俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』 作:wisterina
「やっぱ苦戦しているようだな」
「はい」
「悔やむな、あれは誰でも無理だ。いかれてるからな」
保健室でステイゴールドに踏まれた足を治療しているとステイゴールドの前のトレーナーが心配しにお見舞に来てくれた。この前トレーナー、今までステイゴールドの担当をしていたのだが怪我によりトレーナーを一時休業せざる負えない状態になり池浦にバトンタッチした。最もその原因となったのがステイゴールドであるのは言うまでもない。
「見舞ッ!! 池浦よ。初日から災難だったな」
前のトレーナーの影で見えなかったが、後ろに秋川理事長が自分の体よりも一回り大きい山盛りのフルーツ籠を持ち抱えていた。
「理事長わざわざお見舞に来てくれるなんてもったいないです」
「お前があいつの担当と聞いてすぐに心配していたからな。俺の時もあのじゃじゃウマ娘に吹き飛ばされて保健室送りになったことか。その時も理事長からもう商売できるぐらい見舞の品が送られて、病室で埋め尽くされていたものだ」
前のトレーナーは昔のことを語りながら腕や足をさすりだした。恐らくほかでやられた怪我の跡が残っているのだろう。
ステイゴールド。
あの伝説の大逃げウマ娘サイレンススズカと同期であり、天皇賞や有馬記念などのGⅠレースを幾たびも走り、黄金世代と呼ばれるウマ娘の試合に彼女ありと呼ばれている。いずれも二位や三位など惜しい所までの着順でゴールし、ウイニングライブのステージ常連。しかも香港の海外遠征を経て覚醒したサイレンススズカに一バ身差まで差し迫り、スペシャルウィークにもハナ差まで差し迫った実績がある。と良いところだけ羅列すれば応援しがいのあるウマ娘だ。
だがステイゴールド自身、悲劇のヒロインや同情できるウマ娘とは全くかけ離れた荒くれた気性難持ちと自信過剰で一部からは煙たがれている。元々ウマ娘の何人かに一人は何かしらぶっ飛んだ性格を持っているのだが、彼女の場合はそんな生易しいものではないことは先日のファーストコンタクトで明らか。しかも黄金世代が去った今でさえ主な勝鞍が二年前の阿寒湖特別というマイナーなレースのみ。そのため別名が阿寒湖ともネットでは呼ばれている。
「憂慮ッ!! 池浦よ。前に話したが彼女は経験豊富だが扱いが難しい。今なら他の新人ウマ娘の担当に変えることもできるぞ」
池浦を慮ってくれての発言だろう。だが池浦には放棄することはできなかった。ステイゴールドの担当になる前ある新人ウマ娘の担当になっていた。共に日本一のウマ娘と日本一のトレーナーになる夢を抱えて前進しようと。だが彼女の夢に届かせるための力を池浦はまだ持っていなかった。何度やってもレースに勝ち切れなく、ついには彼女自身学校を辞めてしまった。
己の実力不足だった。伸びるはずの才能をつぶしてしまった。だから今度こそ勝利を与えれる実力をつけるためにあえて難しいステイゴールドの担当になった。
「……いえ俺が最後まで彼女を面倒を見ると言った手前、まだ降りれません」
「感激ッ!! とはいえ、一人では不安であろう。君のサポートができる者をつけよう」
「誰かとは、たずなさんですか? でも彼女は理事長のお守、いえ学生を見守るのに忙しいのでは」
「放心ッ!! 私に任せておきたまえ。ウマ娘のサポートをするトレーナーを助けるのが理事長の務め」
小柄な体に反して相変わらずの頼もしい発言を残すや否や早々に保健室から退出してしまった。
「池浦。本当に無理ならギブアップするんだぞ」
「ギリギリまで粘ります」
治療を終えてトレセン学園の校舎を歩く。今授業中ともあり廊下を全速力で走るウマ娘の走行音が聞こえない。そして池浦がステイゴールドがいる教室の前に立ち、教室をこっそりのぞいてみる。
ステイゴールドがいる教室にはテイエムオペラオーやメイショウドトウなど今のGⅠを走る優駿たちが集って真面目に授業を受けている。その中で彼女は頭の耳を垂らしてこっくりと船をこいでいる。授業をしている先生もあきらめているのか、それとも反撃を恐れているのか注意もせず無視して授業を進めている。
こうして寝ている姿だけ見たら本当に美人で清楚そうなウマ娘なのに。どうやったらあの子と通じ合えるのだろうか。
「はわぁぁ。ウマ娘ちゃんたちすこだわぁ。しかもさすがC組GⅠレース常連ばかりでみんな美人ぞろいというかウマ娘ちゃんたちはみんな推しでどれが抜きんでているか選べないいい!?」
急に頭に大きなリボンを付けたウマ娘が、下品な声でよだれを垂らして奇声をあげているのに驚き、慄いた。
「な、なんだこの子!?」
「うひゃぁ!? な、な、な。巡回の先生!? この時間はいないと思ってお忍びしたのに。あの、わたしまだ捕まるようなことは」
「いや俺は巡回の先生じゃないから。というか君」
「別に怪しいことをしているわけではなく、池浦トレーナーという人を探してウマ娘ちゃんたちがいる教室を見ていたのでありまして。決してついでにウマ娘ちゃんたちの勉強する姿見れて眼福というわけでは」
オドオドと挙動不審さと自白の内容でどう見ても怪しいウマ娘にしか思えない。
「池浦は俺だけど」
「えっ。トレーナーさん? まさかこんなところで会えるとは、あたし秋川理事長からサポートを頼まれましたアグネスデジタルですぅ。さっき覗き見いえ、観察しているところスカウトされて。将来はウマ娘ちゃんたちのトレーナーになるためストーキングもとい情報収集をしてきた甲斐がありました」
「ウマ娘なのに、トレーナー志望?」
「はいっ!」
不良に変態となんでわずかしかないはずのぶっ飛んだ性格のウマ娘がやってくるのだろう。ギブアップの手を上げそうになった池浦だった。