東方友戦録   作:彗星のシアン

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今にも出産しそうな妊婦を抱え、全速力で空中を突き進む友希と名も知らぬ幽霊少女。しかし目的の病院は人を飲み込み惑わせる魔の竹林の中に存在するらしく、案内人なしではたどり着くことは不可能だというのだ。ただでさえ急を要する状況だというのに…。どうしてもいら立ちが募る友希だったが、さらに追い打ちをかけるように幻想郷一の罠師が目の前に立ちふさがる!


第15話 その赤眼は何を見る

 見知らぬ足のない幽霊の女性とゴーストに変身した友希は、妊婦さんのことを考え人目につかない田畑のルートを低空飛行でかつ最速で突き進んでいた。

 そのうちに目の前の奥の方に見えてきたのは、うっそうと緑が生い茂る地帯。随分と木々の背丈が高いことやうっすらと縦線のようなものが見えていることからおそらくは竹林ではないだろうか。

「見えてきたな」

「あの竹林の中ですか? じゃあ上から直接行きましょう!」

「もしかしてあんた、外の世界から来たのか?」

 唐突に話が切り替わったことに少し驚いたが、それよりも彼女の鋭い予想に友希の注意が注がれた。

「なんで分かったんですか⁉」

「そりゃあ服装も見ないものだし、餓鬼のことや永遠亭のことを知らないんだろ? 里の者がそこら辺のことを知らないはずがないからな」

 別に友希にとっては外の世界の出身であることを隠そうとも思っていなかったのだが、やはりどこか世界に染まり切れていない部分を心の中で後ろめたく思っていたのだろうか。指摘されたとたん少し顔が熱くなってしまう友希であった。

「ていうか、早く行かないと!」

 半ば強引に話を逸らすかの如く友希は大きく声を張る。

 しかしそれを幽霊少女は制止した。

「いや、だめなんだ。上からじゃ絶対に入れない」

「なんでですか?」

「永遠亭の周りには特殊な結界が張られているのんだ。地上からじゃないと入ることはおろか視認することさえできない」

「なんでそんなことするんですか? 人間相手じゃそんなことする意味ないのに」

「幻想郷じゃ脅威を与える存在なんてごまんといるし唐突に出現することもざらじゃない。その結界すらもあまり意味はないのかもしれないな。まあ、とりあえずはその場しのぎの防衛みたいな感じだろう」

 話しが終わるとゆっくりと地上に降り立つ一同。

「じゃあ揺らさないようにゆっくり行きましょう!」

「まだ無理だ! 軽率に入ると帰ってこれなくなるぞ!」

「えっ・・!」

 聞き捨てならないことを言われたようで竹林に向きかけたその足をゆっくりと元の位置に戻してゆく友希。

 ただ妊婦の呻きが聞くに堪えないレベルに達してきたこともあり、どうにもはやる気持ちを抑えられない。

「ここはただの竹林じゃない。どういうわけかこの竹林に足を踏み入れた者は短くて数時間、長くて数週間この中を彷徨うことになる。無論だが人間が多いな。理由はわからない、竹林自体が意志を持っているなんてことも言われているが実態はよくわかっていないんだ。永遠亭の結界も関係しているのかもな」

 この幻想郷という世界では唐突にこのような恐ろしい側面が顔を見せることがある。

 どれだけ順調にいってようが優しい者たちとの交流を深めようが、弱い存在が容易く飲み込まれてしまうような世界なのだ。実際、最近見られるようになった妖怪の凶暴化現象以前からほぼ毎月のように人間や力の弱い妖怪が姿を消し、また死体となって森の中などで見つかっていたそう。

「じゃあどうすれば!」

 ここでも人間の弱さ、あるいは経験の少なさが顔をのぞかせる。

 友希は無意識のうちにその一刻を争う状況に対し過度の焦りを見せていたのだが、そのせいで言葉にとげが生まれてしまっている。

「まあ落ち着きなって。そのために今案内人を探しているところだから」

「案内人・・・?」

 言いながら友希は変身を解く。

 先ほどから幽霊少女が辺りに注意を向けていたのは案内人なる人物を探していたからだというのだ。

 そう言われるとそうだ。妊婦である女性が非常に苦しい思いをしてまで歩いて向かおうとするほどこの竹林の中の病院は里の人間にとって大事な場所なのだろう。

 そんな病院がたどり着けるかどうかわからない、運が良ければではいけない。

 となると必然的に、こんな危険な場所であっても大丈夫だと人々を安心させる要素が必要になってくる。

 そしてそれがこの竹林の『案内人』なのだろう。

 しかしその案内人はこの竹林で迷うことがないのだろうか? 当然の疑問が浮かんだ。

「でもなぁ、ごくたまにどこかに行ってて不在の時があるんだが・・・お、いたいた」

「・・・あの人か」

 二人の目の前には、いかにも入り口ですよと言わんばかりにぱっくりと口を開けた竹林の中に続く道が存在し、その手前の竹にもたれかかってうつむきながら爆睡している一人の存在があった。

「おーい、生きてるか? 藤原の」

「んん、死ねないんだよ。なんだ久しぶりじゃないか・・ってどうしたんだその人⁉」

寝ぼけ眼で目を細めながら声の主を確かめたかと思えば、その手に抱えるもがき苦しむ妊婦を見て飛び上がってきた。

その人物も日常ではあまりで出くわさないであろう特徴的な服装をしており、白いシャツに真っ赤なもんぺを着用しそこにはまたしてもお札のようなものがたくさん張り付けられている。綺麗な白髪かつ超長髪の幾又ポニーテールを携え、その瞳は炎のごとく真っ赤に染まっていた。

「実は道端で妖怪に襲われていたみたいでな。予断を許さない状況だ、案内を頼めるか」

「ああ、もちろんだ。ん? そっちは・・・」

「あ・・初めまして」

 友希の存在に気づいて軽く前へ乗り出し見る。

「・・・・・」

 なぜかその場に流れる静寂の空気間。

 案内役の白髪の女性は、友希を見た途端に目を見開いて凝視し制止してしまった。

「・・あの、なんかおかしいですか?」

「え⁉・・ああ、すまない何でもない・・・」

 急に我に返ったように目に光が戻り、後ろを向いてしまう『藤原の』女性。

 なんだか様子がおかしい。

初対面の友希はもちろんのこと幽霊少女にとってもなかなか見たことのない動揺のようで、その反応に首を傾げていた。

「おい! 早く行くぞ! 時間がない!」

 いくら何でも道草を食いすぎていた。焦った一同は早々と案内を受け竹林に足を踏み込んだのだった。

 

 

 

 竹林の中は予想どうりと言っては何だが、揺れる竹の葉の間からさんさんと木漏れ日が降り注いでおり、緑に彩られた神秘的な装いを見せている。

 吹き抜ける風は数多の影の避暑地と相まって非常に心地がよかった。

 しかし奇妙に思える点も存在した。

「なんか・・・思ったより遠いんですね」

「ああ、早くしないと本当に危険だ」

 外から見た感じではいくら大きいとはいえ知れていたほどなので急げばものの数分でつけるのではないかと予想していたのだが、友希にはすでに十分は歩き続けているのではないかという風に感じられた。

 それも自分がおかしいのかこの竹林がおかしいのか、どちらもありうるから困る。

 そんな思いを抱きながらも確実に歩を進めていた時だった。

「・・・ここらへんからは少し浮いた方がいいな」

「え、なんで?」

 友希が聞き返したその直後、友希の足には地面の感覚はなく、そしてまた視界が地面に埋もれていった。

「・・危ないっ!」

 もとから浮いていた幽霊少女は落ちそうになる友希と妊婦の身体の両方につかみかかったがそんなに器用にはいかず、もう一人の女性の協力もあって妊婦さんは何とか守ったものの友希は重力に任せて地面にぽっかりと空いた穴に吸い込まれていった。

「遅かったか・・・」

「おーい! 大丈夫かー!」

 いったいどれだけの深さがあるのか、外からだとうっすらとだが友希の姿が確認できた。

「俺は大丈夫ですから! もう先に行ってください! この調子じゃ手遅れになります!」

「分かった! 後で迎えに来るから!」

 友希自身は何が何だか訳が分からずイライラして突発的に先に行けとは言ったものの、本当の本当にいったい何がどうしてこうなったのかが分からないでいた。

 先ほどもんぺの女性が飛ぼうといったのはこの穴のせいなのだろう。ということはここら一帯にはたくさんの同じような落とし穴が存在しているのだろうか。

「ふ~・・・」

 友希は体をリラックスさせ水になり、おそらく四メートルくらいはあろうかという地上部分に手と腕を吸着させ脱出を図る。

「よいしょっ、と・・・」

 ヘリの部分に腕をひっかけ支えながら外に顔を出してみる。

「ばあっ!」

「・・・っ!」

 すると目の前に急に謎の人物が近距離に顔を寄せ思い切り脅かしてきたのだ。

 そして人並みにびっくりした友希は手を滑らせてしまい再び穴の奥底へ真っ逆さま逆戻りを食らってしまった。

「あははははっ!」

「くそ・・、何なんだよお前っ!」

 穴の入り口に立ちながら落ちた友希をのぞき込み楽しそうに笑っている何者か。逆光によりその輪郭が目に飛び込んでくるが、その影の頭には何やらウサギの耳のような細長いものが付いており、背丈は子供のように小さく見えた。十中八九妖怪で間違いないだろう。

「悔しかったらここまでおいで~」

「こんの野郎っ!」

 友希は勢いに任せて水になった腕を伸ばし、勢いよく外に向かって飛び出す。

 そしてすぐに周りを見渡し、先ほどの影を見つけたので捕まえようと飛び掛かったのもつかの間、気づけば友希の身体は再び地の底にあった。

「あっはははははっ! バッカみたいだね~!」

「・・・」

 まさかの二段構え、それも一メートルもない超至近距離に同程度深さのの落とし穴が掘られていたのだ。

 執念か生きがいか、いずれにせよこの用意周到さ加減はもはや達人のそれである。

 しかし友希にとってはそんなことはどうでもいい。

いくら子供とはいえなすすべなく一方的に馬鹿にされるのはどうしようもなく腹が立つ。たとえ大人げないだとか器が小さいだとか言われようと、心の底からいら立ちが沸き上がってくる感覚は紛れもなく本物だった。しかもこんなにも大変な時に。

 ゆっくりとだが着実に、静かに穴の中から脱出する。

 そして悪ガキウサギを睨みつけ、手元にはゲーマドライバーと紫のガシャットを構えた友希。

『マイティアクションX!』

「ん? なにそれ?」

 友希の背後のディスプレイと紫色の波動により周囲の地形にモザイクがかかってゆくその情景を見たウサギ妖怪はどうにも様子がおかしいことを感じて、先ほどまでの嘲笑顔からは打って変わって眉をひそめ固まってしまった。

「グレード2・・・変身」

『ガッシャット! ガッチャーン! レベルアップ!』

 友希の身体が見る見るうちに紫色の光の板に飲み込まれてゆく。

『マイティジャンプ! マイティキック! マ~イティ~アクショ~ンX!』

「ええぇ・・・」

 目の前で唐突に行われた既視感の全くない奇妙な事象に呆気にとられたウサギ妖怪は、頬を引きつらせながら知らずのうちに恐怖ともとれる困惑の声を漏らした。。

「・・覚悟しろよ、てめぇ」

 そうこぼした友希は何の助走もなしに駆け出し、妖怪に一気に詰め寄る。

 対して少女は未だ起きたことへの整理がつかず一歩たりとも動くことができなかった。

 

 

 

「おい、永琳! いるんだろ! 急患だ!」

「ああもうっ! 他の患者さんもいるんですから、大きな声を出さないでください!」

 白髪のもんぺ女性の声に反応して建物から出てきたのは、紫ロングの髪型をして学生服をまとった女性だった。そしてその頭には兎の耳も・・・。

 先ほど友希のことを後回しにして向かった少女二人は、目的地である竹林の病院「永遠亭」に到着していた。

「陣痛を訴えてからもうかなりの時間が経っているんだ。頼めるか?」

「はい、もちろん!」

 患者を運ぼうと近寄り手を差し伸べたとき、今度は中から赤と紺の二色をあしらった白髪長髪を後ろで一本に結ったいかにも責任者といった雰囲気の女性が姿を現す。

「様態は?」

「衰弱もひどく、危険な状態です」

「・・・なるほどね。緊急出産措置を行うわ。準備をしてくるから私の診察室のベッドに運んでちょうだい。安全を考慮しててゐと一緒に頼むわ」

 そう言い残し再び院内に姿を消したのを確認し、紫髪のうさ耳ガールはそのてゐとやらを探すが一向に見つからないようで深いため息と怒りの表情で顔を赤らめた。

「私が持とう」

 そんな彼女を見かねてもんぺの女性が手を貸す。

 ひと悶着が片付いたところで安堵の表情を浮かべた幽霊少女はずっと腕にかけていた竹網のカバンを下ろし、永遠亭側面の縁側に腰を掛ける。

 永遠亭は竹林の中にあり日陰のせいで薄暗いじめじめとした印象を受ける場所であるが、実際は腐食の一つも発生していない非常に病院らしい清潔さにあふれたところだ。

 また今見渡しただけでもウサギやその妖怪がちらほら見受けられるように、永遠亭はこういった異形の住処にもなっているため人間にとってはあまり居心地のいい場所ではないのかもしれない。しかし、この病院は幻想郷随一の腕を持つ医者がいるということもあって、年間でかなりの人間や妖怪が利用する重要な場所でもあるのだ。

 竹林の隙間から覗く青空とそれを今にも焼こうとせん太陽の光を眺め、疲れを払拭しようと物思いにふける。

「・・・・・」

 ふと近くでもちをついていたウサギの妖怪に目をやったその時だった。

 

ジバババババババッッ‼

 

 先ほど通ってきた竹林の獣道の方角から、体が振動で震えるほどのけたたましい炸裂音が一帯に鳴り響いたのだ。

「なんだ⁉」

急な出来事に飛び浮く幽霊少女。

そしてほぼ同時に竹林から姿を現したのは、友希にちょっかいを仕掛けたあのウサギ妖怪だった。

「た・・助けて! ヤバいのが来るぞー!」

 非常におびえた様子で血相を変えてこちらにいる同じウサギの妖怪たちに必死に訴えかける。

「どうせまたいつもの嘘でしょう? もう引っ掛かりませんよ!」

「どうせならもっと手の込んだことしてくださいよ~」

「今回は違うんだって!」

 あまりの様子にウサギたちは半信半疑で竹の奥をのぞき込む。すると・・・。

『ギュ・イーン!』

 謎の禍々しい声が聞こえたと同時に、竹林の中から赤い眼光が怪しく光る謎の黒い怪人が姿を現した。

「あれは・・・⁉」

 腰にはゲーマドライバーが装着されていることから友希であることがうかがえる。

 しかし不思議なのはその姿。

つんつんヘアーと無駄のないスーツ造形のそのシルエットはまさにエグゼイドそのものなのだが、色味は黒にも見えるほどに深い紫をしており、何より恐ろしいのはその目であった。

 エグゼイドとは違い、より鋭く吊り上がっていることに加えてどこか遠くを見つめるようなその目は怪しく真っ赤に光っている。

 闇夜と同じく世に紛れ、静かにかつ狡猾に敵を仕留める謎多き黒紫の戦士。 仮面ライダーゲンム アクションゲーマーレベル2!

 無言の状態で不気味に立ち尽くす戦士はゆっくりと顔を傾けウサギたちに標準を合わせる。

「あ・・ああ・・・!」

 いったいどんな仕打ちをされたのか、完全におびえきっているいたずらウサギ少女はもうあきらめたようにその場から動こうとはしなかった。

 それを感じていたかどうかはさておき、徐々に歩みを向け一気にその距離を詰め寄った友希であろうその戦士は、右手に装備していた紫色のガジェットで攻撃を加え始める!

「ぎゃっ!」

 一見小型に見えるそのデバイスのような装備からはなんとチェーンソーの刃が飛び出しており、痛々しいまでの金切り音を響かせながら切り捨てる。

 しかし不思議なことにダメージはあれど物理的な傷はないようで、受けた本人も悶絶はしようとも我に返れば傷はなく不思議そうに起き上がった。

 そんなウサギ妖怪をよそに未だ冷めることのない黒色の戦士は敵意をむき出しにして無言のまま次々と連斬を放ってくる。

「ごめんなさい! ごめんなさい! もう笑ったりしないから! 急いでるときに邪魔したりしないからぁ!」

 必死になって謝るも虚しく、ただひたすらにチェーンソーの恐ろしい音が一層強まるだけであった。

「くっ・・!」

 その懇願が平謝りだったのかどうかはわからない。しかし聞く耳を持たないと分かった瞬間心の奥底の反抗心が顔を出し闘志がこもった表情を見せたかと思えば、ウサギならではの跳躍力を生かして一気に永遠亭の屋根瓦までジャンプし来れるものならここまで来てみろと言わんばかりに友希の方を見下ろしてきたのだ。

 しかし友希はすでに行動を開始していた。

『チュ・ドーン!』

 右手のデバイスを基底部分から一旦取り外し、向きを入れ替えて再び設置する。

 すると先ほどまで小型のチェーンソーだったものが二つの銃口をもつビームガンへと変貌を遂げる。

 そしてウサギがふり返ったその時にはすでに銃口は向けられていたのである。

「ふぎゃっ!」

 次の瞬間容赦なく放たれた光弾は見事に妖怪ウサギに命中し、足を滑らせ屋根の上から転げ落ちてゆく。

 その光景を見ていいた他のウサギたちは、容赦ない攻撃を受ける彼女が生粋の嘘つきでありいたずら好きの困ったやつであるということを周知していたし、いい加減お灸をすえてやらないといけないとも思っていた。そしてそれはしばしばここに通っている緑髪の幽霊少女も同じこと。

 しかしながらそんな気持ちが同情に変わってしまうほどに目の前で行われている仕打ちは残虐性を秘めたものだった。

 逃げようと思えばその跳躍を生かして颯爽と逃げられるものの完全に恐怖で腰が砕けてしまっており、お尻を引きずりながら後ずさりするしかない状況になってしまっている。

「・・・終わりだ」

『ガッシャット! キメワザ!』

 どこからともなく禍々しさ全開の紫色エネルギーが右足に充填され、同時にゲンムの鋭い目が真っ赤に発光しあたり一辺が物々しい雰囲気で包まれてゆく。

「ちょっと! さっきからうるさくしているのは誰よ⁉」

「ゲッ! 鈴仙!」

 今にも戦闘が終幕を迎えようというときに建物の中から先ほどの制服のうさ耳の女性が怒りをあらわにしながら顔を出してきた。

 怒りの矛先が自分たちであることは理解できたが今更この状況を止められるわけもなく、親指でホルダーのボタンを押し込み溜まったエネルギーを開放しながら上空に飛び上がる友希。

 標的のいたずらウサギは出てきた女性に気を取られているようで完全にスキが生まれてしまっている。

『マイティ クリティカルストライク!』

「しまったぁ!」

 時すでに遅し。

 空には大きく必殺技の名前が刻み込まれ主張。

 エネルギーによって黒紫の発光を帯びたゲンムの右足は確実に標的を捕らえ、空中から一直線に降下し見事に腹部にヒットした。

「うわああああ‼」

 ウサギは見事に吹っ飛び・・・と言うよりは、ゲンムは直撃した瞬間に腹をけり上げて空中で回転したのちに背を向け見事に着陸したので地上や病院への被害は最小限に抑えられていた。

 これは友希の心ばかりの配慮である。

 強烈な一撃を食らって目を回しながら永遠亭の外れに落ちた妖怪ウサギだったが、そんなことはお構いなしにズンズンと近寄る影が一つ。

「て~ゐ~。あんたどこほっつき歩いてたのよ! ほんと、いてほしい時に限っていなくなるんだから!」

 落とし穴を掘っていたこのいたずらウサギの名がてゐ。先ほど妊婦の搬送のため助力を得ようとしていたのはこの兎のことだったよう。

「事情はよく分からないけど、あんたにお灸が据えられたようでよかったわ」

 そしてこの制服を着た他の兎と比べて長身で良識のありそうな彼女の名は鈴仙・優曇華院・イナバ。この永遠亭に住まう医師の助手兼薬売りである。

 てゐに対する周りの反応や対応からするに、てゐはあまり皆から好かれていないようでむしろ手を焼いている存在なのだろう。先ほどから鈴仙の顔には怒りと呆れの表情がずっと取れないでいる。

「決まった。超かっこよかったんじゃない?」

 そうぶつぶつと独り言のように話しているのは謎の戦士・ゲンムだ。とは言っても中身は友希でほぼ間違いはないだろうが。

「・・なあ、その姿は・・・」

 さすがに誰もがまず気になっているであろう質問を投げかけたのは周りの兎どもでも友希のことを知る幽霊少女でもなく、院内から出てきた案内人のもんぺ少女だった。

「あ、これですか? かっこいいでしょう? 仮面ライダーっていうヒーローです! と言っても、この姿はゲンムって言って正義のヒーローって感じではなくて、おそらくはダークヒーローってくくりだと思うんですけどね」

 早速友希の仮面ライダー好きが口から火を噴く。

 だが彼女は友希の熱弁をよそにどこか物憂げな顔を浮かべる。

「・・・? どうかしました? えっと・・」

「ん・・ああ、いや何でもない。そうだ、自己紹介がまだだったな。私は藤原妹紅、この竹林の自警団的なことをやってるんだ。竹林に入りたいときは声をかけてくれ、いつでも案内するよ」

 自分の自己紹介を終えた後すぐに隣に寄ってきていた幽霊少女に目で合図をやる妹紅。

「私は蘇我屠自古。何をやってるかって言われると答えにくいんだが、ある人のところで手伝いをやってる。あと、見ての通りすでに死んでるが誰かの怖がる顔が見たいとかそんな趣味の悪いことはしないから安心してくれ。まぁたまに人里にいるから会ったときはよろしくな」

 二人の自己紹介を受けたからには自らもこたえなければなるまい。

『ガッチョーン! ガッシューン!』

 ベルトを操作してその変身を解く友希。

「俺は一夜友希って言います。一カ月くらい前に外の世界から幻想入りしてきました。好きなことは仮面ライダーとか他特撮に関すること全般です。よろしくお願いします!」

「なるほど、見かけない顔だと思ったのはそういうわけだったのか」

 幻想郷は外の世界に比べたらかなり小さいと聞いていたのだが、それでもいち世界なのですべてを回るには休みなしで数カ月ほどが必要だろう。しかしそれでも外の世界よりは狭い、ゆえに幻想郷にいる住民ならば大体顔は割れているということなのだろうか。

 そうでなかったとしても、すでに友希が知るだけでも個性派ぞろいなので忘れたくても忘れられないだろう。

「えっと、なんだかうちのてゐが迷惑をかけたみたいでごめんなさい」

「いや、あなたが謝る必要はありませんよ!」

「いえいえ、彼女も曲りなりにもウチの一員なのでそういうわけには。あ、私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバと言います。この永遠亭でお師匠様の助手をしています」

 友希の目の前に立ちながら深々とお手本のような挨拶をする鈴仙。

 その姿は友希にとっても非常に好印象であったのだが、ただ一つ友希と目線を合わせないようにしている様子なのが気にかかった。

「あの、ごめんなさい。目をそらしてばかりで気分を悪くされたかもしれませんが、これには事情がありまして・・・あなたのことがどうこうというわけではないのでご承知おきくださいぃ~」

「大体さあ、迷惑っていうかちょっと落とし穴でからかっただけであんなにむきになっちゃってさ・・・」

 そう言いながら会話に割り込んできたのは当の本人、いたずらウサギのてゐ。やはり反省などしていなかったようだ。

「なにが「からかっただけ」だ。苦しんでる妊婦が見えなかったとは言わせないよ」

「てゐ。あんたマジなの、それ。まさかそこまで腐ってたなんて・・。吹っ飛ばされて当然よ!」

「これを機に落とし穴稼業から足を洗ったらどうだ?」

 屠自古と鈴仙からの圧に苦笑いのてゐ。

 追い打ちをかけるように口角をあげながら冗談交じりに言い放つ妹紅。

 本気で言っていないあたり、もう半ばあきらめモードなのだろう。今までも何度も同じ会話をしているのが容易く想像できた。

 そんなことをしているうちに友希は肝心なことを思い出した。

「あっ! そういえば妊婦の人どうなりました⁉ 助かりました⁉」

「それは・・・」

「無事よ」

 友希の後方から聞こえた声に皆一斉に振り向く。そこには先ほどの白髪の責任者風の女性が額の汗をぬぐいながら立っていた。

「非常に危険な状態だったけれど、何とか赤ん坊も母親も命に別状なく手術を終えられたわ」

「よかった・・。さすがは師匠!」

 師匠と呼ばれているということは、この人が例のこの永遠亭の医師ということなのだろうか。

「ねえ、もうそろそろ終わった?」

 さらにその後ろから申し訳なさそうに顔を出してきたのはまさかのこの後待ち合わせをしていたにとりだった。

「えっ⁉ にとり⁉」

「あれ? 何で盟友がここに?」

「あら、知り合いだったのね」

 友希は午後のにとりとの約束に間に合うかどうかを地味に気にしていたのだが、にとりも集合場所の工房にいなかったということはいったいどういうことなのか。

 頭に浮かんだ疑問を投げかけようとしたそのとき、永遠亭のお師匠様によって友希の目線に割って入る形で話を遮られてしまった。

「積もる話もあるでしょうからとりあえず中に入って頂戴。私もあなたと一度話をしてみたいと思っていたの」

 柔らかい物腰でしゃべっているのだがどうにも顔が笑っていないような感じがして、友希には少し苦手なタイプなのか変に身構え動きがぎこちなくなってしまっている。

 そんなこんなで一行は促されるままに永遠亭の中に入ってい行くのであった。

 

第十五話 完




どうも! 東方友戦録の作者『彗星のシアン』です!今回も最後までお読みいただきありがとうございました!第15話、いかがだったでしょうか?

友希はキレやすいですね~。いや、私もおそらくキレますね…。とても急いでいる状況であったり何かやりたいことがあるときなどに絡まれるとプッツンきちゃいますかね~。あのような場面でてゐと遭遇するとは、なんとタイミングの悪い…。
とはいえ友希の新たなライダーの力で粛清されましたね。登場した仮面ライダーゲンムは見た目が不気味で、使用する武器もチェーンソーとビームガンという凶悪性の高いものであり、キレた友希とは相性抜群でした(ぜひ画像検索してみてください)。さらに言えばエグゼイド系のライダーは医療を目的としたライダーで、今回のロケーション『永遠亭』との相性も何かといいのです。ぜひ共通点など探していただけたらと思います。

それではここらへんでお暇させていただきましょう!
次回も話続きです。永遠亭内でいったい何が行われるのか、こうご期待!
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