俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』   作:wisterina

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R6 秋の天皇賞

『ステイゴールド未だ謝罪せず。ファンからは不満の声も』

 五月の目黒記念で二十八試合ぶりに重賞勝利を果たしたステイゴールド選手(シニア級三年目)であるが、ヒーローインタビューにて質問してきた記者に襲い掛かろうとした騒動があった。

 間一髪でステイゴールドのトレーナーが庇ったが、トレーナーは複数の箇所を噛まれるけがを負った。せっかくの勝利にこの失態を犯したステイゴールドは未だに謝罪の言葉一つもない。この気性難は今回に限ったことではなく前のトレーナーに対して、噛む蹴るなどの暴行を加えたことが原因でトレーナーの交代劇があったばかりだ。加えて現在所属しているトレセン学園でも留年していることもあり、今回の騒動で自身の立場が危うくなっている。

 

10: ID:kZA7Cl3Y9

 まだ謝罪してないのかこの手抜き野郎

11: ID:VYqCbahop

 留年生って変に上級生のプライド持つからこわいわ~

15: ID:FW9qtxlgy

 正直オペラオーよりこいつ下せ

19: ID:MiV5n2SrB

 阿寒湖ww

23: ID:7GsjCz1NO

 >>15 それな

25: ID:bqFzcWyyD

 つかこいつススズ世代なのにまだ走ってんのかよ

29: ID:56U2IhIkf

 >>25 毎月走って毎月負けている

 

 

「ステイゴールド様ぁ。デジたんはずっと応援してますから。どんな落ち目の時でも応援するのがファンですから」

 

 トレセン学園の校舎にある廊下で、デジタルが涙目になりながら閲覧していたステイゴールドが叩かれているネットの記事を池浦は横目でのぞいていた。

 

「にしても、前のトレーナーが交代した話とか事実はあるが。偏向記事だぞこれは」

 

 経緯としてはヒーローインタビューとしては不適切な質問を投げかけたことでゴールドを怒らせたというのが正しい筋だ。だが元からゴールドのヒール的な発言と炎上ネタが悪い方向で作用してしまいデジタルタトゥーが刻まれている。

 おまけにあの目黒記念の騒動以降、ステイゴールドの成績は本当にやる気をなくしたかのように宝塚、GⅡのオールカマーでさえ入賞圏内まで届くことがなかった。サボり疑惑というウマ娘にとって不名誉な噂を着せられ、成績不振もあり、周囲の視線は疑惑を確信しかけてきいる。ファンが動揺しているのを打ち消すためにもステイゴールドに謝罪会見、もしくは謝罪文を掲載しないといけないというのが池浦の考えである。だがゴールドはことごとく池浦の考えを拒否し続けていた。

 さすがに日が立ちすぎている。ここでビシッと言わねばとついにゴールドがいる教室に張り込むにまで至った。そして噂をすれば、髪をひとつにまとめた黒鹿毛の勝気な目をした少女が階段を上がってきた。

 

「なんだよ。待ち伏せかトレーナー」

「ゴールド。これで何度目かわからないが、謝罪会見を開くんだ」

「なんで俺様が頭下げなければならないんだよ。あの記者が俺様のヒーローインタビューをコケにする質問したのが悪いだろうが。俺が頭下げる道理はないだろうが」

 

 ステイゴールドの言葉は一理ある。だが現実ではステイゴールドは今までの試合を手抜きをしていたことがバレかけて記者に襲い掛かろうとしていたと見られている。学園内の悪評判ならまだしも、公の場での醜態は謝罪会見などをして早く傷口を塞がないといけなくなる。

 

「こうしている間にも炎上記事次々と上がっているんですよ。デジたん最近不安になって」

 

 すべてのウマ娘のファンであると公言するデジタルの眼にはクマができており、辛く悲しんでいるのが一目瞭然だ。それでも得意のダートで重賞を勝っているのはさすが成績優秀というべきか。

 

「ファンのためにも、こうした失敗はちゃんと謝らないといけないのが社会通念のマナーで」

「知るか! 気分悪ぃから今日練習に出ねーからな。俺は一切謝んねーからな!」

 

 ズカズカと池浦の制止を振り切り、教室に入らずウマ娘特有の脚力であっという間に廊下の向こう側まで逃げ出してしまった。また引き留め失敗か。そうしてうなだれていると、ショートカットに晴れ渡るような空色の髪の眠そうな少女がのほほんとした声色で呼びかけた。

 

「おやぁ。相変わらず荒れているねぇゴールド先輩」

「ふぉおおお!? セ、セイウンスカイさん! いつのまに帰ってきたのですか!?」

「おっす。まさか出迎えてくれたのが後輩だなんてセイウンスカイさん有名だねえ」

 

 聞きなれたデジタルの奇声ではあるが、池浦も思わず同じ声を上げそうになった。セイウンスカイ。あのスペシャルウィークと同じ黄金世代の一人にして、クラシック二冠ウマ娘とデジタルでないくても知らない人はいない。去年あたりに屈腱炎という重い怪我をしたことで一年ぐらい休養していたとは聞いていた。

 

「もしかして、ゴールド先輩の新しいトレーナーさん? 大変でしょゴールド先輩の世話」

「知っているのか」

「学年別だったけど、ゴールド先輩シニア混合の試合になるといっつも顔出して私たちにぶっ潰すとか宣言していたんだもの。でもだいたい負けるんだけどね」

「よくご存じで」

「それで、ゴールド先輩をサボっていたことはないですって謝らせるだなんて、今度のトレーナーさんは命知らずだね。びっくりだよ。まあ私も練習はサボっているから人のこと言えないんだけどね」

 

 心臓が跳ね上がりそうになった。先ほどのやり取りを少しだけ聞いただけで、すべてを察知するセイウンスカイの侮れなさ。さすが黄金世代というべきか。

 

「ところでトレーナーさん。ファンの人って誰のことを考えてる?」

「そりゃあ、ゴールドについてきてくれるファンのことだろ」

「じゃあさ、ゴールド先輩が毎回負けているのを見続けているファンたちがそんなことで揺らぐのかな。ウマ娘のファンって結構細かい所まで見ているからね。特に負け続けているウマ娘のファンなんて相当マニアックな部類だよ。手抜きをしていたなんて言われなくてもすぐわかるんじゃないかな」

 

 その時ハッと気づいた。ステイゴールドのファンをちょっとそっとのことで疑いの目を向ける人たちではない。きっと勝つと信じて、わざわざ目黒記念に勝った時のための横断幕を用意してまで見に来ている人だ。本当に手抜きをしているのなら、とっくにそれを見抜いて彼女の下から去っているはずだ。

 池浦はファンのためと言いながら、勝手に悪評を立てる本当のファン以外の人に対処するために向けていたのかもしれない。

 

「本当に手抜きをしていたのなら、去年の秋の天皇賞で一着になったスペちゃんの尻尾噛みつこうなんてしないよ」

「あいつそんなことやろうとしてたのか」

「ゴールド先輩譲れないところは譲らないからね。たぶん自分が謝ったら、自分が本当に手抜きしていたんじゃないかって余計に疑われること考えているんじゃない? ゴールド先輩って、凶暴だけど意味なく暴れるわけじゃないし」

 

 言われてみれば、ステイゴールドの気性難はどこぞの黄金の船の名を冠した銀髪のウマ娘のように脈絡なく暴走するわけではなく。何かしら自分にとってのマイルールというものがあるように見える。今回の一件もそうなのだろう。

 だけどまだ何か引っかかる。手抜きをしたという疑惑を向けられただけでゴールドは飛び掛かろうとしたのか。池浦はあの時のことを振り返った。ゴールドがブチギレしたのは『秋の天皇賞でサイレンススズカを出し抜けるチャンスを逃した』というところで、ゴールドは襲い掛かろうとしていた。

 なら、その時のことで何かゴールドの琴線に触れたと考えた方が筋ではないだろうか。

 

「セイウンスカイ。サイレンススズカが出ていた秋の天皇賞のことで何か知っているか?」

「私はその日出場していないから、わかんないなぁ。まだクラシックだったし。じゃあそろそろ授業始まることだから、またねトレーナーさん」

 

 ひらひらと手を蝶のはばたきのように動かして、オペラオーと同じ教室に入っていった。

 さて、俺がやれることをしないと。

 

「デジタルこれから資料室に」

「あたしその日の映像保管していますから授業が終わった後、取ってきますね。ウマ娘ちゃんたちの記録は一つ残らず撮影していますから」

 

 本当にデジタルが池浦のサポーターを担ってくれてよかったと心から感謝した。

 


 

 デジタルが撮影してくれたスズカが最後に走った映像が映っている天皇賞のビデオは、驚くべきことに現地で撮影されたものだった。デジタル曰く、GⅠの試合は全部生で撮影しているとのことで彼女の行動力の高さに改めて恐れ入った。

 ビデオが再生されると、左回りの東京レース場で大逃げをするサイレンススズカの姿があった。あっという間にステイゴールドがいる集団を置いてけぼりにし、バ身差では表せないほど距離を離していた。これが覚醒したサイレンススズカの強さで、最後の輝きであった。すると急にデジタルが早送りにして直線コースの所まで飛ばした。

 

「スズカさんが骨折したシーンだけはどうしても見たくなくて、最後の直線だけでお願いします」

「…………わかった」

 

 そう、大ケヤキを曲がったところでサイレンススズカが突然故障してしまい、結果ターフを去ってしまった。ウマ娘のファンとして、トレーナーとして応援しているウマ娘が壊れる様は見たくないものだ。

 観客がどよめく中、他のウマ娘たちは最終直線に入った。その中にステイゴールドがゴール板へ目がけて最後の追い込みをかけるために足に力を入れる……はずだった。斜行していないにもかかわらず最後の直線で明らかに減速している。春の天皇賞を走り抜けているステイゴールドが、距離が短い秋の天皇賞でこんな減速するだろうか。この時のステイゴールドは、明らかに手を抜いているように見えた。

 その間にデジタル秘蔵のビデオでステイゴールドの他の試合も鑑賞したが、やはりあの記者が質問したように秋の天皇賞だけ明らかに手を抜いたようにしか見えなかった。

 

「もういいですか」

「うん。もしかして、ゴールドが怒ったのは今までの試合で手抜きと罵られたわけじゃなくて、この秋の天皇賞のことで怒ったんじゃないだろうか」

「……でもそれじゃあ、ステイゴールド様はこの時本当に手抜きをしてしまったというわけになってしまいます」

 

 だが、それを語ってくれるのはステイゴールド本人でしか確認できないわけでもある。

 

「それに、今年も出るんだよな。秋の天皇賞…………」

 


 

『テイエムオペラオーゴールイン! 無敵の六連勝で一番人気に答えました。テイエムオペラオー春秋連覇』

「はーはっはっは。ついにこの時が来た。世界は僕とドトウのものだ。さああとはジャパンカップと有馬記念だ。共に世界を制しようじゃないか」

「はぅう。オペラオーさんすごいです。でも私なんかがオペラオーさんの隣に居てもいいのでしょうか」

「君だから、僕の統治に加えられるんだよ。さあ手を取り給えシンデレラ。その足に僕がガラスの靴を履かせてあげよう」

 

 天皇賞秋のジンクスである一番人気の呪いを跳ねのけたオペラオーとまたも二着のドドウの凱歌が謳われる中、またも入着すらできなかったゴールドが後ろから七着でゴールをする。手に膝をつき、涼しい秋風が汗を乾かしてく中で、耐え間もなく滲んだ悔しさを吐き出している。

 

「はぁ。はぁ。くそったれ」

「ステゴまだ次ジャパンカップがあるぞ」

 

 そのステイゴールドのファンが応援してくれる。だが。

 

「もっと本気を出せば勝てるんじゃないのか」

 

 心無い人間からの冷たい言葉がゴールドの耳にも入ってくる。一瞬ゴールドが睨むが、池浦はすぐ頭にタオルをかけさせて、目を合わせないようにさせた。

 本当のファンは応援してくれる。だけど本当のゴールドのことを知らない人間にとっては、あの炎上のことがゴールドの姿と認識している。

 池浦はなんとか謝罪以外でステイゴールドのイメージ改善を図らなけれならなかった。

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