インターンに消極的な三年寮長×2「「インターンは神殿行きます」」文化(ボードゲーム)部の方「あ、嘆きの島(ハデス神殿)じゃなくてね」運動(マジックシフト)部の方「つーわけで選手ついでに神官なるから国出るわ」関係者一同「なんて?」イデア・次男・シュラウドとレオナ・第二王子(継承権第二位)・キングスカラーの将来設計について、あるいはレオナ殿下出家するってよ。※ツイステ受動喫煙※イデアに実兄(notオルト、髪燃えてない)がいる※夕焼けの草原(地域名)にキングスカラーじゃない王家がある

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いずれネメアの獅子とならん

 王には成れない。それは知っている。その単純な事実にならば、実のところ五つ辺りには気がついていた。それで、宰相や大臣にも、あるいは将軍にさえ、自分は成れないのだと知ったは、いつのことだったろうか。

 

───***───

 

 外部企業研修(インターンシップ)が、必修になったのだという。件の知らせは現寮長を務める三年生四人、その全てに衝撃を齎した。本業を詰め込んで多忙になる予定だった茨の谷次期領主(マレウス・ドラコニア)世界的モデル兼俳優(ヴィル・シェーンハイト)にも、未来絵図が分かり切っているからと寮室に残るつもりだった王家継承権二位(レオナ・キングスカラー)冥王の神官(イデア・シュラウド)にも、同じくらいの衝撃を。

 

 それでも、前者二人にとって事は単純だった。ヴィルは事務所のマネージャーに電話を一本入れるだけで済んだし、マレウスに至ってはリリア・ヴァンルージュに一言洩らせば、あとは彼が全て終わらせておいた。

 では翻って後者はと言うと、彼らは実家からオファーを出させる気など毛頭なかった。どうせ飼い殺されるのなら学生のうちばかりはと言って出てきた所に、どうしてそのうちの希少な一年を費やせるだろうか。けれどそこで共通する壁が立ちはだかる。誰が就職しないと分かり切っている学生を受け入れるだろう──否、そうと限った話でもないか。

 

「カイワレ、期限付きにしてもお前なら行ける場所なんざ幾らでもあんだろ」

 レオナは、当然のこととしてそう指摘した。彼の成した所業を思えば、異端の天才(イデア・シュラウド)を迎えようという研究所は事実幾らもあった。

「……オファーはあったけど、無理」

 だが、こればかりはイデアの方が耐えられなかった。施しのように感じたから、ではない。未来の話を、きっとされるからだ。ありもしない、未来の話を。

 

「そうかよ。で?お前どうすんだ」

 イデアが喉奥に閉じ込めた内容が、レオナにも分かるような気がした。シュラウド家長男(イコス・シュラウド)の顔と名前を、レオナ・キングスカラーは知っている。古式呪文に親しむ者として、炎の遺児(ハーデス・エンバー)の名ですら。巫覡(メディウム)として神に見染められた者が、一度とて支配地から出てくることの方がおかしいのだ。ここナイトレイブンカレッジが七大君主(グレートセブン)──ひいては死者の国の王ハデスの名の下にある場所でなければ、彼は冥府の一画(嘆きの島)を出ること叶わなかっただろう。

 

「レオナ氏に関係なくない?煤まといの君(へーファイストス)の神殿にでもお邪魔しようかな……」

 現職の神官(イデア・シュラウド)の何気ない言葉を、レオナは天啓のように聞いた。

「……神殿?」

 

 宗教家になれば、否が応にも政界から離れることになる。キングスカラー家は二代前に政教分離を掲げたからだ。レオナはこれといって信仰を持たない(強いて言えば祖霊信仰だろうか)が、そのあたりは後からだってついてくるだろう。優れた魔法士の多くがそうであるように、レオナも自己暗示は得意だ。

 

「お、レオナ氏も興味がおありで?」

 イデア・シュラウドは、今現在の選択肢のなさを厭うているだけで、例えば四十年後にという話であれば信仰に身を捧げるのも吝かでない程度にはかの悲しみの大王を尊敬している。それだからつい、自ジャンルに新参を勧誘するときのように彼に声をかけてしまった。

「……ああ」

 その短い沈黙が、後ろめたさからのものだと、イデアでさえ気がついた。きっと、そうきっと、レオナは信心深いわけではない。神秘に敬意を払っているわけですらない。だが、それでも、人が俗世の苦しみから逃れてもっといい人生を送るためにこそ、信仰はあるのだろうから。

 

───***───

 

 空の青い日だった。憤怒の山の灰に覆われる故郷では二度見たか知れない透き通った天も、ここ賢者の島では珍しくないのだと気付いたのは、思えば入学から半年は後だったと思う。

 

 レオナ・キングスカラーは、もう一週間も前の会話のことを、とうに過ぎた冗句だと処理していた。だから植物園で横になっていた自分の傍に授業中のはずの(レオナとて他人のことは言えないが)イデアが座った時には、ただ珍しいこともあるものだと、ちらりと目を向けただけだった。

「レオナ氏は」

「あ?」

「どんなとこがいい?盾を穿つもの(アレース)梟瞳輝く君(アテーナー)か……緑もたらす豊穣の方(デーメテール)……それかいっそ」

「待て、名前だけ並べられてもわかんねえよ」

 それもそうだとイデアは頷いて、だいぶ語弊があるのを承知で、初めの一柱を挙げた。

「インターン先の神殿。マジフトの守護者とかどう?」

 レオナは三回瞬きをして眠気を飛ばすと、身を起こして話を聞く体勢になった。

 

 レオナ・キングスカラーは、生まれてから今までずっと、()()()()王位継承権を持っていた。初めは父王の子として、そして甥が生まれた翌年に兄が即位してからは兄の弟(先王の第二子)として。

 幼き日のレオナは大層頭が良かった。今もだが。その所為で周囲を見放すまでに幾らも掛からず、その所為で兄を(ころ)さねば王位に就けないことにも早々に気がついた。己の本質を映す(生得のユニーク)魔法に王者(キング)を関する自分が、兄の重臣には成れないことにも、随分早くに。あとはもう、女系継承の貴族王族に入って子を設けるか、さもなければ夕焼けの草原から離れるくらいしか残っていなかった。それも、スポーツか学術か、そういう政治からは縁遠いところに行くことしか。

 

 男を殺し女を喜ばす「鮮血纏う方」の神殿は戦士の育成に殊更力を入れることで有名だが、近年はまた別の側面もある。暴力と戦争、暴動と反乱の他に、スポーツの守護者として語られるようになったのが、この三百年ほどの話だ。

 

 イデア・シュラウドは夕焼けの草原の内情を知らない。歴史の上では複数の帝国による多重支配を受けていたとか、その名残で一つの家に複数の爵位があることも珍しくない(それこそキングスカラー家もその一つだ。星空の帝国*1から王位を、薔薇の王国の旧王朝*2からは伯爵位を、キングスカラーはそれぞれ受けている)ことだとか、そういった書面の上での話ならばともかく、その実態は全く把握していない。ただ、それでもなんとなく透けて見える部分もある。

 そもそも夕焼けの草原というのは地域名で、その内には王家が五つある。なんなら公国を含めれば国の数はもっと増える。なんだったら今からでも実効支配の及ばない地域をいくらか取り纏めて、石畳の帝国*3辺りから王の称号を授かる選択肢だってあるだろう。だからたぶん、レオナ・キングスカラーに許される選択肢は多くない。それが()()()()環境、国家の下、指揮者の下にあるもの、頭脳ではなく手足。彼はきっと、そういうものでないといけない。

 

 レオナ氏司令塔だから輝くひとみの(グラウコーピス・)機織りの君(アテーナー)もありだけど、あそこは政略にも強いですし。イデア・シュラウドはそう続けた。

「それか大祭(ネメアー)の……あ、選手の方目指す?審判は神官扱いになるからそれで毎年巡回すればいいかなと思ったんだけど」

「説明」

「少々お待ちくだされ。……ええと、どこから話すべきか。うーんと、四大競技祭って言うのがあって」

 

 イデアが言うには天界山の麓ではしばしば、神々に捧げる運動競技祭が行われるのだという。小さなものであれば学校の体育祭から、大きなものでは方々の(ポリス)からそれぞれ選手を集うものまで。

 その中でも最大規模のものが、四大競技祭と呼ばれる。二年、四年、あるいは八年に一度開催されるそれは紛れもない神事であり、審判は例外なく神官として扱われる。審判は十ヶ月も拘束される上、隔年の二(イストミアとネメアーの)大祭は年次が被らない。審判を志望し続ければ家に戻されることもないだろう、と。それと、(天界山とその麓の諸地域出身者でなければ出場できないものもあるとはいえ)ネメアーの大祭に七大英雄の血を継ぐ獅子(キングスカラー)が参戦したいと言えば否はないだろうから、城壁打砕く方(アレース)なり群雲の君(ゼーウース)なりの神殿で競技者として訓練を積む選択肢もある、とも。

 

「悪かねえな」

 ネメアの獅子の名を、レオナ・キングスカラーも当然のように知っていた。かの冥府(ハデス)の眷属が、祖として霊体を祀り上げられ、抜け殻になった百獣の王(スカー)の器の果てであることを、シンバの子孫ら(キングスカラー)は知っている。

 

「お前は?」

 獅子が聞く。揺らめく青炎の奥で地下の黄金が瞬いて、開かれた青の向こうには獣の牙にしてもなお鋭いそれが覗く。

「先日足萎えの君(アンフィギィエイス)……最も名声高き鍛冶師(へーファイストス)の神殿に書簡を送りましてな」

「お前はもう少し思惑を隠せよ」

「いや、鉄鋼とか火山とか領域が被ってる部分もあるんだって」

「どう考えても金属加工っつーか技能神だからだろ」

「それはそう」

 

 イデア・シュラウドが、冥神の祭祀者(シュラウド)に生まれつかなかったとして、彼の祈りを受け取る神は多くないだろう。

 

 イデア・シュラウドは工学者で、イグニハイドは技術を尊ぶ場所だ。地下に眠る諸資源を砕き、溶かし、抽出して、今となっては十億分の一(p p b)以下の領域にまで歩みを進めた者たち。錬金術(ヘールメースの領域)金属加工(へーファイストスの守護下)の先に在る場所。魔法科学(マジカル・サイエンス)魔導工学(マギアテクノロジー)、四つ辻の月夜の魔道(ヘカテー)はおろか、遍く照らす文明の光明(アポローン)の手でさえ超えんとする、それは冒涜の別名だ。

 銀の弓引く破邪の君(アポローン)でさえ、核融合炉に辿り着き(太陽を地上に引き落とし)疫病の正体を暴いたことには眉を顰める。天界山十二神(ドーデカテオン)の中では己の腕を恃む機知なる方(へーファイストス)だけが、自らの手を離れゆく人を良しとしたと言う。

 

「それで、行けそうなのか」

「……うん。一年だけなら、って」

 一年。十二大神の一柱の領域に、冥王の愛子たるイデアが居られる、それが限度だった。この期間(インターン)が終わって卒業してしまえば、イデア・シュラウドが衆目の前に姿を現す日は二度と来ないだろう。

 

 シュラウド家は、嘆きの島の実効支配者として知られている。鉄鉱石から精霊銀(ミスリル)鉱、各種の貴石宝石にそれが変異した魔法石。およそ地下より出るものの全てが、嘆きの島(富の主人の膝元)では産出する。それゆえ糸杉の裔(シュラウド)が金銭に困ることはなく、それゆえ嘆きの島(シュラウド)には多くが集る。かの家を継ぐ次代の名を、覆いの内にて響くもの(イコス・シュラウド)という。青炎宿さぬ、彼は同じくあるもの(イデア・シュラウド)の兄だった。

 

 青の焔を宿して生まれる糸杉の子を、冥府の熾火(ハーデス・エンバー)と呼ぶ。彼らは生まれながらの仲介者(シビュラ)であり、成人と共に嘆きの島の死者の国の王(ハデス)神殿に入り、そして二度とは出てこない。年に一度青の炎髪を持たない冥神の神官(シュラウド)が立ち入る他には何人も寄せ付けないその場所で、しかし事実として遺児(エンバー)は次の巫が現れるまで在り続けている。それを嘆きの島では冥王の加護と呼ぶ。イデアはそれを、呪いと呼んでいる。怒られるのが嫌なので心の中だけで、だが。

 

「……その後は家に戻されるかも知れねえが、まず一年。それでいけると思うか?」

「平気平気。武具鳴らす戦慄すべき君の神殿都市*4、万人迎える不可視の君の支配地*5とは割と交流あるから」

「さっきから呼び名がひたすら不穏なんだよな……ホントに大丈夫かよ」

「大丈夫、大丈夫。……まあ鮮血纏う方が反乱とと暴動の守護者なのは事実だけど

「聞こえてんだよ」

「マジレスすると小さい神殿ならともかく、あの街(スパルタ)はハーツより厳格な統制で有名だから、市民暴動とかとは割と無縁*6。来年だとちょうどネメアー大祭の時期だけど、はっきり言って一年未満で出場狙いたいならスパルタで訓練して別の枠で出場するしかないと思う」

「無茶苦茶言うなお前」

「ファイトですぞ」

「他人事だと思いやがって」

「事実他人事ですし」

「この野郎。まあ、やるだけはやってみるか」

 レオナが王になれるのは夕焼けの草原ではない。あの乾いた地ではない。そんなことは十五年も昔に知っている。

 

 二年前にマレウス・ドラコニアが来るまでは。マジックシフトの芝生舞台で、レオナは王を夢に見れた。今度は土埃の立つトラック競技場で、パレー(レスリング)ピグメ(ボクシング)か、総合格闘技(パンクラチオン)*7か。

 

「おい」

「?どうしましたレオナ氏」

「……いや、なんでもねえ」

 オリーブの冠*8を勝ち取ってみせるからお前も見に来い、と言おうとして止める。この先のイデアの道行きを、レオナは知らない。見に来ることもできないとして、それならレオナの力ではどうにもならないだろう。最低でも、それこそあのトカゲ野郎、もとい次期妖精王(マレウス・ドラコニア)でもなければ、七大君主(グレートセブン)その人には及ぶべくもない。

 

 ゴーストは概ね、生前の衣装で最も思い出深いものを身に纏う。最後の最後、この身が衰えて戦いに耐えなくなり冥府(死者の領域)を訪れるその時に、冠姿を見せてやろう。そうして、お前のおかげで戴冠し(王になっ)たのだと、そう言うのだ。

 

───***───

 

 ネメアの獅子、と人々が言うとき、普通は夜天にて輝ける英雄(ヘラクレス)が打倒した驚異の獣を指す。だが長い歴史からすればほんの瞬きの間ではあるが、ネメアーの獅子と言えば一人の獣人を指した時期があった。二年に一度のネメアーの大祭、その格闘三種目で十六年八回の内に二十の優勝を重ねた獅子の獣人、都市を荒らすもの(アレース)の神官の名を、レオナ・キングスカラーと云う。

 

───***───

 

「お、久しぶりですなレオナ氏」

よう、イデア。ほんとに久しぶりだな

「おめでとう。冠、似合ってるよ」

薄情者のお前は一度も顔出さなかったみたいだが、二十も取れば慣れも似合いもするだろ

「拙者だってできるものならレオナ氏の勇姿見たかったんですがそれは。まあいいや。話し相手になってくれるならそれでもいいけど、残念ながら三日だけ……」

いや、これだけ言いに来た

「え、何?」

お前のおかげだ。おかげで俺も戴冠せし者()に成れた

「……僕は何もしてないよ。でも、ありがとう」

それだけだ。手間かけさせたな

「ううん。こっちこそ、いや、なんでも。……地下へ行く(ΣΟΥΕΥΧΟ ΜΑΙ)君の(ΠΗΓΑΝΕΤΕΣ)魂に(ΤΟΥ ΠΟΓΕΙΟ)青炎の加護と(Ε Υ Λ Ο Γ Ι Α)忘却の祝福の(ΤΟΥ Η ΜΠΛΕΦΛΟΓΑ)ありますように(Κ Α Ι Η Λ Η Θ Η)

 そしてまた一つ、(たましい)は地下に灯る。いつか再び肉を持ち、地上に帰る日のために。

「あ、オルト。おかえり」

*1
現熱砂の国北西部。異教徒の奴隷化・教化兵化といち早い工業化によって版図を広げたが、茨の谷・塩の荒海連合軍との戦争により滅亡。

*2
ハート王朝末期の動乱後、ダイヤ王女の降嫁したクラブ侯爵家に端を発する《赤》の王朝。その後《チェス内乱》によって現王朝たる《白》の王朝へと王権が移った。しかし《白》の王朝はハート家の血を継がないため、《赤》こそ正統な薔薇の王国の王家であると主張する者も居る。

*3
統一教会系の都市国家。輝石の国の大部分、薔薇の王国の一部、風車の公国全域等を支配していた同名の古代帝国の流れを汲むものであり、今でも夕焼けの草原の一部地域は貢納を行っている。

*4
神殿都市スパルタ。武神アレースを信仰する神殿のうち、天界山の山中にある武神その人の住まいを除いては最大のものを擁する都市国家。久しく戦争のない現在では珍しく常備軍を持ち、祭儀・民間娯楽の双方でスポーツ選手育成にも力を入れている。都市国家(ポリス)を跨いで選手を集うような競技祭ではこの二百年、優勝者の出なかった回がないほど。

*5
冥神ハデスの領域である冥府、特にその地上部分である嘆きの島のこと。

*6
奴隷制が未だ続く天界山の麓において、警戒されるべきはむしろ市民(自由民)以外の反乱であるが、こちらも常設軍を有し兵士を自由市民に限るスパルタにおいてはほとんど無縁のものである。

*7
天界山の麓における総合格闘技、パンクラチオンはかつて試合で度々死者を出したとして悪名高い。しかしオリュンピア競技祭に導入されるにあたり勝敗ルールが厳格化され、今では比較的安全なものになっている。

*8
オリュンピア大祭とネメアー大祭の優勝者にはオリーブの冠が与えられる。


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