。

 

『早く自分のトレーナーを見つけろ。今月中に支援を打ち切るぞ』

「っち。適当に走って誰も注目されず追い出される予定だったのに、支援打ち切りかよ。クソッ」

 

 かかってきたのは自分をこの学園に入れさせた父親からだった。思わずスマートフォンを地面に投げつけかけた時、一陣の風が髪をなでた。それは自然の風ではなかった。同じクラスのサイレンススズカが過ぎ去った後の風圧だ。突風のような一瞬吹き荒れた風に子猫は驚き、どこかに去ってしまった。

 スズカがステイゴールドの姿をようやく認識したようで彼女の下に駆け寄ってきた。

 

「ゴールド。あなた選抜レース終わってたの?」

「サイレンススズカか。お前朝も走っていたよな。昼からもここで走っていたのかよ」

 

 選抜レースのことは話したくなく、話題を逸らした。するとスズカは空を少し見上げながら答えを返した。

 

「? いえ、ずっと走ってたわよ」

「ずっと? 何周コースをグルグル走ってたんだよ」

「……えっと。分からないわ。とにかく夢中で同じコースをグルグルと走っているのが楽しくて、そうしたらあなたがいたのに気付いて」

「あほか! 昼飯も食わずにずっと走っていたのかよ。もうカフェテリア閉まってるぞ。ったく、お前はなんでそんなに走るんだ」

 

 「なぜ走る」その言葉に先ほどまでぼんやりとしていたスズカの目が、一瞬別の世界を眺めるような目つきに変わったのを感じた。

 

「……()()()()()()()()()()()()()

「自分だけの世界?」

「ごめんなさい。お昼行ってくるわ。食堂まだ空いているかしら」

 

 とっとっと、練習コースを抜け出したスズカに『自分だけの世界』とは何かを聞こうと後を追いかけたがスズカの脚は早くあっという間にいなくなってしまった。

 自分だけの世界がレースの中にあるだと。わからん。わからない。だがそれが何か小骨が刺さったように引っかかっている。すると一人のトレーナーがステイゴールドをスカウトに来た

 

「ステイゴールドだね。さっきの選抜レースの結果だけど」

「埒があかねえ。お前の専属になってやるよ。それで満足か」

「え、あ。ああ。よろしくお願いします」

 

 とりあえず目の前にいたトレーナーと専属契約を結んだ。まさか逆に指名を受けるとは思わず目の前にいたトレーナーはあっけに取られて、一瞬呆然としていた。

 


 

 そして十二月に行われたメイクデビューにて、ステイゴールドは三着に入った。

 

「メイクデビューで負けるなんてザラにある。むしろいきなり勝つなんて一流の証だ。今回は三着とステージのサイドに入れる位置だぞ。素質は十分ある」

「あっそ」

 

 負けたことを慰めようとしたトレーナーにステイゴールドは空返事で返した。勝つとか負けるとか関係はなかった。サイレンススズカが口にした自分だけが見る世界とは何かを見るために。だが何も感じ取れなかった。

 結局レースなんてこんなものか。快感も屈辱もない。そもそも勝ちたいとすら思ってなかったしな。

 

 間をおいて下旬に次のレースに臨んだ。前走の三着入着が評価されたのか一番人気に支持されていた。しかし本人は「何も感じなかったら手を抜くか」と勝つ気はさらさらなかった。ゲートが開きステイゴールドは後方集団でレースを進めていた。

 前へ、足を溜めて、勝ちたいという思いがぶつかり合っていた。だがどれもステイゴールドが求めていた世界ではない。やはり何もないじゃないかと向こう正面に入った瞬間、前脚の肉が割れるような悲鳴が上がった。

 

 イ、痛い。脚が。

 ペースを保っていたステイゴールドの脚がどんどん鈍くなっていく。その異常に気付いたトレーナーが観客席からレースの中止を命じた。

 

「ゴールド止まれ! レースは中止だ」

 

 中止か。仕方ねえ、どうせやる気のないレースだ。

 ステイゴールドが脚を止めようとしたその時、観客席に見たくないものが見えてしまった。父親の姿を。

 ステイゴールドの父親は応援する気配も、声をかける様子もなくただ黙ってレースの始終を見つめていた。それもほかのウマ娘ではなくステイゴールドただ一点を見つめて。

 そしてトレーナーの競走中止の声が聞こえたのか、父親はくるりと背中を返してレース場を去っていった。何をしたいのかわからない姿がステイゴールドの堪忍袋の緒が切れるのには十分だった。

 

「あ、の。クソおやじ、めっ。途中で、帰りやがるの、かよ!」

 

 ステイゴールドはトレーナーの命令を聞かず、前にいる集団から離されても走るのを止めることをしなかった。

 

「止まれ! 止まれ!! 中止だ!! 中止だって言っているだろ!! 聞こえないのか!!!!」

 

 知るか!

 一方的に学園に入れと命じ、いざ見に来たら途中で帰るとか。ムカつく、ムカつく! こんなところで中止なんざやってられっか!!

 もはやトレーナーの声など届いてなく第四コーナーを曲がり終わったときには完全に先頭集団はゴール板を抜けようとしていた。明らかな負けレースであったがステイゴールドは最後まで走り切り最下位の十六着と惨敗を喫してしまった。

 レースの後、病院で検査を受けたが若いウマ娘によくある前脚のソエであったため大事に至らなかった。病院から出た後トレーナーは心配する言葉よりもあの時言うことを聞かなかったことを問い詰めていた。

 

「なんで体に異常があったのにレースをやめなかった。もしも本当に異常があったらどうする!」

「五月蝿え。手前に指図される筋合いはない」

「僕はトレーナーだぞ! 君の体調の管理や作戦の指示をする権利がある」

「権利だ? 生意気言うな。走る走らないは俺様が決める。気に食わなければ手前の命令なんざ無視する。死んでもな」

「理解できない。イカレてるぞお前」

 

 そう言い残すと、トレーナーはステイゴールドの前から立ち去った。翌日もトレーナーは顔を表さなかった。手に負えないと匙を投げたのだとわかると学園の校舎裏の陰に寝転がった。

 

 せいせいしたぜ。これで俺はトレーナーとの契約が切られる。そして切られた理由を学校にそのまま伝えれば不適格の烙印を押されて追放だ。あーあ。つまんねー学園生活ともおさらばだ。

 

 心の中でそう言い聞かせているはずなのに、奥底では満たされない何かで飢えていた。走らされるのは嫌いだ。実際にレースを走ってみても何にも感じなかった。だが、奥底では何かを欲していると口を開けている。

 自分でもわからないフラストレーションに神経が苛立ち始めた時、野太い声が上から降ってきた。

 

「よう。イカレいるウマ娘とはお前か」

「何だお前は」

「最初に選抜レースで声をかけた、と覚えてるわけないか。半年も経ってるしな。トレーナーの熊だ」

 

 熊と名乗ったトレーナーは、名前は知らなかったが覚えてはいた。半年前と変わらないずんぐりむっくりとした小柄な体は、物覚えがいいステイゴールドの記憶に残りやすかった。熊トレーナーは

 

「お前さんが走るところを見てきたが、走ることに興味ないみたいだな。それでいて走ることは自分で決める。なるほど普通の奴なら理解できないな」

「何が言いたい。俺のこと理解できるとでも」

「半分くらいは。おおかた親に無理やり入れられて、嫌がらせのため手を抜いている感じだな。それを才能がじゃまをしていると」

 

 まるで超能力で見通したかのように、当たっていた。そんなことを知って何が言いたいと言い返そうとしたが、先に熊トレーナーが遮る。

 

「だがすぐに出ていかなかった。どうしてだ」

「俺の勝手だろ。飯が食えるからだ」

「表面はな。おそらくだが、自分で何か成し遂げたいものを探していたと思うぜ。だからお前は学園にとどまっていた。探してみないか。誰かの都合でなくお前自身が走ると決めて納得できるレースを」

「納得のいくレースだと。そんなものあんのか」

「だからそれを自分で見つけるんだ。だがレースの登録とか日程はトレーナーがいないとできない。どうする?」

 

 最初に出会っていた時に今までの言葉を言われていたら、後ろ蹴りをかまして立ち去っていただろう。だが自分が求めているものは何かを知りたい。そしてスズカのあの目が見ていた『自分だけの世界』という言葉の意味を見つけたかった。

 

「納得いかないなら。未勝利で辞めてやるからな」

「めんどくさいウマ娘だ。だが教えがいはあるな」




まさか一周年にナリタトップロード実装決定とは。
一周年にほかにどんなウマ娘が来るのか今月末が楽しみでしかたない。


そしてAJCC。応援馬券の予定でしたがマイネルファンロン万馬券ありがとう。
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