俺の愛バは凶暴にしてゴルシの親父 その名前は『永遠なる黄金の輝き』   作:wisterina

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R8 ステゴの秘密

「着陣っ! わざわざご足労かけたな池浦」

 

 アグネスデジタルの劇的な二刀流の勝利から翌日、理事長に急に呼び出されると相も変わらずの二字熟語の大声量で直立不動の姿勢になった。

 

「理事長。何か御用ですか」

「うむ。まずはアグネスデジタル君の二刀流見事! さて、本題に入るが君の担当のステイゴールド君についてだ」

 

 ごくりと生唾を飲み込んだ。嫌な予感しか予想できなかった。

 

「傷心っ! 目黒記念の騒動以後、ステイゴールド君のことでトレセン学園に誹謗中傷の書き込みが増えていて、最近彼女の周りについてくる記者もパパラッチまがいの者が増えている状況で、先生たちからあまりよろしくないことが聞こえてきている。」

「まさかステイゴールドを退学……ということを」

「むむっ。私もあの時の経緯については知っている。だが他の先生方は今回の騒動に加えて、留年に授業態度の不真面目さや気性難のことで手を焼いている。何か理由を付けて辞めさせたい気持ちがあるのだろう」

 

 トレセン学園からの退学、すなわち引退を意味していた。素行とか暴行とか何かしら問題はあるが、それでもゴールド自身は懸命にレースを走っている。それがそんな理由で引退するなどウマ娘として不名誉極まりない、何としてでも退学は避けなければ。

 

「進言っ! その事態を防ぐべく、ステイゴールド君の不名誉な疑惑をレースで打開しなければならない」

「となりますと、次回のジャパンカップで勝利をする必要があるということでしょうか。確かにステイゴールドの自力は十分にあります。ありますが」

 

 池浦の声が段々とその言葉とは裏腹に小さくなっていく。

 現在ステイゴールドのジャパンカップの戦績は十着と六着と芳しくない。それに加えて、今回のジャパンカップにはドバイに拠点を置く世界的強豪チームゴドルフィン所属のエース、ファンタスティックライトら世界中の一流ウマ娘たちが府中に集まってくる。そんな世界の強豪が集う中で、最近入賞すらできていないステイゴールドが優勝する要素が低すぎるのだ。

 だが秋川理事長は真剣な眼差しではあるが「必ず勝利せよ」との言葉は発さなかった。

 

「池浦よ。ウマ娘が愛される要因とは何ぞや」

「勝利でしょうか」

「うむ。勝利を目指す。走ることに喜びを見出すウマ娘にとって一着、勝利は目指すものだろう。だがそれはあくまで愛される要因の一つよ。愛されるウマ娘。ウイニングライブでの素晴らしい演技に感嘆してファンになる者もいれば、愚直なまでにその走りを貫き通すウマ娘に応援したくなるファンもいる。他にもレースでは結果が出なかったが、後進の育成のために心血を注ぎ当時のレースに思いをはせるファンもいる。池浦、ステイゴールド君のファンは何を以て愛されているかそれを考えたまえ。以上っ!」

 

***

 

 勝利ではなく愛される走り。ただ勝つよりも全く異なり、正解のない答えを理事長から提示された。

 講義や教本ではどうやってウマ娘たちが勝つように効果的な練習をすればいいかだけを学び続けていた。デジタルの時もそのやり方が成就したのだ。だが愛される走りなど一度たりとも学んだことはない。

 勝つことでファンが増え、愛されるのは当たり前のこと。だが自分の担当ウマ娘であるステイゴールドがまさにそれに当てはまらない。愛される理由とは何か。それを強豪ひしめくジャパンカップでどうやって示せばよいか、池浦は頭の中で模索しながら対戦相手一覧が書かれたノートを開きながら、練習場へと歩いて行く。

 

「おい、てめえら。人がせっかく珍しく真面目に自主練しようとするときに邪魔すんのか。あ゛あ゛」

 

 校舎と練習場をつなぐ裏道でゴールドの低く唸る怒声が聞こえた。

 

「ステイゴールド選手一言だけでもいいですから。あの天皇賞の試合について実際の所どうだったかを答えてくれれば」

「なあそれは俺様に喧嘩売ってるつーわけでいいのか。いいよな。いいんだよな!!」

 

 目黒記念の時にいたあの記者があの時と同じ質問をしており、ギリギリと歯切りを立てて威嚇するゴールドの堪忍袋の緒が切れかけていた。

 またあの記者か! 池浦は急ぎ走り出し、二人の間に割って入った。

 

「ちょっと選手への無断取材はお断りしているんですよ」

「あなたには関係ないでしょ」

「俺はステゴのトレーナーです」

「二年前の天皇賞の時いなかったあなたに関係ない話でしょ。ましてや新人トレーナーが口を挟まないでいただきたい」

 

 全く聞く耳を持たない記者に。ゴールドが退学の危機に陥っている原因はこの記者だというのに、記事のネタになることしか考えてない。こんな奴のためにゴールドは……!

 

「おや取材かい。にしては少々品も華もない。人の中身を暴こうとしているが人間、衣裳を剥ぎとればあわれな裸の二本足の動物にすぎないだろうに。が、僕は美しすぎてこの衣で抑えなければならない定めにあるのが悩ましい。さてトレーナー君ここは僕に任せたまえ」

「オペラオー」

 

 騒ぎを聞きつけてきたのか、たまたま近くにいたオペラオーが池浦の代わりに記者の前に立ちはだかった。

 

「やあやあ記者君、どうしたのかな。この間の僕の取材がタイムオーバーしてしまったから、また僕に会いに来たのかい?」

「いえ、今回はステイゴールド選手の疑惑について伺っていまして」

「ふむ。ゴールド君のことでかい。彼女については何か間違いはあるかもしれないが、別に彼女は気が狂ってはいないさ。でもそうだなぁ、僕も彼女とは同じクラスで長い付き合いだ。語れることは語ろう」

「ではステイゴールド選手の走りについてオペラオーはどう思いますか」

「いいだろう。ではたっぷり語ろうではないか、演出僕! 作曲僕! 脚本僕! 主演僕! による『テイエムオペラオー王朝の興隆とステイゴールドの戦いの日々』を三時間アンコール延長込みでお届けしよう」

「いやいや、そんなんじゃなくて」

「うむ、だめかい。ではその声にお答えして。未公開のも含めた完全版劇団オペラオーをお見せしよう! と〜きは昔の物語〜♪ 正月の初日の出を見逃してしまい、太陽におはようの挨拶が出来ずに悔やむ僕の顔を♪ 窓ガラスから眺めていた〜♪」

 

 何も答えになっていないのに、勝手に一人歌劇団を始めたオペラオーに記者が完全に戸惑っている。技とか本気かよくわからないファインプレーのこの隙にステイゴールドを逃がそうとしたが、すでにいなくなっていた。

 

 もう練習場に行ったのではと、そっちに行ってみるがゴールドの姿はなかった。代わりに冷たくなった秋風にふわふわっと空色の髪をなびかせるセイウンスカイが、ターフの外ラチに腰を下ろしていた。

 

「セイウンスカイさん。ステイゴールドを見かけなかった」

「いや。こっちには来ていないよ」

「そうか。どこに行ったんだゴールドは」

「先輩は捕らえるの難しいよ。自由奔放だから。でその、ちょっとお願いがあるんだけど保健室まで運んでほしいなぁ。練習していたら古傷が痛んで動けないんだよね」

「おいおい、大丈夫か」

「いやぁ前と同じように走ったら脚が全然前のように戻ってなくて、私ダメだね~」

 

 応急処置で足にテーピングを施して動けないセイウンスカイを背負って、保健室まで走っていく。屈腱炎による故障から治ったとばかりと池浦は思っていたが、前と同じように走っただけで故障が発生するとセイウンスカイの故障は酷いものであると予想できた。

 本人は飄々とした表情でまだ現役は続けるらしいが、実際に走れるかどうかは。

 

 保健室の近くまでやってきたとき、保健室の扉からなんと行方がわからくなっていたステイゴールドが出てきた。

 

「じゃあな。また頼むぜ」

 

 ゴールドは池浦のことに気付かず去っていった。ゴールドを発見できたのはよかったが、どうしてゴールドが保健室にいたのかまったくわからなかった。ケガの傾向もなかったはず。セイウンスカイを保健室のベッドに寝かして養護教師にを呼んだ。

 

「しばらく動かしちゃだめだからね。まだ屈腱炎の痕が響くのだから。ところで、あなたはステイゴールドのトレーナーさん。彼女ならもう帰りましたよ」

「ゴールドは、ここで何をしていたんですか」

「脚の検査をしていたの」

「検査! まさか脚に異常が」

「いいえ、いたって正常よ。毎回練習の休憩中や終わった後はすぐにここに来てね。あんなに毎月走っているのに驚くほど怪我になりそうなところがないくらいにね」

 

 それを聞いてホッとしたが、しかし練習の休憩中とは言うが、ゴールドの場合勝手に練習を抜け出してここに来ているのもカウントされる。それを加味したら大事にするというより過敏すぎる。

 

「ウマ娘にとって脚は心臓みたいなものだから気にする子もいるけど、あの子は本当に丈夫なんだから練習が終わってすぐ検査するほど過剰気味にならなくてもいいのにね。前のトレーナーさんのころからの習慣かしらね」

 

 養護教諭の女性は困った子を見るように微笑んだが、池浦は笑えなかった。前のトレーナーからステイゴールドが合間に保健室で自分の脚を検査していたことなど一言もなかったのだから。いや、そもそも本人の口からそういうことを気にしていた素振りすらなかったのだから。

 

「あの、ゴールドはいつからここに通い詰めていたんですか」

()()()()()()()()()ぐらいからずっとね」

 

 二年前。その単語を聞いた直後、背後から乱雑に保健室の扉が開く音がした。

 

「忘れ物しちまったから出戻りだよっと」

 

 その瞬間、ステイゴールドが一気に足を駆け、池浦の胸ぐらをつかんで吼えた。

 

「てめえ、こんなところで何してんだ! 俺様の後ろを付け狙っていたつーのか。あ゛あ゛」

「ち、違う。ゴールド。放せ」

 

 なんとかゴールドの掴む手を引きはがそうとするが、力の強いウマ娘と人とでは引きはがせるわけでもなく呼吸が苦しくなるばかりである。養護教諭も突然の事態にたじろぎ床にへたり込み腰が抜けている。

 すると、ベッドで安静していたセイウンスカイが静かに後ろに回ってステイゴールドに膝カックンをした。急に別の力が加わったことでステイゴールドの手が緩み池浦は脱出することができた。

 

「先輩。保健室では静かにしてくださいよね。私のほかにも病人だっているんだから。それにこんな場所で騒ぎを立てるとまた色々書き立てられるよぉ」

「っち。失礼しやした」

「ゴールド。話がある」

 

 服がまだ乱れたまま池浦がゴールドを引き留めると、ゴールドは池浦を睨み舌打ちをして返した。

 

「んだよ。説教か」

「……違う。君が保健室に通い続けた理由だ」




一方その頃オペラオーは。

「そう、そこで僕は彼女にこう言ったのさ。「僕こそが世紀末覇王だ!」」
「は、はあ。はあ。ありがとう、ございます。ではこれで」
「待ちたまえ記者くん。まだ第一部が終幕したばかりじゃないか。これより今年に起こった僕とゴールド君との戦いの日々を語る第二幕が上がるのだよ。さあ、聞きたまえ」
「か、勘弁してください」
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