その日は友希にとって初めての休暇日であった。
すでに普段着と化している幻想入りした時そのままのカッターシャツと丈の長い黒ズボンの制服を身にまとい、朝から紅魔館の門を出て人里の様々な店を見て回っていたのである。
午後には用を終わらせたにとりと合流してしばらくできていなかった幻想郷巡り兼友達増やしを実行する予定もあった。
幻想入りしてからにとりと出会って紅魔館に就職して、あれから早一カ月ほどが経とうとしていた。季節は夏真っ盛りを通り越し、昨日は少し曇っていただけで肌寒さすら感じたほどで、しみじみと時の流れを感じていた。
にとりはあれからもずっと自分の商売の傍ら仮面ライダーについての知見も自分なりに深めているようで、しばらく工房にこもって詰めていたらしくその尋常じゃないほどのあくなき探求心に友希は心から感心していたのだった。
「・・・ん! ごちそうさまでした! おいしかったです」
「あいよ! お粗末さんでした!」
時刻は丁度昼前。お腹が減った友希は少し早めの昼食をとるために近くの蕎麦屋に足を運び、そして今完食し腹づつみを打ったとことろであった。
「やっぱ、自分で稼いだお金で食べるご飯は一味違うなぁ」
人生で初めて給料をもらったのは今から三日前。初月給として少し早めにもらえたもので、レミリア曰く「そこまで高くないけど文句はないわよね?」だそうだが、友希にとって高いのか安いのか感覚がそもそもわからなかったし、こういうものは金額の問題ではないとも思っている。あったのはそれを上回る感慨と喜びだった。
ちなみに幻想郷で出回っているお金は外の世界と共通のものに調整されているようだ。
「さて、結構見て回ったし、次はどうするかな・・・」
今現在の場所は、以前仮面ライダーブレイブに変身し咲夜と共に共闘したあの里の端の一帯。大将の営む団子屋の近くであった。
昼食前に回っていたところは常時賑わいを見せていた中心街で、明らかに現在の居場所より華やかかつ品ぞろえも多かった。
「人混みの中で疲れたし、あっちののんびりしてる方に行こうかなぁ」
あの日友希たちの戦いを目撃していたここいらの人たちが時折声をかけてくれるときがある。
ありがとうとかかっこよかったとか年配の方から子供まで言い寄ってきてくれるのがうれしくて、思い出しただけで友希の顔からほほえみが零れ落ちる。
自分の活躍を思い浮かべてニヤつくなんて自分でも気持ち悪いとは思っていたが、それでもやめられなかった。それが自分の理想とする、外の世界ではなれなかった人間像だから。
にとりや咲夜からのアドバイスとして、ここら辺の人たちには友希自身が変身できることをあまり言いふらさないようにお願いしてある。
なぜなら仮面ライダーの力は一人間が使うの強すぎるであろう力であり、あまりにも有名になってしまえば他の血気盛んな人ならざる者たちの標的になったり、あるいはこの幻想郷のパワーバランスが極端に崩れてしまうことを懸念して幻想郷における賢者クラスの人物が友希に対して何らかの措置をとることも考えられるからだそう。
仮面ライダーとは人知を超えた、この幻想郷には存在しなかった異業の存在であり、拒絶反応を起こしかねないということらしい。
以前再び霊夢に会った際言われたことがある。
「あなたのこと私なりに調べさせてもらったけど、あなたを外の世界に返すことはできないわ」
まず外の世界に帰れる方法があることに驚きだが、そうだとしても友希はもう外の世界で再び生きることはかなわないというのだ。
その理由も聞いてみれば当然の理由だった。
「あなたはすでに一度向こうの世界で死んでいるんでしょう? そこから予期せぬ形で再び体を取り戻し、二度目の生を受けた。つまり外の世界で生き返ったわけではない、そこが理由の肝よ」
つまりこういうことだ。友希は冥界でいわば不正的に命を取り戻し、幻想郷と言うもともと友希が存在していた世界とは別の世界に二つ目の存在を得てしまった。ゆえに未だに外の世界では友希のもとの身体つまり死体は存在し、なおかつ幻想郷にも体があるというおかしなことが起こっているのだ。
「外の世界から直接幻想入りしてきた人間は何度か送り返したことがあるけれど、あなたは外の世界ではすでに死んでいる身。外の世界に帰ったところであなたの居場所はもうどこにもないわ」
そんなことは薄々理解していた。
もともと帰れるとも知らなかったし、死んでしまった時点で外の世界との決別は余儀なくされ、何度も外の世界のことを思って辛い気分にもなっている。
しかし改めて面と向かってその事実を突きつけられると何ともキツいものがあった。
そして問題は次の霊夢の発言である。
「まぁ、幻想郷は来るもの拒まずであらゆるものを受け入れてくれる場所・・・って紫がいつも言ってるし、実際妖怪とかいろいろ危険はあるけれど細々と生きていく分には大丈夫だろうから安心して。それに人間相手なら私も何か手伝えることもあるだろうし、頻繁でなければ頼ってくれてもいいわよ?」
あらゆるものを受け入れる・・・、細々と生きていれば・・・。
正直霊夢の実力がいまいちよくわかっていないのだが、幻想郷において様々な危険から世界を守護すす存在である霊夢が今まで受け入れがたい脅威を抑え込み、そして幻想郷の受け入れることができる存在にまで抑制しているとすれば、もしこの世界を救うほどの強大かつ特異な仮面ライダーの力が霊夢を凌駕する場合、それを持つ友希は幻想郷には受け入れられないということになるのではないか。
危険視を免れないのではないか。そう考えただけで友希の額からは冷や汗がにじみだしてきた。
「・・・のどかだなぁ」
何か心配事があると他のことにうまく手が付かなくなってしまう。
今回も嫌な妄想のせいで心ここにあらずな状態に段々と落ち入り始めた友希であった。
仮面ライダーは友希だけが変身できるわけではないし、まだ幻想郷のことはほとんど知らないことばかりで杞憂に終わる可能性の方がはるかに多いことを思い浮かべ、自分の心をなだめながら日が降り注ぐ田んぼ道を歩いてゆく。
幻想郷は外の世界に比べて江戸時代の様相からほとんど発展しておらず、また人間以上の存在や捕食者がそこいらに存在するため楽しみも多くはなく日常における危険の多さも増えてくる。
しかし外の世界で縛られ続けていた勉強に関してはそこまで重んじられているわけではなく、何事も自身の持つ力で解決したり弾幕勝負で決めたりできる点においては少し肩の荷が下りたような気がしていた。(もちろんそれは人間以上の存在に限っている節があるが)
それからしばらくの間、特に何も思うこともなくぼーっと黒目を泳がせていると。
「・・・ん? どうしたんだ、あの人」
目の前の田んぼ道を進んだ先にとある一人の女性が具合の悪そうによろめきながら歩いているではないか。そのお腹は大きく膨らんでおり、女性は妊婦であることが想像できた。
それを見て手を貸した方がよいかと考えていると、すぐその後ろの茂みの中から複数の小柄な子供のような影が妊婦の女性めがけて突進していく。
友希は明らかに食事をとった後の眠気交じりの注意不足に陥っていた。
その子供たちが何をするのか、何の疑いもなくしばらく見つめていると、その女性を囲んでちょっかいを出し始めたのだ!
「・・・・・んん?」
その小柄な妖怪たちが妊婦の女性を囲んで集団リンチし始めたのだぁ!
「・・・ダメじゃん‼」
気づくのが遅い。
その遅れを取り戻すかのように友希は全身に力を込めて自らの体内の不純物を可能な限り凝縮、そして一気に蒸気として体内から放出させ疾風のごとき素早さで女性のもとにかけてゆく。
「お前ら何やってんだ⁉」
「・・・っ⁉」
早々に友希の存在に気が付いたようで全員が即座に少し間合いを取り、一斉に友希に対して警戒の構えを取り始める。
ざっと数えた感じだと全員で十匹くらいだろうか。どいつもこいつも必死の形相で女性を狙っていた。
そして友希はその様子を見てすぐさま気が付いた。
この妖怪たちは以前から問題になっていた妖怪の凶暴化の特徴である充血と瞳孔の開いた瞳をしていた。つまりこの妖怪たちもその例外ではなく、謎の影響を受けているということだろう。
今にも襲い掛かってこんとする妖怪どもに注意しながら倒れこむ女性にも気を配ろうとする友希。
「あの・・大丈夫ですか⁉」
「うう・・・、お腹が・・生まれ・・・」
「ええっ!」
まさかとは思ったが、そのまさかだった。
この人はすでに陣痛が始まっており、そしてどういうわけか自力で歩いてどこかの病院に駆け込もうとしていたのだ。そして何とも不運なことにその状況をたちの悪い集団の妖怪に襲われてしまい、痛みに耐えながらまさに命がけで妖怪から逃亡を図っていたというわけらしい。
そしてこんな時に限って友希には変身のためのベルトの持ち合わせがなかったのだ。(いちいちアイテムの詰まった袋を背負って行動するというのも、それはそれで考え物だが)
「うう~、どうすればいい? やるしかないか?」
仮面ライダーに変身できなければなんと非力なことか。
だがそんなことを言っているほど余裕はない。今目の前にいる異形は本気で人間を殺めようとしているのだから。
なんとしてもこの場を、この女性と共に切り抜けなければならないのだ!
しかし丸腰の友希にそんなことができるのか。いや、ここは幻想郷。外の世界とは違う、やるしかない。
「はぁっ!」
再び全身に力を込めて体の中の不純物を放出する友希。
それを合図に妖怪たちも一斉に飛び掛かる。
十体が一気に襲ってきたが今の友希は身体能力が飛躍的に向上しており、それは視覚も例外ではなかった。
比較的ゆっくりと飛んでくる妖怪一人ひとりをしっかりと目で見てかわし、蹴りこみ、そして女性への攻撃もしっかりと防ぐ。
「きゃあああ!」
女性の叫び声が響く。友希も紅魔館で常に妖精や危険な吸血鬼と隣り合わせで今でこそ慣れてきていたが、普通の人間なら化け物の襲撃を受ければ叫び声くらいあげるものだろう。
「こいつらぁ・・・。ちょこまかすんなよ!」
妖怪どもも負けてはいない。その小さな体を生かして友希を翻弄させてくる。
友希にも次第になかなか攻撃がうまくいかないいら立ちが高まってきていた。
「これで、どうだっ!」
相手の翻弄をかいくぐり強烈なキックをお見舞いしてやろうと足を振りぬくが、咄嗟に背中を向き友希のキックをもろに受けたかと思うと・・・。
「・・・痛っったたたぁぁ~~っ!」
この妖怪の背中はとてつもない強度を誇っている。
おそらくこれがこいつらの最大の防御手段であり隠し玉だったに違いない。痛がる友希に向かって、スキができたと言わんばかりに一斉に飛び掛かる!
「ああっ、くそ! 腕飲むなぁ!」
そこからはもう混戦も混戦で何が何やらわからない。
友希も何とか女性に近寄らせまいと注意をそらせることで精いっぱいになっていた。
痛みと使命感と疲労で行動が鈍くなり、意志も段々と揺らぎつつある。
そんな中、ある一匹の妖怪の痛烈なキックが友希の腹部にもろに直撃し、女性のそばで倒れ悶絶してしまった。
咄嗟に反応してしまい力んだせいで胴体が実体化してしまい痛みを感じてしまっているのだ。
小さいその図体からは想像もできないほどの重すぎる一発。あまりの痛みに声も出ないので逆に妊婦の女性に心配されてしまう始末。
「ああ、仏様っ!」
「かはっ・・!」
当然現実はフィクションのようにうまくはいかない。
なすすべなく倒れこむ人間二人に対して容赦なく妖怪どもは牙をむき出しにする。
(何とかこの人だけでも逃がさないと!)
その考えも虚しく一気に複数の拳が振り下ろされた、その時!
「伏せろ!」
「えっ⁉」
正直何が起こったのかわからず、二人ともしっかりと伏せてはいなかっただろう。
目の前を雷のように鋭く眩い光弾が妖怪たちを焼き払いながら駆けて、そして消え去ったのだ。
あまりに一瞬の出来事で地に付した複数の妖怪に呆然と目をやるのがやっとだった。
「ぼーっとするな! まだ残ってる!」
声のする方に目をやると、先から迫ってくるのは・・・足がなく、フワフワと浮遊した人影!
「幽霊⁉」
シンプルな濃緑色のワンピースに複数枚のお札が貼られ、緑髪で頭には平安貴族のような縦長の黒帽子をかぶった、外の世界出身の友希の感覚からして何ともずれにずれまくった風貌の女性が猛スピードで近寄ってくる。
そしてその足は、友希にも身に覚えのあるあのソフトクリームのような白いフニャフニャでできた、まさに幽霊を彷彿とさせる下半身をしていたのだ。
「大丈夫か⁉ いったい何があった⁉」
散らばって倒れている妖怪の群れを横目にこちらに寄り話しかけてきたその女性はとにかく敵ではないようだった。
「あ、あの・・この人妊婦で、もう生まれそうなんです! 早く病院に連れて行かないと・・」
「なるほど、そんな大変な時に餓鬼の群れに目をつけられたのか」
「餓鬼?」
「知らないのか? 餓鬼は基本群れを成して生き物全般を襲う小型の妖怪だ。名前にもあるようにこいつらはいつも腹を空かせているから、食えるものを見つけたら見境なく捕食しようとする厄介な妖怪だ。さしずめ腹ん中の赤ん坊のにおいに惹かれてきたんだろう」
状況を瞬時に把握し、慣れた様子で淡々と解説をする幽霊らしき女性。
「こいつら強くて、しかも群れなんでどうすることもできませんでした」
「そりゃそうだ。人間が妖怪に立ち向かおうなんてするもんじゃない。餓鬼には経験がある、任せなよ」
そう言って幽霊の女性はおもむろに立ち上がり(浮き上がり?)、広がって警戒している餓鬼どもを直視もせずただその場で静かに目をつむり出す。
「はあああああ・・・」
その場で高まってゆく緊張感に誰も動くことができなかった。
徐々にピリピリと全身の毛が逆立ってゆくような感覚が襲い始め、次の瞬間から直立したままの女性周辺に火花と共に黄色い稲妻が走りどんどんと激しくなってゆく。
それも幽霊の女性と友希、さらに妊婦の女性だけを避けるように走ってゆくのだ。まるで生きているかのように。
(何なんだこの人・・・⁉)
そんな疑問もつかの間、急につむっていた目を見開いたかと思うと掛け声とともに一斉に周りの雷電を敵に向かって一斉に放ったのだ。
一気に周りを囲っていた餓鬼たちに大きな発破音をあげながら稲妻が駆けてゆく。
その威力は凄まじいもので、次々と餓鬼が感電し目を回していく。
しかしながら地に付したのはそのうちの数匹だけで、残党はその衝撃にひどく取り乱し血気盛んに大声をあげながら目の前の幽霊に飛び掛かる。
「やっぱりこれじゃ威力にムラがあるな。一匹ずつが確実か・・・」
何やらぶつぶつとつぶやきながら飛び掛かってきた餓鬼一匹を華麗にかわし、それぞれに対して戦闘に持ち込んでゆく幽霊女。
友希はその後姿を見てとあることを考えていた。
先ほどの雷電攻撃を受けた餓鬼の様子から察するに餓鬼はすでに自らの戦い方を見出しており、その強固な背中の皮膚を攻撃させたうえでスキを作り相手を崩して制しているのだ。
そしてその戦法に有効な手として、体の内部を駆け巡る電気の攻撃が挙げられるのだろう。だからこそこの幽霊の女性はそれを理解したうえで経験があると立ち向かうことができたのだ。
さらに電気が有効だと分かったところで、友希は重要なことを忘れていたことに気づいた。
つい先日にとりより渡されたとあるブレスレット型のデバイス。おもむろに胸ポケットから取り出したそのシンプルな銀の腕輪は、大きな変身のためのアイテムをいちいち持ち歩かなくても済むようにするもので、腕に装着して頭の中で取り寄せたいアイテムを思い浮かべ述べるだけでなんと手元に転送することができるというこれまた常識はずれな発明品である。
しかしながらまだ試験中のため取り寄せられるものは非常に少なく、たまにだが不具合が確認できるということなので友希は試験を頼まれていたのだった。
そしてこの腕輪で取り寄せられるアイテムの内の一つにこの状況にぴったりのアイテムが存在していたのだ。
「よし!」
立ち上がった友希は左手首に腕輪を装着、頭の中で思い浮かべながら両手を腰のあたりに勢いよく添える。
『ゴーストドライバー!』
名乗り音と共に何もない腰に浮かび上がってきたのは、真ん中にのぞき込める穴の存在する今までのエグゼイド系とは全く様相の異なるベルトだった。
「・・・おい! 何するつもりだ⁉」
何やら動きを見せた友希に気を取られる幽女。
友希はまた謎の黄色い球状のアイテムを取り寄せて目の前で構える。そして側面のボタンを押し込んだかと思うと中に見えるアイコンが変化した。
ドライバー天面のボタンに手をやり、ガパっと開いた部分にその黄色いアイテムを入れ閉める。
『アーイ!』
変身の始まりを告げ、自らを誇示するかのような掛け声がベルトから放たれる。
『バッチリミナー! バッチリミナー!』
またゲーマドライバーとは違ったけたたましい音声が鳴り響いたと思えば、なんとベルトの穴の開いた部分からシルバーを基調としたイエローのストライプが入った謎の幽霊と思しき物体が出現したのだ!
そしてその幽霊は戦う少女を助けるがのごとく餓鬼に突進してゆき、同時に友希たちの周りを守るように旋回する。
「は⁉ 何だ⁉」
「ああぁ、お助けを・・・」
友希は眼前で印を結ぶような動作を繰り出し気合を入れて叫ぶ!
「変身!」
『カイガン! エジソン!』
高らかに宣言してベルト右のレバーを引いて押し込むとベルト穴の眼球を模した部分の模様が瞬きで変化し、そして友希の身体がオレンジ色の粒子に包まれ黒ベースかつ橙色の模様が刻まれた姿に変わってゆく。
さらにそこに先ほど出てきた謎の幽霊をまるで、パーカーを羽織るように自らの身体にまとったのだ!
『エレキ! ヒラメキ! 発明王!』
飛翔するゴーストをまとった瞬間、先ほどまで無地だった顔面に黄色い電球を模した仮面が装着される。
全身の素体は黒く橙色で表された骨格のような模様が刻まれている。上半身には銀の上着を羽織っており、ところどころの黄色がアクセントになっている。
頭にはパーカーに付属するフードをかぶっており、そこから二本のアンテナのようなものが飛び出していた。
世界を変えた発明王をその身に宿し、頭脳と雷電で勝利を見出す幽霊戦士。その名も仮面ライダーゴースト エジソン魂!
「何だそれ・・。あんた、いったい・・・?」
「ちょっと電気借りますね」
戸惑いをよそ目に友希は幽霊少女の周りに帯電している電気を頭のアンテナから吸収しようと図る。
頭の二本のアンテナに電気が線を描いて伝っていく。その際友希はずっと静止したままで、うつむきながら神経を研ぎ澄ませていた。
「お・・おい、何するか知らないけど、餓鬼は待ってくれそうも・・・」
じりじりとこちらに詰め寄ってくる餓鬼どもに警戒を強めたとき。
「閃いた!」
そう言ってマスクの電球模様がまさにピカッと発光し、あたりを明るく照らし出した。
その光に驚いたのか餓鬼の群れは後ずさり。
『ガンガンセイバー!』
ほぼ同時にベルトの目の穴の部分に紋章が浮かび上がり、そこから新たな武器が形を組み替えながら出現する。その影はさながら銃のよう。
「一気に殲滅します! その人抱えて浮いていてください!」
「分かった・・・!」
状況が状況なだけに友希の提案に疑問を持つ間もなく、かなり佳境に差し掛かっている様子の妊婦を抱え友希の頭上で停滞する幽霊少女。
『ダイカイガン! エジソン オメガドライブ!』
再びベルト横に突き出たレバーを操作すると、音声と共に空中に描かれた眼球の目の紋章が変化し一気に体中の電気が銃に集中してゆく。
勝負が決しようとしていることを餓鬼どもも察したようで、個々に雄たけびを上げながら鋭い爪を友希に向かって立て迫る。
それと同時に友希はその銃口を敵にではなく、密かに足で掘っていた簡単な穴に押し込んでそのままトリガーに指をかけた!
「くらえぇぇぇ!」
まさに瞬間だった。
その様相はまさに駆け上がる稲妻。地面を範囲的に広がった電気は、各餓鬼のもとまで到達すると一気に足から頭にかけて走ってゆき、強烈な感電を引き起こしたのだ。
通常感電とは電気の逃げ場がなくなった時体の中に電気が溜まってしまい起こる現象だが、この場合は全く関係がない。たとえ空に向かって放電されていても友希が操るこの稲妻は、電気が溜まる溜まらないに関わらず友希が意図して感電するようにしたものだから。
周囲にいたすべての餓鬼が黒焦げになり口から黒煙を垂れ流しながら次々と地に付してゆく。
「なるほど、地面から電気を伝えれば確実にかつ一気に命中する。考えたな」
降りてきた幽霊の女性は納得と言った表情で再び地面に降り立ったのだが、肝心の妊婦の方は今にも破裂しそうなくらいに顔を真っ赤にして苦しんでいる。
「あんたのことは今は置いておくとして、早く永遠亭に連れて行かないとまずい」
「えっと、そこが病院なんですか?」
「ああ。しかし問題はそこまで時間がないってことだ。」
思いのほか会話がスラスラと進むので、良識のある人でよかったと半ば心の中で一安心する友希。
「飛んでいけばいいんじゃないですか?」
「さすがに妊婦を一人じゃ時間がかかりすぎる。だめだ。」
「俺も飛べますよ」
すでに最初に出会ったころからかなりの時間が経過しているのもあって、きっとこの妊婦さんも声に出せないではいるがきっと早くしてほしいといきどうりを感じているに違いない。そう感じただけで友希はいてもたってもいられなくなった。
自分の今持てる限りの力で助ける!
友希は別の黒いアイテムを取り出し、そそくさとベルトの操作を済ませる。
『アーイ! カイガン! オレ! レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』
出現したのは先ほどのエジソンとは違う、黒い様相にオレンジの線が入った幽霊。
今まで着ていたシルバー・イエローのパーカーが光となって消え、あらわになった素体の上からその黒い幽霊がパーカーとして羽織られる。
これが自らの命を燃やし、人間の可能性を信じて戦う一本角の幽霊戦士! 仮面ライダーゴースト オレ魂! ゴーストの基本形態である。
「これなら飛べます! 二人でなら全速力で何とかなるんじゃないですか⁉」
「・・・ああ、行くか!」
そう言って二人で妊婦を持ち上げ空中10メートルあたりをスーッと移動してゆく。
その間妊婦の女性は怖がるようなしぐさを見せたが、今や一刻を争う状況なので気には留めなかった。
友希にとってのせっかくの休暇がこんなドタバタな状況に変貌を遂げ、にとりとの約束があることもあり少し困惑の色があったのだが、これが幻想郷における重要人物との出会いになるとはこの時の友希には思いもよらなかった。
第十四話 完
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。作者の『彗星のシアン』です。
さて今回のお話で初めて『仮面ライダーエグゼイド』以外の他作品からライダーが登場しました。その名も仮面ライダーゴースト! 『仮面ライダーゴースト』という作品における主人公、一号ライダーです。その力は名前の通り幽霊の力、正確には実際に存在した英雄(偉人)のゴーストを身にまとい憑依させることでその英雄の能力を使用するというものです。特に今回ではエジソンのゴーストをまとって電気を操っていましたね。他にも様々な英雄の力が存在しますし今後も登場させていくつもりですが、興味を持った方は色々と作品についても調べてみてくださいね!
さらに今回友希と初めて対面を果たしたのは蘇我屠自古という幽霊の少女でした。彼女はいったい何者なのか。今後どういう形で友希と関わっていくのか。詳しいことはまだ何も語られていませんが東方を深くご存じの方は考察を、よくわからない方は今後の展開を楽しみにしていただけると幸いです。
今回の後書きは短いですがこれにて失礼しようと思います。ありがとうございました!
次回は今回の続き、友希が初めて訪れる場所『永遠亭』での物語が展開されます!