東方友戦録   作:彗星のシアン

19 / 28
自らの過ちを自覚し、そして決意を新たにした友希は、正しき強さを手に入れるため誰かに師事しようと計画を実行に移す。しかし事はそう簡単にはいかず頓挫するかと思われた矢先、咲夜からのある提案によって友希には新たな従者との出会いが待っていた。


第19話 師匠のできた日

「あら、どうかしたの? 咲夜」

「お嬢様。どこかで友希さんをお見掛けしませんでしたか?」

「いないの? まさかサボり⁉」

 紅魔館にて某日。友希の調子の悪さに言い知れぬ不安を感じていた咲夜だが、それが杞憂だったと分かったのは良かった。しかし今再び不安が再燃しつつあった。

「いえ、そうではありません。つい三十分ほど前に館の者に休憩のお茶菓子を出してもらうよう言ったっきり姿が見当たらないんですよ。私も先ほどまで館の清掃にあたっていましたので状況が把握できていないんです」

「・・・それならもう問題ないわ。あれを見なさい」

 レミリアはすぐ横の窓に顔をやり、そこから庭を超えて見える紅魔館正門を指さした。

 そしてそこには門の隙間から見え隠れする友希の姿が。どうやらとても疲れているようでフラフラと足元がおぼつかないのが見て取れた。

 今友希がいるのは正門の外、つまり美鈴のいる場所である。

「ね? あれたぶん友・・・」

 レミリアが咲夜の方を振り返るとすでにそこに咲夜の姿はなかった。

「・・・仕方がないわね。美鈴よ永遠なれ」

 場所は変わり。当然、紅魔館正門。

 その場にはあまり聞いたことのない、嬉々として張り上げる美鈴の声が響いていた。

「さあさあどんどん行きましょう!」「もっと腰を落として! 力が落ちてきていますよ!」「ここからあと五回放ちましょう!」「友希さんの本気、私に見せてください!」

 この発言からやはり友希は外にいたことを確信できた。

「ぜぇ、ぜぇ、きっつ・・・」

 そして同時に友希の疲労困憊な声も聞こえてきていた。

「・・・!」

 友希は門の隙間から確認できた咲夜に向かって咄嗟に合図を出してはみたものの、すぐに美鈴に腕をつかまれ引き戻されてしまった。

「まだまだこれからですよ! 私と一緒に汗を流し青春のひと時を・・・」

 瞬間、友希の顔は歓喜の表情に、美鈴の顔は恐怖の表情に歪む。

「大丈夫ですか、友希さん? あ、ネクタイが緩んでる。こっち向いてください」

「え・・あ、ありがとうございます」

 一瞬のうちに紅魔館内部に場面が切り替わったことに少し動揺しつつも、咲夜に気にかけてもらえて少し頬が緩んでしまう友希。

 外では美鈴の断末魔が響き、そして静寂が訪れるのであった。

「なぜあんなことになっていたんですか?」

「そのー、咲夜さ・・メイド長に言われたとおりお茶菓子を配っていたんですが、最後に行ったのが美鈴さんのところで、ちょっとした世間話の流れになったんです。そこでふと自分を鍛えようと思ってるって言ったらああなりました」

「それは、災難でしたね」

 咲夜は友希の身に起きた出来事に同情してくれはしているものの、おそらく前にも前例があったのかそれは仕方がないと言うように笑って見せた。

「あれ? 友希さん、鍛えたいんですか?」

「あーはい。正確に言えば、幻想郷でも十分やっていけるだけの強さがいると思いまして。俺って結局仮面ライダーとか能力に頼りすぎてて、自分自身は全然強くないなぁって思ったんですよ。弾幕は撃てなくてもせめて基礎体力とか戦闘の技術とかを知っていた方がいいと思うんです」

 友希は細かい詳細を暗に伏せつつも自らの考えを咲夜に打ち明けた。

 しばらく咲夜はうつむいて何やら考え事をしていたようだが、そのうちパッと顔をあげ友希にとある提案を持ち掛けたのだ。

「今日の午後時間ありますか? 一緒に来ていただきたい場所があるんです」

 

 

 

 その後すぐさま紅魔館を後にし、本来午後に咲夜が一人で訪れるはずであったとある場所に足を運んだのであった。

 その場所とは紅魔館から湖をはさんで反対方面にあり、森を抜けて何とも長い階段を上った先にあった巨大な敷地面積を持つ立派なお屋敷だった。

 大きく全体を取り囲む白壁に木製の門。中にはまるで時代劇にでも出てきそうなほど雅な和風の屋敷が広がっている。

 門から屋敷まではそれなりに距離があり、その間には砂利で作った波の意匠に池と小さな石橋が。何から何まできっちりと手入れの施された美しい庭が友希を魅了した。

 咲夜の後をついて歩くように門をくぐり、おそらく使用人と思しき白髪の少女に促されるまま屋敷の一室に案内され、そこで今まさにこの屋敷の持ち主を待っているという状況である。

「・・・紅魔館もそうですが、ここも立派でしょう?」

「そうですね~。あと和室なのが妙に懐かしく感じます」

 幻想入りしてからずっと紅魔館でお世話になっているので洋風の建築に慣れてしまい、古き良き日本の風景が友希の心に染み入るのであった。

「そういえば、何で俺を連れてきたんですか? というかここっていつも来てるんですか?」

「いつもと言うわけではありませんが、定期的に良質なお茶の葉をいただきに来ているんです。以前お嬢様が急に「たまには異国のお茶が飲みたい」とおっしゃったことがあり、それ以来ここ『白玉楼』に緑茶の葉をいただきに来ているんですよ」

 どうやら見える部分だけではなく中身も完全に和の要素が詰まっているらしい。

「緑茶は紅魔館にはないんですか?」

「はい。いつもは紅茶が主流ですので。恥ずかしながら私も他のお茶のことはいまいち知識不足なもので、ここの主人・・というよりその従者が和食に特に秀でているので頼らせていただいているのですよ」

「なるほど・・・」

 友希はいつもおいしいと言って咲夜の淹れる紅茶を口にしていたのだが、やはりどちらかと言うと緑茶やほうじ茶といった和の飲み物の方が飲みなれているせいか好きだし、丁度そろそろ恋しくなっていたところだった。

 それにしてもいくら従者が何でも言うことを聞いてくれるからと言ってもさすがにレミリアの無茶ぶりが過ぎるというか、本当にわがままだなぁと言葉にはせずとも心の中でかみしめる友希。

「・・・あの、ここ寒いですね」

「大丈夫ですか?」

 階段を上り始めたあたりから感じていたのだがどうも妙に寒気がする。

 感覚的な寒さももちろんあるのだがそれ以外にも何か不安のような恐怖のような、神経の芯からなめ回されているかのようなそんな嫌な感覚も感じているのだ。

「もしかして風邪ひいちゃいましたかね?」

「あら~、それは大変ねぇ。お布団貸してあげましょうか?」

「へっ・・・?」

 急に寒気が高まったかと思えば唐突に後ろから声を掛けられ、自然と顔をそちらに引き寄せられるように向ける。

 音もなく人がこちらをのぞき込んでいた。顔と顔の距離、僅か十数センチ。

「あああーーっ‼ あっ、あっ、はっはああっ!」

 友希は自分でもこんなに間抜けな声が出せるものかと驚いてしまうくらい、気色の悪い驚き方をしてしまった。

「友希さん⁉」

「あっ、だっ、大丈夫ですー!」

 とんでもなくかっこ悪いところを見られたと思い自責の念と共に恥ずかしさが込み上げる。顔も真っ赤に赤面し、それはもう寒気を忘れてしまうほどだった。

「あらあら、いい反応ねぇ~。予想以上だわ~」

「もう、またあなたの可愛い従者に怒られてしまうのではなくて?」

「妖夢も、あなたも、ちょっと硬すぎるのよ。これくらいの方がきっと楽しいわよ~」

「・・・・・」

 無意識的に自らの胸に手をやる友希。どうやら相当びっくりしたようだ。

「ふふふ、とはいえいきなりごめんなさいねぇ。妖夢がお茶を用意してるのだけど、待ちきれなくて出てきちゃったわぁ」

「えっと・・・」

「自己紹介ね? 私はこの白玉楼の主、西行寺幽々子よ~。あなたのことは紫から聞いているわ、よろしくお願いするわね~」

 正直友希は拍子抜けしてしまった。

 主がいるというのは聞いていて尚且つこんなにも立派なお屋敷を見た後だったのでいったいどんな威厳のある人物が登場するのかと思えば、まさかこんなにおっとりした人だとは・・・。

 桃色の髪に瞳、服装は水色で浴衣のような印象を受ける。ところどころや帯にはフリルが付いており、どことなくフワフワした印象のせいで余計にこの人のおっとり感に拍車がかかっている。

「あ、一夜友希って言います。よろしくお願いします」

「うんうん、礼儀も良いし、しっかりしているわねぇ」

「はぁ・・・」

 横で見ている咲夜は慣れているのか何食わぬ顔でただ友希の顔を見つめている。

 しかし本当にこの人がこの屋敷をまとめる主なのだろうか。見れば見るほどそんなに力量のある人には見えない。

サイギョウジ・・・?

 ここで友希は自己紹介で提示された幽々子の名字にふと引っかかった。

 この西行寺と言う名にどこかで聞き覚えがあったのだが、いったいどこだったか・・。

 そう、以前永遠亭にて説教をされているときに永琳先生から聞いた「幻想郷における重鎮五人」の中に、確かに亡霊の姫として西行寺幽々子の名があったのをここでようやく思い出した。

「あら? どうかしたかしら?」

「あ、いえ、何でも・・ないです」

「・・・?」

 歯切れの悪い友希の様子に微笑みながら首をかしげる幽々子。

 しかしこの瞬間、先ほどの言いようのない恐怖が再び友希の心に現れ始めた。

 なぜなら友希は何げない彼女の微笑みを見たとき、笑顔によってまぶたで湾曲した目のその隙間からかすかに覗く幽々子の瞳には光がなかったから。

 ただの人間であり何か特殊なものを感じることなど全くできない友希だが、外の世界にいるときから人を観察してその雰囲気に合わせるなどは得意なのだ。よって不用意に踏み込んではいけない人や危ない気配のする人は大体だが分かるほどにはなっていた。

 そして例にもれずこの西行寺幽々子の笑顔から感じたものもその類のものだった。

 「顔は笑っているが、目が笑っていない」と言うやつである。

光の関係で目の部分が暗くなりそういった印象を受けるのではないかと言われれば否定はできない。しかしこの人を見ているとどうも試されているような、そんな気がしてならないのだ。

そういった意味ではこの西行寺幽々子も権力を得るのにふさわしい、とてつもない意志を秘めた人物なのかもしれない。

 そんなこんなでつい友希の方から失礼ながら目をそらしてしまった。

 この状況をどうしたものかと悩みかけたが、ここでちょうどいいタイミングで先ほど案内をしてくれた従者らしき少女がお茶受けを携えて現れてくれた。

「お茶をお持ちしました」

 白髪の少女は軽く一礼しお茶を配り、その後幽々子の隣に自らも座った。

「それじゃあ本題に入ろうかしらねぇ」

「はい、咲夜はいつもどうり緑茶の茶葉でよろしかったですよね?」

「ええ、いつも本当に助かっているわ。幸い、まだお嬢様の熱は冷めていないからこれからもよろしくお願いするわ」

「お安い御用よ、ねぇ妖夢」

「はい! 頼っていただけるのは光栄ですから!」

 友希はこの会話の光景になんだか落ち着かなかった。

 選定された木々に瓦の張った木造建築が目を見張る中、目の前にいるのは思いっきりメイド。本来和の文化には存在しないもの。外の世界でも田舎などでは相成れず、存在するのはハイカラな秋葉原くらいである。

 それが友希の目の前で平然と共存する様は見た者にしかわからない異様なものがあった。

「それと、こちら一夜友希さん。あなたと以前里で会ったときに会いたいと口にしていたのを思い出したから一緒に来てもらったの」

 唐突に話が振られ軽くうろたえる友希。

「ああ、あなたが今話題の! 私はこの白玉楼で幽々子様の従者兼庭師兼剣術指南役をやっています、魂魄妖夢といいます。よろしくお願いします!」

「一夜友希です。よろしくお願いします」

「そんなにかしこまらなくてもよろしいですよ。年齢も近く見えますし、気軽に妖夢と呼んでいただければ」

 年齢が近く「見える」ということは、おそらくこの少女も白髪で上下濃緑色の服装を身にまとった人間のような見た目をしているが人間ではないのだろう。つまり「人間のあなたと比べると、私のほうが年上なんですが見た目は変わらないので」ということだと友希は勝手に解釈した。

 大体は幻想郷の風土に慣れてきたということなのだろうか。

 そしてその根拠に、先ほどからずっと薄く透けた白いもちのようなものが彼女の後ろをついて回っているのである。

 それがいったい何なのかは友希には分からなかったが、今は初対面の緊張のせいでとても聞く気にはなれなかった。

「っていうか俺って今話題になってるの⁉」

「ええ、里の一部の方では里を守護してくれる頼もしい存在が現れたとうわさされていました。私も聞きましたよ。たしか鬼と真っ向から立ち向かったと!」

「ああ、そういえばそんなことも・・あったなぁー・・・」

 まさかそんな地底でのやり取りまで知れ渡っているとは。いったい誰が触れ回っているのやらと、情報の巡りの速さに舌を巻く。

「でも今後はやめた方がいいですよ。鬼と勝負して無事に生きていることなんてそうありませんからね。今回は運がよかったと思うべきです」

「うん。それはもう、身にしみてわかったよ」

 正確に言えば友希から喧嘩を吹っ掛けたわけではないのだが、ここは戒めのためあえて言わないことにした。

「私も紫から話は聞いていてどんな子なのかと楽しみにしていたの」

 霊夢との会話や永遠亭の時もそうだったが、度々話に出てくる紫と言う名の人物。友希をこの幻想郷に入れたあの不思議な雰囲気の女性のことだろうが、話には出てくるものの実際は幻想郷に来てからは一度もあったことがない。

 話だけを広め、話を媒介にしてその存在を知らしめられているのだが、友希を幻想郷に招き入れたその真意は友希自身も気になっていた。

「・・・そこで、そんなあなたに頼みたいことががあるんです」

 幽々子の言葉が終わるなり、先ほどとはうって変わって真剣な面持ちで友希の目を見る妖夢。

「私と、一度手合わせをお願いできないでしょうかっ!」

 目を見開いて鬼気迫る形相で迫られた。

「えっと、なんで? どういうこと?」

「それは・・・」

「妖夢ったら最近すらんぷ?とかいうのになっちゃったらしいのよ~」

「もうっ、幽々子様! 自分で説明しますから!」

 何の脈略もなく戦ってほしいとはさすがに友希には理解しがたい。それも人ならざりかつ剣術指南も行っているほどの相手に友希ごときがかなうはずがない。

 いったいどういうことの運びなのかを詳細に知りたい。

「先ほども言った通り私は里の小さな剣術道場にお邪魔してそこで指南を行っているんですが、最近どうも自らの太刀筋に迷いが感じられるというか、妙に自信が湧かないんです。こんな状態の私に誰かに剣を教える資格などない」

「そんなに思い詰める必要はないって言ってるんだけど、聞かないのよねぇ」

 確かにそれはスランプあるいはスポーツ選手などによくあるイップスと言うやつの症状で間違いはなさそうだ。でもだからと言って友希と戦うことには何の関係性も感じられないと思うのだが・・・。

「そんな折里であなたの噂を耳にしたんです。姿を変えてとてつもない力で里を救った人間の殿方がいると!」

「えー、つまり変身して戦えって?」

「そうです! こういう時は実戦で勘を取り戻すのがいいと紫様に教えてもらいました。でも基本的に幻想郷では弾幕勝負をしなくてはならない。血を流すのは暗黙の了解なんです。そこで確か里の人はその男性が剣を使って戦っていたと聞いたんです! それなら試合という名目で手合わせしていただけるのではないかと思って」

「なるほど・・・」

 それはおそらく以前、咲夜同伴で初めて買い物の仕方を教えてもらっていた時の仮面ライダーブレイブのことだろう。

 つまり妖夢の言いたいことはこうだ。

 自分のスランプを治すために友希が変身して特別に剣を使って戦ってほしいということ。

 この依頼は不可能ではないが友希自身はあまり乗り気になれなかった。

 ついこの前のあの日以来、むやみにライダーの力は使わないと決めたのだ。その上いくら変身して身体能力が強化されるとはいえ剣の経験など友希にあるはずもなく、妖夢の役に立てる気が全くしない。

「いやでも、俺別に強いわけじゃないし、あんまり自信がないっていうか・・・」

「そこをどうかお願いします!」

「友希さん、私からもお願いします」

 意外なことに咲夜もこの妖夢の提案には積極的に加わってきた。

「私事で申し訳ないのですがいつもお世話になっている手前どうしても無碍にはできないんです」

 咲夜が言うなら、というか咲夜のためになるのならここは体を張ってもいいかな、そう段々と心が傾き始める友希。

「う~ん」

 未だ決断に悩む友希を見て、ここで最後の一押しを咲夜が放つ。

「ではこうしましょう。この協力を受ける代わりに今後妖夢に剣術を指南してもらうことができる。どうでしょう? 妖夢のスランプも治って友希さんも強くなれる。たしかそれが今の友希さんの望みでしたよね?」

 さすがは咲夜、友希の特に何気ない会話を漏らさず記憶しそれでいて瞬時に魅力的な条件を提示してきた。というか初めからこれを狙っていた感すらある。

 そしてこの話は友希にとってまたとないチャンスであった。

 当初は肉体的な強化を図りたいと考えていた友希だったが、確かに武器を操る心得を得ておくのも必要だと思ったのだ。

 美鈴の指導を受けるのが厳しくなった今、自身のやりたいことに協力してくれる人材は願ったり叶ったりというわけだ。

「それは・・いいなぁ」

 とはいえやはり不安を簡単に拭い去ることはできず、友希は数秒間咲夜の条件を吟味した。

 そして、友希の答えは出た。

「分かった。何ができるかはまだわからないけど、できるだけのことはする」

「ありがとうございます!」

 始めて見たときはそうでもなかったが、今目の前で歓喜の表情で友希の手を握る妖夢は結構感情表現が豊からしい。同じ従者であってもいつも一貫して静かな咲夜とは違い、少し子供のような無邪気さを印象として感じた。

 その横では相変わらず(少なくとも友希にとっては)不気味な笑みを浮かべ見守る幽々子。

 その流れで咲夜を視界に入れようとする友希だったが、またもや発起した妖夢によってグイっと引き込まれてしまった。

「じゃあ早速今からいいですか⁉」

「え、マジ・・・?」

 

 

 

「それでは、よろしくお願いします!」

「・・・」

 承諾はしたものの早速過ぎて心の準備がなっていなかい。にもかかわらずあれよあれよと事は進み、友希の前方約二十メートル先には堂々と真剣を構える妖夢が。

 いくら変身を前提としているからとはいえ何の容赦もなく殺傷武器を人に向ける辺り、この従者は本当は危険なんじゃないかと友希は思わざるを得なかった。

「妖夢~! 頑張って~!」

他にもヤバい人がいた。

 主の幽々子はやっぱりニコニコしながら、さも娘の運動会を見に来た母親のごとく応援を飛ばしている。

「緊張しなくても大丈夫ですよ友希さん。妖夢は相手が人間だということは理解していますから、手荒な真似はしません。もし本当に危なくなるようなことがあれば私がいますから」

 咲夜がることは頼もしいが問題はそこではないのだと心の中でツッコむ友希。

「・・・・・」

 とはいえ承諾した身なので友希はしっかりやるつもりではいるのだ。

 それに話を受けたのには条件がおいしかった以外にもしっかりとした理由がある。

 それが今まさに友希が手元に呼んだ二本のガシャットの内の一つ、黒色のガシャット『ギリギリチャンバラガシャット』のことである。

 実は決意を固めた昨日の夜、紅魔館の自室で就寝の準備をしていた時ににとりから連絡が入ったのだ。

「あ、盟友の友希、略して盟友希! 夜遅くにごめんね。寝るところだった?」

「何で略したし」

「いや~その場の勢いで~。いやそんなことはどうでもいいの! また新しく調整の終わったアイテムがあるから、近いうちに試運転をお願いできるかな?」

「あ~、そういうことか」

 むやみに力を使わないと決めた矢先の連絡だったので今までのようにスムーズにいくか友希は頭を悩ませた。

 しかしこれは友希の問題、友希の罪。関係のないにとりにまで責任を負わせるのはおかしいと感じたので、今回あったことは何も伝えず我慢して何とかしようとその場はそれで話を終わらせたのだ。

 それがこんな形で機会が舞い込んでくるとは。にとりの期待に応えるためにもここは一肌脱ごうと決めた。

「・・・よし! やるか!」

『爆走バイク!』『ギリギリチャンバラ!』

 二つのディスプレイ表示が友希の後ろに現れ、そのうちの一つからは今までのゲーマとは違った等身の人型のロボットが現れ、妖夢に向かって自信満々にメンチをを切って見せた。

 ギリギリチャンバラは古典世界で侍になりきって、未知の妖魔や闇の侍と戦う侍アクションゲーム。この状況で使うことになるとはタイミングがいい。

「おお、これが・・・!」

「わあ! 楽しみねぇ!」

 優希と幽々子の二人が感嘆の息を漏らしたが、隣の咲夜はまた別の意味でため息を漏らしていた。

「友希さん、大丈夫でしょうか?」

 最近の友希の不調を間近で感じていた咲夜は友希のことがどうにも心配だったのだ。友希は咲夜にはおろか誰にもその件については話していないので不安になるのはそのせいでもあるのだが。

咲夜はそんな思いがありながら、自分で言い出した状況な手前今更止めに入ることなどできるはずもなかった。

 そんなことなど知る由もない優希は、覚悟の上の宣言と共に一気にその姿を変えた!

『ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ!』

「三速 変身!」

『爆走! 独走! 激走! 暴走! 爆走バイク! アガッチャ! ギリ・ギリ・ギリ・ギリ! チャンバラ!』

「「「・・・!」」」

 一同の驚きの原因はその特異な変身シークエンスにあった。

 爆走バイクと言えば仮面ライダーレーザーに変身するためのガシャットであり、レーザーと言えば他のライダーとは異なるバイクの身体が特徴的だ。そして今回も一時はバイクの形状へと変形するところは見受けられたのだが問題はそこからだった。

 ディスプレイから登場したチャンバラゲーマが頭と四肢に分解され、同時にバイク形状のレーザーも変形を始めたかと思うと存在するすべてのパーツがレーザーのもとへと集まり合体したのだ!

 黄色を基調とした胴体、漆黒に黄金のサシ色をした鎧。頭部の兜から覗く鋭い水色の眼光は戦場を気迫で圧倒する!

 高速の駆動と武人の覚悟で戦を制する、気高き誉れの戦士! 仮面ライダーレーザー チャンバラバイクゲーマー レベル3!

『ガシャコンスパロー!』

 友希が右手を前へ出すと、レベル2の時には実装されなかったレーザーの武器がその手中に収まる。

 ABボタンが付いているのはもはやエグゼイド系ライダーのお約束だが、この武器は二本の鎌の形状をしており、黒・黄・桃という目がパチパチとする色味からもわかるようにかなり危険な印象を受ける。

「ふっ・・!」

 端的に息を吐き気合を込める友希。

 雰囲気を感じたように妖夢もその手に持った刀をまっすぐ友希の方へ構える。

「・・・・・」

 その場に流れ出した緊張感にはさすがの幽々子も口を紡いだようだ。

「・・・・・」

 向かって左側にあるこじんまりとした小庭園、その中の時を刻む鹿威しの存在を意識する。

 これもまた実際にはフィクションでしか見たことがなかったシーンだが、おそらく鹿威しが満たされ直下の岩に打ち付けられて風流な音が響くとき、その時こそが動き出す合図だろう。

 風の音すらも静まり返ったこの白玉楼で鎌と刀を構えた両者が向かい合い、今か今かとその時を待ちわびる。

 そしてついに、訪れる・・・。

 

カコンッ

 

「はあぁっ!」

「・・・っ!」

 竹の音と共に勢いよく妖夢めがけて走り出す友希。それとは対照的により体制を深く落とし友希の襲来に構える妖夢。

 そして戦闘が始まってすぐに妖夢には予想外のことが起きた。

「はやっ・・・!」

 変身と言うからどんなものかと期待はしていたものの、明らかに人間の身体能力を超えたスピードに一瞬ながら圧倒されてしまったのだ。

 しかしそこは妖夢も人間ではないし、戦闘における経験も身のこなしも生身で常軌を逸していた。

 開戦とほぼ同時に両者の刃が重なり合い、金属同士の甲高い接触音が響き渡る。

 まずあっけにとられて出遅れてしまった妖夢だったが、その遅れを埋めるように今度はすさまじい切り返しの速さで次の連撃につなげてみせる。

 いくら変身しているからと言っても、所詮基本的な体力や戦闘センスは変身者に依存するのが仮面ライダーである。

 戦闘慣れしていない友希は一呼吸置いてから次の攻撃の「構え」を取ろうとしていたのだが、その考えは甘すぎたようだ。

 迫りくる妖夢の連撃をかわそうと咄嗟に後退を試みるも妖夢の剣の方がはるかに早く、両腕で受け身は取るもののもろに刃を食らってしまった。

「うおあぁぁぁっ!」

 刀一本でかつ両手持ちをしているにもかかわらず有り得ない速度と正確さで切りかかる妖夢に友希は恐怖すら感じてしまった。

 静かな気迫と隙の見当たらない太刀筋、明らかに彼女が人間ではないことが如実に表れている。

「これはヤバいっ!」

 多少強引ではあるが、友希に向かって一直線に進む連撃を腕でいなしながら横に避け何とか抜け出した友希。しかしながらどうにも緊張と驚愕で疲弊の色を隠しきれていない。

 だが実は妖夢も驚いていた。なぜなら受け身を取っていた友希の腕、黒と金の鎧には全く傷一つついていなかったのだから。

 確かに連撃が当たってはいるが手ごたえに乏しいと感じていた妖夢は、その事実を目の当たりにすると今度はさらにもう一本腰に帯刀していた刀を早くも引き抜いた。

「はあ・・はあ・・、二刀流かよ」

 単純に剣が二本に増えただけなのだが、使い手が使い手なだけに笑えはしなかった。

「あれ、大丈夫ですか?」

「心配いらないわよぉ。楼観剣はここに置いてあるし、白楼剣はそもそも有事の時にしか持たせないから。あの二本は名もなき練習用の刀に過ぎないもの」

 妖力の込められた長刀『楼観剣』と死者の魂すら切り裂く名刀『白楼剣』。この二つを使われていたら仮面ライダーの力でもどうなっていたかわからないようだ。

 しかしそれでも妖夢の実力にかかれば無名の刀もそれなりには上物と化す。

 剣のことは友希は知らぬとはいえ、妖夢を危険視するその本能は間違ってはいなかった。

「今更ですが、弾幕やスペルカードの使用はどうしますか?」

「え? 弾幕って、打てるの?」

「ええ、一応は」

 これ以上相手に有利に事が運ぶのであればぜひとも導入していただきたいところだが、正直なところ友希も飛び道具を使おうと考えていたので、ここはややこしいことにならないよう弾幕混合を引き受けることにした。

 それに相手の力がどんなものかはその身をもって体験した。それにより導かれた戦いの方針はもちろん「全力」である。よって格闘も弾幕も何でもありななら都合がいい。

 どうせどちらかが沈まなければこの模擬戦闘は終わらないのだから、すでに若干投げやりの友希にはあまり関係のないことだったのだ。

「では、不完全ではありますが・・・」

「・・・!」

 グググッと上体をくねらせたかと思うと思い切り二本の刀ごと腕を振り切り、あろうことかその斬撃が形を持って友希めがけてくる!

 現実にはもちろん見るのは初めてだった友希だが、弾幕を提案してきた時点で大体予想はしていたのでそこまで驚きはしなかった。

 スパローで力の限り斬撃を弾き消した友希だったが、体を戻すと元居た場所に妖夢の姿はない。

 友希の真上、これもまた普通の人間ではたどり着けないほどの高さにまで舞い上がっていた妖夢。

「だからぁ! 何でみんな飛べるんだよ!」

「いざ‼」

 ただならぬ気迫をまとう妖夢が空中で体を回転させ友希に向かって、二刀を振りかざし弾頭のごとく突撃を仕掛ける!

『断命剣 瞑想斬!』

 先ほどと同じくとてつもない速度で飛来、そして手に持つ二つの刀を余すことなく使用した剣戟の嵐が友希を容赦なく襲う!

 しかし友希もただでは終わらない。さっきはどうにも対処できなかったが、少しでも慣れた友希は変身による複眼の装備をフル活用して一つ一つの刃を確認し、スパローで落ち着いてさばいてゆく。

 やがて地に足着いた妖夢は全方向からの斬撃に進化させさらに勢いを増す!

「‼」

 ・・・驚いたのは友希ではない、妖夢である。

 妖夢にとっては相手を本気で仕留めるつもりで攻撃場所を変えたつもりだったが、それが友希にとっては好都合だった。

 箇所を変えたことによる一瞬の空間の隙をレーザーの眼光は見逃さなかったのだ。

 それにより妖夢の弾幕空間を抜け出した友希は、すでに妖夢を見据え次の手を始めていた。

「馬鹿なっ⁉」

 妖夢はすぐにそのことに気づいたのだが、それでも腑に落ちない。

(いくら先ほどより空間が開いたとはいえ、それでも人間にとらえられる速度ではなかったはず! 見えたとしても抜け出すなんて、なんて速さ⁉)

 友希が抜け出す瞬間は妖夢ですら気づかなかった。

 これが爆走バイクの力、体の各部にエンジンエネルギーを籠めることにより、誰もとらえることのできないほどのスピードを生み出すことができるのだ。

「今度はこっちの番だ」

『ズ・ドーン!』

 友希は二つのガシャコンスパロー鎌モードを連結させアローモードへと変形させる。

 これが友希の考えていた飛び道具の正体である。

 弓を妖夢に向けると同時にエンジン全開で走り出す友希。妖夢によって受けた先の技のように、今度は友希が全方向より攻撃を浴びせかけようというのだ。

「「はああああっ!」」

 縦横無尽に駆け回り光矢を降らせる友希。正確無比な刀さばきですべてを撃ち落とさんとする妖夢。

 両者の気合が咆哮となって表れ、白玉楼の庭がまさに戦場と化したように咲夜には見えていた。

 本来幻想郷では弾幕勝負で物事を決着するという半ば暗黙の了解とでもなったルールが存在し、それにのっとって咲夜も妖夢も雌雄を決する戦いをしてきた。これはある種のハンデ、死者を出さないための策とも解釈できるのだ。

しかし今目の前で行われているのは、手にかける気はないとはいえそんなルールなど皆無のまさに決闘。以前異変を起こしたことのあるこの白玉楼の主西行寺幽々子とその従者魂魄妖夢。そんなルールさえなければ、または悪になりきれていれば結末は変わったのではないか。そんなことを咲夜は自分にも投影して感じていた。

「ううっ・・!」

 長時間にわたる弾幕の対応に、さすがに疲労の色を隠しきれない様子の妖夢。そしてまたしてもその弱みを友希にくみ取られてしまったのだった。

『ス・パーン!』

 この音はパーツが合体して完成した弓モードを再び分裂し、鎌モードへと変形させた音。

 手早くベルトのガシャットをスパローのスロット口に差し込み、友希は妖夢に急接近を仕掛ける。

「しまった!」

「終わりだっ!」

『ギリギリ クリティカルフィニッシュ!』

 ここぞとばかりにジャンプしながら大きく振りかぶり、鎌モードのスパローで縦に切っ割こうと友希が迫る!

 この一撃が勝負を決めることは妖夢も分かっていた。ので、この勝負の中で最も渾身の力を全身に籠めその一撃を迎え撃つ!

 はたから見ていた咲夜と幽々子も思わず目を見開きかたずを飲んで見守る。

 そして二人の刃が今まさに触れようというときに事は起こった。

 妖夢はいつも視覚と直感を両方使って刀を扱っている。

 今回でいえば自分が疲れを見せたこと、それを見逃さないであろうことはすぐに直感で理解できた。詰め寄ってきた友希の攻撃がどのような線を描くかも、体の動きを見ることで完全に見切ることができたのだ。いつもならば・・・。

 これだけでも到底人間にはまねできない芸当、人ならざる妖夢のなせる業だろう。

 にもかかわらず友希、仮面ライダーレーザー レベル3はその業を上回って見せたのだ!

 視覚で見て明らかに大ぶりの縦斬撃、かつ空中で技の派生がないことが分かった。

 しかし友希はその足が地面に到達した瞬間、今度はギリギリチャンバラの力を解放し有り得ない足さばきを行うことにより、着地点での腰の入れ方はおろか振り下ろした腕の遠心力をなかったことにするかのように、一瞬で横振りに変更してきたのだ!

 さすがの妖夢もこれは全くの想定外。なので友希の一撃をもろに腹部に食らってしまった。

「うわぁぁぁっ!」

 横方向に思い切り振り切る友希。

 その勢いで妖夢は思い切り白玉楼に向かって吹き飛ばされてしまう。

 そしてその先には観戦をしている咲夜と幽々子が。

「ああっ!」

 この事態に友希は戸惑ったが、驚いたことに咲夜が動くよりも先にすでに幽々子が機敏に対応していた。

 幽々子が手をかざすと飛ばされてきた妖夢の身体はぐわんと急停止し、幽々子の胸の中へと落ちていった。

「あらあら、妖夢ちゃんったら」

「うぅ・・幽々子様」

 状況に安堵の表情を示す妖夢。だがすぐさま戦闘中であったことを思い出し、戻ろうと友希のいた方角に目を向けたのだが、決着はすでについていた。

「はぁ・・はぁ・・」

 幽々子に抱えられる妖夢の目の前には、終始変わらず肩で息をする友希の姿があった。

 そして自らの首に二つの鎌が突きつけられていることに気づいた妖夢は、次第に抵抗の意思を失っていったのであった。

 

 

 

 後になって妖夢は気が付いた。

 友希の一撃を食らった際に右に持っていた刀を思わず手放していたことに。

 剣士にとって戦闘中に刀を手放すなど言語道断。さすがに妖夢は気を落としてしまったようだ。

「どうか調子の悪さは杞憂であってほしいと願ったのですが、これでは認めざるを得ませんね・・・」

「・・・・・」

 剣士の規律や妖夢の並々ならぬ思いは友希にはまだ理解ができていないので、さすがに首を突っ込むのは野暮として隣でお茶をすする。

「そうねぇ。スランプ自体は誰にでも起こりうることだけど、だからと言って甘やかすわけにはいかないわよねぇ」

「うう・・・」

 悪気はないのだろうが幽々子の一言が妖夢をさらに傷つけた。

「あ、そういえば約束をしていたんでしたね。私が負けてしまいましたので約束どおり剣術の指南をして差し上げましょう」

「あ、いや。勝負の勝ち負けは関係なくて、確か手合わせを承諾した時点で指南はしてもらえるんじゃなかったっけ?」

「はい、その通りです」

 厚かましく解釈の違いを訂正したことに罪悪感を感じ、思わず咲夜の方を見てしまった。

「ああ! すみません、私としたことが・・・」

 友希から見ても分かる。もはや妖夢は完全に自信を失っていた。何よりもう目に光がない。

「でも先ほどの戦いぶりを見ている限り私に剣術を乞う理由が見当たりません。あの刃さばき、身のこなし、何より強い。いったいどこに不満が?」

「あの強さは俺の力じゃないからだよ」

 今の友希なら妖夢の質問にはすんなりと返答できる。

「仮面ライダーの力は俺がにとりに頼んで作ってもらってる他力本願物。俺の能力も生まれつきのものでもなければ、使い方もいまいちわからないことが多い」

 まじめな面持ちで友希の話を聞く妖夢たちに友希はさらに続ける。

「それにだ。ライダーの力はむやみやたらに使わないようにって決めたからな。この世界で生きていくならまず自分自身がもっと強くならないといけないって、そう思ったから俺を鍛えてほしいんだよ。」

 友希には見えていなかったが、友希のことを影で心配していた咲夜は無意識に頬に笑顔を浮かべ、言い知れぬ安心感を得ていたのだった。

「なにも達人になりたいなんて言わない。俺にどこまでできるかもわからないけど、せめて基礎くらいはできるようになっておきたいんだよ! 頼む!」

 軽く両手を膝につき頭を下げて改めて懇願する。

「なるほど、そういうことでしたか・・・」

 友希は頭を下げたままで妖夢も首を垂れ、なぜか幽々子は涙目をぬぐっている。

 この微妙な空気間に変な汗がにじみだしてくる。

「・・・わかりました。あなたの気合十分に伝わりましたから! こちらこそぜひ、剣術指南役としての責務を全うさせていただきます!」

 交渉がうまくいったので思わず友希も顔をあげ、ぱあっと満面の笑みを浮かべる。なにより自分の思いをうまく口に出して伝わってよかった。

 現実的な性分のためどうしても気恥ずかしく、鍛えたい理由を美鈴にこっそりとさりげなく伝えるくらいしかできなかったのでとても安堵であった。

「また一人道場の仲間が増えたわねぇ。本当、最近多いのよ」

 そういえば妖夢は剣術を人里で教えていたのだと幽々子の言葉で気づかされる。そしてそうとなればそれはそれで友希にとっては少々問題であった。

 里の人間と言っても年齢層は若く子供たちが多いのは目に見えていたからだ。

 さすがにもう高校生にもなる多感な時期の男が、里の子供たちに交じって竹刀をふるう姿は、友希自身想像してみただけで身震いが起きた。

「あ、その・・・」

 そうなってしまえばそれまでなのだが、何とか回避できないか頭の中を必死に模索していると・・・。

「いえ、友希さんに限っては道場での指南は行いません」

「へ?」

「あら? そうなのぉ?」

 思いがけぬ妖夢の返答に友希のみならず幽々子も素っ頓狂な声を上げた。

「そもそも友希さんは里の子供たちとは年齢が離れていますし、何より境遇が違います。・・・と言うのは少し建前で、実は定期的にまた手合わせ願いたいと考えていたのですが、いかがでしょうか?」

「あ、ああ! そういうことね! うん、いいよ! 全然問題ないから!」

 別に何も悪いことはしていないが話がうまい具合に進んだので友希はテンパってしまった。

「よかった! ありがとうございます! 強者と手合わせ願えるだけでなく教えることでも自ら学びを得ることができる。こんなにいい条件はありません!」

 先ほどまでの陰鬱な妖夢の雰囲気とは打って変わって、目を輝かせながら子供のように友希と幽々子の顔を行ったり来たり、はしゃぎが止まらない。

「話がうまくまとまったようで良かったです。台所を勝手に借りてしまったけれど大丈夫だったかしら?」

「あ、はい! 問題ありません!」

 咲夜の姿が先ほどからどうも見当たらないと思っていたら、どうやら白玉楼の台所で飲み物を入れていたようだ。

「茶葉をいただいたお返しと言っては何だけど、紅魔館の紅茶をごちそうするわね」

「あらぁ、いい香りねぇ。おいしそうだわぁ」

「本当ですね! 幽々子様!」

 何はともあれやりたいことが実現できそうでほっとしたと同時に、ついに動き出した特訓の歯車により身を引き締める思いの友希。

 またしても湧き出る不安と決意を口元の紅茶と共にゆっくりと飲み込むのだった。

 

第十九話 完




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。作者のシアンです。

今回の話では、新たに白玉楼というロケーションと二人の人物が初登場しました。この『東方友戦録』では白玉楼は、「とある場所を、とある手順で進む」とたどり着ける、結界で隔てられた場所という位置づけです。また登場した二人の人物。『西行寺幽々子』と『魂魄妖夢』のこの作品における人となりや過去は、今のところ特別語ることはないと考えています。つまり知らなくてもストーリー上問題ないし、或いは知っていなくてはいけないとしても原作のそれらとなんら変わりありませんので、興味のある方は調べてみてください。

さて、この回のこの場では友希たちの力関係について少し触れたいと思います。
というのも今回仮面ライダーの力と妖夢の力がぶつかったわけですが、妖夢が勝手にスランプと言っていたり、私の描写が甘かったりで、結局どっちがどれくらい強いのかが分かりにくいと思ったからです。
ズバリ。単純なパワーや能力の幅で言うと圧倒的に仮面ライダーの方が上です。そして弾幕戦への適応やスペルカードなどによるルール範疇での行動においては妖夢たち幻想郷の住人の方が上手です。
つまりルールありかなしかで優劣が変わってくるということなのです。
もちろん技の応用や状況把握など、個人の考え方感じ方でもその都度差は出てくると思われますので、そう言った意味でも友希は不利でしょうね。

とまあかなり分かりにくいことを書いたと思うのですが、また作中でつたないながらしっかりと説明していこうと思っていますので、よろしくお願いします。

今回の後書きはここまでです!
次回、またしても新ロケーションでとある模擬戦闘が開始される!?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。