俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』 作:wisterina
チームポラリス発足して初めての合同練習がスタートした。いくら問題児の集まりであるとはいえ、やる気がないからサボるというウマ娘はなく全員練習に参加している。あのタキオンも研究室と化している部室から引きはがせば、超音速の微粒子の名に恥じない快速の脚を見せてくれる。
「うん。いいタイムがでている。ところでカフェちょっとこの薬を飲んでみてくれないか」
「…………いやです」
「後で取り上げよう」
タキオンのマッドは相変わらずではあるが真面目に練習に参加してくれて一安心なのは正直なところだ。もしも練習まで拒否をするようなら即解散の危機であった。
さて、新人の池浦がいきなりチームを組んだのだが池浦には計算が合った。ポラリスのメンバーの特徴は個性的な問題児がそろっているもとい、ジュニアからシニアまでの違うクラスがそろっていることだ。タキオンとカフェの二人はまだジュニアクラスで、本番であるクラシックまで一年ぐらい時間がある。全員大事な時期であるクラシックやシニアであれば手間がかかるが、シニア級はステイゴールドとダート専門だがクラシックのデジタルの二人のみである。まずはこの二人を重点的に育成しつつ、来年に向けてのノウハウを構築する算段である。
さてその二人ではあるが、なぜかダート専門のはずのデジタルがステイゴールドと同じ中距離の芝のコースにいた。
「うへへ。カフェさん、口では苦手とか言ってつかず離れず並走するのめっちゃすこ。はぁ~すこすこのすこ」
「デジタル、お前はダートが専門のはずだろ。なんで芝に」
「いえ、あたし芝も何回か走っていて。この間五月に芝のマイル戦で走ったら思ったより調子でなくて、入着すらできなくて」
何位だったか言葉を濁したもののデジタルの口は唇を歯噛みしていた。デジタルはウマ娘への過剰すぎる愛で暴走はするが、それ以外は成績優秀でダートでも成績を残している。しかも芝も入賞できるほどの力があるなどそうそういない。ウマ娘を知るという意味では向上心の高さは誰にも負けないのだろう。
「だって入着以内じゃないと…………ウマ娘ちゃんたちのゴール最前列に見られないじゃないですか! ゴール直前のエモエモシーンがデジたん推しの特等席なのに!」
「俺の感動の涙返せ。理由はともかく、芝に挑むその姿勢は立派だ。だが今のデジタルでは芝のクラシック路線へ行っても入着すらできない。だから今年はダートで試合に臨め。午前で芝、午後はダートの両刀練習でシニア級で芝のコースを走れるようしっかり鍛えるんだ」
「うぅ、あたしの中の推しのエアシャカールさんとフライトさんによる三冠争奪戦を応援するプランが……」
「シニアで入着できる力があればオペラオーとドトウのワンツーフィニッシュが見られるぞ」
「その手があったかぁ! ではデジたん今年度はダートのウマ娘ちゃんたちを追っかけます」
きりっとジャージのファスナーを戦闘服に着替えるように胸元までぴっちり締めて気合を入れるとダートコースを突進していく。
それぞれのメニューが決まったところで一番の育成対象の下へ歩む。
「ゴールド。次のレースだけど」
「GⅢなんてほざいたら蹴っ飛ばす」
開口一番のこの悪態にはもうたいぶ慣れたものであるが、実際に蹴られたときの痛みは尋常ではないため前に踏まれた足がびくついている。
デジタルの集めてくれた情報によれば、ステイゴールドが望むのは毎月レースに出場すること、そして強い自分が出場するにふさわしいレースに出すことの二点だ。そこさえ間違わなければ地雷を踏み抜くことはない、そして今の時期でゴールドの性格に合致できるレースといえば。
「次は目黒記念だ。二年前に走ったことがあるだろ、有馬と同じ長距離だがゴールドのスタミナと経験なら一着は取れるはずだ」
「めぼしい強敵はいるのか」
「注目はマチカネキンノホシだな。だが今の投票だとゴールドが一番人気になりそうだが」
「ふんっ、つまんねな。GⅠで入賞ぐらいできてるウマ娘俺ぐらいじゃねーのか」
不満げに芝の上で足を投げ出す。だが強敵たるウマ娘がいないのは絶好の機会でもある。普通のウマ娘は一試合走ったら数か月は休ませて調整しなければならないが、ゴールドの脚と性格は一月程度で次の試合に出られる丈夫さを持っている。天皇賞を終えて強敵が休んでいる隙に勝てる試合に臨む。それがステイゴールドを勝たせる池浦の戦略だ。
すると「十日後か」とゴールドがつぶやくと急に柵を飛び越えて、練習コース場から出て行こうとしていた。
「ゴールドどこに行く。まだ練習中だぞ」
「休憩だよ。休憩。休めるタイミングぐらい俺の好きにさせろっての。っち」
舌打ちをして練習場から出ていったゴールド。普段の練習でも池浦の組んだメニューに従わず自分で組んだメニューしかやらない言うことの聞かなさに未だに手をこまねいている。一応春の天皇賞以後の練習では、斜行癖はそこまでひどくなっていなく調子がいいようだ。
「頼むから勝ってくれよ。ファンがお前の勝つ姿を何年も待っているんだから」
目黒記念の当日。土曜日の雨の中、中段の集団の中でステイゴールドが駆けている。そして冷たい雨の中で、GⅡとは思えないほどの熱気が観客席から発せられる。しかも応援する人のほとんどがステイゴールドに向けてのものである。
「すごい応援だな」
「ステイゴールド様は毎月のようにトゥインクルシリーズを走っていますから顔も覚えやすいですし、今日こそ勝ってくれると信じて応援するファンもいるんです。きゃーステイゴールド様~」
カッパを着ている状態でも応援の熱量だけは、今日来ているステイゴールドのファンに引けを取らない声援をデジタルが送る。チームポラリスのメンバーの試合ということで、チーム全員応援に来ている予定だったがタキオンだけは「大事な実験があるから」と一人だけ来なかった。練習には真面目に参加してくれているのに……。
「トレーナーさん。コーヒーを、体が冷えますよ」
「ありがとう。カフェのコーヒーはうまいから何杯でも飲めるよ。胃痛の時とか」
「……その時はふつうに胃薬を飲んでください」
マンハッタンカフェが淹れてくれたコーヒーを受け取り、第三コーナーを曲がるステイゴールドに視線を送る。先頭で逃げていたウマ娘が最終直線で息切れして減速し出すとそれを見計らったかのように、中段で控えていたウマ娘たちが一気に仕掛けてきた。
集団が一気に先頭を目指して、雨で濡れて水しぶきを上げる芝を蹴り上げる。その中から抜け出したのは。
『ステイゴールドかマチカネキンノホシか。しかし先頭はステイゴールド。ステイゴールド一馬身のリード! 初重賞ゴールイン!』
一馬身差のリードを保ちながら実況の声と共にゴール板を駆け抜けたステイゴールドは、二年八カ月ぶりの勝利の右手を高々と掲げると、観客席からGⅡとは思えないほどの大きな拍手が上がった。
「おらっ! これで阿寒湖なんて旗、二度と立てんなよ」
ゴールドが応援席に指差すとそこにいた『阿寒湖がんばれ』の応援団幕を掲げていたファンがいそいそとその弾幕を下す。かと思ったら、別の弾幕を新たに風をなびかせて建てられた。
『阿寒湖脱出おめでとう!』
『祝! 目黒に上京』
本当に訓練されているファンたちである。
「そんなの用意するならGⅠおめでとうの時ぐらいに用意しやがれ!」
口では悪態をつくゴールドではあるが、少し頬が紅潮して口角が上がっているためそれが照れ隠しであるのは池浦の眼からしても明らかだった。
本当に愛されているんだなステイゴールドは。雨の中でもゴールドの勝ちを信じてわざわざ応援弾幕まで作ってくれるのだから。どこまで走れるかわからないが、ゆくゆくは重賞とGⅠを制覇して。とゴールドの将来を思い描きているうちに、ウィニングライブ前のヒーローインタビューのためにゴールドの前に記者が集まっていた。
「えー、二年八か月ぶりの勝利おめでとうございます。トレーナーの変更とチーム加入とステイゴールドさんにとって大きな変化の年でしたね」
「天皇賞は入着でしたが、今後もトゥインクルシリーズのGⅠ戦線を走り抜けるということですか」
「あったりまえだ。俺は世界最強のステイゴールド様だぜ。ちょっと俺と競り合った奴らが世界レベル級の白熱していたから競り負けたが、今はオペラオーしかいねえ。つまり、今年度のGⅠは俺かオペラオーの争いになるってもんだ!」
記者からの質問に機嫌よく答えるゴールドは白い歯を見せつけながら拳を作って、打倒オペラオーのパフォーマンスをする。危なげだがいつものヒール的な答え方と思っている記者たちは、重く受け止めることなく、メモに書き残していく。
「すみません。質問よろしいですか。ステイゴールドさん、やっと本気で走って勝てたことですが」
「あ゛あ゛!?」
さっきまで機嫌よく答えていたゴールドが切れた。
だが池浦も頭に血が上りかけた。本気で走っているウマ娘に手抜きをしていたような質問を、ウイニングライブ前のヒーローインタビューでするという神経はあまりにも失礼だ。
「てめえ何様だよ。世界最強の俺様が手抜きとかぬかしやがるのか」
「実力があるのになかなか勝ちきれないのには何か理由があるのではないですか。特にあの秋の天皇賞の時、本命のスズカを出し抜ける一番の好機を逃して大穴に抜かれされたのですから、それを疑うファンも少なからずいるのではと思って」
記者は続けて質問をし続ける。だが完全にゴールドの触れてはいけない地雷を踏みにいてしまっている。ぐあっとゴールドが牙を剥き、記者に襲い掛かろうとした。その寸前で池浦がゴールドの前に立ちはだかった。
「どけっ、トレーナー!」
「だめだ。ここで暴力を振るったら二度とレースに出られなくなるぞ!」
「じゃあ代わりにお前をしごいてやる!」
理不尽な理由でゴールドが池浦に噛みついた。
幸い記者に怪我はなく。池浦の頭やら肩やらにゴールドが噛みつき、しばらく痕が残ってしまった。だがそれだけならまだましだった。
せっかくの久々の勝利を祝うはずのウイニングライブは静まり返り、翌日の記事の一面には『ステイゴールド初重賞したものの…………暴行・暴言の大暴れ』ゴールドの勝利を祝う言葉がかき消されてしまった。