俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』   作:wisterina

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R7 ダート・芝二刀流の変態

 トレセン学園の練習場には取材陣が集っていた。練習場に取材陣が来ることは珍しくはないのだが、規模が違っていた。取材陣が入り切れず交代でないと入れないほど混んでいたのだ。理由はテイエムオペラオーとメイショウドトウらの世紀末覇王コンビがチームポラリスによる合同練習に参加しているからだ。

 

「意気込みかい? 問題ないさ。僕は世紀末覇王としてトゥインクルシリーズにオペラオー王朝を築くだけさ」

「しかし次のジャパンカップでは欧州現最強のファンタスティックライトが参戦するとのことですが」

「海から敵が来る。はっーはっは。外敵を打ち払い、総仕上げに身内を一掃して僕が君臨する素晴らしいシナリオじゃないか。敵は強ければ強いほど、僕が美しく輝ける。欧州最強のファンタスティックライト、僕は全身全霊で迎え撃とう」

 

 現在一年を通じて連戦連勝テイエムオペラオーが残りのGⅠジャパンカップと有馬記念を制すれば前人未到の年間不敗と年度代表ウマ娘の栄誉がかかっている。精神力が世紀末覇王という自称が名ばかりではないことをまさしく物語っている。

 さて、それを遠目で眺めていた池浦たちチームポラリスは閑古鳥が鳴くほうが騒がしいほど閑散としていた。無理もない、チームポラリスのメンバーの主な勝鞍がGⅡ止まり、唯一の人気株であるステイゴールドは現在絶賛炎上中の有様。黄金の栄光に囲まれている彼らとは雲泥の差である。

 

「あんなに取材陣が入ったの黄金世代の時以来だな。まあ俺たちは完全におまけ扱いらしいけど」

 

 実のところ今年度のトゥインクルシリーズは前年と比べて観客数が減ってきていた。理由はスペシャルウィークら黄金世代がごっそりといなくなったからだ。残る黄金世代も目立った活躍がなく今年は期待薄とみられていた。だがそこに待ったをかけたのが新年に行われたテイエムオペラオーの世紀末覇王によるオペラ王朝建国宣言の記者会見だった。

 

 去年まで同期や黄金世代相手に三着ばかりと一部ではブロンズコレクターと言われていたオペラオーの宣言に多くの人々は、ただの奇行だと話半分にしか聞いていなかった。だがオペラオーは宣言通りシニア級にてGⅠタイトルを総なめの連戦連勝を築き上げた。記者もトゥインクルシリーズファンもただのビッグマウスではないとその強さに人々の視線が集まるのは時間の問題だった。

 

「オペラオー王朝を築いた証には何をなされるのですか」

「もちろん、僕の僕による僕のための理想の千年王国の建国を宣言する。そして黄金世代がいなくてトゥインクルシリーズはつまらなくなったなどという輩をひれ伏せさせる。だが鐘撞男のように目立つ者は常に敵にさらされる運命にある。だけど、僕の隣には彼女がいる。ドトウだ」

「ふぇ!? わ、わたしですか。はぁう、わたしオペラオーさんの隣に居られる自信がありません」

「心配ないさ。君は僕のライバルだ。隣じゃない、前だ。ジャパンカップでも有馬記念でも君が前に立ちふさがるというなら、僕は安心して挑める。だって君に倒されるのは本望だから」

「オ、オペラオーさん。死んじゃだめです」

 

 オペラオーの冗談かどうか区別にくい話は置いといて、池浦にとってオペラオーの話は面白くないものである。オペラオーの言っていることは、裏を返せばメイショウドトウ以外に倒せる者はいないということになる。次のジャパンカップには次で三回目の出バとなるステイゴールドも参戦するのだから。

 

「あんなこと言われると、ムカつくな。下手をするとドトウ以外でバ群に呑まれる可能性もあるのに」

「はぁはぁ見て見て。オペラオーさんがドトウさんの手を引いて、もう王子様とお姫様だよ。もう結婚しろ!」

「デジタル、カメラ下せ。今日はお前練習する側だろ、来週芝のコースのリベンジマッチに向けて追い切りキッチリ整えておけ。ベストポジション取れなくなるぞ」

「はっ! そうでした。デジたんは今はしがなく追い切りに励む一ウマ娘。羨んでも迷惑かけちゃダメ。デジたん、いっきまーす」

 

 さっきまで蕩けた顔で涎を垂らしていたのが一瞬で切り替わり、デジタルはゴールドとカフェと共に芝のコースを駆け抜けていった。しかしダートと芝両方走れるウマ娘がしがないのだろうか。

 しかしデジタルの成長は目を見張るものがある。この一年ダートを走りながら芝のコースを練習してきたが、順調にデジタルの脚は芝に慣れている。来週出走予定のマイルCSでは絶対的な有力ウマ娘がいない状態、うまくリードを保ちさえすれば勝てる見込みは十分にある。

 ただ少し懸念があるとすれば……

 

 するとチームポラリス問題児三姉妹の末っ子ことタキオンがのっそりと相変わらず生気のない目でコースを眺めながら、池浦を呼びかけた。

 

「デジタルの体調は問題ないのかい」

「タキオン。お前……デジタルになんか実験でも企んでいるのか」

「いやいや企むどころか、夜な夜なお願いをしているのだけどねぇ。なぜか肯定しながら拒否をされてしまってねぇ。カフェも最近冷たくて、なかなか実験する余裕がないんだよ。代わりにトレーナー君が実験に協力してくれればいいのだが」

「ゴールドに噛まれた時用のやたら体が蛍光色に光る湿布だけで十分だ」

 

 実験体にされるのは池浦としてはまっぴらごめんなのだが、悲しいかなゴールドによって負わせられた怪我の治りが一番早いのがタキオンが作ったものであるため、手放せずにいるのだ。

 

「ふむふむ。私の実験の試作品を愛用してくれるのは喜ばしいことだ。さて、話を戻そう。デジタルはここ最近トレーナー認定試験の勉強で少し寝不足気味ではないのかね」

「知っているのか」

「同室だからどうしても彼女の持ち物を見てしまってね」

 

 実はデジタルが池浦のサポートをするにあたってのトレーナーとしての勉強を希望していた。元々成績優秀でトレーナー志望があることは彼女自身(興奮気味の)口から話したのをきっかけに、池浦が養成所で使ったノートや教科書、教本一式を彼女に渡していた。

 

 本来ならウマ娘として引退が決まってからの方がやりやすいのだが、少しでも知識を入れたいということで、夜な夜なトレーナーとしての勉強をしていたのだ。ダート・芝・トレーナーの三足の草鞋を履いているデジタルがレース本番までに疲労が蓄積して支障が出ないかが不安の種であった。

 

「デジタルは自身の興味のあることに対して観測や努力を惜しまない人物だ。好きは努力に勝るの典型だろう。だが私は精神論万能論には反対している。疲労というのは見えない毒薬。本人が大丈夫と答えても実際には何かしら弊害がある可能性がある。それを鑑みて教材を渡したのかね」

 

 まるで最初から見ていたかのようにタキオンの指摘は、その通りである。

 

「デジタルは性格とか動機とかはアレだが、それに見合った姿勢と行動力は持ち合わせている。自分がしたいことはやらせたい。トレーナー視点と選手であるウマ娘との視線で見えてくることもあるもちろん無理はしない範囲でちゃんと休ませるようには伝えている」

「ふむ。フランシス・ベーコンは知識は力なりとも言った。好きをより好きになるためにあらゆることを知識として力とするか。では私も何か手伝えるようなことをしよう。そうだな、開発した疲労がポンっと取れるアロマを夜中デジタルのベッドにこっそり流せば」

「よし、それは俺が没収してしかるべきところで処分しておくから早く出せ」

「おっと君は時折強行派なところがあるから、驚いてしまうよ」

 

 やはり油断ならない、時々持ち物検査でもして怪しい薬がないか調べておく必要があるな。

 

 ふとターフに視線を戻すと反対側の直線コースの上でデジタルが他のウマ娘に立ちふさがれていた。

 一体何事かと現場に駆けつけて見ると、彼女の前に立ちふさがっていたのは前にポラリスに勧誘したクロフネだった。だが最初の時と異なり彼女は葦毛の白髪を指でくるくる回して不機嫌な様子だった。

 

「Hey crazy girl.Youが走るコース、公園と間違っていない?」

「あ、あのあなたは」

「クロフネ。オペラオーのチームに入っていたのか」

「Oh.よく覚えていたね。So bat.でも良くないよ。あたしの故郷ではダートが盛んだけど、ダートはダートのspecialistで走らないと宝の持ち腐れになるわ。ダートは砂遊びをする場でないなんて誰かが言ったけど、芝も倒れて寝転がる場でもないのよ。どちらもやりたいなんて贅沢。芝は芝の者が勝利する。Do you understand? アグネスデジタル」

 

 池浦と同じぐらいの背丈があるクロフネが体をくの字に折って顔をデジタルの前に近づけた。ダート・芝両方で戦うウマ娘などほとんどいない。芝とダートでは走り方が全く異なるからだ。そんな当たり前のことをわかっているのかと馬鹿にしているのだろう。

 動機が推しの顔を見るためという不純なものであっても、デジタルの努力を無碍にするなど許されないと池浦が前に出ようとした時、挑発されたデジタルがブルブル体を震え上がらせると異変が起きた。

 

「うそ。うそうそ。やばい。やばいやばい。来年のクラシック最有力候補のクロフネさんにデジたんの名前覚えられてたああああ! 。あわわデジタルはしがないウマ娘にゃのに。わ、わたしの名前をををを。後近い、アメリカンコーヒーのか、お、りがしゅるるる」

「デジタルううう!! 鼻血を出してターフに倒れるな! 芝生が汚れる!!」

「Oh,crazy」

 

***

 

 合同練習から翌週。天候も良く芝も良バ場の状態でマイルCSのファンファーレが京都競バ場に響き渡る。チームポラリス全員、二度目の芝のGⅠ挑戦となるデジタルの応援のためゴール前付近の最前列でデジタルの雄姿を眺める。

 最も本人は周りのウマ娘たちに興奮しないように深呼吸するので精一杯ではあるが。

 

「これで勝ったら……ホクトベガ以来のすごいことになりますよデジタルさん」

「でも転向するわけでもなく、芝も挑戦とか聞いたことねーぜ。これよりジャパンカップダートの方が勝ち目あったんじゃねーの」

「ジャパンカップダートは2100の中距離だ。前のGⅠも中距離で負けていたからそれより走り慣れているマイルでやったほうがまだ幾分勝ち目はある。追い切りの時でも芝は問題なく走れた」

 

 できる限りのことはやってのけた。池浦の読み通り、キングヘイローやダイタクヤマトなどの敵はいるが突出した実績を持つウマ娘がいない状態だ。あとは練習でやったようにことを発揮するだけだ。

 

「あら、あなたはゴールド先輩のチームの方では」

「ななな、なんと。キングヘイローさん! あたしのような一般のモブウマ娘ごときにお声をおかけいただけるとは」

「一流はどんなファンでもおもてなしするのが礼儀よ。といってもあちこちの路線変更をしてやっとGⅠを一勝できた私が一流と呼べるからしらね」

 

 キングヘイロー。スペシャルウィークら黄金世代の一人で、同期たちの引退やケガで不在の中ただ一人レースを走っているウマ娘。クラシック時代は同期たちにあと一歩及ばず、シニア期を境にシニア王道路線から短距離路線へとシフトして今年ようやく高松宮記念で悲願の優勝を果たした。

 

「いえ。あの高松宮記念の素晴らしい差し切り。そして十度の敗北を経ての不屈の勝利。あたし最後の直線で何度も歓喜の堕涙をしたことか」

「ありがとう。でも挑むのはあなたもよデジタル。私も勝利のためダートに挑んだけど敗北を増やしたわ。けど私はそれを無駄と思わないわ。挑むことこそ一流の証よ。あなたが芝に挑むことを歓迎して差し上げるわ。レースに挑む者として」

「くぅ、なんと一流にふさわしきお言葉。修行をしていたら釈迦自ら教えを授けたぐらいの衝撃」

 

 やや分かりにくい例えではあるが、デジタルがこの上なく感激していることは分かった。それにクロフネに自分は芝でも走れる姿を見返してやらなければ、この一年の努力をまた笑われてしまう。

 

「見返してやれよデジタル」

 

 そしてファンファーレが鳴り終わると、各ウマ娘のゲートが一斉に開いた。

 ゲートから飛び出したウマ娘たちはあっという間に内に沿いながら先頭集団が混戦し始めた。

 

「先頭集団が団子状態だね。これでは先行に入っても抜け出すのは容易ではない」

「くそっ、出だしからツイてない。これじゃあ後方から抜け出すように変えないと」

 

 マイルは短距離よりは距離が長いものの短期決戦であるのは変わりない。いかに直線での勝負を有利に持ち込めるかがカギとなる。だが現状先頭集団が混雑している状態ではそのまま入り込む余地がない。事実デジタルは内から入って先行に食い込む策を止め、後方待機を選んでいた。

 だがコーナーを回って先頭集団が直線に入ろうとして、状況は変わらないどころかデジタルは十五番手にまで落ちていた。

 

「デジタル! 仕掛けろ仕掛けろ!」

「いや無理だろ。いくらなんでも最後方過ぎる」

 

 池浦が吼える。距離的には厳しいが、逆転できない距離ではない。直線を走り抜ければ入着いや優勝はまだ狙えれる。

 

「ベストポジションは譲らないんだから!」

 

 デジタルが歯を食いしばり、一気に直線を駆け上がる。一番力を発揮しやすい内側の直線は混戦している、ならば五十mくらい遠回りになるが他の娘がいない大外へと足を変えて突き抜ける。

 

『内からダイタクヤマト。ダイタクヤマト先頭だ。大外から何か飛んできている。大外からアグネスデジタル! 大外アグネスデジタル。アグネスデジタル!!』

 

 完全に後方にいたはずのデジタルが、驚異という言葉では収まり切れないほどの末脚で十五番目からあっという間に中段、先頭集団、トップに並び。

 差し切ってしまった。

 

「まじか」

「あそこから。差し切れるのですか……」

「…………素晴らしい。これは、もしやトレーナー君の声援による能力の向上か。それとも彼女自身の愛の力か。やはり彼女に十分な観測がもっと必要だ」

 

 タキオン以外、全員。いや会場の観客を含めての全員有り得ない光景を目の当たりにして呆然としていた。ただの最後方からの差し切りではなく、ダートを主戦場にしていたはずのウマ娘がコースレコードを叩いだしたという異例ずくめの勝利に、喜びも怨嗟も吹き飛んでしまっていた。

 

「はばばば。この空気デジたんやってしまったかも」

「落ち着けデジタル。あまりの出来事にみんなどんな顔していいのかわけわかんないだけだ。俺もびっくりしすぎてどうすればいいかわかんない。ほんとわけわかんない」

 

 池浦が笑みをこぼしながら異様な雰囲気を醸し出して不安になっているデジタルを落ち着かせる。

 

「素晴らしい差し切り勝ちよデジタルさん」

 

 七着と掲示板入りすらできなかったキングヘイローが一番にデジタルの下に近づき、賞賛の拍手を送る。

 

「キングさん直々の声援。感謝感激雨あられ」

「今日の主役はあなたよ。誇りなさいデジタルさん。そしてもっと経験を積みなさい。そしてこれから巡り合うライバルに恥じない戦いをしなさい」

 

 敗れたとはいえ、気丈に相手をリスペクトして道を示す姿はまさにキングの名にふさわしかった。

 

「よくやったな。デジタル、さてこの後のウイニングライブの準備を」

「……え、ウイニングライブ?」

「おい、まさか振付覚えていないのか。」

「Oh.すんません昨日までペンライト十本差しの応援振付しかしていません。でも大丈夫です。歌と振りつけは全部完コピをしていますので」

 

 なんでそっちに全力を注いでいるんだ。レースで勝ってもウイニングライブをちゃんとしないとチームにクレーム来るんだぞおい。

 

「まったく、デジタルさんいついかなる時も勝つときの自分の姿を思い浮かべなさい。一流は勝った後も想定するものよ。そしてゴールドさん、あなたは今年もシニア王道全出場するのよね。年末の有馬記念であなたやオペラオーを打ち破ってキングの名を刻んで見せるわ」

「へいへい、やって見せろよな。一流さん」

 

 その間観客席にこっそり観戦に来ていたクロフネが、緑の眼に映ったレースの一部始終に口笛を吹いて眺めていた。

 

「ひゅ~…………Oh my god.本当にcrazy girlね。アグネスデジタル」

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