俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』 作:wisterina
「ちっきしょー、後少し伸びてればなー。オペラオーのやつに勝てたんだけどなー」
横になりながら部室にある唯一のソファーを一人占領してこの間の春の天皇賞の結果に不満をいだくステイゴールド。そしてその横で両手を頬に添えてデジタルが高揚していた。
「はぁあああ。寝ているステイゴールド様のご尊顔っ。不貞腐れ顔もすこ」
「……うぜぇ」
「デジタル危ないから離れてろ。蹴られるから」
「ゴールド様に蹴られるのならむしろそれはご褒美」
逆に危ないのはこの子の方かもしれない。
代わりにデジタルの首根っこを引っ張って、ステイゴールドから引きはがしてパイプ椅子に座らせた。
「さて、今後の方針だがステイゴールドには確実に勝たせるようにしたい」
「もしかして、GⅢに出バですか」
「いや最低でもGⅡだ。ステイゴールドの意志を十分にくみ取りたい。そのためにステイゴールドの弱点の改善を」
この間の天皇賞を見てもステイゴールドに勝ち目は十分にある。本格化し始めているシニア級相手に四着とはいえ最後の混戦にもつれ込める自力はある。問題があるとすればその凶暴性もとい斜行癖だ。斜行してしまうと直線よりも距離が長く取ってしまい、ゴール判定にも不利が起きてしまう。
あの斜行癖さえ治せばきっと一着を取ることができる。池浦はそう確信していた。だがそこに異議を唱える者がいた。
「果たして当面の問題はそれだけかなトレーナー君」
「というかなんでまだいるんだよタキオン。この部屋はもうステイゴールド一人が使う部屋じゃないぞ」
「いやいや、私が許可をもらったのはゴールド君からだ。つまり私が退去を命令するのはゴールド君の口から告げるのが道理じゃないかな。しかしどーしてもダメというのなら仕方ない。またどこかの使われていない教室を使うほかないようだ。それに使われていない教室の方がちょっっとばかし黒煙だらけしてしまう実験ができるのだから、私としてはそっちの方にメリットが大きいかもしれないねえ。チラッ」
わざとらしいほどの誘導。しかしタキオンなら本当に教室を黒焦げにしてしまいかねない実験を平気で行いかねない。
「諦めろ。こいつはけっこう鬱陶しいからな」
「……まだここにいていいぞタキオン。できる限り黒煙とか爆発とかでないものをしてくれ」
根負けした途端、タキオンのハイライトのない目に一瞬光が差し込んだ。
「うんうん。実にトレーナー君を持って幸せだねゴールド君は」
どうやらタキオンの策にはまってしまったようだ。だが学園の平和を考えたら、この部屋の隅で比較的安全な研究をし続けた方がいい。
「さて、話を戻そう。彼女にもそろそろ年下の世代と戦うのは酷になる時期だ」
「それは限界が近いということか」
「ウマ娘の速さの限界を研究をしている関係でその手の論文を読み漁っていてね。ウマ娘の生態は人間に非常に近いがまだ謎に包まれていると言われているが、ウマ娘たちの肉体は早熟傾向が強い。元が人の女性に近い存在ということもあって肉体的な成長が早く、十代半ばがピークと言われている。その分ピークが過ぎるとホルモンバランスが安定化して成長が鈍化を起こすため二十代となるとそこまで成長の余地が低くなる。最もそれはレースの結果から出た平均によるもので、ピークの時期が晩成で開花する子も存在する」
小難しい言い回しだがタキオンの意図は理解できた。
すでにステイゴールドと同じ黄金世代のウマ娘たちはトゥインクルシリーズを去ってしまっている。スペシャルウィークのように上のシリーズに挑戦している子もいるがそれはほんの一握りで、理由のほとんどが肉体的なピークが過ぎたかあるいは怪我のどちらかでの引退だ。しかもステイゴールドは留年して他のウマ娘よりも年が上だ。ピークと言われる時期はとっくに過ぎてしまっている。もう時間がないのだ。
ステイゴールドが晩成型であるか判断できない以上、このままでは一着を取れないままターフを去ってしまう苦い思いをさせてしまうかもしれない。そのかつて池浦と共にターフを走り夢を叶えられなかったかつての担当ウマ娘と被ってしまった。
また同じことをステイゴールドにあじわわせたくない、だがまだ新人のトレーナーである自分がまた個人のまま育成しても同じ轍を踏みかねない。
「いっそチームを結成した方がいいかもしれない」
チームを結成するとなれば学園からの練習設備やターフの使用時間の融通など物質的な面で個人指導よりも優位に立てる。それに実績と実力は十分にあるメンバーがそろってはいる。ステイゴールドはもちろんのこと、デビュー前から超光速の粒子の異名を持つタキオン。ダートで優秀な成績を収めているアグネスデジタル。互いの練習を通してステイゴールドの斜行癖の改善だけでなく、他の二人の足りていない部分を補えるメリットがある。
だが問題があるとすれば……
「はぁ。チームとかかったりい」
「ひとつ屋根の下で……あばばばば。無理、同じ空気を吸うなんて尊みで酸欠して死にそう」
「実験体が増えてより研究成果が捗りそうだ。ふっふっふ」
もう一人まともな子を入れよう。
「チームポラリスを結成しました。やる気と常識さえあれば誰でも参加できます」
校門の入り口で昨日の夜即興でつくったチーム募集のチラシを配りながら、ブラック企業の企業紹介欄に載ってそうな言葉をためらいもなく宣伝に使う池浦。もっともチームにはやる気も常識もないウマ娘しかいないため、本当に(頭が)まともなウマ娘を欲しがっているのではあるが。
「はぁはぁ。スカーレットさんとウォッカさんの登校風景、はぁ~眼福。もしあの二人がチームに入ったらと思うと……ふぉおおこっち見た。ど、どうかチームに。だめだめ推しが尊くて灰になってしまう」
「ねえ、鼻の先が赤くなっているけど大丈夫? ティッシュ貸すわよ」
「スカーレットさんからのティッシュを!? 一生の宝物にします!」
「いや使えよ。ティッシュは使うものだろ」
「そんな。使ったらなくなってしまうじゃないですか。そんなもったいないことできましぇん」
「……なあスカーレット。俺変なこと聞いたか?」
「大丈夫よ。あたしも頭おかしくなったと思ったから」
さっそく問題児一名が熱暴走した。
デジタルはウマ娘への愛のためにチームへの協力は惜しまないのだが、池浦としては少しぐらい惜しんでもいいぐらいだ。一方のステイゴールドはベンチに座ってにんじんジュースを飲んで眺めているだけで、チラシ配りに参加していない。なんと極端すぎるチームだろうか。
「Hey,Youがトレーナー? あたしはクロフネだけど、チーム募集しているんだって」
英語訛りが入った葦毛の髪を編み込んだウマ娘がチラシを受け取ってくれた。
「ああ、結成したばかりだけど各個人の実力は十分にある。きっといい刺激になると思うぞ」
「Huum.刺激ね」
クロフネがじっとポラリスのチーム三人を流し目で見る。
「あの。はわわ手をつないで登校!? なにそれエモい。しかも入る直前引いて照れくさそうとかやばみなんですけど」
「やる気ある奴らばっかだな。ふぁああ」
「君、いい筋肉をしているね。私の研究対象になってくれないか」
「Crazy.悪いがやっぱあたしは別のチームに入るよ。それに周りがuntouchableな感じで避けているようなチームあたしにはso badだよ」
せっかく入ってくれそうだったところでチラシを返されてしまい、うなだれる池浦。よく見ると校門をくぐるウマ娘たち皆チラシを配る自分たちをう回するように、避けているではないか。やはり問題児たちが一気に集まっている子のチームでは入ってくれる子はいないのだろうか。
誰か。誰かまともな子来てくれないのか……
「おや。カフェじゃないか」
タキオンの前に現れたのはマンハッタンカフェだ。幽霊のように透き通るほど白い肌とそれとは対照的な足にまで着くぐらい長い青鹿毛に一本の白いアホ毛が立っている少女である。もっともウマ娘特有の二本の耳が不機嫌そうに垂れてはいたが。
「……タキオンさん。何をしているのですか。先生から補習のことで呼んでいましたが」
「何いたって健全なチーム勧誘だよ。レースを走るために私もチームに加入したのだが、実験体が足りないとトレーナー君が請うてね」
「違う違う! ふつうにまともな子のための勧誘だからね。そんな怪しげなことに付き合わされることは絶対にさせないからね」
これ以上チームの悪い評判が出ないようフォローする池浦。だがマンハッタンカフェは金色の瞳でじっとタキオンを睨んだ。
「…………タキオンさんそこでも実験するのですか……トレーナーさんが迷惑するのでは」
「そんなことはないよ。自分のことに集中できる環境を作るために俺が許可したんだから」
経緯に違いこそあるが、よそで教室を黒焦げにするよりかはマシである。
「……でもよかったです。タキオンさんちゃんと真面目に走る気持ちがあって」
「前々から行っていた観測とプランが順調でね。そろそろ走らないと学園から退学されそうだったから渡りに船というやつだ」
「それは……本当に……よかった」
チーム結成をタキオンの退学回避や勝手なプランの出汁にされてしまっていたようだが、しかしカフェの長い髪の隙間から覗く微笑に、タキオンが退学せずに済んだことを喜んでいるようだ。
「なあ、マンハッタンカフェ。君まだデビューまだだったよね。うちのチームに入らないか」
「チーム……ですか」
「そのタキオンとかをね。抑える必要があって、トレーナーの俺が選手に頼みこむなんて情けないのは重々承知だが。俺の胃が持たん」
「…………わかりました。私も先生からタキオンさんが変なことをしたら止めるように言われているので。監視しやすい場所ができて……よかったです」
とてもいい子そうで抱えていた荷物を下すことができ、池浦は安ど感に包まれた。するとカフェがベンチで寝っ転がっているステイゴールドを発見すると、瞠目したようにじっと金色の瞳で見つめていた。
「ステイゴールドがなんかやらかしたか」
「……あの子によく似ている。姿は違う……でもよく似ています。なぜでしょう」
「似ているって誰に?」
「私の隣にいるこの子です。ほら仕草とかどこか似ている」
マンハッタンカフェは誰もいない明後日の方向に金色の眼を動かした。雲一つない空っぽな空に人もウマ娘もいるはずもない、何もない所にカフェはじっと覗き込むように見つめていた。
「トレーナー君。心配しなくてもいい、あの子とは彼女のイマジナリーフレンドだ。君の眼には見えなくても彼女の眼にはいる。そう見えなくても見えるもの。たしか昔のカードゲームマンガにもそんな台詞があったねぇ。たとえ他人には見えなくても彼女には存在していると認識している。目に見えるものだけが正しいとは限らないものなんだよトレーナー君」
タキオンによるありがたい説明を受けるが、やはりウマ娘とはネジが一本外れているのが当たり前な存在だろうかと頭がこんがらがってしまいそうだった。
「だが見えないことが不安ならこの薬を飲んで見たまえ。もしかしたらカフェのイマジナリーフレンドが見えるかもしれないよ」
けっこうだ。
個人的に早く実装してほしいウマ娘マンハッタンカフェ
勝負服かっこよすぎんよ