13・仮面戦士の秘密
「いやぁ、ほんとに夏真っ盛りって感じだなぁ」
ここ数日紅魔館で働きながら寝泊まりさせてもらっていた友希は幻想郷での生活にも慣れ始めており、外の世界への未練も少しづつではあるが着実に克服していた。
そんな折、唐突ににとりから工房に来てほしいと連絡があったのは今日の昼十時頃であった。
それからサッと身支度を整え、林の中を工房に向かって足早に突き進んでいる最中なのである。そしてそこには友希以外の姿も。
「で、何でフランまでついて来てるんだ? しかも美鈴さんまで駆り出して」
「だって最近な~んにも面白いことないんだもん! 暑いからってチルノたちも引きこもってるしさ。 それに、友希についていったら面白いことありそうだから!」
そう言って屈託のない笑顔を見せるフランだったが、一度吸血鬼の本能からくる狂気の笑みを目の当たりにしている友希にはその笑顔は、まだ嫌な思い出を想起させるトリガーに過ぎなかった。
「美鈴さんは咲夜さんの代わりですか・・・」
「ええ、まあ。 妹様のお相手はいつも私なんですよ。 私が妹様の攻撃に耐えうるほど鍛えているからといつも言われるんですけど、たぶん厄介払いです。」
「そんなことは~・・・」
口調とは裏腹にそこまで嫌そうなそぶりは見せない美鈴。それどころか、フランに対して日光が直射しないように日傘を差してあげるその様子は、なんだか嬉しそうなほどだった。
それにおそらくだが咲夜もレミリアも、なんだかんだ言って本気で美鈴のことを邪魔だと思っているようには友希は思えなかったのだ。
現に初めて美鈴と咲夜に会ったとき、咲夜が気にしていたのは世間体とそれによって引き起こされる主人の威厳損失だった。
仕事をこなしていなかったのを怒っていたわけではない。つまり、働き方に関してはいろいろあれどその必要性はしっかりと理解しているのではないだろうか。
それにだ。本当に厄介払いをするほどならば、もうとっくに解雇されていてもおかしくはないはずだ。
「ていうかさ、前から思ってたんだけど、こんなに日が強いのに日傘くらいでどうにかなるもんなのか? 日光って」
「ん~、難しいことはよくわかんない!」
吸血鬼の弱点についてはいろんな説があるが、どんな存在の弱点にしろ外の世界ではあくまで非現実的なもので、事実かどうかなど真剣に考えるのは熱心なオカルトマニアぐらいだ。
むしろファンタジーに理論を持ち込んで真剣に解説しようなどという方が野暮だと叩かれそうなものである。
「あ、でもちゃんと日焼け止めは塗ってるよ!」
「日焼け止め?」
まさかそんな安直な。
「日焼け止めもにとりさんから頂いているんですよ。それもにとりさん特性の強力なやつを」
野暮だなんだと言っておきながらあれだが、友希はどっちかと言うと理系なのだ。なのでこのような話を聞くとどうしても仕組みを考えたくなってしまうのだが・・・。
日焼け止めで防げるのなら吸血鬼は日光ではなく正確には紫外線や赤外線などの特定の波長光に弱いとも考えられる。灰になるとも聞いたことがあるがそれは日光の熱によるものなのか。はたまた他の原因があるのか。
いずれにせよ、おそらく幻想郷の雰囲気から察するに日焼け止めなんてものは最初からはなかったであろう。それを吸血鬼の特性を分析して作り上げてしまうなんて、やはりにとりはすごい奴だと友希はひしひしと感じたのだった。
「なんだかんだにとりさんにはいろいろと便利なものをいただいてるんです。ほんとに感謝してもしきれませんよ」
他愛もない話をしながら歩みを進めること約二十分。やっとにとりの工房が目に入ってきた。
「ありましたよ。あそこです」
ドアに駆け寄りノックをしようとしたところ、丁度のタイミングで中からにとりが大量の機械を抱えながら出てきた。
「おお、ようこそ盟友! それと、なんで門番と吸血鬼の妹が? まぁいいや、入って入って! あ、くれぐれも中の物は壊さないでくれよ」
よほど何か見せたいものでもあるのか、抱えていた機材を放り出しまくし立ててきた。
友希はとにかく来てほしいと言われただけでその詳しい内容は全く聞かされていなかった。
何を思ってか、にこにこと満面の笑みを浮かべながら友希たちの背中を押し、入室をせかすにとり。
にとりの工房は紅魔館や人里からはそれなりに離れており、魔理沙の住んでいる魔法の森の比較的近くにある清流の流れる川にまたがって存在している木製の建築物である。紅魔館や地霊殿に比べたらはるかに小さな外観だが、普通の民家よりは一回りほど大きな見た目をしている。
そしてその内装も特にこれと言って代わり映えもなく、入ってすぐに普通の木製の廊下が目の前に現れ左右に合計で四つほどの部屋が分かれている。そしてそのどれもが別の作業に特化したもので、初め幻想入りをして気を失っていた友希が介抱されていた木製製品の修理・部品などの細かいものの整理・製品同士の接合などを行う木工室や機械製品の調整・試験などを行うメンテナンス室、様々であるがそれでも目新しいものがあるわけではなかった。
「まっすぐ行って下ね」
「え、下?」
廊下の先にはおそらくリビングであろうか、大きめの机がドンと置いてあり台所のようなものも見える。
そこから左に行けば川の上にまたがった広い実験室がある。
しかし下というのはどういうことであろうか。その場にいる誰もがピンときていなかったが言われるがままにリビングに直進してみる。
「「・・・!」」
台所のそばの床に穴が開いており、しっかりとした作りの梯子がかなりの深さに伸びている・・・。
「えっ、これは・・・」
「なになに⁉ どーなってるの⁉」
「あ・・・! 妹様ぁ⁉」
友希の直感は嫌な予感を告げる。しかし遅かった。
「うおいぃっっ‼」
テンションが高いときのフランには気をつけねばなるまいと心の辞書に書き加えておかねばなるまい。
勢いよく友希の隣で階段の先を見下ろすフランだったが、興味に突き動かされた彼女は思い切り友希の背中を押し込み、友希もろとも中の空間に落下してゆく。
「あはははははは!」
「あああああああ!」
「友希さーーーん!」
ここ最近のうちにいったい何度高所から落下することになるのか。
もちろん慣れるわけなどなく一瞬とてつもない恐怖に襲われるのだが、以前と違うのは今の友希には不死身ともとれる能力があるということだ。
そのおかげで少しは冷静になることができたようで、落ちても大丈夫だと思えたとともに落下してゆくその空間が高さ10メートルはあろうかというくらいの巨大なホールのような場所だということを把握することもできた。
バッシャーン!
水の打ち付けられる音がその広い空間に反響した。
「ねぇ~、大丈夫?」
「ぶくぶく、だいじょうぶくぶくぶく・・・」
大きな音に血相を変えてのぞき込むにとり。友希は能力のおかげで水たまりのようになりながらも無事なようだった。
「大丈夫だけど、金輪際やめてね」
以前レミリアに聞いたがフランは長い間地下生活を送っていたらしく、外界にほとんど触れていなかったがゆえに精神年齢や感情抑制機能が発達していないのだそう。
その話を聞いてからはフランの勢い任せの行動にも納得したが、おそらくフランは今その遅れから自力で脱しようとしているのではないだろうかと友希は考えている。
フランは自身の行動の数々を振り返って、外の者たちと楽しく暮らすにはどうすればよいか、むやみに命を奪うのはいけないことなのかなど自分自身で考え変わろうとしている。初めて話した時のフランの表情が友希には忘れられなかったのだ。
ふとそんなことを考えているうちに美鈴とにとりが本来どおり梯子を使って下まで降りてきた。
「妹様~、びっくりしましたよ~」
「あはは、ごめんごめん~」
「やっぱり、吸血鬼姉妹の妹と関わるのはちょっと怖いよ」
前々から紅魔館には出入りしているらしいにとりも、やはりフランの行動には警戒しているようだった。
「それはそうとして、ここはいったい何なんだよにとり。地下にこんなにでかいところがあるなんて」
「ここは私が極秘で開発したトレーニングルーム兼シミュレーションルームさ! 次々にロールアウトされていくライダーのアイテムたちを実際に模擬戦闘などで試したり、純粋に戦いに慣れるための練習を行ったりする場所なんだよ。もちろん弾幕ごっこも練習できるよ」
「それってもしかして、俺のために・・・?」
「そうだよ。 まあ、私としても未知の技術がどんな風に作動するのか確かめたいからね」
一体にとりはどこまでお人よしなのか。
人間のことを悪く思わず手厚くかくまってくれたり、右も左もわからない状態の友希にいろいろなところを案内してくれたり、家まで作ってくれるにもかかわらず戦い慣れしていない友希のために練習場まで作ってくれるなんて。
いくらお金やキュウリを求めるとはいえ、いくら何でもうまくいきすぎている。にとりがいなければ友希は今頃どうなっていたかわからない。
にとりには感謝してもしきれない。そうにとりを見つめながら友希は思った。
「そういえば、友希さんが使っているその戦士の力はにとりさんが作っているんですか? 日常での話を聞いている限り、友希さんが熱中しているオリジナルのものが存在すると思っていたんですけど」
「そうだよ。詳しい説明は省くけど、外の世界からライダーに関する電波だけを傍受してそれをもとに具現化しロールアウトする機械を私が開発したってわけ。もちろん友希から詳細な依頼を受けてから急ピッチで作ったんだけどね」
時はさかのぼり、幻想入りしてからまだ数日しかたっていなかったころのこと。
そのころからにとりの人間に対する奉仕癖はいかんなく発揮されており、今後の幻想郷案内の計画から友希の自宅設営(土木工業は専門外にもかかわらずだ)に至るまでできることのすべてを尽くしてもらっていた。
ある日にとりはこんなことを言い出した。
「いろいろ協力している代わりと言っては借金やキュウリの件があるからおかしいんだけど、もしよければ外の世界のことを少し教えてほしいと思うんだけど」
にとり曰く、近頃の幻想郷においてはエネルギー産業や生活を豊かにする機関など技術革新が起こりつつあるそうで、技術や文化的に大いに発展しているとうわさされる外の世界のことについて興味を持ち始めていたのだそう。
そんな話を持ち掛けられ難しいことは分からない友希が悩んだ末に思い付いたのが、自分の大好きな仮面ライダーの話題だったのだ。外の世界の発展に関連しているかどうかは怪しいところだが・・・。
それから友希の話を食い入るように聞いていたにとりは理解し終えるや否やさっそく調査を開始し外の世界のテレビやインターネットの電波の傍受に成功。その内容や歴史を瞬く間に吸収していった。
最終的には友希の力説も相まってか、すっかり仮面ライダーというものにドはまりしてしまったにとりは、たった一日足らずで実際のベルトなどを現実に落とし込むマシンを開発してしまったのだ。
いったいどうして変身など明らかに現実離れしたことができるものを作れたのかと友希が問うても、にとりは「イメージや設定をそのまま具現化しているだけで、どのような仕組みなのかは考えるだけ無駄」と濁されてしまうのだった。
「そうだったんですか。さすがにとりさんですねぇ」
優希も大いにそう思う。
「でね、今日ここに呼んだのはそれに関してなんだけど」
そう言ってにとりは数多ある服装のポケットの一つから紺色と黄色の二つのガシャットを取り出して見せる。
「これが新しく完成したアイテムなんだけどね、同時にこの空間も実用できるようになったからせっかくだからここでデータも取らせてほしいと思ったの」
まさかのこの空間までもが同時進行で最近になって作り出したものの一つだったなんて、にとりへの羨望のまなざしが止まらない。
「『バンバンシューティング』と『爆走バイク』か・・・」
にとりが取り出したガシャットのうち、スクエア状の隻眼プレイヤーがタイトルに映っている紺色のシューティングゲームが『バンバンシューティングガシャット』、ファンキーなバイクで荒野を駆けるライダーがタイトルに映る黄色のバイクレースゲームが『爆走バイク』である。
どちらもエグゼイドやブレイブとは違うゲームの種類であり、もちろん使用したその戦闘スタイルも全くと言っていいほど変わってくる。
戦い方は変身者によって変わるのではないのかと思われるかもしれないが、実は変身後のスーツやその装備にかなり依存してしまう。第一、友希にしろオリジナルの変身者にしろ戦闘のプロフェッショナルなわけではなく、完全な素人が戦うためにはシステムに助けてもらうほかないのだ。
おそらくにとりはそれも含めてどういうふうに作動するのかを知ろうと思ったのではないかと思案しながら、ガシャットを手に取り何気なく構えてみる友希。
それと同時に持参してきた変身ベルト『ゲーマドライバー』を友希が腰に装着したとき、フランが何かを思い出したように急に大声を上げ近寄ってきた。
「あーーっ! それ私も使ってみたいー!」
そう言えば前々から友希が変身しているところを見て物欲しそうな顔で見ていたのを思い出した。しかしそのつどレミリアや咲夜が、フランは勢い余って壊すのがオチだからといって友希の意向に関係なく決して触らせはしなかった。
だが今このタイミングで誰も邪魔するものがいないとふんで行動に出たに違いなかった。
「んー、別に俺はいいけど、慎重にな。絶対に壊しちゃだめだからな?」
「へーきへーき! だってこれ絶対面白いもん!」
割と乗り気な友希だったが、その横では小刻みに首を振りながらやめてほしいと必死に目で訴えかけるにとりがいた。
ただでさえ危険な存在だと名の通っている紅魔館の妹吸血鬼だというのに、おもちゃ感覚で触られては破壊はほぼ必至だ。その証拠にさっきの発言からも分かるが、「面白ければ壊さない、詰まらなければ容赦なくぶっ壊す」とまさにフランの凶悪さがひしひしと伝わってきていた。
「あのー、さっきからにとりさんが声にならない叫び声をあげてるんですがそれは・・・」
「いやほんと、だめだって! だってこれ多少の傷とかは修復できるけど大破とかしちゃったらもう二度と作れないんだよ⁉」
「えっ⁉ そうなの⁉」
そうなのだ。先ほども言ったとおり、このベルトやアイテムと言ったものはあくまで外の世界から得た電波や想像力を形として現実にロールアウトしただけのものなので、にとりにもその機構は理解できていない。それゆえに一度直しようのないほどにまで壊れてしまえば本当に直しようがないのだ。
もう一度具現化すればいいではないかと思うかもしれないがそれもできない。なぜならただでさえ自然の成り行きから外れて人為的に外の世界から情報を引っ張ってきているのだから、これ以上の正式な理由を介さずの個人的干渉は幻想郷のお偉いさん方である賢者とやらに何を言われてもおかしくはないからである。
無機物や波長などは人間などの意志を持つ生命が幻想入りするよりかははるかに結界を越えてきやすいが、それでも頻繁にかつ強制的にでは幻想郷の状態が悪化しかねない。それほどまでに実は不安定なものなのだ、この幻想郷という世界は。
「マジか・・・」
その事実を聞いてさすがに友希ものほほんとは考えていられなくなったので、フランにガシャットとベルトの返却を促そうとするのだが、時すでに遅し。
「よーし! 行くわよー!」
すでに遠くの方でベルトを腰に身に着けガシャットの起動ボタンに指をかけんとしていた。
「ちょちょちょっと待てフラン!」
「何よー⁉ 大丈夫だって言ってるじゃない、信じてくれないの⁉ だいたい私強いもん! だからライダーは私一人でいいんだもん!」
フランの手にしているバンバンシューティングガシャットは仮面ライダースナイプに変身するためのアイテムで、まだ本編に登場したばかりなので友希にも詳しくはわからないのだが、スナイプのオリジナルの変身者である花家大我と言う男は、医者の資格がないにも関わらず法外な金で処置を施す闇医者で執拗に他のライダーのガシャットを狙う危険極まりない男なのだ。よって傲慢な今のフランの態度にはどこか一致するところがある。
「君じゃ変身できないから! 頼むから返してぇ!」
「えー⁉ そんなぁ!」
「そもそもそれを具現化するための機械を作るのにすらいろいろと苦労して調整に調整を重ねてやっと実現したんだから! その機械でロールアウトした外の世界の概念を使いこなせるのはおそらく外の世界になじんでいるものだけなんだ。初め私が変身しようとしたんだけど、無理だったの」
確かにそうだ。手っ取り早く実験の成果やデータを手に入れたいのならばにとりが自分でやってしまえばいい。
だが幻想郷で使用できるようにするうえでいろいろな制限をかいくぐった結果、つい数日前まで外の世界の住人だった友希にのみ使える代物となってしまったみたいなのだ。
しかしだ、そんな事実を聞かされてもなおフランの好奇心を抑えることは不可能だった。
「そんなのわかんないじゃん! お姉さま言ってたもん! 私なら常識だって壊せるんだって!」
「お嬢様~」
フランの性格にはレミリアも気を付けていたはずなのに、高貴な吸血鬼姉妹としてのプライドには打ち勝てなかったということか。
『バンバンシューティング!』
例によってガシャットのボタンを押し込むことで、こちらに向きなおっているフランの背に大きくゲームのスタート画面が映し出される。
「へ~ん、しんっ!」
ガシャットを持つ右手を天高くつき上げて高らかに宣言し、手加減なしに勢いよくドライバーに挿し込むフラン。
『レッツゲーム! ムッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム? アイムア仮面ライダー!』
「ええ⁉ どゆこと⁉」
「変身できてる⁉」
「んん? なんか動きづらいからもう次行っちゃおー!」
本邦初披露なスナイプのレベル1の姿がついにお目見えすると思いきや、あろうことか動きにくさを理由に速攻でレバーを開きレベル2への変身シークエンスを開始してしまった。
『ガッチャーン! レベルアップ! ババンバン! バンババン! バンバンシューティング!』
ぼてっとしたレベル1の身体が空高く舞い上がり、手に持った銃で空中に現れる的を次々と撃ち抜いてゆく。ものの数秒ですべて打ち抜いたフランは最後に一発天に向かって弾丸を発砲すると、同時にそのレベル1ボディがはじけ飛び中から洗練されたレベル2の姿が現れた!
今までのどのライダーよりも鋭くとがった赤い目、頭部のメットには様々な戦闘を補助する装備が付いており、そこから右目を覆い隠すように黄色いパーツが飛び出している。紺色のスーツに野性を思わせる虎のような模様。右肩からはもっと蛍光イエローの強い、ハニカム構造が印字されたマントをかけている。
その地に降り立ち堂々とたたずむは、敵を定める隻眼の鋭き眼光、マントをなびかせ装備を唸らせる孤高のミッションハンター。仮面ライダースナイプ シューティングゲーマーレベル2!
「わぁい! 変身できた! かっこいーい!」
「気をつけてよー。その状態じゃおそらく能力は使えない。と言うか変身の状態に異常をきたす可能性があるからできるかどうか試そうなんてのもやめてね!」
よほどうれしかったのかその場でぴょんぴょんと跳ねまわるフランだが、その見た目からオリジナルの変身者の酷くクールな性格と比較してしまい友希には何とも異様な光景に見えて仕方がなかった。
友希たち三人はフランの強行をやれやれといった様子で眺めていたが、変身が完了したフランを見たにとりはしぶしぶその空間の二階部分側面にある指示室に入り観察とデータ収集の準備を整え初める。が、フランは往々にして破天荒を繰り返すのだった。
「たああああっ!」
「うわっ! ちょっと、妹様ぁ⁉」
フランは何の脈絡もなしに勢いよく美鈴に向かって拳を振り下ろしたのだ。
しかしここはさすがと言うべきか。美鈴はとびかかってきたフランの気を瞬時に感じ取り、反撃するとまではいかずともしっかりと受け身を取って攻撃をいなした。
「本来は戦闘用ロボットを作ってあるからそれを使おうと思ってたんだけど、さすがに耐えきれないかなぁ・・・? 紅魔館門番を務める君の方が敵としては適任だろうね!」
「だってさ、美鈴♪ ってことで行っくよー!」
「そんなぁ・・・」
美鈴が紅魔館の門番を任されているのはもちろん腕が立つからなのだろうが、その説はは人間や外部の妖怪たちに対してのことで幻想郷の実力者や紅魔館内の手練れに対してはあまり当てはまらないのだ。
しかしそれもそのはず。美鈴曰く、そもそもとして弾幕勝負が得意ではなく幻想郷における勝負にまず向いていないという。
だが今は少なくとも弾幕勝負を前提としていない、ライダーとの戦いなので美鈴に有利に働くかもしれない。スナイプは銃を使うライダーだが・・・。
「よっしゃ、俺も変身するか!」
『爆走バイク!』
友希は手にした黄色いガシャットを起動させ、その場でくるりと回転してすらっと構えて見せる。
「変身!」
「あ! 友希も変身するのー⁉」
「・・・!」
手元からドライバーの第一スロットにガシャットを差し込むと周りにキャラクターの選択画面が展開。そしてその中の一つを慣れないながらに回し蹴りで蹴り飛ばして選択!
『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム? アイムア仮面ライダー!』
友希の身体が黄色い光に包まれてゆき、ぼてっとしたレベル1の体があらわになる。
「ノリノリで行っちゃうぜ~!」
でかい頭には縦にピンクのとげトサカとサイドに耳のように飛び出したパーツ。大きな水色の目をし、その両手にはいかにも物騒な巨大なバイクのタイヤのような装備を構えた強烈な見た目である。
友希はこのライダーのオリジナル変身者である九条貴利矢になりきったチャラい口調でフランに便乗する形で美鈴に攻撃を仕掛けだす。
「こうなったら、私も本気でやらせてもらいますよ!」
美鈴はさすがにこの状況はもう逃げられないと思ったようで一気にいつもの構えと鋭い視線を友希たちに向ける。
「ふふん♪ 私知ってるもんね! 美鈴は弾幕勝負が苦手なんだ!」
先ほどまでは拳を交えたファイティングなスタイルで取っ組みかかっていたフランだったが、そう言ってレベルアップの時も使っていたスナイプの標準武器『ガシャコンマグナム』を取り出し容赦なく美鈴に向かって銃弾を浴びせ始めた。
これには美鈴も不快感が顔からにじみ出す。
「へぇ~、なら俺も!」
さらにまたまた友希はフランに便乗し、両手のタイヤを美鈴に向かって構える。するとなんとその軸から突起したパーツから細長いレーザーののような弾幕が連続で放たれたのだ。
しかし美鈴も妖怪であるうえに鍛えているため一筋縄ではいかない。弾幕を目と気で見てしっかりと的確にかわし細かな攻撃で立ち向かってくる。
変身をした二人だが、フランはおそらく自分のものに比べて弾幕の威力が弱いことや能力が防がれていることからむしろ戦いにくいのではないだろうか。また友希はレベル1の機動性の無さが仇となり美鈴の攻撃をよけきれていないでいた。
そして美鈴はそのことをすでに見切っていた。
「うわぁっ!」
「・・・っ! ライダーと素手で渡り合うなんて⁉」
フランは本調子ではない様からスキを突かれ、腹部に重い一撃をお見舞いされてしまう。
そして友希はフランに気を取られている美鈴を見てすかさず飛び掛かるが、美鈴は見事に友希の方を見向きもせずに今度は蹴りを放ったのだ。
「うう・・・!」
押されてきている。
弾幕では美鈴が不利かもしれないが、さすがに近接戦に持ち込まれたとなると今度は友希とフランが圧倒的不利な立場に追い込まれてしまった。
何しろ仮面ライダーへと変身して強化された身体能力に対して悠々と対処してしまう、友希からしてみたら驚愕の力を発揮する美鈴には全く想定外だったのだから。
「ダメかと思いましたが、もしかしていい感じですかね?」
「んもうっ! 変身したから強いのにぃー!」
いつもと違う戦闘スタイルに不便さを爆発させるフランだったが、それでも変身を解除せずに仮面ライダーのままでいてくれるのは友希には実はうれしいことであった。
友希にとって仮面ライダーとは憧れの存在であり、胸を熱くさせてくれる素晴らしい存在。それが無碍に扱われたとなると、いくら中身がすでに強いとはいえさすがに憤りを感じざるを得ないであろう。
そしてそんな不利に陥っている友希たちを見て焦ったのか、にとりはすかさず声を上げる。
「友希! レベルアップも試してみて!」
「ああ!」
掛け声とともに友希はその大きな腕でベルトのレバーを勢いに任せ展開する。
『ガッチャーン! レベルアップ!』
両手に持っていた巨大なタイヤパーツを思い切り上空にぶん投げると、自身もそれを追うように空中にジャンプ! その瞬間周りの風景も変化し、重力反転からの先ほど投げたタイヤを再び両手に持ってそれで幻のレースサーキット場を爆走してゆく!
『爆走! 独走! 激走! 暴走! 爆走バイク!』
ロードから外れ崖の上から勢いそのままで飛び出した友希及びレーザーレベル1は例によって空中で体がパージしレベル2が飛び出してきたのだが、その姿は今までのエグゼイド系ライダーの中では見たことのない二輪車を彷彿とさせる見た目をしていたのだ。
今の時代は乗るだけがライダーじゃない! フィールドを縦横無尽に駆け巡る乗られるライダー! その名も仮面ライダーレーザー バイクゲーマーレベル2!
「え⁉ なにこれ⁉ どういうこと⁉」
地面に落ちてきた友希の奇怪な姿を見てさすがのフランも興味を通り越して困惑の色を浮かべていた。
「乗れ! 俺にまたがれ!」
「こう?」
外の世界ではおなじみのバイクだがさすがに幻想郷では浸透していないようで乗るものだという認識すらも無いようであった。しかし悠長に操作方法を教えている暇などなく、目の前から美鈴が迫ってきていた。
「左右の出っ張り部分を持って直感的に方向を変えろ! 他の操作はできるだけ俺がサポートするから!」
そう言ってフランの意見も聞かずに友希自身が思いっきりアクセルをふかし美鈴と真正面から向かっていく。
唐突なことながら持ち前の動体視力と運動神経でしっかりと見て回避した美鈴。
友希も体がバイクになるなんてもちろん初めての感覚で慣れようとするのに必死であったが、意外なことにフランは早くもこの状況をすでに楽しんでいるようでキャッキャと笑いこけていた。
「楽しいのが終わっちゃうのは悲しいけどもういいや! 一気にきめちゃおー!」
「あんまり調子に乗ってると足元すくわれるぞ」
「だいじょうぶだって! たあぁっ!」
周囲を猛スピードで駆け回る文字どうりのライダーに翻弄される美鈴に対し体制を整え、爆音を響かせながらアクセルをふかして見せるフラン。そして次の瞬間美鈴に向かって猪突猛進していく!
「・・・! 受けて立ちます!」
美鈴が冷静に構えなおすまで3秒もかかっていなかった。
ものすごい勢いで向かってゆくフランと友希だったが、そこからフランは友希もびっくりの怒涛かつ奇抜な発想で攻撃を仕掛けたのだった。
「・・・むっ!」
美鈴が大勢を立て直したときすでにフランは高速のバイクを推進力に踏み台にして美鈴ん向かって思い切りジャンプ、そしてタックルをかました。
その勢いは単なるライダーの身体能力を超えており、これにはさすがの美鈴も対応できずもろに食らってしまった。
さらにここで美鈴に異常が発生する。
「体が・・痺れ・・・!」
秘密はフランがタックルの瞬間に自身の蛍光イエローのマントを覆いながら突っ込んできたことにある。実はこのマント、触れた者を痺れさせスタンさせるという特有の効果がある優れもので、変身した時点でその装備のことはすでにフランの頭に情報として理解されていたのだ。
「はあぁっ!」
乗り手を失った友希が動けない美鈴に向かってそのまま突っ込んでゆく。
そしてやはり避けることができずに吹き飛ばされてしまう美鈴。
このままではだめだと確信し美鈴はすぐさまぎこちなく立ち上がろうとするが、その時前方で構えているスナイプとレベル1に戻ったレーザーの姿を目の当たりにした!
「ガシャコンマグナムにベルトのガシャットを挿すんだ!」
「挿すって・・ここ?」
『ガシャット! キメワザ!』
その音が鳴った瞬間、マグナムの銃口に深い紺色のエネルギーがどんどんと集まってゆく。
「よし、俺も!」
『ガッシューン!』
友希はその大きな手でベルトのガシャットを抜き取り、右腰のスロットに装填。
『キメワザ!』
宣言が入り黄色いエネルギーが両手のタイヤパーツの銃口に集められると同時に、フランの後ろに立ちながらその両サイドから銃口をのぞかせるように構えた友希。
「決める!」
「行っけえええええ!」
「まだ、体が・・・‼」
『バンバン クリティカルフィニッシュ!』
『爆走 クリティカルストライク!』
銃弾によって空間が破壊され、バイクのタイヤ痕が空中を駆け、二つの必殺技の名がそれぞれ連なって現れる。
美鈴に向けられる三つの銃口からそれぞれ強力な弾幕が勢いよく放たれ、未だ痺れを抱える美鈴はなすすべなく迫りくる弾幕を一身に受けることとなったのだ。
直撃の瞬間、巨大な爆発と共にその上空に英語でGAME CLEARと文字が浮かび上がる。
「やったあ!」
「ん、いい連携だったな!」
「れんけい?はよくわからないけど、すごくかっこよかった!」
友希にとっては何度変身しても色あせることはないであろう刺激的な体験なのだが、さすがと言うべきかフランはまるでおもちゃで遊んでいたかのようにすぐに使いこなしケロッとしている様子だった。
そして見事に爆散した美鈴はと言うと、普段のフランとの弾幕勝負後と同じように衣服はボロボロになり、黒いすすを全身にまといながらトボトボと元気をそがれた様子で友希たちの方に歩いて向かってくる。
「やっぱり駄目でした~。なんだかとばっちりだなぁ、もう」
そう言っていつもの美鈴らしくないため息交じりの呼吸を吐いた。
「だいたい私の気の操作でも解けない呪縛があるなんて、聞いてませんよ・・・」
「それはあれがゲームの効果のようなものだからですよ。ゲームではプレイヤーがシステムをいじれないように、あのスタン効果も絶対にある一定時間は効き続けますから」
「いやぁ、いい感じだったよ! まさかスタンヘキサマントの効果も試してくれるなんて!」
スタンヘキサマントとはスナイプ常備のあの痺れさせる黄色いマントのことである。
にとりは目で見て武装の効果を観察するだけでなく、この地下空間の壁部に設置されたスコープのようなもので変身者の体温変化や放たれるエネルギー値などをデータで算出し、それを今後の発明などに役立てるべく友希をここに呼んだのだ。
「で、今回ロールアウトしたのはこの二つだけ?」
「うん。後はこっちで微調整なりなんなりしておくから、今日はありがとうね」
そう言って目を輝かせながら今日とったデータの情報紙をもって自身の研究室に消えてゆくにとり。
「私たちももう帰りましょうか。なんだかんだでもうすぐお昼時です」
「その必要はないわよ」
「・・・⁉」
急に背後から声が聞こえたのでふり返ると、そこにはバスケット片手にたたずむ咲夜の姿が。
「咲夜さん⁉ 何でここに⁉」
「お嬢様が、この際なのでにとりの工房近くの河原で食事でもどうかと提案なされたのですよ。なので紅魔館は妖精メイドに任せてこちらに赴いたというわけです」
「わあい! ピクニックみたい!」
「妹様はまず追加の日焼け止めをお塗り致しますね」
「いいですねえ、咲夜さんの料理が自然の中で食べられるなんて」
「美鈴、あなたは抜きよ。昨日の居眠りの件、時効になるには早すぎるのではなくて?」
「そんなぁ・・・!」
仮面ライダーは今はまだ憧れを強く孕んだ夢の力のように映っているかもしれない。
しかしこの幻想郷での物語はまだまだ始まったばかり。まだ知らないことやわからないことばかりでこの先何が起こるかわからない。
待ち受けるは天にも昇る幸福か、それとも身を焼くほどの絶望か。この世界ではどちらも容易にあり得ることなのだ。
そしてそのことにまだ、友希は気づいてはいなかった。
第十三話 完
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました、作者のシアンです。
今回の13話で重要なことをまとめると、
・仮面ライダーの力(ベルトや武器やアイテム)を幻想郷で再現するには、スペックに応じ
た時間がかかる。
・設定などを現実で再現するため、或いは幻想郷を脅かす存在にならないようにするために
アイテム毎に調整が必要。
・一度失ったベルトや武器やアイテムをもう一度再現することは容易ではない。
・変身するライダーとの波長が合えば、誰でも変身が可能。(友希は無条件ですべてのライ
ダーに変身可能)
と言ったところでしょうか。
調整の具体的な内容や誰がどのライダーに変身できるかなどは、追い追い物語の中で語られていくことになるでしょう。
今回の話を書いているときに、作中で原作の仮面ライダーの変身者について触れた場面があったと思うのですが、それについても今後は控えた方がいいのかなぁと考えています。というのもこれを書いてしまうことで仮面ライダーを知らない方がとっつきにくくなってしまうと考えたのです。せっかく東方も仮面ライダーもよく知らない方でも楽しめるような作品にしたいと言っているのに、あまりマニアックな話題を持ち出されても「知らんがな!」とか「よくわかんない」となってしまってはあまり気分が良くないですもんね。
そしてなにより書こうと思えばどこまでも細かい設定を書けてしまう。さすがにそれではキリがありませんし、情報過多になってしまいかねません。
小説を書く技術は全くと言って皆無な私ですが、こうやって回を重ねるごとに改善点を見つけてより見やすい物語を皆さんんお見せしたいと考えています。何卒温かい目で見てやってください!
最後に予告!次回、ついに別作品のライダーが登場します!そして意外なキャラクターが友希と初対面を果たす⁉